大ベテラン時計師と新進気鋭の若手時計師がタッグを組んだ新興ブランド「ルノー・ティシエ」。その創業者ふたりが、初作「マンデー」を持って来日した。彼らが「革新的」と表現する自動巻きとは?
Edited & Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年5月号掲載記事]
若手とベテランがタッグを組んだルノー・ティシエの初作「マンデー」
親と子と言っても納得してしまいそうな、微笑ましいツーショット。互いにリスペクトし合っていることが写真から滲み出ているこのふたりこそ、ルノー・ティシエの共同創業者、ドミニク・ルノーとジュリアン・ティシエである。世界的に名の知れた時計師であるふたりは、2023年に創業したブランドの世界初お披露目を目的に、初作となる「マンデー」のプロトタイプを持って24年3月に来日した。
ブランドの初作。バネ製パーツを自動巻きローターに組み込むことで、巻き上げ効率を大幅に向上させた。現在、3人のウォッチメーカーが製作を担当しているが、4月からは4人が追加で入社予定。自動巻き(Cal.RVI2023)。30石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径40.8mm、厚さ11mm)。3気圧防水。7万9000スイスフラン。
ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)の共同創業者であり、数々のハイコンプリケーションを世に送り出してきたドミニク・ルノーと、31歳の若手時計師ジュリアン・ティシエ。年齢もキャリアも異なるふたりがどうして、新ブランドを立ち上げることになったのか。
「DR01を発表し、この時計に関する講演会を開いていた時のことです。何度かこの講演会に足を運び、鋭い質問をしてくる面白い青年がいたんです。それがジュリアンでした。それから私たちは連絡を取り合うようになったのです」(ルノー)
その後、ルノーがジュウ渓谷ル・リューにあるティシエの工房を訪ねるなど、ふたりは交流を重ねていく。そして22年、初の共作となる「テンプス・フギット」をDRT銘で発表。続けて翌23年にはファーラン・マリのオンリーウォッチ用モデル「セキュラー・パーペチュアルカレンダー」を製作した。これら2本の時計はいずれもセキュラーカレンダーを搭載しており、そのコンパクトなカレンダー設計によって、世界中の時計愛好家から高い評価を得るに至った。特に前者はGPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)の「カレンダー&アストロノミー」部門にノミネートされており、当時20代だったジュリアン・ティシエの名を世に轟かせることとなった。
そんなふたりが立ち上げたルノー・ティシエは機械式時計の基礎に立ち返り、革新を起こすことをブランドのコンセプトに掲げている。この考えに基づいて初作マンデーで彼らが追求したのが、マイクロローターの巻き上げ効率だ。同作のパワーリザーブは公称で約60時間としているが、実際のところは90〜100時間を実現しており、そのおよそ90%を約40分の着用で巻き上げられるという。
「ローターは外周を比重の高いローズゴールドにすることでそれ自体の回転効率を高めています。加えて、ローターの中心部にバネ性を持たせたパーツを配置しました。時計が衝撃を受けた際に、そのショックを吸収し、ローターを回すためのエネルギーに変換します」(ルノー)
ローターの中心部、受け石のすぐ下に取り付けられたパーツこそが、ルノーがバネ性を持たせたと語るパーツだ。「ダンサー」と呼ばれるこのパーツこそ、マンデー最大の見どころである。ショックアブソーバーとしての側面もある機構だが、「テニスラケットのガットのようにエネルギーを捕捉し、カタパルトのように勢いよく投げ返す」というブランドの説明を考慮すると、エネルギーを増幅させる仕組みという理解の方が正しそうだ。
比類なき高効率のマイクロローター自動巻きだけでも魅力的だが、さすがドミニク・ルノーとジュリアン・ティシエが手掛けるだけあり、ムーブメントの仕上げも見応えがある。地板と受けは加工が難しいグレード5チタン製だが、受けには深い面取りと入り角が多用されている。取材時に手にしたのはプロトタイプながら、ムーブメントは量産品とほぼ同等とのことで、仕上がりは大いに期待できる。
これだけ手の込んだ内容ながら、価格はなんと7万9000スイスフランだ。
https://www.webchronos.net/news/110196/