ダイバーズウォッチは1950年代にプロツールとして開発された。しかし、1980年代にダイブコンピューターが登場したことで、ツールとしてのダイバーズウォッチのポジションが問われることになる。一方で現在ダイバーズウォッチは、普通の人々と、本当のプロフェッショナルからのニーズを獲得している。本記事ではダイバーズウォッチの歴史を振り返るとともに、現在、そして未来のダイバーズウォッチのあり方について考察する。
Photographs by Masanori Yoshie, Yu Mitamura
広田雅将(本誌)、細田雄人(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan), Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2021年9月号掲載記事]
https://www.webchronos.net/features/112126/
https://www.webchronos.net/features/111563/
5つの転換点に見るダイバーズウォッチの歴史
1953年にブランパンが「フィフティ ファゾムス」を完成させて以降、さまざまなメーカーがダイバーズウォッチの開発に取り組んだ。ここでは5つの転換点と、その時代の主だったモデルからダイバーズウォッチの長い熟成の歴史を振り返ってみたい。
[1953年]
プロツールとして開発された黎明期
1953年にリリースされた近代的ダイバーズウォッチの祖。気密性の高いダブルシールのリュウズや、大きな夜光表示、高い耐磁性、そしてロック付きの回転ベゼルといった使える要素が盛り込まれた。優れた性能が評価された本作は、フランス、アメリカ、スペイン、ドイツ、デンマーク軍などに採用された。自動巻き。17石。1万8000振動/時。SSケース(直径42mm)。100m防水。参考商品。
ダイバーズウォッチというジャンルが注目されるようになったのは、第2次世界大戦中のことだ。各国の海軍は機雷の敷設・除去や艦艇の修理などに、ダイバーを使う必要に迫られた。それ以前に、ダイバーズウォッチの重要性を真剣に考えていたのは、おそらくイタリア海軍だけだったのではないか。地中海を強大な英国海軍に押さえられていたイタリア海軍にとって、自在に活動できる範囲は、水中に限られていた。潜水時計の「パネライ」が、いち早くイタリア海軍に採用された理由である。
しかし、第2次世界大戦中、潜水時計を量産できたのはアメリカだけだった。高い水圧を受けても割れにくいプラスティック製の風防は潜水時計には欠かせなかったが、大量生産できたのは、群を抜いた工業力を持つ、同国に限られたのである。ちなみに第2次世界大戦中のアメリカ製戦闘機は、乗員を保護するため、こぞって防弾ガラスを採用した。ここで使われるプラスティックが、潜水時計用の風防にも使われたのである。
この時代の潜水時計には構造上の限界があった。防水性能を確保するためには、リュウズ回りの気密性を高める必要がある。しかし、ロレックスを除いて信頼できる自動巻きムーブメントが存在しなかった1940年代当時、リュウズ回りの防水性は担保しにくかった。
状況が変わったのは、50年代に入ってからだ。40年代に広まったゴム製のOリングが普及するようになったほか、安価で信頼できる自動巻きムーブメントを容易に手に入れられるようになったのである。その結果、手巻き時計では問題となったリュウズ回りの気密性を、ようやく高めることが可能になったのだ。つまりダイバーズウォッチとは、自動巻きムーブメントが産み落としたジャンル、と言えるだろう。
その先駆けが、53年のブランパン「フィフティ ファゾムス」である。これは安価な自動巻きエボーシュを、極めて気密性の高い防水ケースに収めたダイバーズウォッチだった。相対的に手ごろな価格で買えるうえ、ダイバーズウォッチに必要な機能を過不足なく盛り込んだフィフティファゾムスは、後のダイバーズウォッチに決定的な影響を与えることになる。
[1950年代後半]
防水ケースの登場と普及
以降各社は、ダイバーズウォッチの性能向上に取り組んだ。リュウズ回りの防水性を高めた例として、オメガが「シーマスター300」で採用した「ナイアス高耐圧リュウズ」が挙げられる。高い水圧がかかるとリュウズが押されて、内蔵されたパッキンをつぶし、防水性を確保する。この基本的な考えは、以降の防水リュウズに影響を与えた。また、パッキンをつぶして防水性を高めるというアイデアは、60年代のエルヴィン・ピケレ製の防水ケース「コンプレッサー」で完成を見た。
各社がさまざまな手法で防水性を高めざるを得なかった一因に、防水ケースに関わる主だった特許がロレックスに押さえられていたことがある。ねじ込み式のオイスターケースだけでなく、リュウズをぶつけてもショックを伝えない分割式の巻き真などは、ことごとくロレックスが特許を持っていた。また、仮に特許を回避したとしても、リュウズのチューブにネジを切るのは技術的にはかなり困難だった。切るだけならどこでもできるが、気密性を持たせられなかったのである。こういった理由により、各社はロレックスとは違うアプローチで、ダイバーズウォッチの改善に取り組まざるをえなかったのである。
もっとも、50年代後半に入ると、スイスの時計メーカーは以前と比べて良質な防水パッキンを容易に手に入れられるようになった。高い水圧を受けてつぶれても、気密性を保持できる新しいパッキン。これが各社のダイバーズウォッチ開発競争に拍車をかけることとなったのである。
[1960年代前半]
サーフィンブームが牽引した防水時計のコモディティ化
セイコーが1965年に販売した、事実上国産初のダイバーズウォッチ。ただしベゼルは両方向回転で、リュウズもねじ込み式ではなかった。以降セイコーはダイバーズウォッチの開発を加速させ、75年には近代型ダイバーの祖である「600mダイバー」を完成させる。自動巻き(Cal.6217)。17石。1万8000振動/時。SSケース。150m防水。参考商品。
加えて、市場の変化がダイバーズウォッチの普及を促した。50年代後半にカリフォルニアで起こったサーフィンブームは、60年代に入ると全米に広がるようになった。人気を決定づけたのは59年に公開された映画「ギジェット」と、サーフィン映画の最高峰と言われる66年の「エンドレス・サマー」のふたつだった。とりわけ後者は、ザ・サンダルズの軽快なテーマソング(翌67年にはザ・ベンチャーズがカバー)もあいまって、全世界で2000万ドル以上の興行収入を記録。わずか5万ドルの予算で作られたサーフィンのドキュメンタリー映画は、アメリカのみならず、世界にマリンスポーツを定着させたのである。
スイスの時計メーカーにとって、当時最大の市場だったアメリカ。そこで巻き起こったマリンスポーツのブームは、ダイバーズウォッチに関心を持たなかったメーカーにも、このジャンルに取り組ませることとなった。幸いにも、エルヴィン・ピケレは気密性の高いコンプレッサーケースの量産体制を整えていたし、仮にこの安価で精巧なケースを持たずとも、新しい防水パッキンは、ダイバーズウォッチに高い気密性を与えることができるようになっていた。50年代から60年代にかけて、ブライトリングやセイコーといったメーカーが、ダイバーズウォッチという新ジャンルに参入できた理由だ。
[1967年]
飽和潜水への対応
1967年初出。フランスの潜水会社であるコメックスの協力で完成した、おそらくは世界初の飽和潜水対応ダイバーズウォッチ。ヘリウムエスケープバルブを持つほか、610mもの高い防水性能を誇った。自動巻き(Cal.1570)。26石。1万9800振動/時。SSケース(直径40mm)。参考商品。
その一方で、プロフェッショナル向けのダイバーズウォッチには、今まで以上の性能が求められるようになった。そもそも50年代以降、ダイバーズウォッチの進化を促した大きな理由は、各国が推し進めた深海調査である。これらの多くは学術的なものだったが、60年代以降に海底油田掘削が大規模化すると、高性能なダイバーズウォッチに対する需要は急増した。もっとも、この時代に海洋開発の大水深化は急激に進み、今までの潜水技術では対応できない深度にまで及ぶようになった。
そこで普及したのが飽和潜水である。これは長時間の連続作業が可能なうえ、減圧病(潜水病)にもかかりにくい潜水法。予定される深度の圧力を体にかけ、作業が終わったら、時間をかけて圧力を抜いていくというものだ。高い水圧下では、窒素などの気体が多く血中に取り込まれてしまう。そこで、あらかじめ高圧の酸素と不活性ガスを混合したガスを飽和するまで取り込んでおくと、水中での安全性が高まる。ただし、気体が多く取り込まれた状態で浮上すると、血管内に気体が気泡となって表れてしまう。これが減圧病の原理だ。減圧病を避けるには、加圧以上に時間をかけて減圧するほかなく、そのためにはダイビングベルやチャンバーといった大掛かりな設備が必要になる。ともあれ、飽和潜水によって海洋開発は劇的に進化を遂げたが、それは一方で、ダイバーズウォッチに問題を引き起こした。
2017年発表の飽和潜水ダイバーズウォッチ。1220mもの高い防水性能に加えて、約70時間もの長いパワーリザーブを持つ。ベゼルリングはセラミックス製となった。もちろんヘリウムエスケープバルブ付き。自動巻き(Cal.3235)。31石。2万8800振動/時。SSケース(直径43mm)。参考商品。
深海に潜ると、ダイバーズウォッチの中にも気体(ヘリウムなど)が多く取り込まれてしまう。浮上の際は、気体をきちんと抜かないと、ダイバーズウォッチは圧力差で壊れてしまうだろう。もちろんリュウズを引き出せば気体は抜ける。しかし、内圧との差が極端に大きいと、これもまた時計を壊す原因となってしまう。ロレックスが開発したヘリウムエスケープバルブとは、リュウズを抜かずとも、ヘリウムなどの気体を抜くメカニズムだった。ちなみに、今でこそ10万円台のダイバーズウォッチにも、ヘリウムエスケープバルブが付くようになった。しかし、今ほどの加工精度がない60年代当時、ケースに穴を開け、そこに精密なバルブを合わせられるのはロレックス以外にできなかったのである。
[1975年]
「外胴ダイバーズ」がISO 6425制定に与えた影響
国産初の飽和潜水対応モデルが通称「外胴ダイバーズ」だ。ケースの気密性を高めることで、ヘリウムエスケープバルブを省いたほか、外装にはチタンとセラミックコーティングされたチタンを、夜光塗料にはトリチウムの10倍の輝度を持つ白色自発光塗料(NBW)を採用する。ダイバーズウォッチの歴史を変えた傑作。自動巻き(Cal.6159)。25石。3万6000振動/時。600m防水。参考商品。
そのロレックスとは、全く違うアプローチで挑んだのがセイコーである。75年の「メカニカルダイバー プロフェッショナル 600m」は、ケースの気密性を極端に高めることで、ヘリウムの侵入を防ぐという新しいアプローチで生まれたものだった。そもそもヘリウムが侵入しないなら、バルブで抜く必要がない。それを可能にしたのが、高圧下でも高い気密性をもたらすL字型のパッキンだった。
ちなみに72年に労働省は、潜水時を含む高圧下での作業環境を定めた「高気圧作業安全衛生規則」を制定し「水中時計」(つまりダイバーズウォッチ)の携行を義務化した。また、アメリカの沿岸警備隊も「潜水作業安全基準」(78年)で、同様にダイバーズウォッチを持つことを義務付けた。このような変化を見たセイコーが、ダイバーズウォッチ規格そのものの明文化を求めたのは当然だろう。そこで成立したのが、ISO 6425という新しい規格(81年)だった。
この時点でダイバーズウォッチはひと通りの完成を見たと言ってよいだろう。
ダイバーズウォッチ、多様化のきっかけ
1970年代後半にひと通りの完成を見たダイバーズウォッチという新ジャンル。その在り方が大きく多様化するのは、続く80年代のことだった。日本で起こった爆発的なサーフィンブームは各社に新しいダイバーズウォッチの開発を促す一因となり、その一方で一部のモデルは一層スペックを向上させた。
アメリカで起こったサーフィンブームは、少なくとも1960年代後半には沈静化した、と言われている。代わりに台頭したのが、新しい経済大国となった日本である。68年の時点で約1万人しかいなかった日本のサーフィン人口は、77年以降に『POPEYE』などのメディアがこぞって取り上げることで、84年には310万人(ただしヨットやスキンダイビングを含む)にまで増加した(小長谷悠紀『日本におけるサーフィンの受容過程』立教大学観光学部紀要第七号、2005より)。ちなみにこの数字は、アメリカにおける現在の推定サーフィン人口よりも多い。
80年代初頭から、スイスや日本の時計メーカーが、クォーツを載せたスタイリッシュなダイバーズウォッチを作るようになったのは、こういった日本の動向とは決して無縁でなかった、と言える。当時の日本は、スイスの時計産業にとって最大の顧客のひとつだったのである。
ここで80年代初頭に生まれた、主だったダイバーズウォッチを挙げてみたい。オメガ「シーマスター120m」(81年)、ホイヤー「プロフェッショナルダイバー」(81年)、オメガ「シーマスターポラリス」(82年)、ブライトリング「タバリー」(82年)など。とりわけ、当時の輸入代理店であったワールド通商のイニシアチブで生まれたタグ・ホイヤーの「フォーミュラ1」(86年)は、マリンスポーツに熱中する若い世代を意識した、ダイバーズウォッチ〝風〞の時計だった。当時のスイス製時計では考えられないプラスティック製のベゼルや鮮やかなカラー、そして戦略的な価格は、来たるべきダイバーズウォッチの「民主化」を先取りしたもの、と言えるだろう。
若々しくエネルギッシュなオレンジダイアルが目を引く、2021年の新作。セラミックスを埋め込んだ回転式のベゼルにはノッチが施され、レーシンググローブを着用した状態でも操作性に優れる。クォーツ。SSケース(直径43mm)。200m防水。17万500円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7054
その一方で、ダイバーズウォッチの機能追求も進んだ。1982年に発表されたIWC「オーシャン2000」は量産品としては初めて2000m防水を実現した時計である。これはセイコーの「600mダイバー」に同じく、ケースの気密性を極端に高めることで、ヘリウムエスケープバルブを省いたもの。にもかかわらず、強固なメタルガスケットを採用することで、このプロフェッショナル向けダイバーズウォッチは42mmという常識的なケースサイズに留まった。
普段使いのダイバーズウォッチと、極端に高性能なダイバーズウォッチ。80年代に明確になったこの流れは、90年代にダイブコンピューターが普及して以降、一層加速することになる。
ドイツ連邦海軍向けに作られたダイバーズウォッチ。その民生版が本作である。ケースがTi製なのは、磁気機雷を除去するダイバーの使用を考慮したため。磁気帯びしないTiはうってつけの素材だった。自動巻き(Cal.375/ETA2892ベース)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。直径42mm。2000m防水。参考商品。
ダイブコンピューター登場後のダイバーズの在り方とは?
かつてプロフェッショナル向けの潜水ツールとして君臨したダイバーズウォッチは、1980年代のダイブコンピューター誕生と共に、その座を明け渡すこととなった。果たしてダイバーズウォッチは潜水に使われなくなってしまったのか? 現在の立ち位置を考察する。
1950年代以降、ダイバーが潜水する際には不可欠なツールとなっていたダイバーズウォッチ。しかし、80年代にダイブコンピューターが登場すると、その立ち位置は取って代わられることとなる。それもそのはず、潜水時間の経過しか計れない従来のダイバーズウォッチと異なり、ダイブコンピューターでは時間のほかに深度、無減圧潜水可能時間といった要素までも計測できるのだ。以来、職業ダイバー、スポーツダイバーを問わず〝潜水時にはダイコン〞というのがスキューバダイビングの常識だ。
では、従来のダイバーズウォッチがスキューバダイビングで全く利用されないのかというと、必ずしもそうではない。世界最大のダイビング教育機関、PADIの日本法人でインストラクター開発に携わる小林秀一氏はこう語る。
「あくまでメインはダイブコンピューターですが、潜水中の水没や起動ストップなどが発生した際のバックアップとして、アナログのダイバーズウォッチを使用している方はいます。いざという時は同じく予備で持ってきたダイブテーブルや深度計と組み合わせ、潜水を行います」
同じ理由での故障を避けるため、バックアップには別系統のものを充てるのが好ましい。電子機器的な側面が強いダイブコンピューターに対して、より機械的キャラクターの濃いダイバーズウォッチをそのスペアとして同行させるのは理にかなっているのだ。また、水圧と衝撃への耐性を備えるべく堅牢に設計されたケースを持つダイバーズウォッチは、それ自体がバックアップとして優秀である。
またもう一点、小林氏はダイバーズウォッチの利点を次のように挙げている。
「一定以上の深度まで潜った際に発生する窒素酔い(ガス昏睡)は、アルコールを摂取した時のように、人間の判断力を低下させます。そのような状況下では画面にいろいろな情報が表示されているダイブコンピューターよりも、シンプルなダイバーズウォッチの方が時間の読み取りはしやすいでしょう。また、デジタルでは6と8など、特定の数字を見間違えることがありますが、指針式であればそのようなことも生じづらいはずです」
バックアップと高い判読性、ふたつの話を聞いて興味深いのは、より過酷な環境に置かれれば置かれるほど、ダイバーズウォッチにも存在意義が与えられるということだ。バックアップであれば故障のリスクが高くなればなるほど、その重要性は増す。窒素酔いが発生する30m前後まで潜るならば、判続性がより高いダイバーズウォッチの利点が際立つ。つまり、ダイビングライセンスの中でも上位の資格を持ったダイバーから歓迎される。飽和潜水の領域までいくと、より厳しい環境となり、牽牛なダイビングウォッチへの信頼感はさらに高まる。その性質を考えれば、ダイバーズウォッチに求められる高い防水性能や堅牢性といった過剰とも思えるハイスペックは、決してロマンだけのものではないと言えよう。
ダイブコンピューターの登場によって、ダイバーズウォッチはダイビングツールの主流ではなくなった。しかし、バックアップ用途としてはいまだに優れていることは間違いない。そして深度に関係なく、潜水はリスクと隣り合わせだ。ならば少しでもその芽を摘むためにダイビングの際には、ダイブコンピューターと共にダイバーズウォッチを着用することが望ましい。ダイバーズウォッチは決して飾りではない。
ダイブコンピューター
メリット
- 深度や潜水可能時間の計測など、多機能
- 減圧症のリスクを減らせる
- ダイビング記録が残せる
デメリット
- 表示情報が多いため、ガス昏睡時の判読性で劣る
- 防水性能がダイバーズウォッチほど高くない
深度計や安全停止表示はもちろん、潜水ログの自動記録なども備える。アクセサリーと接続することで、タンクの残圧や残り時間を表示することが可能だ。スマートウォッチ機能も搭載。リチウムイオンバッテリー。FRP×Ti+DLCケース(直径52mm、厚さ17.8mm)。10気圧防水(ダイブEN13319)。19万5800円(税込み)。(問)ガーミンジャパン Tel.0570-049530
ダイバーズウォッチ
メリット
- 判読性が高い
- ケースの作りが堅牢
- 高い防水性能
デメリット
- 時間しか計れない
- クォーツ式の場合、電池交換のたびに高圧テストが必要(コストと時間がかかる)
PADIとのコラボレーションモデル。ベゼルと秒針がPADIのイメージカラーであるブルーおよびレッドにカラーリングされる。自動巻き(Cal.6R35)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径45mm、厚さ12.9mm)。200m防水。9万6800円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012
ダイバーズウォッチの未来は元の立ち位置へ
ダイブコンピューターが普及した現在、ツールとしてのダイバーズウォッチに意味はあるのか。その疑問が、本特集の直接的なきっかけである。いくら高性能であっても、使われなければ意味はない。しかし、ダイバーズウォッチの歴史は、プロのダイバーだけが作り上げてきたわけではなかった。普及させたのは、今ダイバーズウォッチを使っているのと同じ、普通の人々だったのである。
1940年代には、現代でいう強化防水程度のスペックしか持てなかったダイバーズウォッチは、自動巻きエボーシュの採用とOリングの普及により防水性能の強化に成功した。それは必然的に、プロフェッショナルの使用を促し、結果としてダイバーズウォッチはさらなる高性能化を果たした。それを象徴するのが、65年に始まったセイコー製ダイバーズウォッチの歴史であり、その発展が促したISO 6425というダイバーズウォッチの国際規格だった。
しかし、ダイバーズウォッチが市民権を得たのは、決して高い性能のためではなかった。この新しいジャンルの時計を市場に定着させたのは、60年代以降マリンスポーツに熱狂した、普通の人々だったのである。彼らは、道具でしかなかったダイバーズウォッチにも個性やファッション性を求め、それはダイバーズウォッチの在り方を大きく変えた。
70年代に完成を見たダイバーズウォッチは、以降ふたつの方向性で進化した。カジュアルとよりシリアスな方向性である。それは、80年代にダイブコンピューターが登場すると、より一層加速した。ダイバーズウォッチはツールの座をダイブコンピューターに明け渡し、仮に使われるとしても、スキンダイビングか、飽和潜水を必要とするような大深度潜水に限られるようになったのである。
にもかかわらず、ダイバーズウォッチは進化し続けた。サファイアクリスタルは薄くて頑強な風防を、そしてパッキンの進化は、薄いケースに高い気密性をもたらした。結果として、今や10万円台で買えるティソの「シースター 2000 プロフェッショナル」は、1990年代のプロフェッショナル向けダイバーズウォッチに引けを取らない性能を持つようになった。技術の進歩が、パフォーマンスの改善として最も分かりやすく現れたのが、ダイバーズウォッチという新しいジャンルだったのである。
では今後、ダイバーズウォッチはどのような立ち位置となっていくのか。一部のモデルはより個性的でファッショナブル、そして普段使いを意識したものとなり、逆に一部のモデルは、いっそう性能を追求していくだろう。技術の進歩は、両者の性能差を限りなく縮めることに成功したが、本質において、ダイバーズウォッチは80年代以降に加速した、二極化の道を歩み続けている。
もっとも、今後もダイバーズウォッチは、スキンダイビングや大深度潜水の世界では有用なツールであり続けるはずだ。時計コレクターでもある某ダイバーは「秒単位での時間を把握しやすい(アナログの)ダイバーズウォッチは、スキンダイビングの世界ではまだ有用だろう」と述べた。事実、時計メーカーはスキンダイバーとコラボレーションを組むようになった。また2018年に行われたISO 6425の改訂は、いっそう過酷な環境での使用を意識したものだった。国際規格が潜水用のツールとして認めるダイバーズウォッチは、その在り方を磨くことで、一度失われた立ち位置を、再び強化しようとしている。
現在はちょうど、1950〜60年代のダイバーズウォッチ黎明期と同じなのかもしれない。ダイバーズウォッチを求めるのは、普通の人々と、本当のプロフェッショナルのみ。逆説的な言い方をすれば、第2の黎明期を迎えたダイバーズウォッチの世界は、今後一層面白くなっていくに違いない。
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