今回のインプレッションは、超定番モデルであるハミルトン「カーキ フィールド メカ」である。1960年代のミリタリーウォッチのテイストを秀逸なデザインとともに継承しつつ、現代に合わせたサイズアップと約80時間のロングパワーリザーブが組み合わされ、実用性のある“普通のツールウォッチ”として人々から愛されるモデルである。
Text & Photographs by Shin-ichi Sato
[2024年2月13日公開記事]
1960年代のオリジナルモデルを忠実に復刻した「カーキ フィールド メカ」
ハミルトンはアメリカ軍へ軍用時計を納入してきた経緯があり、その納入モデルの特徴を色濃く残すモデルがハミルトン「カーキ フィールド メカ」である。ハミルトンの説明によると、「1960年代のオリジナルモデルを忠実に復刻」としている。しかし、“オリジナルモデル”の候補となりそうなモデルはふたつ存在する。
1960年代後半、ハミルトンはGG-W-113とMIL-W-46374およびその改訂版に基づいたモデルを供給していた。ともにMIL-W-3818Bの規格をベースに策定されたもので、規格策定時のデザインにほとんど差異は見られないが、性能の要求に差があった。GG-W-113はパイロット向けを想定した秒針規制(ハック)機能の要求と、スチールケースが指定されていた。一方、陸上部隊向けのMIL-W-46374はローコスト版としてスペシャリスト以外にも幅広く腕時計を支給することを想定していた。また、MIL-W-46374はプラスチックケースの採用が許可されていた点が特徴で、機能面では石数の要求は緩和され、ハック機能の要求も無かった。
このようなふたつの規定に対し、ハミルトンは仕向け毎にムーブメント仕様を使い分けつつ、ケースはともにスチール製として供給していた。そして、初代「カーキ フィールド」は、これらの民生用モデルとの位置付けであった。
カーキ フィールドは発売当初からハック機能を有していたため、性能的にはGG-W-113がベースと言える。一方、カーキ フィールドはオリーブのストラップの組み合わせが継続してラインナップされてきており、イメージカラーと言ってよいだろう。これは、筆者が調べる限りではMIL-W-46374に多い組み合わせである。また、ハミルトンはパイロット向けコレクションとして「カーキ パイロット パイオニア メカ」もラインナップしている。以上から、「カーキ フィールド メカ」は陸上部隊向けであるMIL-W-46374の系譜にあるというのが、筆者の個人的見解である。
オリジナルモデルに準じたノンデイト、手巻きを採用した上で、ダイアルデザインの再現度が高い。過去モデルを踏襲した魅力的なモデルをリリースするハミルトンの企画の上手さだ。約80時間のロングパワーリザーブかつアンダー10万円としている点にも賛辞を送りたい。手巻き(Cal.H-50)。17石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径38mm、厚さ9.5mm)。5気圧防水。8万5800円(税込み)。
オリジナルモデルからの継承とアップデートが見て取れるデザイン
では、この系譜が感じられるカーキ フィールド メカのデザインに注目していこう。外周には1から12が、内周に13から24のアラビアインデックスが小振りに、そして三角形を織り交ぜたスケールが最外周に描かれている。時分針はペンシル型に細い先端を加えたシリンジ型とも呼ばれる形状である。脚色的なディティールは焼け色を模した蓄光を施してヴィンテージテイストを添えているに留まっており、ブランドロゴさえも控えめだ。
ケースはツールウォッチらしさが感じられる梨地で、サイズはオリジナルの33mmよりも拡大された38mm径となる。筆者の好みを言えばオリジナル準拠の方が嬉しいが、コンパクトかつシンプルな雰囲気は受け継がれており、現代にマッチしたアップデートである。
アップデートはムーブメントにも
搭載されるムーブメントは、オリジナルに合わせた手巻き式であるCal.H-50だ。パワーリザーブは約80時間と、金曜日の夜に時計を外して月曜日の朝も十分に稼働している計算となって実用性が高い。手巻き式によりオリジナルモデルの雰囲気を味わえる他、時計全体を薄く仕立てることができており、ケース厚9.5mmとオリジナルのプロポーションを崩していない点にも注目だ。
主ゼンマイの巻き心地はクリック感の無いスムースなタイプで、ゴムシール系の抵抗感がある。時刻合わせでは、進め戻しの間で遊びはありつつも適度な抵抗感があって操作しやすい。価格を考えれば完成度が高い。
とはいえ、本作について機構面で述べるべきことは他には無く、新しさのない技術によって構成されたモデルである。この点は、オリジナルモデルが幅広く時計を支給することを目的としていた背景とマッチしている。
軽快で良好な着用感
コンパクトかつナイロンストラップを採用しているため実測61gと軽量である。着用感も軽快で、ナイロンストラップは当て布ともに手首一周に巻き付き、柔らかな肌当たりである。ストラップのデザインは、余り部分を挿し込む定革や穴の補強にレザーが用いられており、これがデザイン上のアクセントになってカントリー調やアウトドアスタイルの雰囲気を取り込んでいる。
現代基準ではコンパクトな直径38mmのサイズ感は、デザインも相まってオールドスクールな腕時計のテイストを生み出すのに大きく寄与しているし、手首の細い方には収まりの良さを提供してくれることだろう。
本作のストラップ取り付け方法はオリジナルと異なるバネ棒式となっているため、お好みのレザーストラップにも換装できる。これは筆者にとっては大きなポイントだ。しかも、ラグサイドに穴のあるタイプである。
使ってみて感じたコーディネートへの取り入れやすさ
ミリタリーをバックボーンに持つアイテムは数多い。時計であれば、映画の題材になるようなエリート向けパイロットウォッチや、伝説的な特殊部隊が使用したダイバーズウォッチ等がある。衣服であれば有名なMA-1やM-65、近年人気なECWCSの他、超定番チノパン、ピーコートやトレンチコートだってミリタリーアイテムが元となっている。
これらを並べて見比べるとミリタリーテイストの強さに差があり、それらはコーディネートへの取り入れやすさとある程度の(負の)相関がある。この観点から眺めると、本作はオリジナルとなるミリタリーデザインを継承しつつ、アウトドアスタイルからカジュアル、ストラップを工夫すればビジネス用途にもマッチしそうである。このことから、ミリタリーテイストを求めない人にとっても違和感無く取り入れることができる懐の深さを感じる。
インプレッション期間中に筆者は、マッキーノクルーザ系のジャケットやフライトジャケット、デニムジャケットおよびスウェットなどに合わせていた。それぞれのスタイルに本作は上手く馴染んでくれて、長く愛用できそうな予感を抱くには十分であった。デザインが筆者好みであったというバイアスを認めつつ、本作はいつでも着けていられる、そして着けていたいと思わせる魅力の詰まったモデルであると感じた。カーキ フィールドがデザインを継承しつつ長年に渡ってラインナップされてきたということから考えても、この感想は筆者だけのものではないはずだ。
人々に愛されてきた「普通のツールウォッチ」
プライスタグは税込み8万5800円で、メタルブレスレットモデルは10万2300円とともに手の届きやすい価格設定だ。アンダー10万円では機械式時計の選択肢が限られるし、コンパクトかつ手巻き式のモデルとなると選択肢が非常に少ない。その中で本作は、軍用時計であった歴史を受け継いでいるという独自の魅力があり、現代的なアップデートも上手く取り入れられていて、購入動機となりうる要素は十分だ。
本作にはプレスリリースを盛り上げる新機構や新素材が用いられているわけではない。枯れた技術によって仕立てられた飾り気のない、しかし幅広いスタイリングに取り入れやすく、手に取りやすい時計である。そういうキャラクターから、さまざまなファッションスタイルに合わせるためや、家事の際に気兼ねなく使える時計として、長きにわたって支持を集めてきたのではなかろうか。愛すべき、そして世界中で愛されてきた「普通のツールウォッチ」。それが本作の魅力だろう。
https://www.webchronos.net/features/108448/
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