軍用時計を起源に持つダイバーズウォッチ。チューダー、ブランパン、IWCなど6ブランドから紹介

FEATUREWatchTime
2024.04.11

現在市場に並ぶダイバーズウォッチには、軍用時計を起源に持つものが多く見られる。そういった時計たちは、さまざまな軍隊の水中工作員の要求を満たす堅牢性や機能性を備えている。パネライ、ブランパン、チューダー、IWC、ルミノックス、そしてジンが手掛けてきた、ミリタリーダイバーズウォッチを紹介する。

潜水兵

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Originally published on watchtime.net
text by Jens Koch
[2024年4月11日公開記事]


軍用時計を起源とするダイバーズウォッチ

 軍隊の中でも水中工作員はもっともタフなトレーニングを受けることで知られ、その装備は当然堅牢で機能的である必要がある。最高のツールウォッチとして知られるモデルのいくつかは、水中工作員の装備に対する要件を満たすために開発されたものだ。パネライ、ブランパン、チューダー、IWC、ルミノックス、ジンといったブランドが、こうした腕時計を手掛けてきた。

 このように、水中工作員用腕時計のサプライヤーは、現在高級時計ブランドとして知られるところが多い。これらのブランドで人気を博すダイバーズウォッチは、水中工作員の要求に応えて作られた時計の仕様に基づいている。

潜水兵

© Martin Stollberg

 ロレックスやオメガといった他のブランドも、水中工作員部隊にさまざまな時計を供給していたのは事実である。しかし、そのほとんどは既存の時計をわずかに改良したものであり、ここで紹介するような完全なオリジナルモデルを製造することはなかった。


パネライの「ラジオミール」

 特殊潜水部隊のために、特別な仕様の腕時計を最初に開発したのがイタリアの時計ブランド、パネライである。もともとパネライは海軍に計器を提供しており、そこで使用するため、1916年に蓄光塗料のラジオミールを開発した。他の多くのブランドが特殊潜水部隊との協力によって特別なモデルを生み出している一方で、パネライは水中工作員の装備品としての時計という、ユニークな歴史に基づいて成功を収めている。

ラジオミール

© Luciano Cipullo
1930年代にパネライが製造した軍用ダイバーズウォッチ。サンドイッチ文字盤によって視認性を高めている。

 1930年代から1960年代にかけて、パネライはこうしたツールウォッチを主にイタリア海軍向けに開発していた。当時、これらの時計は一般向けに販売することを想定しておらず、海軍の特殊潜水部隊のためだけに作られ、後に軍の放出品として入手できるようになった。そのデザインは、暗闇でも見える高い視認性、堅牢なデザイン、そして可能な限り高い防水性という、機能的な仕様に則っていた。

ルミノール

© OK-Photography
1950年代のパネライ「ルミノール」の水中テストを行う水中工作員。

 具体的には、パネライは1935年からイタリア海軍の特殊潜水部隊の時計を生産しており、1950年代半ばから、特徴的なリュウズプロテクターが備えられるようになった。これらの特別な時計はオークションにおいてコレクターの興味をかき立てていき、1993年にパネライは軍用以外で最初となる時計を世に送り出した。特徴的なクッションシェイプのケースとワイヤーラグを備えた、現在「ラジオミール」と呼ばれるモデルだ。独特な数字を配したサンドイッチ文字盤と現在の針の形状も、当初からのものである。

 1950年代後半以降、ロレックスのCal.618に代わってアンジェラスのCal.240 SFが採用され、手巻きムーブメントのスモールセコンドと約8日間のパワーリザーブはよく知られるようになった。また、水中工作員は任務のほとんどが暗い水中で行われるため、畜光塗料は特に重要となる。パネライは畜光塗料ラジオミールの開発でこの分野に大きく貢献した。のちに放射性の低いルミノールが開発され、1949年に特許を取得している。

ルミノール

サンドイッチ文字盤により、暗所で高い視認性を発揮するルミノール。

 同様に重要なのが、サンドイッチ文字盤である。下層部の蓄光性ディスクと、インデックスと数字が切り抜かれた上層部の文字盤で構成されるものだ。これは文字盤に数字がプリントまたはペイントされたものより、より多くの蓄光塗料を使用することができる。ただしサンドイッチ文字盤は文字盤の強度低下を招くため、現在分目盛には採用されておらず、5分単位の目盛りのみの場合に採用されている。

ラジオミール オットジョルニ

パネライ初期のモデルの特徴を備える「ラジオミール オットジョルニ」。手巻き(Cal.P5000)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約192時間。ステンレススティールケース(直径45mm)。100m防水。136万4000円(税込み)。(問)オフィチーネ パネライ Tel.0120-18-7110

 サンドイッチ文字盤は、インデックスの形を決める要因にもなった。上部のディスクが下部のディスクに乗っているため、完全に切り離すことができないためだ。このような制約のもとで、機能的特徴を保ちながら美しい文字盤を創り出すということは、おそらくイタリアブランドゆえに実現できたことだろう。


ブランパンの「フィフティ ファゾムス」

 ダイバーズウォッチ「フィフティ ファゾムス」は、ブランパンで最も成功したモデルだ。このモデルが1950年代初頭に誕生した背景には、軍事的な要請があったことはあまり知られていない。フランス軍の水中工作員は、水中でも確実に機能する、堅牢な時計を必要としていた。自身も熱心なダイバーであった当時のブランパンのCEO、ジャン-ジャック・フィスターがフランス軍の求める時計を完成させたのである。

フィフティ ファゾムス

1953年製のフィフティ ファゾムス。

 最初のモデルは、ブラックの文字盤に自発光式の数字とインデックス、そしてグリップ性を高める刻みのついたベゼルという特徴を備えていた。1953年当時、誤作動を防ぐ逆回転防止ベゼルを備えた最初のダイバーズウォッチであった。1953年に発表されたロレックスの「サブマリーナ」とともに、フィフティ ファゾムスはモダンダイバーズウォッチの原型を作り上げた。

フィフティ ファゾムス

フィフティ ファゾムスの特許申請書。ベゼルを回転させるには押し下げる必要があった。

 なお、サブマリーナーの回転ベゼルはロックすることなく両方向に動かすことができたが、ブランパンは押し込まないと回せないベゼルを開発しフィフティ ファゾムスに搭載していた。

 当時の流行に逆行し、最初のモデルは存在感のある直径42mmのケースサイズであり、水深50ファゾムズ(91.45m)まで潜水できることから「フィフティ ファゾムス」の名前が与えられた。ブランパンはネジ込み式のケースバックと、2重のOリングをリュウズにパッキンとして採用した新しいシステムを開発し、高い防水性を確保した。

ジャン-ジャック・フィスター

ジャン-ジャック・フィスターは、1950年から1980年まで潜水士としてもブランパンの経営に携わった。

 リュウズの防水性を保つため、フィフティ ファゾムスには自動巻きムーブメントが採用された。これにより毎日巻き上げるためリュウズを引き出す必要がなくなった。またフィフティ ファゾムスは磁場からも守られている。ブランパンが特許を有するダイビングベゼルは、逆回転防止機構を備え、誤作動も防止した。

 その後何年にもわたって、アメリカ軍やイスラエル軍、ドイツ軍など、他国の海軍もフィフティ ファゾムスを装備品とした。

フィフティ ファゾムス オートマティック

現行モデルの「フィフティ ファゾムス オートマティック」。自動巻き(Cal.1315)。2万8800振動/時。約5日間パワーリザーブ。チタンケース(直径45mm)。30気圧防水。170万5000円(税込み)。(問)ブランパン ブティック銀座 Tel.03-6254-7233

 今日、ブランパンが数多く展開する中でも「フィフティ ファゾムス オートマティック」は最初のモデルに非常に近い意匠を備えている。直径45mmのケースにはサファイアクリスタル製ベゼルが組み合わされ、シリコン製ヒゲゼンマイを備えた自動巻きムーブメントのCal.1315は、約5日間のパワーリザーブを実現する。


チューダーの「ペラゴスFXD」

 1960年以降、チューダーはフランス海軍の水中工作員に時計を供給し、その後にはカナダやイギリス、アメリカ、南アフリカなどの海軍へも提供を拡大している。最初のモデルはロレックスのサブマリーナーのスタイルであったが、1974年以降は「スノーフレーク針」や四角いインデックスなど、チューダー独自のデザインが採用されている。

オイスター プリンス サブマリーナー

1969年製のチューダー「オイスター プリンス サブマリーナー」。

 その後、チューダーはブラック文字盤の代わりに、紫外線に対して耐性のあるブルー文字盤を搭載した時計を作る。その普及版モデルは通常ステンレススティール製ブレスレットであるのに対し、海軍ダイバー用のものはストラップ無しで納品され、軍仕様のテキスタイルストラップが装着された。裏蓋にはM.N.(Marine Nationale)の文字と製造年が刻印されている。1980年代まではフランス海軍、特に水中工作員が所属するコマンド・ユーベールに時計を供給していた。

チューダー

チューダーは1950年代後半から、フランス軍の水中工作員に時計を供給している。

 2021年に発表された「ペラゴスFXD」は、ブルー文字盤といった外観の要素だけでなく、フランス軍の水中工作員とのコラボレーションも復活させている。これは、この時計の設計自体が部隊の求める仕様に沿って行われているからだ。水中工作員用の時計の仕様は一般のダイバーズウォッチとは異なるため、ペラゴス FXDは厳密にいうとダイバーズウォッチではない。なぜならベゼルは両方向に回転し、カウントダウンスケールを備えるからだ。

 部隊の任務は通常、水中で気付かれずに目標に接近し、敵陣の背後にある目標を偵察したり、橋や船を爆破したりすることである。水中で気付かれずに移動するため、エリート兵士たちは、潜水時に泡の上昇を防ぐ密閉式リブリーザーなどの特殊装備を使用する。

ペラゴスFXD

チューダー「ペラゴスFXD」を着用する兵士。

 通常、水中工作員は二人一組で浅瀬から目標に接近する。ひとりはコンパスと深度計を装備したコンソールを正面に持ち、進路と水深に注意を払う。もうひとりのダイバーは時間を注視するのだ。これは、準備段階において海図で目的地への経路が決定されるためであり、通常は直線ではなく、海岸に沿って一定の距離を進む。ダイバーたちはまず、例えば水深3mで170度の方向を10分間進み、次に110度に向かって7分間進む。これは彼らが自分たちが進むペースを完璧に把握していることにより、時間は移動した距離に連動するため、一定時間内に進む距離が決まるのだ。

 ここでは潮流も考慮される。そのため、時計はダイバーズウォッチのように潜水時間を計測するのではなく、通過した各区間を計測するために使用されるのである。水中工作員は、ベゼルの目盛りに表示された予定時間と分針を連動させ、相方にコースを伝える。分針がベゼル上のゼロに達したことを確認し、次のコースを指示し、新しい時刻を設定する。これを迅速に行うため、ベゼルは両方向回転式となっているのだ。

ペラゴスFXD

現行モデルの「ペラゴスFXD」。自動巻き(Cal.MT5602)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。Tiケース(直径42mm、厚さ12.75mm)。47万4100円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570

 さらに、逆回転防止ベゼルは表示される潜水時間を延長することはできても、短縮することはできない。ゆえに一方向に偏ることは好まれない。だが、ベゼルを誤作動させるリスクは低い。

 ペラゴスFXDのケースは軽量で耐塩水性の高いチタン製であり、ラグを含めてブロックからの削り出しだ。この固定式ラグは、FXDが「固定式(fixed)」の短縮形であることから、このモデルの名前にもなっている。つまり、ここでははがすタイプのストラップが採用されているのだ。


IWCの「アクアタイマー オートマティック」

 ドイツ連邦軍による水中工作員の時計装備には、以下の特徴が盛り込まれた。4時位置のリュウズ、12時位置の楔型のインデックス、1時から11時の四角いインデックス、赤い先端を持つ分針。ブラックカラーの時刻合わせリング、畜光塗料を塗布した楔形のゼロ表示、その他の表示はなし。ケースは堅牢性のある素材などである。

オーシャン バンド

© Konrad Knirim
ドイツ軍の水中工作員のために作られたIWCの「オーシャン バンド」。

 IWCとポルシェ・デザインが1983年に発表したのは、現在ではデザインアイコンとして知られるチタン製ダイバーズウォッチの「オーシャン バンド」である。このモデルは最初のチタン製腕時計のひとつとして知られ、軍仕様は同じく直径42mmケースの民間仕様の「オーシャン2000」とは異なり、フラットな風防、より低い300mの防水性、ケースバックのBUNDの刻印や製造番号、そして赤い分針などの視覚的特徴を備える。内部にはETA2892をベースとした自動巻きムーブメントのCal.IWC3752を搭載する。後にはクォーツムーブメント版も製造された。

 この時計は、ベゼルを回転させるために対角線上の2カ所を押し込む必要があった。機雷除去を任務とする水中工作員用には、磁気の発生しない自動巻きムーブメントが搭載されたモデルもある。派生版には他のミリタリーウォッチでもおなじみの、蓄光素材トリチウムを示す赤い丸にH3の文字が入ったモデルも存在する。

アクアタイマー・オートマティック

現行モデルのIWC「アクアタイマー・オートマティック」。自動巻き(Cal.32111)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径42mm)。30気圧防水。103万4000円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868

 直径42mmのケース、300mの防水性能、ブラック文字盤の「アクアタイマー・オートマティック」は、1997年に生産終了となったオーシャン バンドを最も色濃く反映している。しかしこの時計は、ステンレススティール製で、潜水時間の目盛りはリュウズで操作でき、リシュモン グループのムーブメント専門メーカーであるヴァルフルリエが開発した約5日間のパワーリザーブを持つ自動巻きムーブメント、Cal.32111を搭載するなど、モダンな仕様となっている。


ルミノックスの「マスターカーボン SEAL オートマティック」

 世界で最も知られた水中工作員部隊のひとつが、アメリカ海軍の特殊部隊「Navy SEALs」だ。1992年から、ルミノックスはこの特殊部隊と組み、所属する兵士のためのダイバーズウォッチを製造している。

Navy SEALs

ルミノックスとNavy SEALsは、公式にパートナーシップを結んでいる。

 過酷な状況で使用される時計は、水中で長時間使用した後でも読み取りやすくなければならない。これらの時計は特別な発光機能を備えている。暗所での視認性は、蓄光塗料がどれくらい長く力を発揮するかがものをいう。一部の時計は8時間後でも読み取ることができる。しかし、最新のスーパールミノバであっても、それ以上の時間発光させることは難しい。

 トリチウムガス光源の場合は事情が異なる。これは小さなガラス管にトリチウムを充填したもので、低レベルの放射性トリチウムによって励起されて発光する。そのため、ガラス管は永久に輝き続け、従来の発光体のように光の下で再蓄光する必要がないのだ。この輝きは最長25年続くといわれている。ガラスの中に密封されているため、放射線を心配する必要はない。

マスターカーボン SEAL オートマティック 3860

現行モデルのルミノックス「マスターカーボン SEAL オートマティック 3860」。自動巻き(Cal.SW 220-1)。カーボノックスTM+ケース(直径45mm)。16万5000円(税込み)。(問)Luminox TOKYO Tel.03-5774-4944

 現行モデル「マスターカーボン SEAL オートマティック」は、カーボノックスTM+製ケースの堅牢さに加え、耐久性に優れた蓄光管を採用することで視認性を高めている。カーボノックスTM+は40パーセントがカーボンファイバーで構成された素材で、チタンの3倍もの軽さと高い強度を誇り、耐磁性、耐アレルギー性、耐薬品性にも優れている。200m防水のケースに搭載されるのは、セリタの自動巻きムーブメントCal.SW 220-1だ。

マスターカーボン SEAL オートマティック

トリチウム発光チューブが搭載されたルミノックス「マスターカーボン SEAL オートマティック」。


ジンの「UX」シリーズ

 今日のドイツでは、水中工作員は「KSM」、つまりドイツ海軍の特殊部隊所属となっている。この精鋭部隊の任務は、人質の救出、船舶の奪還、偵察任務などだ。それぞれの水中工作員は、ダイバー、パラシューター、スピードボート操縦者、爆発物の専門家、単独任務などの訓練を積んでいる。ドイツ陸軍の特殊部隊「KSK」と同様、KSMもドイツ連邦軍の一般的な処理部隊ではない。逆に小規模な部隊は、自ら改良・開発した多くの装備や武器をフルに活用することができる。

UX S

© Bjoern Trotzki
ジンの「UX S」特別仕様を装備した海軍特殊部隊の水中工作員。

 そのため、水中工作員たちがジンのUXシリーズに頼るのも驚くことではない。「Operational Timepiece(Einsatzzeitmesser/EZM 2B)」としても知られるこのモデルは、1990年代半ばにジンが特殊部隊「GSG 9(連邦国境警備グループ9)」の海軍部隊のために開発したモデルの後継機で、2015年からKSM向けに生産されている。主な違いは配色で、水中工作員仕様のマーカーはすべて赤で、針、インデックス、回転ベゼルの蓄光性の三角形のみ白である。

UX.S

ベゼルに赤色の目盛りが配された、ジン「UX.S」の非売品・KSM仕様モデル。

 ジンが開発したハイドロテクノロジーでは、ケースに組成非公開の無色・非伝導性の液体が満たされている。ガスと異なり液体は圧力で圧縮されないため、ジンは大きく分厚い外壁を水深の深いところでも必要としないのである。そのため、この時計は最深5000mの防水性能を備える。

 視認性における利点は最も重要と言える。使用されている液体はサファイアクリスタル製風防と同じ屈折率を持つため、水中においてどの角度からでも視認できる。針はスクリーンのようにガラスの上部に表示される。

 また、内部に空気がないため結露せず、ガラスが曇ることもない。ダイバーズウォッチは一定の深度から冷水にさらされる。クォーツ時計は一般的に温度差の影響を受けやすいため、ジンは温度変化に耐性のあるムーブメントを使用している。これにより、ジンは−20度から+60度まで、機能的な信頼性を保証することができる。リチウムイオン電池もこの範囲で作動し、少なくとも5年間は持続する。

ハイドロ・システム

ジンでは、時計ケースに特殊なオイルを封入することにより、時計ケース内部の気体の収縮率を海水や淡水とほぼ同じにするというハイドロ・システムを開発。写真の左側がハイドロ封入モデル。

 水中・陸上での過酷な使用では、岩や他の機器との接触は避けられない。ここでもジンは機能性を向上させ、キズからケースを守る策を講じている。「テギメント加工」という技術を用い、ステンレススティールの表面を特別な浸炭加工によって硬化させているのだ。これはコーティングではなく、ステンレススティール自体が保護膜のようになっている。炭素がステンレススティールに浸透して定着することにより、複数回の加工後には母材の硬度を何倍にも高める。

ジン

海中の洞窟でテギメント加工とハードコーティングが施されたジンの腕時計のテストを行う様子。

 UXをはじめとする一部のダイバーズウォッチに、ジンは38PREN(腐食耐性の指標、Pitting Resistance Equivalent Number)の潜水艦用の鋼鉄を用いている。この素材は、時計の世界で通常使用されている24PRENの316Lステンレススティールよりも、海水に対する耐性が大幅に優れている。また、テギメント加工により、最高レベルの硬度を実現している。さらに、ブラックの硬質素材コーティングにより表面はさらに硬度を増し、あらゆる光を吸収する。これにより反射はごくわずかとなり、水中工作員部隊などの軍隊に重用される。

 特殊結合方式により固定されたダイバーズ ベゼルも、堅牢性のためのジンの革新的な要素だ。3本のネジとテンション・リングにより、ベゼルが岩に引っかかって不意に外れてしまうことを防ぐ。

UX GSG9

KSM仕様のモデルに近い、ジンの「UX.S.GSG9」。クォーツ(ETA955.652)。7石。パワーリザーブ約5年。Uボート・スチールケース(直径44mm、厚さ13.3mm)。500気圧防水。71万7200円(税込み)。(問)ホッタ Tel.03-5148-2174

 ジンの高い機能性は、もちろん水中工作員だけでなく、堅牢な時計を好む一般の人々も享受することができる。現行モデルの「UX.S.GSG9」は、その機能と直径44mmというケースサイズの点でKSMウォッチに相当する。


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