時計愛好家にとってコレクションのテーマは十人十色だろう。事前にA.ランゲ&ゾーネの熱心な愛好家と聞いていて、その魅力を語り出したら止まらないランゲ・マニアかと想像していたのだが、弁護士業を営むTさんは、思っていたのとは少々違っていた。彼のコレクションを彩るのは、大半がブルーの時計。A.ランゲ&ゾーネもそうだ。こういう収集趣味や楽しみ方もアリなのだなと感心した。
現在41歳。もともと時計好きだったが、弁護士として働き始めた30代から時計趣味が本格化。ブランドにこだわらず気に入った時計をコレクションしてきたが、最近になってA.ランゲ&ゾーネに惚れ込み、次々と購入する。時計以外の趣味はスポーツ。現在もサッカーやゴルフを楽しむスポーツマンでもある。
Photographs by Yu Mitamura
菅原茂:取材・文
Text by Shigeru Sugawara
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年3月号掲載記事]
「ラッキーカラーはブルー。収集中のA.ランゲ&ゾーネもブルーばかり」
本誌の時計愛好家特集も早11回目。取材前にバックナンバーを取り出して、以前お目にかかった方々のコレクションを振り返ると、収集時計の中でもスイスのパテック フィリップやオーデマ ピゲと並んでドイツのA.ランゲ&ゾーネが上位に名を連ねていることが分かる。なにゆえかくも時計愛好家たちを魅了してやまないのだろうか? これまでのA.ランゲ&ゾーネ愛好家の方々からはさまざまな理由をうかがうことができた。今回の弁護士Tさんの場合は果たしてどうか?
現在41歳だが、機械式時計には中学生の頃から興味を抱いていたという。社会人になって最初の本格時計は、弁護士として働き出した頃に購入したロレックスのサブマリーナー、通称「青サブ」のコンビモデル。
「2011年9月、30歳の時でしたね」とスマートフォンに記録しているデータで確認するTさんが数あるロレックスのモデルでも「青サブ」を選んだのは、「ブルーが好きなので」という理由から。だが、このブルーこそがTさんのコレクションにとって一種のライトモチーフになったのだから、なかなか面白い。
以前からA.ランゲ&ゾーネには興味があり、いずれは「ランゲ1」を欲しいと思っていたTさんが念願叶って手に入れたのは「ランゲ1 “25th アニバーサリー”」だ。25周年を記念して2019年に250本限定で発表されたこのモデル、ホワイトゴールドのケース裏面が懐中時計のようなハンター式で、シルバーダイアルにブルースティール針とブルーで印字されたインデックスを配し、アウトサイズデイトの日付数字もブルーという青ずくめの特別仕様。ブルー好きでランゲの時計を求めていたTさんにとっては絶対見逃せないものだった。ところが入手は容易ではなかったという。
「欲しいと思った時はもう完売。結局発表から2年後、海外の時計通販サイトを探して手に入れることができました」
奇しくもこの25周年記念モデルを購入した2021年2月は、同日に「サクソニア・フラッハ」のホワイトゴールドモデルも銀座ブティックで購入した。薄型のドレッシーなこの時計も夜空を思わせる美しいブルーのゴールドストーンダイアルが特徴だ。さらには後にピンクゴールドによる50本限定の同モデルも揃ってコレクションに加えるまでに。
翌月にはブティックで「サクソニア・ムーンフェイズ」を購入し、さらには「オデュッセウス」をオーダー。前者にはブルーの夜空に852個の星々が輝くムーンディスクが用いられ、後者はステンレススティールにブルーダイアルが組み合わされ、ブルーつながりという点では見事に一貫している。それまでにもさまざまな時計を所有していたが、A.ランゲ&ゾーネはまだ持っていなかったTさん。ちなみに現在オーダー中のモデルにはもうひとつ「ツァイトヴェルク・ハニーゴールド “ルーメン”」がある。「欲しいと思ったら、迷わず購入を決断というのが自分の買い方」と、心は一気にA.ランゲ&ゾーネへと向かう。法律事務所が同じ銀座にあるので、ブティックに足繁く通うようになった。「時計だけでなくいろいろな話題で時間を過ごせる、自分にとっての寛ぎの場」というブティックのスタッフとの親しい交流もまた、Tさんの収集欲を加速させる一因になったのだろう。
「今日着けているのは」と言って見せてくれたのは今所有する5本のA.ランゲ&ゾーネのうちの1本「1815 トゥールビヨン」。普段のスーツ姿でトゥールビヨンとは凄いと感心したら、「仕事で依頼人と接する場面では、さすがにこの時計は着けませんよ」と、いかにも信頼が大切な弁護士らしい。
「ランゲの素晴らしいところですか。それは腕に着けると職人の魂を感じるところでしょうか。モデルごとのムーブメント設計やムーブメントの二度組み、テンプ受けのフリーハンドによるエングレービングなど、職人が心を込めて手作りしている。職人色がこれほど色濃い高級時計も珍しいでしょう」
これらのA.ランゲ&ゾーネも含めて約40本の時計を所有しているTさん。先のブルーつながりでは、他にもまださまざまなモデルがある。「ラッキーカラーはブルーですね。時計以外に小物などもブルーが多い」と述べて、これまたブルーのレザーで作られたコレクションボックスから取り出して披露してくれたのは、パテック フィリップの「ワールドタイム」、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」と「CODE 11.59」のいずれもブルーダイアルを配したモデルである。加えて、驚異の6000m防水が話題のオメガの最強ダイバーズウォッチ「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」のチタンモデル。差し色はもちろんブルーだ。機能やデザインはそれぞれ異なっていても、やはりライトモチーフは同じなのだ。
また昨年は日本時計輸入協会が設けるウオッチコーディネーター(CWC)の資格を取得。ひとりの時計好きに留まらず、難関とされる資格試験に挑んだのは、時計内部のメカニズムをより詳しく知りたいと思ったから。「時計機構に加え、おかげで営業や販売の知識も豊富になり、仕事で接客に役立つかもしれません(笑)」。
これからもTさんは時計収集に熱を入れることだろう。次に手に入れるのもラッキーブルーの逸品だろうか。
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