さまざまなところで使われているホログラム。その技術を発展させ、世界共有仕様のパスポート用ホログラムを発明したのが、起業家のウグ・スーパリスだ。そんな彼は、運営する投資会社のエノウィを通じて、ペキニエを傘下に収めた。彼の人生とはまったく無縁に思える時計メーカーの、どこに魅力を感じたのか?
Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):文
Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]
ユーザーフレンドリーを加速させるレッセンス
「エノウィの活動のひとつとして、メゾンドエクセレンスという卓越したメゾンを集めたセクターを作りたかったのです。つまり、フランスならではのノウハウを持ち、100%フランスである、そういう企業を集めたかったのです。その中にはグルメ、ファッション、レザー、ジュエリー、もちろん時計もありました」。ペキニエへの投資を決めて、どういう印象を持ったのか?
ペキニエオーナー兼社長。1955年、フランス・マルセイユ生まれ。84年にホログラム・インダストリーズを設立。世界的に使われるホログラムを開発し、同社を世界的な企業に成長させた。後に、フランス国内の中小企業を支える投資と顧問組織であるエノウィを発足。2022年、フランスの無形文化財企業であるペキニエに着目。そのビジネスバックアップを決め、買収の後、同社のオーナー兼社長に就任した。
「買収の前後に、ペキニエの工場を訪問しました。フランスの典型的な中小企業なのに技術、マネージメント、サービスが大企業並みにきちんとしていたのです。もちろんプロダクトも優秀ですね。人材もそろっているので、会社としてのポテンシャル、そして将来性が大きいと感じました」。そして買収後、発展のスピードを上げるべく、彼は設計チームを2倍に拡充した。
「その後、私たちペキニエのDNAを見直したのです。ペキニエとは、フレンチタッチのデザインを持つマニュファクチュールと確認できましたね。併せて、どういう方がペキニエの時計を使っているのかを再定義しました。私たちのユーザーとは、自由な精神を持ち、美しいものが好きな人。そして見せびらかすのを好みません。クワイエットラグジュアリーの好きな方と分かりました」。その帰結が、フレンチシックを前面に打ち出した新作の「コンコルド」だ。
エレガントでスポーティーを打ち出した新コレクション。パリのコンコルド広場をケースで、針とブレスレットでオベリスクを表現している。日付調整の禁止時間帯がない、自社製ムーブメントを搭載する。自動巻き(Cal.EPM03)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SS(直径40mm、厚さ9.25mm)。100m防水。予価81万4000円。36mmモデルは予価78万1000円。
「ペキニエが持っているリソースを生かすべく、外部デザイナーとプロダクトを統括するダニ・ロワイエが完成させました。もちろんムーブメントは自社製です」。ケースは40㎜と36㎜の2種類。そしてデザインのモチーフには、パリのコンコルド広場が選ばれました。「私たちのDNAを生かして、ペキニエの『モーレア』デザインをブレスレットに転用しました。また、フランス発祥のアールデコも、モチーフとして加えています。男性にも女性にも使っていただける、スポーティーシックな時計になりました」。
新生ペキニエらしさを強く感じさせるのは、文字盤3時位置のデイト表示だ。「文字盤は7色そろえました。見て欲しいのは日付です。他社は文字盤の色を変えても、日付表示の色までは変えないでしょう?
でも私たちはマニュファクチュール。だから、日付の色を文字盤にそろえたのです。これが、フレンチシックですよ」
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