ダイブコンピューターの誕生によって1950年代に築いたプロフェッショナル向けツールという立ち位置は、遠い過去となってしまったダイバーズウォッチ。しかし、それでも高い防水性能や逆回転防止ベゼル、または大ぶりなケースというダイバーズウォッチのスタイルは廃れることなく、常に多くの愛好家から求められ続ける。果たして、ダイバーズウォッチの本質はどこにあるのか? 2018年に改訂されたISO 6425の新基準を踏まえつつ、さまざまな観点から、ここにダイバーズウォッチの新しい在り方を考察する。
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas), Masanori Yoshie
広田雅将(本誌)、細田雄人(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan), Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2021年9月号掲載記事]
2018年のISO 6425改訂は何を目指したのか?
ダイバーズウォッチの基準を定めたISO 6425の2018年改訂から3年が経過し、徐々に対応モデルが増えつつある。では実際に1996年の第3版と、現在施行されている第4版ではどのようにダイバーズウォッチを定義しているのか。それぞれの条文と付属文書を掲載し、比較する。
ISO(国際標準化機構)の潜水時計規格の概要
1982年に制定されたのが、潜水時計に関する規格、ISO 6425である。96年に制定されたISO 6425:1996でほぼ完全なかたちとなり、2008年に再承認を受けたが、2018年に第4版に改訂された。条件はJISにほぼ同じで、100m以上の防水性能を持つこと、暗所でも時間が読めること、逆回転防止ベゼルを持つこと、耐衝撃性(ISO 1413)、耐磁性(ISO764)、そして耐塩水性を備えることなどである。
ちなみにドイツのDIN(ドイツ工業規格)はダイバーズウォッチを防水時計の一種とみなしており(DIN 8310、2010年制定)、ISO 6425はそれを補完するために用いられる。
Edition 3
[ ISO 6425:1996 ] Diver’s watches
3.1 | 定義 | ダイバーズウォッチとは、少なくとも水深100mの潜水に耐え、かつ時間を管理するシステムを有する時計をいう。 |
4 | 要求事項 | ダイバーズウォッチとして、次の性能を有していることが要求される。 |
6.1 | タイムプリセレクティング装置 | 回転ベゼル又はデジタル表示装置のようなタイムプリセレクティング装置を備えており、不慮の回転防止又は誤作動防止が施されていること。回転ベゼルの場合は60分まで設定できる分目盛があり、5分毎の目盛については特に目立つものであること。 |
6.2 | 視認性 | 次の表示については、暗所においても25cmの距離から目視可能でなくてはならない。 a)時刻表示(分針は時針よりもはるかに見易くなくてはならない) b)タイムプリセレクティング装置のセット時刻 c)腕時計が動いていることを確認できる装置 d)電池駆動の腕時計においては、電池寿命の表示 |
6.3 | 耐磁性 | 規格ISO 764に従い、ダイバーズウォッチは耐磁性を有していなくてはならない。 |
6.4 | 耐衝撃性 | 規格ISO 1413に従い、ダイバーズウォッチは耐衝撃性を有していなくてはならない。 |
6.5 | 耐塩水性 | 耐塩水性試験を行った後、ケース又は付属品に重大な変化が認められず、可動部分は正常に機能し続けねばならない。 |
6.6 | 水中における信頼性 | 水中試験においてタイムプリセレクティング装置及びランプのスイッチなどの水中で機能する機構は正常に作動しなければならない。 |
6.7 | 耐外力性 | (1)付属品:付属品の耐外力試験を行ったとき、時計部品の何れもが外れたり、位置ずれを起こしてはならない。 (2)外部操作部材:りゅうず及び他の操作部材の耐外力性試験を行ったとき、凝縮試験でガラスに曇りが認められてはならず、機械的機能に異常があってはならない。 |
6.8 | 耐温度衝撃性 | 耐温度衝撃性試験を行ったとき、凝縮試験でガラスに曇りが認められてはならず、腕時計は正常に機能しなくてはならない。 |
6.9 | 空気加圧での気密性(任意) | 空気加圧での気密性試験を行ったとき、50μg/minを超える空気流量があってはならない。 |
6.10 | 水中加圧での水密性 | 水中加圧での水密性試験を行ったとき、凝縮試験でガラスに曇りが認められてはならず、腕時計は正常に機能しなくてはならない。 |
6.11 | 混合ガスを含む大気強度 | 混合ガス潜水用の時計は、付属書Aに規定の混合ガスを含む大気強度試験を行い機能異常がないことを確認しなければならない。 |
7 | 試験項目 | ダイバーズウォッチとして、次の試験を行い性能を検査する。 |
7.3 | タイムプリセレクティング装置 | 耐塩水性試験と水中における信頼性試験において機能異常がないか試験する。(7.3.3/7.3.4) |
7.3 | 視認性試験 | 拡大器具を使用せず、目視により検査する。 | ─ | 耐磁性試験 | 規格ISO 764に従い、直流磁界4800A/mで止まりの有無、残留影響を検査する。 |
─ | 耐衝撃性試験 | 規格ISO 1413に従い、1mの高さから自由落下衝撃(シャルピー試験機による)で機能異常がないか試験する。 |
7.3.1 | 付属品の耐外力性試験 | バンドを締めた状態で、バンド部に200N(約20kgf)の外力を加える。 |
7.3.2 | 空気加圧での気密性試験(任意) | △p=2barの空気加圧を行い、その時計内に侵入する空気の流量を測定する。 |
7.3.3 | 耐塩水性試験 | 30g/ℓの塩化ナトリウムの水溶液に浸し、18~25℃で24時間保持する。この試験後、ケースと付属品についてさびなどの変化を検査する。可動部分、特に回転ベゼルはその機能の正常性を検査する。 |
7.3.4 | 水中における信頼性試験 | 18~25℃で水深30±2cmの水中に50時間浸漬させる。全ての機能が正常に作動するかどうかを試験する。その後、凝縮試験で検査する。 |
7.3.5 | 耐温度衝撃性試験 | 水深30±2cmで40±2℃10分間、5±2℃10分間、40±2℃10分間の試験を行い、凝縮試験で検査する。 |
7.3.6 | 外部操作部耐外力性試験 | (L+0.25L)/10barの加圧水中で外部操作部材に5Nの外力を加えた状態を10分間維持し、凝縮試験で検査する。 |
7.3.7 | 水中加圧での水密性及び強度試験 | △p=(L+0.25L)/10barの加圧を2時間、次に0.3barの加圧を1時間行い、凝縮試験で検査する。 |
7.3.8 | 凝縮試験 | 40~45℃の熱板上に時計を載せ、ガラス面に18~25℃の水滴をたらし1分後に水滴を拭き上げ、ガラス内の曇りの有無を確認する。 |
8 | 表示 | ダイバーズウォッチの表示は次のとおりとする。他の言語による同等用語も許容される。 英語:diver’s watch L m(diver’s L m も可) フランス語:montre plongeur L mまたはmontre de plongée L m ロシア語:водонепроницаемые L м |
Edition 3:Annex
[ ISO 6425‒1996 ] Annex A Diver’s watches for mixed-gas diving
A.1 | 総括 | 大深度及び長時間の潜水は、ダイバーが交互に水中に滞在する形態で、混合ガスを呼吸する高圧環境下の潜水カプセル内で行われる。このような場合ダイバーズウォッチは混合ガスの圧力の影響を受けるので、その機能に支障を来すことがある。従って、ダイバーズウォッチを本付属書に示す特殊補足試験に供することが要求される。 |
A.2 | 定義 | 混合ガス潜水用ダイバーズウォッチとは、水深100m以深の潜水に耐える時計であって、呼吸のために使用される混合ガスによる加圧の影響を受けないものをいう。 |
A.3 | 要求事項及び試験 | 本文全ての要求事項を満たさなくてはならない。A.3.1項の試験が適用され、A.3.2項の試験が補完される。 |
A.3.1 | 加圧ガス中作動試験 | ダイバーズウォッチは実際に使用される(L+0.25L)/10barの加圧ガスに15日間さらされる。次いで3分以内に大気圧まで急速減圧を行う。この試験終了後、ダイバーズウォッチは本文の水中加圧での水密性の要求項目を満たさなくてはならない。 |
A.3.2 | 内圧による試験(減圧シミュレーション) | 巻真及び時合わせ軸と一緒のりゅうずを取り外す。取り外した跡に同じ種類の孔あきりゅうずを取り付ける。この孔を通して実際に使用する混合ガスを導入し、ダイバーズウォッチ内を△p=L/20barの加圧状態で10時間保持する。次いで、りゅうずを元に戻した状態で水中加圧による水密性及び強度試験を実施する。 |
A.4 | 表示 | A.3項の要求を満たす混合ガス潜水用ダイバーズウォッチについては以下の表示をするものとする。 英語:diver’s watch L m for mixed-gas diving フランス語:montre de plongée en saturation L m ロシア語:уасы для подводного плавания с газовой смесыо L м |
Edition 4
[ ISO 6425:2018 ] Diver’s watches
※ISO 6425の第4版は、技術的に改訂された第3版(ISO 6425:1996)をキャンセルし、置き換えられる。
1 | 適応範囲 | この文書では、ダイバーズウォッチと、大深度潜水で使用する飽和潜水ダイバーズウォッチの要件と試験方法を指定する(飽和潜水用の時計を扱っている付属文書Aを参照のこと)。これは、少なくとも水深100mの潜水に耐えるように設計され、暗闇で見え、潜水時間を示す安全な測定システムを備えたダイバーズウォッチに適用される。さらに、それは製造業者がそれらに適用することを許可されているマーキングを示す。 |
4 | 試験方法と要件 | |
4.1 | 一般 | |
4.1.1 | 温度 | 特に指定のない限り、水中または空気中での試験は(23±5)°Cの温度で行われる。 |
4.1.2 | 目視チェック | 拡大器具を使用せず、目視により検査する。 |
4.1.3 | 試験済みの製品構成 | 特に指定のない限り、試験は時計のヘッドでのみ実施される。技術的な理由、またはブレスレットを時計のヘッドから取り外せない場合、試験は時計全体で行われる。 |
4.1.4 | 実用上の意味 | 説明されているすべての操作は、時計が損傷を受けず、次の場所でダイビングした後も動作する状態をシミュレートすることを目的としている。 a)L m of water for 1 h per dive( △p = L/10 bar※), followed by ※1 bar = 105 Pa = 105 N/㎡ b) 3 m of water for 1 h per dive( △p = 0,3 bar) 注 1: Lは、メーカーが保証する潜水深度(m)。注2: 特に指定のない限り、すべての機能部品は気圧で操作される。注3: 特に指定のない限り、すべてのモバイルシステムは静止位置にあるものとする。 |
4.1.5 | 潜水時間インジケーター | 時計には、潜水時間インジケーター(回転ベゼル、デジタル表示装置など)を装備する必要がある。それらの装置は、不用意な操作から保護されなければならない。このデバイスは、少なくとも60分間にわたり1分、もしくはそれ以上に細かい単位で潜水時間を読み取ることができなければならない。アナログディスプレイ(指針式など)の場合、5分毎の目盛りを明確に表示する必要がある。 |
4.2 | 視認性 | |
4.2.1 | 明るい場所において | 潜水時間インジケーターは、50lx以上の照明で判読できるものでなければならない。 |
4.2.2 | 暗所において | 光への暴露は、ISO 17514:2004の第4項に従って行うものとする。暴露後180分以上、以下のアイテムの視認性と判読性を、暗所においても25cmの距離でチェックできる必要がある。 ‒‒時刻表示(分インジケーターは時間インジケーターと明確に区別できなければならない) ‒‒潜水時間は、誤差±2.5分以下で判読可能でなければならない ‒‒アナログディスプレイの場合、マーキングは5分ごとを示す ‒‒時計が動いていることを表す装置 ‒‒電池駆動の腕時計においては、電池寿命の表示 |
4.3 | 耐磁性 | 時計はISO 764:2002に従って試験され、その要件を満たすものとする。 |
4.4 | Temperature cycling 温度サイクル | 付属文書Bに記載されているように、オプションの予備試験を時計に実施することができる。 4.10に記載されている凝縮試験は、この試験の前に実施して、結果がこの現在の試験に関連していることを確認するものとする。防水性を保証されたすべてのデバイス をロックする必要がある(ねじ込み式リュウズやプッシャーなど)。試験中の時計は、以下の温度サイクルにかけられるものとする。 ‒‒時計を(-20±3)°Cの温度で(60±3)分間空気中に置く ‒‒時計を室温で(30±3)分間放置する ‒‒時計を(60±3)°Cの温度で(60±3)分間空気中に置く ‒‒5分以内に(2±2)°Cの水に(60±3)分間時計を沈める その後、時計を水から取り出して拭く。4.10の説明に従って凝縮試験を実行する。時計は、試験後も正常に機能するものとする。 |
4.5 | 塩水噴霧試験(ブレスレット付き) | 防水性を保証されたすべての装置はロックされなければならない(ねじ込み式リュウズとプッシャーなど)。ブレスレットを備えた時計は、ISO 9227:2017、5.2.2に従って、NSSソリューションを使用し、ISO 9227:2017、8.2、第9条、第10条、および11.4に記載されている条件下で、48時間テストされるものとする。時計とそのブレスレットを検査するものとする。それらは重大な変化を示さず、可動部分は正常に機能し続けるものとする。 |
4.6 | 耐衝撃性(時計ヘッド) | 時計はISO 1413:2016、5.2に従って試験され、その要件を満たすものとする。すべての試験サンプルは、すべての試験に合格するものとする。 |
4.7 | 防水性 | |
4.7.1 | 浅瀬での機能装置試験 | 4.10に記載されている凝縮試験は、この試験の前に実施して、結果がこの現在の試験に関連していることを確認するものとする。固定されているかどうかにかかわらず、防水性に関連するすべての機械装置を試験する必要がある。時計の付属書類(取扱説明書等)で正式に水中での使用が制限されている装置(ねじ込み式リュウズやプッシャーなど)は、試験の対象外となりうる。この場合、これらの装置は、元の位置(操作しない状態)にあるか、保護された状態にあるため、現在の試験には提出されない。 試験中の時計は、以下の手順に従わなければならない: ‒‒(30±2)cmの深さで水に浸す ‒‒すべてのメカニズムを水中で操作する。それらは正しく機能するものとする ‒‒(24±1)時間、浸し続ける ‒‒すべてのメカニズムを水中で操作する。それらは正しく機能するものとする ‒‒(24±1)時間、浸し続ける その後、時計を水から取り出して拭く。4.10の説明に従って凝縮試験を実行する。時計は、試験後も正常に機能するものとする。 |
4.7.2 | リュウズやその他の設定装置にひずみが加わった際の抵抗試験 | 防水性を保証されたすべてのデバイスをロックする必要がある(ねじ込み式リュウズやプッシャーなど)。試験中の時計は、以下の手順に従わなければならない: ‒‒リュウズとプッシュピース軸に垂直な5Nの力を加えながら、最小△p=(L+0.25L)/10barの過圧で時計を10分間水に浸す。 その後、時計を水から取り出して拭く。4.10の説明に従って凝縮試験を実行する。時計は、試験後も正常に機能するものとする。 |
4.7.3 | 水中加圧での機能装置試験 | 防水性のために固定されたすべてのデバイスをロックする必要がある(ねじ込み式リュウズやプッシャーなど)。 試験中の時計は、以下の手順に従わなければならない: ‒‒時計を水に浸し、△p=10bar以上の加圧を10分以内かける ‒‒防水性に関連する以下の機能装置は、5回操作する必要がある ‒‒メーカーがダイビング中に水中で使用すると指定したすべてのデバイス ‒‒不注意による操作から保護されていないすべてのデバイス ‒‒30分間加圧を維持する ‒‒10分以内に加圧を0.3barに下げ、30分の間それを維持する その後、時計を水から取り出して拭く。4.10の説明に従って凝縮試験を実行する。時計は、試験後も正常に機能するものとする。防水性に関連する機能デバイスは、クロノグラフまたは他の機能のためのねじのない押しボタンである可能性がある。 |
4.7.4 | 水中加圧の強度試験 | 試験中の時計は、以下の手順に従わなければならない: ‒‒時計を水に浸す ‒‒10分以内に△p=(L+ 0.25L)/ 10 barの加圧を適用し、120分間維持する。 ‒‒10分以内に加圧を0.3barに下げ、60分間維持する。 その後、時計を水から取り出して拭く。4.10の説明に従って凝縮試験を実行する。時計は、試験中および試験後に正常に機能するものとする。 注:100%テストの場合、試験中に時計が正常に機能することを確認する必要はないが、試験後にのみ確認することとする。 |
耐衝撃性(自由落下) | 時計はISO 1413:2016、5.3に従って試験され、その要件を満たすものとする。 | |
4.9 | ケース本体のアタッチメントの耐久 | 性試験中の時計のブレスレットは閉じていなければならない。時計には200Nの外力がかかる。時計の試験時に、時計に付いているものを外したり、動かしたりしてはならない。 |
4.10 | 凝縮試験 | 時計は、ISO 22810:2010、4.2の要件に従って凝縮試験に耐えなければならない。 |
5 | マーキング | 現在の規格の要件を満たす時計のみ、言語に応じて、以下に示す表現のいずれかを付けることができる。 ̶ in Chinese 中国語: 潜水表 L m ̶ in English: 英語:diver’s watch L m ̶ in French: フランス語:montre de plongée L m ̶ in German: ドイツ語:Taucheruhr L m ̶ in Japanese: 日本語:潜水時計 L m ̶ in Russian: ロシア語: часы для дайвинга L m 略語「diver’ sLm」は英語で使用される場合がある。文字Lは、メーカーが保証する潜水深度をメートル単位で示している。他の言語での同等の表記は許容される。 注:時計にマークが付いている場合、この文書のバージョン(ISO 6425:2018)への参照は、時計の付属文書(ユーザーマニュアルなど)に示されているものとする。 |
6 | 使用法とメンテナンスの推奨事項 | 使用法とメンテナンスの推奨事項は、付属文書Dに記載されている。 |
Edition 4:Annex
[ ISO 6425:2018 ] Annex A Diver’s watches for saturation diving
A.1 | 一般 | 飽和潜水では、時計は混合ガスの圧力にさらされ、その機能が妨げられる可能性がある。したがって、時計をこの付属文書に示されている追加の試験にかけることを推奨する。 注:以下、「飽和潜水用ダイバーズウォッチ」を単に「時計」と呼ぶ。 |
A.2 | ヘリウムガス過圧での動作要件と試験(タイプ試験) | この試験の前に、4.1.6.1の試験実行する。 時計は、ヘリウムガスの過圧、すなわち(L+0.25L)/10barまたは40barのいずれか小さい方に15日間さらされるものとする。その後、10分以内に大気圧への急激な減圧を行う。この試験の後、4.7.4に従って試験を実施する。 電池駆動の時計は、試験中および試験後に正常に機能するものとする。機械式時計は、試験後も正常に機能するものとする(パワーリザーブは通常15日未満)。 |
A.3 | マーキング | 現在の規格とこの付属文書Aの要件を満たす時計のみ、言語に応じて、以下に示す表現のひとつを付けることができる。 ̶ in Chinese: 中国語:饱和潜水潜水表 L m ̶ in English: 英語:diver’s watch L m for saturation diving ̶ in French: フランス語:ontre de plongée en saturation L m ̶ in German: ドイツ語:Uhren für Sättigungstauchen L m ̶ in Japanese: 日本語:飽和潜水時計 L m ̶ in Russian: ロシア語:часы для дайвинга с газовыми смесями L m 文字Lは、メーカーが保証する潜水深度をm単位で示している。他の言語での同等の表記は許容される。 注:時計にマークが付いている場合、この文書のバージョン(ISO 6425:2018)への参照は、時計の付属文書(ユーザーマニュアルなど)に示されているものとする。 |
Edition 4:Annex
[ ISO 6425:2018 ] Annex B Air-resistance at an air overpressure
B.1 | 要件と試験 | 時計の完全性を損なうことなく、気密性の欠陥を検出するため、予備試験をすることができる。このオプションの予備試験は、4.7で説明した浸漬による防水性試験に代わるものではない。 注:ダイバーズウォッチは厚い風防を装着している。最も使用されている試験装置は、風防の変形を測定し、空気の流量は測定しない。0.5barは、一部の種類の時計で風防の動きを誘発するのに十分な高さではない。この場合、装置は誤った情報を提供する。この試験は、空気(またはガス)の流量を測定する機器でのみ有効である。 |
B.1.1 | テスト例 | 時計を空気の加圧にさらし、ケースに浸透する空気の流量を2barと0.5barで連続して測定する。 空気の流量が50μg/minを超える時計では、4.4、4.5、および4.7で定義されている試験を実行しないことを推奨する。 注:空気は不活性ガスに置き換えることができる。 |
Edition 4:Annex
[ ISO 6425:2018 ] Annex D Usage and maintenance recommendations
ダイバーズウォッチの特定の環境に応じて、またその機能を確保するために、少なくとも次の項目をユーザーマニュアルに追加することをお勧めする。 a)機能と使用上の注意 b)潜水深度の保証 c)メンテナンス 推奨されるメンテナンスの例:潜水時間インジケーターの誤作動の原因となる可能性のある残留物を取り除くために、使用後に時計をすすぐ。 |
※[ISO 6425:1996]及び[ISO 6425:2018]は、それぞれ編集部が独自に抜粋、訳出したものです。
※実際の[ISO 6425:2018]には、Annex C(付属文書C)として、推奨されるダイビングテーブルの記載がありますが、時計の構造とは直接関係ないので割愛しています。
[ISO 6425:1996→2018]主な変更点
ダイバーズウォッチの国際規格であるISO 6425は、1982年の制定以来、何度か改訂を受けてきた。その最新版が2018年の第4版。大きな変更はないが、より実際の使用を意識したものとなった。1996年の第3版との主な違いは、夜光塗料の塗布位置、耐衝撃性、そして耐食性だ。
2018年の第4版では、今まで明文化されていなかったインデックスの数が記された。4.1.5「潜水インジケーター」の項目には「5分毎の目盛り(インデックス)を明確に表示する必要がある」と記されたほか、そのすべてに夜光塗料を入れなければならない(4.2.2「暗所において」)。
特集の冒頭を飾るのが、ダイバーズウォッチの公的な規格であるISO 6425が、2018年に改訂されたというニュースだ。最低100mの潜水に耐え、時間を管理するシステム(逆回転防止ベゼル等)が備わる、加圧ではその125%に耐える防水性能を有する、4800A/mの耐磁性能を持つ、暗所25cmの距離から目視で判読できる、といった項目は今までに同じ。
しかし、文字盤からインデックスを省略できなくなったほか、塩水噴霧試験の時間が24時間から48時間に増え、今までは時計部分だけで行っていた耐衝撃テストを、ブレスレットを含めたコンプリートで行わなければならなくなった。その結果として、一部のダイバーズウォッチは3時位置にあった日付表示の位置が変わり、またケースの素材も304から耐食性の高い316に置き換えざるを得なかった。ブレスレットにも衝撃が加わるため、新しいISOに準拠したダイバーズウォッチは、ブレスレットも頑強になった。
ISO 6425:2018では、耐衝撃テストがより厳格になった。基準自体は2016年のISO1413に同じ。3kgのプラスティックハンマーを時計に2回当て、30秒以内の精度に戻ること、というものだ。以前は時計部分だけで行っていたが、新規格ではブレスレットを含めるようになった。
ISO 6425の見直しは、スイスの提案により、13年に始まったとシチズンは説明する。参加したのは、スイス、ドイツ、日本、中国の4カ国。ある関係者によると、ドイツと日本は改訂を無意味と考えていたが、技術の進歩を盛り込みたかったスイスのイニシアチブで改訂は進んだようだ。とはいえ、スイスの時計メーカーが、必ずしもISO 6425の基準を守ってこなかった(非公表のメーカーも多い)ことを考えれば、今後新しいISO 6425に従うかは疑わしい。ただし、ダイバーズウォッチを水中で使わざるを得ない少数の専門家にとって、この基準は相変わらず重要であり続けるだろう。
ISO 6425:1982から存在していたのが耐蝕性の項目である。ISO 6425 :2018ではテストがISO 9227に準拠したものになった。塩濃度が3%から5%に上がったほか、塩水噴霧試験の時間が倍の48時間に延びた。また、ブレスレットを含めてテストされるのも以前との大きな違いだ。
ダイバーズウォッチが備えるべき〝潜水時計〟としてのスペック
「あのダイバーズウォッチはISOに準拠していないから、本物ではない」という話をしばしば耳にする。確かにダイバーズウォッチが信頼できる道具とみなされた一因には、ISOやDINなどの公的な裏付けがあった。しかし、あえてISOやDINのダイバーズウォッチ規格をクリアしないモデルが増えた今、規格に従ったかどうかだけで、それを定義付けるのは極めて難しくなったのである。
ダイバーズウォッチには公的な基準がある。日本のJIS B 7023、ドイツのDIN 8306、中国のGB/T 18828、そして国際基準のISO 6425などだ。とはいえ、現在市場にあるダイバーズウォッチのすべてが、これらの基準を満たしているとは限らない。そもそも規格を取得できないメーカーもあれば、コストの関係であえて採用しないユリス・ナルダンのような例もある。また、基準をクリアしているかを明示しない、オメガやロレックスといったメーカーも存在する。だからといって、オメガの「シーマスター ダイバー 300M」やロレックスの「サブマリーナー」がISO 6425をクリアできないはずがない。と考えれば、何らかの規格に準拠しているか否かだけで、ダイバーズウォッチを定義するのは無意味だろう。
ブルーダイアルにあしらわれたウェーブパターンが、海を想起させる1本。300mの防水性能を備えていながら、裏蓋はトランスパレント仕様である。自動巻き(Cal.8800)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径42mm、厚さ13.56mm)。300m防水。
とはいえ、水中という過酷な環境で使われるダイバーズウォッチには、ある程度以上のスペックが求められる。ISO6425:2018の適応範囲にはこうある。「水深100mの潜水に耐えられるよう設計され(防水性)、暗闇で見え(暗所視認性)、潜水時間を示す安全な測定システムを備えた(逆回転防止ベゼル等)」時計であること。これは最低限の条件と言ってよさそうだ。加えて『クロノス日本版』では、修理できる構造を持っていることも加えたい。仮にどれだけハイスペックなダイバーズウォッチであっても、数年後に整備できなくなるようなものは、過酷な環境はもちろん、水中での軽い使用にも耐えられないからだ。さらに言うと、潜水時計として使えるダイバーズウォッチは、大量生産品であるべきだろう。完全な互換性を持てない工芸品に、命を預けるべきでない。
[ISO 6425:2018]
新基準を満たす国産ダイバーズウォッチ
大々的に取り上げられることもなく、ひっそりと改訂されたISO 6425。徐々に時計メーカーもこの新基準に準拠したモデルを投入し始めた。ここではいち早くこの2018年基準に適応したセイコーとシチズンの代表的なモデルを紹介する。
雫石高級時計工房製のダイバーズウォッチ専用ムーブメントを搭載する飽和潜水対応機。プロフェッショナル機だが、外装にザラツ研磨が施され、高級機らしい装いをまとう。自動巻き(Cal.8L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径44.3mm、厚さ15.4mm)。300m防水。世界限定3000本。
2018年にスイス主導によって改訂されたISO 6425。しかし、いち早く新基準に対応したのは日本の2ブランドだった。
新基準への対応を大々的には公表していないが、対応モデルを着実に増やしつつあるのがセイコーだ。2021年の新作である「マリーンマスター プロフェッショナル SBDX043」と「1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン SBDC133」も、この基準に準拠したダイバーズウォッチだ。前者は飽和潜水にも対応する完全なプロフェッショナル仕様だが、ケースにザラツ研磨が施されるなど、高級機らしい外装も兼ね備えている。また、搭載されるキャリバー8L35は雫石高級時計工房によるセイコーのダイバーズウォッチ専用ムーブメントだ。後者は空気潜水対応の200m防水で、1968年に発表されたモデルのデザインをベースとしながら、そこに現代的なアレンジを加えている。
1968年に発表したプロフェッショナルダイバーズをデザインベースとし、そこに現代的な解釈を加えたシリーズの限定モデル。ムーブメントは実用的な約70時間のパワーリザーブを持つ。ISO 6425新規格に適応。自動巻き(Cal.6R35)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径42mm、厚さ12.5mm)。200m防水。世界限定6000本。
セイコーのこれらダイバーズウォッチで特徴的なのは、文字盤と一体成形されたエンボスのインデックスだ。アプライドインデックスの方が文字盤に立体感を与えやすいが、衝撃でインデックスそのものが外れる可能性を排除しきれない。単にISO 6425の基準を満たすだけならばアプライドでも全く問題はないはずだが、より確実な方法を取った点はセイコーらしい。また、ISOよりも自社で設定する基準の方がより厳しい項目というのは他にも存在するようで、例えば蓄光塗料の視認性と判読性のテストは、ISOならば暴露後180分が経過した状態で行う。しかしセイコーでは300分、一部のプロ向けモデルであれば480分の経過後にテストを設定している。
セイコーとは対照的に、新基準への適応を大きくうたっているのがシチズンだ。同社では2018年の改訂版発行とほぼ同時期より、対応するための社内試験を始めており、現行ダイバーズは全て準拠していることを公表している。
1000mの防水性能を持ち、飽和潜水にも対応するハイスペック機。逆回転防止ベゼルのロック機構や、衝撃や振動による針ずれを防止する「衝撃検知機能」を備える。ヘッドは大きいが、Tiケースのため重量は180gに留まる。光発電エコ・ドライブ(Cal.J210)。スーパーチタニウムケース(直径52.5mm、厚さ22.2mm)。1000m防水。
そんなシチズンのダイバーズウォッチで最もハイスペックなのが「プロマスター マリン エコ・ドライブ プロフェッショナル ダイバー 1000m」だ。飽和潜水に対応する1000mダイバーというだけでも十分すぎるが、特筆すべきは衝撃による針ずれを防ぐための検知機能を搭載していること。これは実際に時計が衝撃を受けた瞬間に、モーターに信号を流し、針をロックする機構だ。衝撃を検知してから再度針が動き出すまでの時間はわずか約1000分の1秒のため、装着者には針が止まったことに気付くこともない。ISO 6425には「時計が動いていることを示す装置が暗所でも25㎝の距離からはっきりと視認できなくてはならない」という記述があるが、ロック時間が1000分の1秒であればこの条項も問題なくクリアできる。
「プロマスター マリン メカニカル ダイバー 200m」は自動巻きムーブメントを採用した21年の新作だ。ISO 6425ではダイバーズウォッチはISO 764が規定する耐磁時計の条件、すなわち4800A/mの耐磁性能があれば良いとしているが、同作ではJISが定める第2種耐磁時計と同様の1万6000A/mを有している。こちらも前述のセイコー同様、ISO 6425を自社で設定した基準が上回った好例だ。デュラテクトによって表面硬化がなされたスーパーチタニウムケースのため、気兼ねなく実用できる。
表面硬化技術のデュラテクトが施されたスーパーチタニウムをケースに採用。ベゼルにもデュラテクトゴールドやDLCが掛けられているため、ハードな環境でも気兼ねなく装着できる。搭載されるCal.9051はJISが定める第2種耐磁性能を有する。自動巻き(Cal.9051)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。スーパーチタニウムケース(直径46mm、厚さ15.3mm)。200m防水。
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