ヴァシュロン・コンスタンタンが時計見本市ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2024で発表した新作時計を、まとめて紹介する。「トラディショナル」「オーヴァーシーズ」「パトリモニー」「エジェリー」など、多彩なコレクションから新作時計が登場したほか、エメラルドカットのダイヤモンドをふんだんにあしらった「グランド・レディ・キャラ」や、中国暦に基づいたパーペチュアルカレンダーを搭載したうえ、63もの複雑機構を搭載した懐中時計「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」が登場するなど、見どころにあふれた新作群だ。
トラディショナル・トゥールビヨン・クロノグラフ コレクション・エクセレンス・プラチナ
「コレクション・エクセレンス・プラチナ」として登場した新作、「トラディショナル・トゥールビヨン・クロノグラフ」。本作は、トゥールビヨンとモノプッシャークロノグラフを搭載したムーブメント、Cal.3200を採用したコンプリケーションウォッチだ。
手巻き(Cal.3200)。39石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約65時間。Ptケース(直径42.5mm、厚さ11.7mm)。3気圧防水。世界限定50本。予価4092万円(税込み)。4月発売予定。
プラチナ製ダイアルには、12時位置に大型のトゥールビヨン、3時位置に45分積算計、6時位置にパワーリザーブインジケーターが配されている。
ケースやリュウズ、クラスプ、そしてストラップのステッチに至るまで、外装にはプラチナがふんだんに使用されている。シースルーバックからは、その輝きにも負けない職人の手作業が施されたムーブメントを鑑賞することが可能だ。Cal.3200は、創業260周年に当たる2020年に開発されたムーブメントであり、複雑機構を搭載しながらも厚さを6.7mmに抑えた薄型の機械である。
同社のクロノグラフの伝統を受け継ぐ本作は、世界限定50本のみが販売される。
オーヴァーシーズ・トゥールビヨン
チタン製ケースに、自動巻きトゥールビヨンを搭載したムーブメントを組み合わせた新作、「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」。ケースからブレスレットに至るまで、軽量かつ耐食性に優れたグレード5チタンが採用されている。外装はポリッシュとサテン仕上げに磨き分けられ、オーヴァーシーズ特有のシャープな印象は健在である。
自動巻き(Cal.2160)。30石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約80時間。Tiケース(直径42.5mm、厚さ10.39mm)。2244万円(税込み)。5月発売予定。
ブルーの半透明ラッカーが塗布されたダイアルには、サンバーストサテン仕上げが施されている。6時位置に配されているのは、マルタ十字を模ったトゥールビヨンキャリッジだ。
ブレスレットには、簡単にケースから脱着することができるインターチェンジャブルシステムに加え、最大4mmまでの微調整が可能なコンフォートアジャストシステムが採用されている。ブルーのカーフレザーストラップとラバーストラップが付属しており、着用シーンに合わせて交換することができる。
複雑機構を搭載しながらもケースの厚みは10.39mmに抑えられ、取り回しやすさにも優れている。
オーヴァーシーズ グリーンダイアル
「オーヴァーシーズ」コレクションに、グリーンダイアルを採用したモデルが追加された。ダイアル中央にはサンバーストサテン仕上げ、フランジにはベルベット仕上げが施された、深みのあるグリーンダイアルを備える。このグリーンダイアルがオーヴァーシーズコレクションに与えられるのは、今回が初めてである。
発表されたモデルは全部で4種類。「オーヴァーシーズ・クロノグラフ」、「オーヴァーシーズ・デュアルタイム」、そして「オーヴァーシーズ・オートマティック」の41mmケースモデルとダイヤモンドベゼルを備えた35mmケースモデルだ。いずれのモデルもケース素材には18Kピンクゴールドを採用し、ダイアルのカラーと相まって上品にまとめられている。
18Kピンクゴールドブレスレットの他、グリーンのカーフレザーストラップとラバーストラップが同梱され、インターチェンジャブルシステムによって、簡単に付け替えて楽しむことができる。
自動巻き(Cal.5200)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。18KPGケース(直径42.5mm、厚さ12.67mm)。15気圧防水。1135万2000円(税込み)。8月発売予定。
自動巻き(Cal.5110 DT)。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径41mm、厚さ12mm)。15気圧防水。1082万4000円(税込み)。8月発売予定。
自動巻き(Cal.5100)。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径41mm、厚さ10.69mm)。15気圧防水。866万8000円(税込み)。7月発売予定。
自動巻き(Cal.1088/1)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPGケース(直径35mm、厚さ9.33mm)。15気圧防水。831万6000円(税込み)。7月発売予定。
パトリモニー・ムーンフェイズ&レトログラード・デイト
「パトリモニー」コレクションに、「パトリモニー・ムーンフェイズ&レトログラード・デイト」の新作が追加された。パトリモニーの特徴である曲線を主体としたケースは、18Kホワイトゴールド製。サイズは視認性に優れる直径42.5mmだ。本作の特徴は、温かみのあるサンバーストサテン仕上げのアンティークシルバーダイアルを採用している点にある。
自動巻き(Cal.2460 R31L)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWGケース(直径42.5mm、厚さ9.7mm)。3気圧防水。予価708万4000円(税込み)。8月発売予定。
ダイアル上部には、レトログラード表示の指針式カレンダーが配されており、ひと月のうちのどのくらいの日数が経過したのかを視覚的に把握できるようになっている。ダイアル下部には、122年に1回しか調整を必要としない高精度なムーンフェイズが配されている。
ケースバックからは、マルタ十字を模った22Kゴールド製のローターやコート・ド・ジュネーブ、ペルラージュなどの装飾が施されたムーブメントを鑑賞することが可能だ。
アンティークシルバーダイアルに調和した、オリーブグリーンのアリゲーターストラップが装着されている。
パトリモニー・マニュアルワインディング
1950年代の時計に着想を得た、クラシカルなデザインが魅力の「パトリモニー」コレクションに、新たに39mmケースのアンティークシルバーダイアルモデルが追加された。シンプルな2針モデルとしては、18Kホワイトゴールドケース仕様と18Kピンクゴールドケース仕様の2種類がラインナップする。
手巻き(Cal.1440)。19石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KRGケース(直径39mm、厚さ7.72mm)。3気圧防水。360万8000円(税込み)。8月発売予定。
手巻き(Cal.1440)。19石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KWGケース(直径39mm、厚さ7.72mm)。3気圧防水。360万8000円(税込み)。8月発売予定。
バーインデックスとパール状のミニッツトラックが並ぶダイアルはドーム状にカーブし、真っすぐに伸びる時分針が、その上を静かになぞる。ミニマルで簡潔なデザインは、既存のモデルからわずかにサイズダウンすることで、よりクラシックな印象となった。
ケースバックはシースルー仕様ではないが、その代わりに文字やデザインをエングレービングし、パーソナライズすることが可能だ。
ムーブメントは、薄型手巻き式のCal.1440を搭載する。
エジェリーコレクション
ヴァシュロン・コンスタンタンは、オートクチュールデザイナーのイーキン・インとのコラボレーションのもと、コンセプトウォッチ「エジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイム」を発表した。ライラックカラーのダイアルの緻密なプリーツ模様と、ストラップにランダムに配されたマザーオブパール、そして本作のために調香された専用の香りをまとうことが特徴である。同時に、デザインベースを共有し、世界限定100本となる「エジェリー・ムーンフェイズ」も発表された。
イーキン・インの世界観を体現し、特別な香りをまとうコンセプトウォッチ
エジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイムは、コンセプトウォッチとして製作された販売予定の無いユニークピースだ。2時方向にムーンフェイズを配置する他にインデックス類を持たないデザインを備える。マザー・オブ・パール製のダイアルは、ふたつの異なったリズムを刻むプリーツ模様が施され、「はかない白昼夢のような、女性らしく繊細な色合い」とイーキン・インが表現するライラック色となる。
自動巻き(Cal.1088 L)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPGケース(直径37mm、厚さ10.08mm)。販売予定なしのユニークピース。
本作のために用意されたストラップは、シルクの糸の間にマザーオブパールの小片を組み入れたものだ。手作業で作られたストラップの不規則なテクスチャーと、マザー・オブ・パールの配置は、緻密なダイアルのプリーツやベゼル上に整列するダイヤモンドと対比的であり、イーキン・インの世界観を色濃く反映している。そして、もうひとつの特徴は、本作には熟練調香師ドミニク・ロピオンによる本作専用の香りがストラップに添えられている点だ。
本作のコンセプトとデザインを元にディスカッションが重ねられ、フレグランスは創作された。このフレグランスはナノカプセルに閉じ込められ、ストラップのライナーやストラップループ、刺しゅうなどに施されている。これにより、肌の摩擦と動きによってランダムに香りを放ち、本作のコンセプトが完成されるのである。
ユニークピースを基とした限定モデル
エジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイムのデザインをベースに製作されるのがエジェリー・ムーンフェイズである。ケースデザインや2時方向にムーンフェイズを配する点、ベゼルにダイヤモンドを並べる点、ダイアル中央部にプリーツ模様が与えられる点が共通のデザインで、アラビア数字インデックスを備える点が本作の主な特徴となる。ダイアルカラーはエジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイム同様のライラックだ。
自動巻き(Cal.1088 L)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPGケース(直径37mm、厚さ10.08mm)。世界限定100本。616万円(税込み)。6月発売予定。
本作はインターチェンジャブルシステムを搭載し、ダイアルと同色のライラック色のアリゲーターストラップと、サテン仕上げのビッドナイトブルーストラップ、パウダーピンクのカーフスキンストラップと、テクスチャーの異なる3種類が付属する。
グランド・レディ・キャラ
ヴァシュロン・コンスタンタンは、1980年のアイコニックなモデルのデザインを踏襲した「グランド・レディ・キャラ」を発表した。本作は、79年の「カリスタ」および、カリスタを踏襲した80年の「キャラ」の復活として位置づけられる。カリスタはレイモン・モレッティによる革新的なデザインを備え、ゴールドのインゴットから幾何学的な流れるような形を彫刻し、130カラットのダイヤモンドがあしらわれた当時世界一高価な腕時計であった。
クォーツ。18KWGケース(縦30.1×横19.4mm、厚さ8.3mm)。2億1912万円(税込み)。4月発売予定。
グランド・レディ・キャラは、カリスタやキャラの特徴であるエメラルドカットのダイヤモンドを連ねたかのようなデザインを備え、ブレスレットを備えたウォッチあるいは、ソートワールネックレスとして着用可能な点が本作の特徴である。
このような多様な楽しみ方ができるデザインは、ヴァシュロン・コンスタンタンの長い伝統に基づいたもので、1924年にはブローチとしても楽しむことができるペンダントウォッチを提供しており、そのノウハウが本作にも生かされている。
ソートワールはアコヤパールおよびオニキスによって構成され、アコヤパールの柔らかな色調と光の反射によりシックな印象を生み出しつつ、時計本体の輝きに負けない存在感を備える。またダイアル部はダイヤモンドによって隠すことができ、ブレスレットかソートワールネックレス、そしてそれぞれダイアルを見せるか隠すかと、計4通りの楽しみ方ができる。
レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション
ヴァシュロン・コンスタンタンは、複雑で不規則にも見える中国暦に基づくパーペチュアルカレンダーを備えた、「レ・キャビノティエ ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」を発表した。本作は2877個の部品から構成されており、先例のない63の複雑機構を搭載する、最も複雑なタイムピースだ。
手巻き(Cal.3752)。245石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWGケース(直径98mm、厚さ50.55mm)。ユニークピース。
2877個の部品数は、2015年発表の「リファレンス57260」が打ち立てた記録を塗り替えるもので、本作は31本の指針、9枚のディスクから構成される。中国暦コンプリケーションに加え、スプリットセコンド機能を備えるクロノグラフ、1027年間の調整が不要な精度を持つムーンフェイズ、ISO 8601に準拠するグレゴリオ暦パーペチュアルカレンダーを備えるほか、帰零時間を補正したレトログラード秒表示、3つの回転軸を備えるトゥールビヨン、23時間56分4.09秒の恒星日に従って回転するスカイチャート、第2時間帯の昼夜表示を備える。これらの多岐にわたる機能を一覧で以下に示す。
・時計と調速:9機能
・グレゴリオ暦パーペチュアルカレンダー:7機能
・中国暦パーペチュアルカレンダー:11機能
・中国農暦パーペチュアルカレンダー:2機能
・天文表示:9機能
・スプリットセコンド・クロノグラフ:4機能
・アラーム:7機能
・グラン・ソヌリ:8機能
・その他:6機能
前述の通り、本作の画期的な点は、中国暦を表示するパーペチュアルカレンダーだ。中国暦の月は太陰暦に基づき、山東半島と杭州市を通る東経120度線(UTC+8時間)上で計算された新月の日から始まる。月の満ち欠けの1周期である1朔望月(29.53日)にならうため、29日または30日で区切られる月が不規則に続く点が特徴だ。12朔望月は1太陽年(365.2422日)より11日短いため、中国暦では2年から3年に1回、13ヵ月目の閏月を挿入する。中国暦の1平年は353日、354日、355日のいずれかで、1閏年は383日、384日、385日となる。さらに、中国の新年は1月21日から2月21日の間で変動し、太陰暦の始まりを区切っている。加えて、中国暦では1太陽年を太陽の経路上で15度ごとに24の区間に分け、各期間はjie(節)とqi(気)と呼ばれ、交互に15日間続く区分けがなされる。
中国暦のもうひとつの特徴は、ふたつの一連の符号(十干と十二支)を60通りに組み合わせ、これらに基づいて数えられる時の単位が存在する点である。六十干支と呼ばれるこの単位は、年の経過を表すほか、月、日、時にも適用される。十干は五行(木、火、土、金、水)、および極性(陰、または陽)と組み合わせで表示され、十二支は、中国干支の鼠、雄牛、虎、兎、龍、蛇、馬、山羊、猿、雄鶏、犬、豚(日本での猪)が当てられている。五行とふたつの極性による十干と、十二支の最小公倍数である60の組み合わせによる周期が存在することとなる。
中国暦の構成は、天文現象を可能な限り表現するために考案されたものであるため、気候や天文現象の観点では正確性を備えるが、単純な機構学の観点から見れば、従来は不規則なものとして扱うほかなかった。本作は、それぞれは周期的な切り替わりを持つ各区切りをモデル化し、その組み合わせを表示しうる機構が与えられている点が画期的である。
このような暦がモデル化され組み込まれた本作は、2200年までの中国暦を正確に表示することが可能である。月齢、太陽周期、メトン周期(月の満ち欠けと季節が一致する周期で、235朔望月あるいは19太陽年)をカウントおよび表示しつつ、これらを組み合わせることで中国の新年の正確な日付をディスク表示する。11時位置には平年か閏年か、12時位置の窓には朔望月の大小、6時位置のサブダイアルによる指針で日付表示、8時位置と4時位置でそれぞれ曜日と月を表示する。9時位置のサブダイアルでは、陰陽の極性と五行を組み合わせた十干をジャンピング表示に統合し、3時位置のサブダイアルではダブルアワーと組み合わされた十二支を表示する。2時間ごとの12の部分からなる1日は午後11時からはじまり、24時間継続して表示される加えて、その年の中国干支の動物のシルエットが、ムーンフェイズ下の窓表示に表れる。
このほか、伝統的な複雑機構であるグレゴリオ暦のパーペチュアルカレンダーや、アラーム、グラン・ソヌリを備えており、本作は歴史的な超弩級のコンプリケーションとして、歴史に名を刻むこととなるだろう。
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