ドイツの時計業界は、今までになく活況だ。新しいブランドや新しいデザイン、そして新しいコンプリケーションが、創造性豊かな職人やデザイナーたちからどんどん生み出されている。今回はドイツ製の腕時計のなかから、複雑機構やダイバーズウォッチなど10の部門でそれぞれベストモデルを選出した。
【複雑機構部門】A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス・クロノグラフ」
自動巻き(Cal.L156.1 DATOMATIC)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42.5mm、厚さ14.2mm)。12気圧防水。世界限定100本。価格要問合せ。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845
A.ランゲ&ゾーネは、パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター、スプリットセコンド・クロノグラフ、トゥールビヨンなど、時計作りにおける主要なコンプリケーションを得意としている。同時に、こういった複雑機構に対して、常に特別な何かを追加しようとしてきた。
2023年春に発表された「オデュッセウス・クロノグラフ」がまさにそれである。本モデルのため新たに開発されたCal.L156.1は、ブランド初の自動巻きクロノグラフムーブメントであり、独特なゼロリセット機能を備える。4時位置のプッシャーが押されると、赤色のセンタークロノグラフ秒針は最短距離を通ってゼロ位置に帰針するのでなく、それまでに経過した回転すべてをたどるのである。しかしすべてが一瞬のうちに行われるため、視認するのは難しい。
さらに、シルバーカラーのセンター針はミニッツカウンターであり、これにより1時間が経過するまでの分表示を容易に読み取ることができる。A.ランゲ&ゾーネがセンターのミニッツカウンターを選んだのは、デザイン面の理由からである。6時位置のスモールセコンド以外はサブダイアルの必要性はなく、オデュッセウスの独特な9時位置(デイ表示)と3時位置(デイト表示)の開口部に変更はない。
その他の技術的特徴は、プッシャーにふたつの機能を持たせたことだ。リュウズのねじ込みをほどきミドルポジションに引き出すことにより、デイ・デイトを迅速に調整ができる。リュウズをねじ込んでおくと、通常のクロノグラフ操作が可能となっている。
【ダイバーズウォッチ部門】グラスヒュッテ・オリジナル「SeaQ クロノグラフ」
自動巻き(Cal.37-23)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径43.2mm)。300m防水。198万円(税込み)。(問)グラスヒュッテ・オリジナル ブティック銀座 Tel.03-6254-7266
グラスヒュッテ・オリジナルの人気ダイバーズウォッチコレクション「SeaQ」には、2022年秋以降「SeaQ クロノグラフ」という選択肢が加わった。グラスヒュッテ・オリジナルは、その技術力を発揮しながらデザイン性を高めている。
SeaQ クロノグラフはクロノグラフのプッシャーがねじ込みではないにも関わらず、300mという高い防水性能を確保することに成功している。また本モデルは、ブランドの特徴であるパノラマデイトが6時位置に配されている。パノラマデイトは同じ平面上にある2枚の同心円上のディスクによって構成されているため、中央に仕切りを設ける必要がない。
分針はダイバーズウォッチで最も重要な役割を果たすため、大きな先端で目立つようになっている。スーパールミノバが塗布されているおかげで、針もインデックスも暗所の視認性が高い。
自社製自動巻きムーブメントのCal.37-23は、シリコン製ヒゲゼンマイとフライバック機能を搭載し、垂直クラッチによりブレの無いクロノグラフ秒針のスタートが担保されている。ドーム型のサファイアクリスタル製風防と、セラミックスでキズに強い、逆回転防止機能付きのベゼルが組み合わされ、SeaQ クロノグラフはラグジュアリーウォッチの側面を併せ持つパワフルなツールウォッチとして完成した。
【パイロットウォッチ部門】ユンハンス「マイスター・パイロット・クロノスコープ・デザート」
自動巻き(Cal.J880.4/ETA2824-2、デュボア・デプラ2030ベース)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径43.3mm)。100m防水。46万8600円(税込み)。(問)ユーロパッション Tel.03-5295-0411
20世紀初頭、ユンハンスはコックピットに設置するための機械式時計を生産した。それらは航空機の飛行時間計測に使われ、不可欠なナビゲーション機器となっていた。ドイツ・シュバルツバルトに拠点を置くユンハンスは、1950年代に新設されたドイツ空軍のためにパイロット用の腕時計を開発する。
現在ユンハンスが展開する「マイスター・パイロット・クロノスコープ・デザート」は、当時のパイロット用クロノグラフクロックをベースとしたモデルだ。両方向に回転するベゼルは12ヵ所の窪みを持ち、これによりパイロットはグローブをはめた状態でも正確に回転ベゼルを操作できる。サファイアクリスタル製風防を備えた直径43.3mmケースの背面には機体のエングレービングが配され、防水性は100mである。
【独創性部門】マイスタージンガー「エディション シングラリス エナメル」
手巻き(Cal.MSH01)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径43mm)。30気圧防水。世界限定20本。国内未入荷。参考価格6490USユーロ。(問)サイプレストレーディング Tel.06-6459-4140
マイスタージンガーは、アイコニックな単針の時計で大きな成功を得てきた。2001年から、ドイツ・ミュンスターに拠点を置くマイスタージンガーは、単針の時計にどのような多様性があるかを我々に見せてくれている。これらの時計のインデックスは5分刻みで記されている。
単針時計の魅力は、5分単位で時刻を表示するため、一般的な時計よりも朝から午後、朝や夕方などの時間の移ろいを緩やかに捉えられる点にあるだろう。
魅力的なデザインにより、マイスタージンガーの単針時計にはいくつもの受賞歴があり、2023年にもレッド・ドット・デザイン賞を受賞している。選ばれたのは、アイボリー文字盤と手巻きムーブメントのCal.MSH01を備えた「エディション・シンギュラリス・エナメル」だ。
ツインバレルと約120時間のパワーリザーブを保持するCal.MSH01には繊細な装飾が施されている。このムーブメントは2016年に発表され、2022年にもレッド・ドット・デザイン賞とジャーマン・デザイン賞を受賞していた。
【技術部門】ジン「EZM12」
自動巻き(Cal.ETA2836-2)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径44mm)。85万8000円(税込み)。(問)ホッタ Tel.03-5148-2174
ドイツ・フランクフルトの時計ブランドであるジンは、時計をより良く、より堅牢で、耐久性と視認性に優れたものにするため、多くの独創的な技術を実現させてきた。その中でも「EZM」シリーズは、危険を冒す出撃・出動(Einsatz)における時刻(Zeit)の計測機器(Messer)と定義している。
「EZM12」は、ドクターヘリの救命医師用に設計されたモデルだ。テギメント加工が施されたキズに強いケース、硬化処理されたブラックの回転ベゼル、機能性と湿気に対する安全性を高めるArドライテクノロジー、8万A/mの耐磁性、−45℃から80℃までの温度に耐えうる信頼など、高い機能性を備えている。さらに減圧にも耐え、使用後の手入れも簡単だ。
ドクターヘリの救命医師にとって特に重要な要素が、“ゴールデンアワー”と“プラチナタイム”を迅速に確認することだ。救命におけるゴールデンアワーとは、受傷から1時間のことであり、この間に治療を受けることができるかで生死が分かれる。さらにそのなかでも重要な最初の10分をプラチナタイムと呼ぶ。こうした経過時間をカウントするために、インナー回転ベゼルやパルスメーター表示が搭載されている。なお、EZM12はレッド・ドット・プロダクトデザイン賞と、ドイツ・デザイン・アワードのエクセレント・プロダクトデザイン賞を受賞している。
【エレガンス部門】ノモス グラスヒュッテ「オリオン ネオマティック39 グラスヒュッテ時計製造175年」
自動巻き(Cal.DUW 3001)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約43時間。SSケース(直径38.5mm)。5気圧防水。53万3500円(税込み)。(問)大沢商会 Tel.03-3527-2682)
かつてノモス グラスヒュッテは、主に「タンジェント」コレクションを展開していたが、長年にわたり着実にコレクションを拡充し、各ラインのアイデンティティを強化してきた。「オリオン」はアワーインデックスを持たないため、よりエレガントな印象を持つモデルだ。ポリッシュ仕上げのステンレススティール製ケースと、外側に大きく張り出し丸みを帯びたベゼル、そして緩やかな角度を持つラグが、ストレートで傾斜したラグを備えたタンジェントとは全く異なる印象を与えている。
ザクセン時計産業の功績を称えるスペシャルエディション「オリオン ネオマティック39グラスヒュッテ時計製造175年」では、シルバーメッキのホワイト文字盤や、ゴールドカラーのエンボスによるアワーマーカーが特徴的だ。上質な青焼き針も、魅力的なコントラストを生み出している。
スモールセコンドに窪みはないため、これもエレガントな雰囲気を生み出す一因となっている。ドーム型のサファイアクリスタル製風防を採用しているにも関わらず、ケースの厚さはわずか8.7mmで、スムーズにシャツの袖下に収まるサイズだ。自社製ムーブメントのCal.DUW 3001はわずか3.2mmの薄さで、テンプ受けなどに特徴のある堅牢な設計となっている。
【クラフツマンシップ部門】ラング&ハイネ「アントン トゥールビヨン マニュファクチュール エディション」
手巻き(Cal.IX)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約55時間。Ptケース(縦40x横32mm)。3気圧防水。世界限定5本。国内未入荷。参考価格19万400ユーロ。(問)ドイツ時計 Tel.03-6277-4139
2001年の創業以来、ラング&ハイネはドイツ・ドレスデンで伝統的な時計作りにおけるクラフツマンシップの実現に注力してきた。その焦点は、高度かつ労力を要する手仕上げの装飾と、歴史的なムーブメント構造、そして高いレベルの垂直統合と幅広いパーソナライゼーションのオプションにある。これらすべてを最高位モデル、レクタンギュラーケースの「アントン トゥールビヨン」に見ることができる。
4つの受けを備える手巻きムーブメントのCal.IXの眺めは、文字盤と同様に壮観だ。おなじみのゴールドモデルとは異なり、新しい「アントン トゥールビヨン マニュファクチュール エディション」はプラチナ製ケースを備える非常にクールなデザインとなっており、モダンさとクラシックな時計作りのコントラストを生み出している。ブラック・セラミックス製のラウンド型インナーダイアルはケースと調和し、ベースプレートの下部はトゥールビヨンに専用スペースを設けるためにカットされている。
【デザイン部門】ライカ「ライカZM 11」
自動巻き(Cal.ライカLA-3001)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm)。100m防水。151万4700円(税込み)。(問)ライカカスタマーケア Tel.0570-055-844
「ライカZM 11」は、「ライカZM 1」や「ライカZM 2」と同様にライカのアイコニックなデザインを受け継いでいる。ライカZM 11のデザインは進化を遂げ、時計製造のクラフツマンシップと写真のエッセンスを融合している。
例えば、光と影というテーマでより多くの遊びを取り入れた。新モデルの焦点はそれぞれがわずか0.4mmの二層構造の文字盤で、さまざまな視覚的効果を生み出している点にある。上層は刻みがあり、下層は透けて見えるようになっている。
ミッドナイトブルーダイアルモデルの場合、トップのブルー文字盤の下にブラックの基盤があり、全体のブルーが同じ色調であるにもかかわらず、グラデーション効果を生み出している。
チタンモデルにおいては、文字盤の下層はブラックだが、スリットの内端は赤色にペイントされていて、手首を返したときだけ赤色が現れる。ブラウンダイアルの場合、ふたつの層はどちらもブラックであるが、上層は透明なニスに覆われ、これにより柔らかなブラウンの輝きを生み出している。
クロノードと開発した自動巻きムーブメントのCal.ライカLA-3001は、約60時間のパワーリザーブとクロノメーター精度の調整を保持する。ストラップはライカのイージーチェンジシステムにより、ツール不要なタッチボタンで交換ができる。
【バランス部門】ヘンチェル「H1 クロノメーター ミスティック」
手巻き(Cal.HUW1130)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約37時間。SSケース(直径37または39.5mm)。5気圧防水。国内未入荷。参考価格8980ユーロ。
ドイツ・ハンブルグを拠点とする時計ブランドのヘンチェルは、バランスの取れたデザインとディテールにも気を抜かない姿勢で魅了する、スモールセコンドを備えたエレガントな3針時計でその名を馳せてきた。近年、ヘンチェルは自らのベーシックなH1、H2コレクションに異なる素材やカラーを採用し、ヘンチェルを愛する愛好家が自らのコレクションを拡充できる仕様の拡張に成功してきた。
「H1 クロノメーター ミスティック」でも、新しいアプローチが取られている。アントラサイトグレーのダークな文字盤を備えた存在感のあるこの時計は、寡黙で神秘的な印象だ。そしてポリッシュ仕上げの自社製ステンレススティール製針が、採光条件に応じて際立つ。そのため、着用者にとっての視認性は高いが、例えばテーブルの反対側にいる人からは見えにくく、時間はより個人的なものとなる。
同モデルに搭載されているCal.HUW1130も、伝統に則ったスワンネック型緩急針調整装置やゴールドシャトン、青焼きのネジやさまざまな装飾を備えている。ムーブメントは約1000時間をかけ、6つの行程による検査・調整が行われる。
【ニューカマー部門】アオニック「オートマティック ディスカバー ミニッツ」
自動巻き(Cal.A26-1 W)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径41mm)。世界限定100本。参考価格4450ユーロ。
ドイツ・ベルリン創業の新しい時計ブランドが、これまでに見たこともない時計を世に送り出している。アオニックの「オートマティック ディスカバー ミニッツ」は、まるで何もない宇宙から飛来し、手首に着陸した空飛ぶ円盤のようである。
表示の特徴は、時・分・秒がディスクの文字により示される点だ。分針と思われる針は上部の黒いディスクにプリントされ、12時間で自転する。小さな秒針は円の小さなセグメントを回転する。文字盤の傾斜した縁には12本のスリットがあり、底に向かって広がっている。そのうちの1本は、時間を示すために背後を走るディスクによってオレンジ色に塗り潰されている。ケースのエッジは細くフラットで、手首にしっくりと収まる。
人間工学的に優れた点は、Z型のつく棒を備えた尾錠でも担保され、これは摩耗から素材を保護するためのものだ。ベルリンを拠点に活動する実業家であるヨルグ・ウィッヒマンは、ダマスコと組んでセラミックス製ボールベアリングと巻き止めを備えた両方向回転ローターを保持する自動巻きムーブメントのCal.A26-1Wを開発し、本モデルに搭載した。
ファーストモデルは100本のみ製作され、ケースはたブラックDLCコーティングが施されたステンレススティール製となっている。ストラップも多彩で、ベロクロファスナーによってツールを使用せずに簡単に交換できる。
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