SNSや本誌を含む時計関連の媒体を見ると、常に新しく、魅力的なモデルが掲載されている。しかし、時計のニュースが増える一方で、なぜその時計が良いのか、という情報は相変わらず乏しい。では、何が理由で、その時計を良く感じたのか?今回は、本誌でも人気を集める「時計の見方ABC」をもう少し広げ、よりディープに時計を見られるトピックとともにお届けしたい。
https://www.webchronos.net/features/110623/
https://www.webchronos.net/features/110788/
https://www.webchronos.net/features/110865/
Photographs by Eiichi Okuyama
野島翼、佐藤しんいち、広田雅将(本誌):取材・文
Text by Tsubasa Nojima, Shin-ichi Sato, Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]
(2024年4月更新)
時計に使われる、多彩な素材
時計の外装にとって、時に“新素材”と呼ばれることもあるセラミックスやサファイアクリスタル。これらの素材をただ採用するだけでなく、時計として破綻なくまとめるのはかなり難しい。この課題に取り組んできたのがウブロだ。現在同社は、カラーサファイアクリスタルを外装に多用するだけでなく、セラミックスでも発色が難しいとされる鮮やかなレッドやブルー、さらに淡い色を使うようになった。他にはない素材を、巧みに時計に落とし込むウブロの手腕。そのもっとも分かりやすい例を、特徴的な4モデルに見ることにしたい。
セラミックスやサファイアクリスタルに取り組むウブロ
一時期ほどの目新しさはなくなったが、いわゆる高級時計メーカーにとって、新素材はひとつの華である。量と質を考えれば、最も積極的なメーカーのひとつはウブロだろう。サファイアクリスタル、セラミックスだけでなく、文字盤でも新しい試みに取り組むだけでなく、いずれも完成度が高いのである。
同社が新素材に取り組むようになった遠因に、複雑なケース構造があった。一般的には多くの部品を組み合わせて外装を作ると、理論上はサビが出やすくなる。だが、ウブロは「サンドウィッチケース」を持つ「ビッグ・バン」コレクションに、SS以外の新素材を合わせることでそのデメリットを見事に克服し、むしろ造形的な利点に変えた。当時のCEO、ジャン-クロード・ビバーが打ち出したさまざまな素材を組み合わせた「アート・オブ・フュージョン」とは、審美性と実用性を高度に両立させたものだったのだ。
ケース素材のSAXEMは酸化アルミニウムに希土類元素とクロムを加えたもの。SAXEMにより硬度を確保しつつ、サファイアクリスタルでは不可能であったエメラルドグリーンを実現した。スケルトナイズされたCal.HUB4700を搭載して同作の透明性に呼応している。自動巻き(Cal.HUB4700)。31石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。グリーンSAXEMケース(直径42mm)。50m防水。世界限定100本。1808万4000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
新素材を使うことで、ウブロはユニークなサンドウィッチ構造のケースを進化させ続けた。その良い例が、ウブロ「スピリット オブ ビッグ・バン グリーンSAXEM」と、ウブロ「ビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック パープルサファイア」だろう。
前者が採用するSAXEMは、サファイアクリスタルでは不可能とされたグリーンを実現したもの。サファイアクリスタルの主成分である酸化アルミニウムに、希土類元素やクロムを混ぜることで、鮮やかなグリーンを実現することに成功した。後者もやはり、酸化アルミニウムにクロムを混ぜた新しい色のサファイアクリスタルだ。その稀少性を物語るように、それぞれ限定数は100本、50本とかなり少ない。
目を引くケースは、世界初のパープルサファイアクリスタルによるもの。6時位置にトゥールビヨンキャリッジを備えるCal.HUB6035は、主立った要素を残してスケルトナイズされている。ポップな印象を受けるが、素材のたゆまぬ研究開発と、高い時計製造技術が結集されている。自動巻き。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。パープルサファイアクリスタルケース(直径44mm)。3気圧防水。世界限定10本。2863万3000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
しかし、このふたつで見るべきは、素材以上にケース構造だろう。2モデルの拡大写真が示す通り、ベゼルやミドルケースには、防水のためのパッキンが見られない。接着しているのかもしれないが、筆者の考えでは、基本的には外装部品の噛み合わせだけで、防水性能を持たせていると思われる。ウブロはこれまで、サファイアクリスタルケースに防水性を持たせるため、技術的なノウハウを蓄積してきた。そして現在は、すべてがサファイアクリスタル製となった。50mもしくは30mという防水性能は、加工精度の高さ故である。
「ビッグ・バン インテグレーテッド スカイブルーセラミック」も、ウブロの進化を感じさせるモデルだ。素材はセラミックス。あえて発色の難しい中間色を採用し、しかもすべての外装にあしらっている。ウブロのさじ加減を思わせるのが、角の処理だ。高い噛み合わせ精度が求められるところはエッジを立てているが、それ以外はあえてわずかに丸めている。またベゼルを留めるビスも金属製のスリーブで囲まれており、ビスがセラミックベゼルを割る心配はない。素材だけでなく、外装の構造にも手を加えたところにウブロの強みがある。
「ビッグ・バン」のひとつの転換点となるモデル。ケースからブレスレットまでを同じカラーの同じセラミックスを使用して統一感を生み出した。用いられるセラミックスは発色が良く、仕上げも良好である。軽量に仕上がっており、優れた着用感も本作の特徴のひとつだ。自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックケース(直径42mm、厚さ13.45mm)。100m防水。世界限定250本。345万4000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
もうひとつの試みが、「クラシック・フュージョン ゴールドクリスタル セラミック」だ。これは析出させた金をクリスタルの中に結晶させたもの。加えて、そこにクリアラッカーを重ねることで、完全にフラットな表面を可能としている。ウブロの得意とするブラックのコンセプトに、ゴールドクリスタルというユニークな素材を組み合わせ、他とは違う美しさを実現した。ウブロの素材に対するアプローチが見え隠れしている。
素材の組み合わせで新たなデザインを生み出してきたウブロおよび「クラシック・フュージョン」の特徴がよく表れたモデル。自然界では極めて稀なゴールドクリスタルを金の蒸気を析出させることで生み出して文字盤上に配した。析出の形状は同じにはならず、その表情はすべて異なる。自動巻き(Cal.HUB1100)。25石。パワーリザーブ約42時間。2万8800振動/時。ブラックセラミックケース(直径42mm)。50m防水。301万4000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
https://www.webchronos.net/features/91149/
https://www.webchronos.net/features/77852/
https://www.webchronos.net/features/85310/