多彩なラインナップを持つハミルトンの中でも、ビジネスシーンからカジュアルまで幅広くマッチする人気コレクションが「ジャズマスター オープンハート オート」だ。今回は新作となるバーガンディーグラデーションダイアルモデルをインプレッションしよう。クラシカルかつ都会的なデザインに組み合わされるバーガンディーの色調は魅力的で、着用感をはじめとした実用性にも優れる。コレクションの人気の高さを再認識する完成度であった。
Text and Photographs by Shin-ichi Sato
[2024年4月8日公開記事]
多彩なラインナップを持つハミルトンの人気コレクション「ジャズマスター」
各時計ブランドの戦略は千差万別ながら、大きく分けると“特定ジャンルを充実させる”、“デザインに統一感を与えつつ幅を広げる”、あるいは“網羅的に多彩なモデルを並べる”といったものだろうか。実際には、こいうった戦略を複合的に組み合わせながら独自性を確立している。この観点から見れば、ハミルトンは多彩なモデルを取りそろえている点が特徴である。
ハミルトンのラインナップの概略を見直してみよう。先日筆者がインプレッションした「カーキ フィールド メカ」をはじめとしたミリタリーデザインおよびタフなツールウォッチや、1960年代のアメリカンデザインの趣きを今に伝える「アメリカン クラシック」、世界初の電池式腕時計の系譜を引き継いだ、9時方向に頂点を持つ三角形ケースがアイコンの「ベンチュラ」などがある。ここに並ぶのが「ジャズマスター」であり、今回インプレッションするのがケース径40mmである「ジャズマスター オープンハート オート」の新色である。
ジャズマスター オープンハート オートのデザイン
自動巻き(Cal.H-10)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.05mm)。5気圧防水。16万9400円(税込み)。
ジャズマスターのデザインを筆者なりにまとめると、クラシカルやコンサバティブなテイストを基調として都会的なイメージであり、アメリカン クラシックとは明確に異なるモダンさがある。また、ジャズマスターには前衛的なデザインのモデルも並び、こちらはコンテンポラリージャズといったところだろうか。加えて、本作のようなオープンワークが施されたモデルがラインナップされることも特徴のひとつだ。
本作は、多くのジャズマスターコレクションに共通するデザイン要素を備える3針モデルである。時分針は先に向かって細くなる鋭い形状であり、その形状の反復となるインデックスが並ぶ。ラウンドケースにラグをロウ付けしたようなシルエットを備える点も多くのジャズマスターが有する要素だ。特徴となるオープンワークは、テンプがのぞき見える12時方向と7-8時位置、円弧状に1時から4時位置にわたって施されている。
本作と同時に発表されたのは3カラーだ。ケース径40mmでは本作のバーガンディーグラデーションに加えてシルバーが追加され、ともにブレスレットモデルと、レザーストラップモデルが用意される。価格は、ブレスレットモデルが16万9400円、レザーストラップモデルは15万8400円(いずれも税込み)。ケース径36mmではアプリコットカラーが追加され、こちらはブレスレットモデルのみで15万6200円(税込み)となる。
新作のバーガンディーグラデーション
さて、新色となるバーガンディーグラデーションに注目しよう。明度を落としつつ彩度の高いシックな印象のあるバーガンディーをベースに、周囲をサンバースト調に仕上げている。この色調は、ギターにおけるヴィンテージチェリーレッドを思わせるもので、いかにもジャジーなサウンドを鳴らしてくれそうだ。1/3秒まで描かれた秒スケールはホワイトであり、グラデーション部と重なることでコントラストが良好である。
オープンワークの面積が比較的広い点も特徴となる。テンプ部分に加えて、リュウズ近傍のオシドリや裏押さえ部分、7時位置に地板がのぞくようなオープンワークが施されている。また、オープンワーク部のエッジは面取りされている。のぞき込むと、バーガンディーのダイアルとオープンワークから見えるムーブメントの間に、きらりと光る面取り部が挟まる。地板に施されたペルラージュと組み合わさることで、ムーブメントへの仕上げを想起させるものとなっている。総じて、ダイアルのカラーリングやテクスチャーの魅力と、機械式時計のイメージに通ずるメカっぽさを上手く調和させたデザインであると感じた。
着用感に優れ、実用性も高く、総合力の高さがある
重量はブレスレット調整済みの状態で139gと標準的。ブレスレットは、独立したリンクで構成された3連タイプでしなやかに動く。厚くなく薄すぎず、遊びと剛性感のバランスも良好だ。肌当たりも柔らかくて、この仕上がりは高いレベルにある。
手首周長約18cmの筆者が着用すると、このブレスレットが手首に沿ってくれて着用感が良かった。時計本体とブレスレットの重量バランスも良好である。ミドルレンジの3針モデルの中では比較的薄い、ケース厚11.05mmであるため、重心が低くて袖との干渉も抑えられている。加えて、ケースバック側の径が小さく、ダイアル側に広がるすり鉢状となっていて手首を曲げても手の甲に干渉しにくい。ラグを短く、手首に沿った形状に作っており、ブレスレットの可動範囲も広いので、筆者より手首の細い方にもマッチするはずだ。これらが複合的に組み合わさって、本作の良好な着用感を生み出している。
長く愛用するのに重要な着用感は高評価であった。では、その他の実用性はどうか。まず、視認性は良好であった。ダイアルと針のコントラストが高く、要所要所に施された蓄光塗料がスケール代わりとなって明所でも測時の目安となってくれた。
搭載するのは自動巻きCal.H-10。パワーリザーブは約80時間と、現代基準で高いレベルの性能が与えられている。耐磁性素材であるニヴァクロンTM製ヒゲゼンマイを採用しており、現代の生活では避けがたい磁界の影響を抑え、精度の悪化を防いでいる点も注目だ。
インプレッションの期間中はジャケットスタイルやカジュアル等に合わせてみたところ、いずれもマッチしてくれた。カジュアルすぎず、堅すぎないラフさもあり、幅広く使える1本を求める人には好適であるというのが筆者の感想であった。
ジャズマスターの人気の理由がよく分かる1本
ハミルトンのショーケースをのぞけば、ジャズマスター、特にジャズマスター オープンハート オートをはじめとした3針モデルが必ず並んでいる。もし無ければ、それはちょうど売り切れたところだろう。キープコンセプトのまま少しずつ改良が加えられ、新色を追加しながらラインナップが続いているということは、それだけ根強い人気があるということだ。
理由は容易に想像できる。さまざまなデザイン(カラー)のシンプルな3針モデルが並んでいること、いずれもビジネス用途からカジュアルにまでマッチする“ちょうどよい”デザインを備えること、日本人の好むブレスレットモデルが多く存在すること、機械式ムーブメントを採用している実感を得やすいオープンハートモデルが並ぶこと、そして機械式モデルでありながらアンダー20万円で選べることだろう。サイズも、本作に近いデザインのモデルだけでも42mm、40mm、36mmと豊富で、好みや体格によって選びやすい。
今回着用してみて着用感の良さが印象的であった。これはハミルトンが着実に改良を加えてきたことを示している。ムーブメント性能を含めた実用性も申し分ない。筆者はこのインプレッションを執筆しながら、調査という名目で好みのカラーを探してハミルトンのラインナップを眺めるのであった。
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