『クロノス日本版』の編集部員が話題のモデルをインプレッションし、語り合う連載。今回は、編集長の広田雅将、副編集長の鈴木幸也、細田雄人、そして新人の大橋洋介の4人で、オメガの「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」を着用した。かつて水深1万935mに到達したプロフェッショナル用ダイバーズを市販用に転用したモデルだ。6000m防水性能を維持させながら日常使いできる上質な外装に仕上げられていた。
Photographs by Masanori Yoshie
阿形美子:文
Text by Yoshiko Agata
[2024年4月16日公開記事]
6000m防水ダイバーズを普段使いするとどうなる?
細田「今回のモデルは、オメガの『シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ』というデカ厚ダイバーなので、新人の大橋くんが加わって男4人でむさ苦しい感じでやっていこうと思います(笑)」
大橋「よろしくお願いします!」
細田「このモデルのオリジナルは『シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ プロフェッショナル』で、2019年の五大洋すべての最深部に挑む有人探査プロジェクト『ファイブ・ディープス』で潜水艇のロボットアームに装着された時計です。マリアナ海溝では深度1万935mを記録し、世界で最も深い所まで行った時計ということになります。その特殊な時計を市販用にリメイクして22年に発売されたのが、この『シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ』です
6000m防水性能が最大の特徴で、ケースは2種類。独自素材のO‑MEGAスティールとチタンです。今回はチタンケースを着用しました。O‑MEGAスティールの外装にはフルポリッシュが施されていますが、チタンはセラミックスベゼルも含めてマットな仕上げ。引き通しのNATOベルトが付属して、ケース素材によってキャラクターが大きく異なっています」
ポリアミド製のNATOストラップを装着。自動巻き(Cal.8912)。39石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。グレード5チタンケース(直径45.5mm、厚さ18.12mm)。6000m防水。209万円(税込み)。
鈴木「ケース径が45.5mm、厚さが18.12mmと大ぶりな時計だけど、チタン製で軽いから普通に着けられましたね」
細田「びっくりするぐらい軽いですよね。全重量は編集部の実測値だと123gでした。この重量って他の時計だとどのくらいのサイズに相当するんですかね?」
広田「具体的なモデルはすぐには出ませんが、軽い時計の部類に入ると思います。一般的なダイバーズウォッチは、ブレスレットだと全重量は180gを超えてくるはず」
鈴木「重量は気にならなかったけど、厚みはあるから着けたままデスクワークをするとさすがにぶつけやすい。車両感覚じゃないけど、この時計の厚みの感覚を掴むまでは歩きながらぶつけちゃった(苦笑)」
細田「軽いからこそ、つい厚みを忘れちゃいますよね」
広田「装着感は、昔のIWCの“ドッペル”(=ドッペルクロノグラフ)に近いと思った。でも、似てるけどドッペルはもっと腰高だったから、こっちの方がもっと着けやすい。軽いし。厚みに慣れる必要はあるけど、普通に使えちゃうね」
厚めのNATOストラップで安定した着け心地
鈴木「でも、6000m防水でケース厚20mmを切ってるのはすごいですよ。軽さに加えて、NATOストラップだから腕にしっかり巻きつけられて良かったです」
大橋「そうでしたか? 僕は腕が細めだからかもしれませんが、いまいちこのストラップがハマらなくてヘッドがあっちこっちに行ってしまいました。ぶつけたら嫌だなと思って仕事中は外していました」
鈴木「大橋くんの腕周りにはあまりフィットしなかったってことなのかな」
大橋「そうだと思います。今回着けてみて、個人的には薄い時計の方が好きなのだと分かったのですが、でもデザインはすごく好みでした」
細田「個人的には、NATOストラップはケースの下に通す分、重心が上がるから、腕にぴったりはめるのはそんなに得意じゃないのかなという気はしています。ただ、このモデルに関しては、重心が高くなるのを軽さでカバーしていますね」
鈴木「確かに、ヘッドが重いと振り回されちゃうからね」
細田「ただ、実際のダイバーズウォッチとして考えた時にNATOストラップってすごく使いやすいとは思うんですよ。腕周りの調節もしやすいですし」
広田「このNATOストラップって普通のものと少し違いますよね? 肉厚になってる? 良いなぁと思った」
細田「若干はケースの厚みに合わせて調整されているとは思います」
鈴木「一般的なペラペラのNATOストラップだったら、ケースがこれだけ軽くても浮いちゃうと思う」
広田「この厚みを標準装備にしてほしいと思いましたね」
鈴木「あと、ちょっと困ったのが尾錠のつく棒。普通は尾錠に当たって止まるようにできているけど、これは短いんですよね。だから着けづらいなって。これも水圧対策なのかな?」
広田「ダイビング中にぶつけたり尾錠に何かが引っかかったりした場合や、水圧がかかった時のことを想定しているんじゃないですか? つく棒が短ければ、何かに引っかかっても外せるし。あと、ストラップに遊革がなく、ふたつとも定革になっているのも、意味があると思います」
細田「一般的なストラップは、固定されたループの定革と、可動のループの遊革とが、ひとつずつ付いていますよね。これ、ふたつとも定革のせいで、ストラップの先を固定できないんですよね」
鈴木「そうそう! 余った部分が邪魔だった。」
広田「その場合、ストラップの先の処理は、こうやってふたつ目の定革に通してから折り返して差し込むんですよ」
細田「そこに入れるんだ!」
鈴木「ストラップの余りが短すぎると折り返せないけど、たくさん余ったらそう着ければいいんですね」
7.5トンの水圧に耐える強靭な外装
鈴木「視認性も良かったですよね」
細田「このインデックスはアプライドなんですかね? それとも、シールで貼ってます?」
鈴木「貼ってるっぽくない? 少なくとも蓄光の部分は貼っていると思います。でも、貼っていても立体感があるからしっかりと見えますね」
細田「蓄光はダイバーズウォッチあるあるですが、潜水に関わるベゼルのスタート地点と分針だけはカラーが変えられています。潜水中は潜ってから何分経ったかを見るだけなので。一点ツッコミを入れるとすれば、ベゼルの数字に蓄光を入れないと経過時間が厳密には分からなんじゃないか、ってことですね。ただ、そもそも現在の飽和潜水って作業内容等を船上の管制室によって管理されるので、ダイバーが自分で時間を計る必要は実はないんですが……」
鈴木「まぁ、本当にこれを着けて6000mまで潜る人はほぼいないから」
細田「それから、水圧に耐えるために分厚い風防を使うと、瓶底メガネみたいに文字盤が歪んで見えちゃうことがあるんですけど、これは斜めから見てもちゃんと時分針が読み取れます」
広田「その点も非常に良いですね」
細田「潜水機能に関しては、セイコーの“ツナ缶”と一緒で、ヘリウムエスケープバルブを付けずに、そもそもヘリウムをケース内に入れないという方式で飽和潜水に対応していますね」
広田「ヘリウムを入れない工夫は2点あって、まず、リュウズや裏蓋の間に入れてるガスケットをメタル製にしている点。もうひとつは、裏蓋とケースの間にゴムパッキン製のOリングを挟むのではなく、接触面を斜めにして広げている点ですね。これによって完全にヘリウムをシャッターする。この時計の場合、6000m防水と謳っていますが、実際には7.5トンの水圧までを試験でクリアしているから、その水圧に耐えて、しかもチタンケースって脅威的ですよね」
細田「つまり、数字の上では象が踏んでも壊れない。バックルやラグがつながっていないのも、水圧がかかった時に逃がすための仕様ですよね」
鈴木「そう。水中では全方位から圧がかかるから、歪んだり破断したりする可能性があるからね」
広田「大きな水圧に対応するためにリュウズのパッキンもバチバチに入っているので感触が重い。だから手巻きはするな(笑)」
ツールウォッチらしさを押し出した巧みな仕上げ
細田「仕上げやディテールについてはどうですか? 個人的にはチタンケースは全体をサテンでまとめているのが上手いと思いました」
広田「全面をサテン仕上げにしたから、よりツールウォッチらしい。仕上げが綺麗だから、分かりやすい高級さはないけど、上質さが伝わってきますね」
鈴木「オメガはチタンをちゃんと加工できるって技術力が伝わります」
細田「セラミックベゼルまで仕上げをサテンでそろているところにオメガの意地を感じます。表示部分はダイバー300とかにも使われているリキッドメタル™ですけど、流し込んで固まったらセラミックスと一緒に一気に表面を磨いているんですね」
鈴木「リキッドメタル™は溝の中まで流し込まれているので、擦れて表示が消えることがないのも長所だよね。それから、このモデルでは風防とケースの固定にもパッキンの代わりにリキッドメタル™を使って機密性を上げています。そういう使い方も斬新だと思いました」
広田「チタンケースの角を念入りに落としてあるのも好感ですね。僕は第8世代のスピードマスターの最初期ロットを購入したんだけど、仕上げすぎてラグの先端が鋭くて痛い(笑)。気合い入れて磨き過ぎてた。それに比べて、肌当たりが改善されてます。このモデルに関して言えば、ラグも短くて腕に当たらないですし」
細田「全長が短いですよね。ちなみに、このラグは『マンタラグ』と言って、バネ棒の代わりにラグ自体を内側に伸ばした特殊なものです」
鈴木「そうだね。全長が短いからNATOストラップでピッタリと腕に括り付けられて、しかも軽いからぶん回されない。これで全長が長かったら、腕の上に収まらない人もいるだろうね。特に日本人は腕の細い人が多いし」
広田「精度はどうせ良いだろうと思って、僕はちゃんとは測らなかったんですけど、どうでした?」
鈴木「僕は測りましたよ。T24は測り忘れちゃったけど、T48でプラス6秒、24時間後のT72では累積でプラス7秒。日較差がプラス1秒だから、優秀ですね。使えます!」
広田「素晴らしいですね」
細田「あと、便利な機能としては、時針だけ単独調整できるタイムゾーンファンクションがあります」
鈴木「リュウズの1段引きで時針だけ動かせるから、タイムゾーンを超えた時とかサマータイムとかに時計を止めずに合わせられるのはすごく良いですね。さすがオメガのムーブメント」
細田「スペックには『アラベスク調ジュネーブウェーブが美しい』とも書いてありますが、もちろんスクリューバックなので見ることはできません(笑)」
鈴木「その仕上げはオメガがずっと昔からやってるので、見られないけど一般教養として知っておけば良いかと思います」
日常使いもできるオーバースペックを絶賛
鈴木「さて、大橋くんは今回が初めてのインプレッションだけど、どうだった?」
大橋「私はもう印象のことしか話せないんですけど、SFに出てきそうな佇まいが好きでした。“手の中の特殊メカ”という感じですよね」
鈴木「僕もこのデザインは好きだな。ブルーの差し色もすごく爽やかで素敵だし。良い意味でケレン味があるから、見た目で惚れる人はいるだろうね」
細田「インプレッション中はどこ行っても注目されましたよ。あとは『この時計、6000メートルまで潜れるんです。僕のダイビングライセンスでは40mまでですけどね』って冗談が言える(笑)」
広田「6000m防水と言っても、実際のところは1.25倍して7000mぐらいまで対応できると思いますけど、そのスペックで普通使いできるのは驚異的だと思います。マジで。ひと昔前まで、こんなの考えられなかった」
鈴木「そうだよね。日常でも心配なく使えるオーバースペックだから、着用してみて毎日楽しかったです」
https://www.webchronos.net/features/95193/
https://www.webchronos.net/features/106940/
https://www.webchronos.net/features/112146/