スウォッチ×ブランパン「バイオセラミック スキューバ フィフティファゾムス」を着用レビューする。ブランパンの「フィフティファゾムス」70周年の節目に誕生した本作は、バイオセラミック素材を用いてるがゆえの軽量さに加えて、着用すると気持ちも軽やかにしてくれる1本であった。
Text and Photographs by Kouki Yamada
[2024年2月27日公開記事]
スウォッチ×ブランパン「バイオセラミック スキューバ フィフティファゾムス」を着用レビュー
webChronosから今回インプレッションする腕時計が送られてきた。「精密機器」と注意書きのある段ボール箱を開けると、幾重にも巻かれた緩衝材の中から、20センチ四方の黒い箱が出てきた。
そこには鮮やかなイエローカラーで
PACIFIC OCEAN
BIOCERAMIC
SUCUBA Fifty Fathoms COLLECTION
と書かれていた。
「おおぉ!」と、プレゼントが届いた子供のようにひとり盛り上がる。
あの“フィフティファゾムス”だ。
ご存知、この「バイオセラミック スキューバ フィフティファゾムス」は、スウォッチ グループ傘下であるブランパンとスウォッチがコラボーレーションしたことで誕生した。ブランパンの最もシンボリックなダイバーズウォッチである「フィフティファゾムス」の70周年を祝って、2023年に発売されたカジュアルウォッチである。
全6種類のバリエーションのうち、太平洋に生息するウミウシの一種、クロモドーリス・クーターイから着想を得たモデル。自動巻き(Cal.SISTEM 51)。パワーリザーブ約90時間。バイオセラミックケース(直径42.3mm、厚さ14.4mm)。91m防水。6万500円(税込み)。
スウォッチが同グループのメジャーブランドとコラボするのはこれが2度目であり、その第1弾となったオメガ×スウォッチの「ムーンスウォッチ」はかなりの成功を収めた。
そしてスウォッチが、次なるパートナーとして白羽の矢を立てたのがブランパンとなるわけだ。このコラボが2匹目のドジョウを狙うためのものなのか、広義にブランパンのPRを狙うものなのか、はたまた深淵なメッセージが込められているのかは、とても興味深かった。
「フィフティファゾムス」の意匠をカジュアルに着けこなす
ということでいそいそと、しかし外箱を傷つけないように包装を開いて、腕時計を取り出す。いわゆる高級時計の時のような、腫れ物に触るみたいな慎重さとは、またちょっと違う。
まるでやっと届いたミニカーの箱を開けるかのように、絶対に破らず(箱もコレクションの一部だからだ)、ワクワクしながら開けるのだ。
そういう楽しみが、このプレミアムなスウォッチシリーズにはある。
箱を開けて出てきたのは、天地が平たく全体としては円形のスポーティなウォッチケース。そのジッパーを開けるとようやく、イエロー×ブラックトリムのバイオセラミック スキューバ フィフティファゾムス"パシフィックオーシャン"が現れた。
恥ずかしながら筆者は、本家のフィフティファゾムスを手に取ったことがない。しかしだからこそ、その盛り上がったベゼルを見て、うれしくなった。
ダイアルはグラデーション含めて完全なプリントだが、文字盤外周のミニッツマーカー部分を色濃くした、グレーの盤面はなかなかにスタイリッシュだ。
12時、3時、6時、9時がアラビア数字で、その他のアワーマーカーが三角形になっているのは本家と同じ。針はエッジの効かせ方こそやや甘めだが、3針ともによくフィフティファゾムスの特徴をとらえている。
逆回転防止機能の付いたベゼルを、カチカチと回す。
バイオセラミック製だというベゼルはすこぶる軽く、ステンレススチールのような重厚感は一切期待できない。また、ステンレススチールのように切り立った切削面を持たないため、角は甘い印象が強い。
しかしその軽さが作り出す"存在の軽さ"こそが、この腕時計における最大の特徴だと感じた。フィフティファゾムスをカジュアルに着こなすというとても贅沢な気分を、この軽さが盛り上げたのだ。たとえば夏のリゾートで着ける腕時計としては、最高のパートナーだろう。プレミアムブランドのスニーカーや、レザーサンダルを履くのに近い感覚がある。
ちなみにこのダイバーズウォッチは91m/300フィート防水だが、それを英語圏の水深単位で表すと“50Fathoms”となる。
そのボディはもちろん尾錠、リュウズ、ベルトの留め具に至るまで、素材は3分の2がセラミックス、残り3分の1がヒマシ油を原料としたバイオ由来素材からなるバイオセラミック製である。
ケース直径は42.3mmとやや大きめだが、その重量はバンドも併せて43g(実測)しかないから、煩わしさがまったくない。女性の細い手首だと大きすぎるかもしれないが、あえてそのギャップを狙うのはアリだ。
ちなみにストラップは、廃棄された漁網からリサイクルされている。
操作性は気になるところがある
本作で唯一残念なのは操作性で、時刻合わせが少しやりにくい。針飛びするためだ。針飛びを防ぐために狙った時刻から分針を少し進めて戻すことで解決したが、コツをつかむまで狙いが定めにくかった。
ハック機能がないのは、悪くない。リュウズに輪列の回転とは逆方向のトルクを与える際は力加減をソフトにしなければならないが、その方が12時位置で待つよりもタイミングが合いやすい場合は多いし、時計にも負担が掛かりにくい。
リュウズは巻き心地を語るようなものではなく、自動巻きだとはいえ、セイコーのCal.4R36くらいの巻き心地は欲しいと感じた。
だが、これすなわちスウォッチ「SISTEM 51」ムーブメントの感触であり、だからこそフィフティファゾムスの名前とデザインを踏襲しながら、6万500円という価格を実現しているわけだ。
また、この完膚なきまでの徹底した割り切りこそがスウォッチの基礎であり歴史だと考えれば、目くじらを立てる必要はない。
ここで本ムーブメントの耐久性は語れないが、今回は彼らが言うところの溶接済みモジュールの精度や密封・耐防錆性の高さ、51個しかないパーツのシンプルさから来るタフネスを信じることとしよう。
本音を言えばこのCal.SISTEM 51がオーバーホール可能であれば、とは思う。そうすればボディやストラップとともに、真のエシカルなカジュアルウォッチとなるからだ。
気持ちを軽やかにしてくれる腕時計
総じてバイオセラミック スキューバ フィフティファゾムス"パシフィックオーシャン"は、その重量以上に気持ちを軽やかにしてくれる腕時計だ。
事実、筆者はインプレッションを兼ねてといいながら、ことあるごとに本職の試乗会や試乗テストにこの腕時計を連れ出した。
フィフティファゾムスを着けているという高揚感は、ポルシェ カイエンSやBMW X6M、メルセデスC63 Sにも負けなかった。むしろその気負った雰囲気を、和らげさえしてくれた。
家に帰り、お疲れとばかりに外した腕時計を軽く拭き上げて、NATOベルトをちょっと緩める。シースルーバックごしにウミウシを模したローターが、クルクルと回っていた。
確かにこの腕時計をしていると、本家のフィフティファゾムスを見に行きたくなる。そしてバイオセラミックのコレクションを、もう1本増やしたくなる。
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