オメガが2024年夏に開催されるパリ2024オリンピックを記念して発売した、「シーマスター ダイバー300M パリ2024」を着用レビューする。本作は、細部に至るまで“特別"や“高級”であることを所有者に意識させつつ、優れたユーティリティーも提供しており、オメガが時計市場で確固たるポジションを築く理由が垣間見える1本であった。
Text & Photographs by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2024年4月16日公開記事]
オメガ「シーマスター ダイバー300M パリ2024」を着用レビュー!
1932年以来、オリンピックのオフィシャルタイムキーパーを長年務めてきたオメガは、この国際スポーツ競技大会の開催に合わせて、過去、スペシャルエディションを発売してきた。2022年開催の北京オリンピックに合わせた「シーマスター アクアテラ 北京2022」や、21年開催の東京オリンピック向けとして「シーマスター アクアテラ」「シーマスター プラネットオーシャン」「スピードマスター プロフェッショナル」の3コレクションから多彩に記念モデルが打ち出されたことは、記憶に新しい読者もいるだろう。
今回着用レビューするモデルは、そんなオリンピックのための、スペシャルエディションだ。今夏に予定されているパリ2024オリンピックの開催を記念して、昨年8月に発表された「シーマスター ダイバー300M パリ2024」である。
自動巻き(Cal.8800)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS×18Kムーンシャイン™ゴールドケース(直径42mm、厚さ13.7mm)。300m防水。137万5000円(税込み)。
本作は「シーマスター ダイバー300M」コレクションに属するため、その名の通り300mの防水性能を備えたダイバーズウォッチだ。逆回転防止ベゼルはもちろん、ヘリウムエスケープバルブを備えているため、飽和潜水も想定されている。多くのシーマスター ダイバー300Mと同様に、光沢あるセラミックス製文字盤にはレーザー加工によって波を思わせるパターンがあしらわれている。一方で「パリ2024」としての特別感あるディテールも備えている。例えばベゼル、裏蓋のメダリオン、インデックスが18Kムーンシャイン™ゴールド製であること(針は18Kムーンシャイン™ゴールドによるPVD加工)。
18Kムーンシャイン™ゴールドはオメガ独自の合金によるカラーゴールドで、パラジウムの含有量を増やすことで、一般的な18Kイエローゴールドよりも明るく、それでいて経年変化にも強いという特性を備えた。後述もするが、裏蓋にはオリンピックの聖火を思わせるメダリオンがセッティングされており、そんな仕様も特別感を覚える。なお、このメダリオンも18Kムーンシャイン™ゴールド製だ。
本記事で、特別なシーマスター ダイバー300Mを着用レビューしていこう。
オメガの成功の理由が見えてくる腕時計
本作をインプレッションするにあたってまず楽しみにしていたのは、自分にとって初のゴールドが使われた腕時計を、しかもオメガの18Kムーンシャイン™ゴールドを、手元で味わえるということだ。ゴールドを手首に装えるというのは、やはり高揚感がある。とはいえ、その分腕時計の重量は増し、手首にかかる負荷も大きくなるかな? といった思いもあった。
以前、オメガの「シーマスター アクアテラ シェード」38mm径モデルを着用レビューした。このアクアテラの着用でも非常に驚かされたのが、文字盤の発色が良い点(シェードシリーズは鮮やかな文字盤色を備えている)や、ケースやブレスレットがポリッシュとヘアラインで丁寧に仕上げ分けされてて高級感がある点だ。そういったデザイン面でのポジティブな印象はもちろんのこと、着用感や性能面でも満足度が高かった。
今回取り上げるシーマスター ダイバー300Mも、着用前はこういったユーティリティー面でのレビューが主になるかなと思う一方で、直径42mm、厚さ13.7mmの本作は、手首回り14.7cmの自分にとっては持て余してしまうのでは、という懸念もあった(ダイバーズウォッチとしては決して大きすぎず、むしろ標準的なサイズであることは記しておく)。さらに、前述の通り、一部とはいえゴールドが使われていることもあり、コマを6つ外した状態で実測した重量は180g。自分の手首にとって大きかったり、重かったりする腕時計というのは、着用に違和感を覚えるケースが多くある。女性で、しかも普段使用している腕時計の重量が40~90gである自分にとっては、なおさらだ。
しかし、本作もまた、良好な装着感は健在であった。もちろん直径は42mmあるため手首の平面部から少しはみ出してしまっているのだが、リュウズは大きすぎず手の甲に干渉しない。また、全長が短く、ラグが手首に沿うように湾曲しており、かつ重心も低いため負担も感じなかった。
もっとも、最近は各時計メーカー、品質がとても向上していると感じる。エッジが立ち過ぎて肌あたりが悪いことはそう多くはなく、リュウズにガタつきがあったり、極端に操作性が悪かったりする個体もあまり見かけない。工作機械の進化で、低価格帯でも良質な仕上げを備えており、あるいは優れた装着感を追求するブランドも存在する。
このシーマスター ダイバー300M パリ2024モデルの定価は税込み137万5000円だ。より手の届きやすい価格で、品質の良い腕時計がマーケットに流通している中、なぜあえて高級腕時計を購入するのかを、不思議に思ったことはないだろうか。特にオメガは時計市場において極めて高いプレゼンスを誇っており、大きな成功を収めている高級ブランドのひとつだ。
なぜオメガは高級時計として成功しているのか? その答えはユーザーによってさまざまだろうし、回答は決してひとつではない。しかし「自分が数ある時計の中で、あえてオメガを選ぶ(まだ実際には購入していないので、厳密には“選びたい”だが)理由」の答えのひとつが、このモデルを着用しているうちに見えてきた。
オメガの腕時計は高級感と実用性、そのどちらも秀でており、オメガの成熟した時計製造技術を感じ取れるがゆえに、私たちはオメガの価格に納得し、オメガを選ぶのではないだろうか、という答えだ。いわゆる高級腕時計が高い理由には、外装やムーブメントがハイレベルな仕上げを備えていたり、インデックスや針といったディテールに凝っていたり、ムーブメントの部品点数が多かったりなどが挙げられる。
工作機械が発達したとはいえ、やはり下地処理の程度によって仕上げの出来栄えは異なるし、パーツ同士のクリアランスも高級機ほど詰まっている。オメガの製品は、そういった高級腕時計として、所有への満足感を高める要素を備えている。
実際、本作は意匠がかっこいいとか洗練されているとかはもちろん、凝ったケースの造形や針、稜線やブレスレットのセンターなどに与えられたポリッシュ仕上げが放つ光沢、18Kムーンシャイン™ゴールドの輝き、クリアランスの詰まったケースと弓管(ケースとブレスレットを固定させるパーツのこと)、ベゼルと裏蓋の、くっきりと浮き出たスケールやロゴを取り巻く、独特のフロスト加工部……こういった“作り込まれていることが分かる”高級腕時計らしいディテールによって、137万5000円という価格に納得できる仕上がりを有しているのだ。
さらに、パリオリンピックのためのモデルという特別感のために演出されているディテールが、満足感を底上げする。例えば6時位置のカレンダーディスクの、ブラックの数字にはパリ 2024で使われているフォントが採用されている。さらに特筆すべきは、裏蓋のメダリオンやエングレービングだ。記念デザインとなっており、聖火を思わせる18Kムーンシャイン™ゴールド製メダリオンや、「Paris 2024」や五輪の刻印があしらわれている。
この裏蓋はねじ込み式であるにもかかわらず、オメガが特許を取得したナイアードロックシステムによって、どの個体も常に正位置の方向に取り付けられるのだ。特別モデルであるからこそ、こういった配慮は購入するユーザーにとってうれしいポイントだし、高級時計ブランドとして“高級であること”の矜持を感じる。
オメガはこの、いわゆる“高級感”に加えて、実用性の追求においても余念がないというのが、さらに価格への納得感……むしろお得感を覚えさせる。装着感がその最たるものだろう。実用性と価格が比例するとは限らない。とりわけ装着感は、手首サイズによって左右されることもある。しかし本作は、個人差はあると思うが、明らかに大きいであろう自分の手首にとっても、しっくりとなじんだ。また、300mという防水性に加えて、マスター クロノメーター認定の超耐磁性能を有した自動巻きムーブメントCal.8800を搭載しており、日常生活の相棒として十二分の実用性を発揮してくれる。外装の“高級感”を突き詰めるだけでなく、こういった腕時計として“使える”ことにも妥協しないオメガのウォッチメイキングへの姿勢を本作で感じたことで、オメガの成功の理由を垣間見た思いだ。
実用面もレビューしていく
このように、オメガの成功をもうかがわせる出来栄えの高級腕時計である本作。意匠や装着感についてはひと通り述べられたと思うので、そのほかの実用面を詳しくレビューしていく。
まず、視認性について。ダイバーズウォッチということもあり、スッキリとシンプルで、それでいて力強い針が組み合わされた文字盤は、とても見やすい。セラミックス製文字盤と、18Kムーンシャイン™ゴールドが蒸着され、ファセット加工が施された針、そしてダイヤモンドでポリッシュされたインデックスは高級感に寄与する。この意匠は高級感のみならず、文字盤とインデックスがコントラストを作って、判読性を高めてもいるのだ。このコントラストは強いというほどではないが、太陽光下でもインデックスが文字盤に埋没することもなく、視認性は良好だった。なお、インデックスと針にはスーパールミノバが塗布されており、暗所での視認性も確保されている。
また、本作はオメガの新しいクイックチェンジシステムが搭載されている点でも、優れたユーザビリティーを獲得したと言える。近年のメタル製ブレスレットを備えた高級腕時計はケースと弓管のクリアランスが詰まっており、この隙間のなさが高級機らしいと言えるのだが、一方で自分自身での脱着が非常に困難という側面を持っている。しかし、本作はこのクイックチェンジシステムによって、ユーザー自身で工具なしに、簡単にブレスレットとケースを取り外すことができ、お手入れや、ストラップ交換を気軽に行えるのだ。
また、クラスプにも要注目だ。このクラスプはオメガが特許取得済みのラック&プッシュ エクステンダブル フォールディングクラスプとなっており、“PUSH”の部分を押しながら動かすことで、伸縮ができる。
さらに、オメガではもはや標準装備となった、マスター クロノメーター認定のムーブメントが搭載されていることは、本当に実用面で大きなアドバンテージだと感じる。
マスター クロノメーターはC.O.S.C.クロノメーター公認ムーブメントを搭載した時計を対象に、さらに8つの厳格なテストを課し、このテストを突破したことで与えられる認定だ。特に1万5000ガウスの磁場においても機能を損ねない耐磁性能は、多くの機械式時計の不具合になりやすい磁気があふれる現代社会において、心強い相棒となってくれることだろう。
携帯精度も良好で、1日14時間程度着用し、24時間経過時点で+1秒、48時間経過時点で+2秒であった。
このように、褒めることしかない本作にあえて難癖を付けるのであれば、リュウズが小さいのでやや操作しづらいことか。とはいえ着用中は主ゼンマイがよく巻き上がっていた。パワーリザーブも約55時間と標準的であるため、毎日着用するのであれば、リュウズを使って操作する必要性はあまり感じないだろう。また、ベゼルが18Kゴールド製であるため、傷付けないよう配慮が必要ではあったものの、自分自身の所有物であれば、ガシガシ使って自分だけの傷を備えたダイバーズウォッチに仕上げてもかっこいいのではないだろうか。
特別な高級腕時計として、自信を持っておすすめしたい1本!
オメガがパリ2024オリンピック開催を記念して発売した、特別な「シーマスター ダイバー300M」を着用レビューした。
18Kムーンシャイン™ゴールドやオリンピックエディションとしての特別感にあふれつつ、オメガらしい凝った外装と優れた実用性を備える本作。オメガが現在、時計市場で大きな成功を収めている理由の一端が、本作から見えてきた思いだ。
オメガウォッチやゴールドが使われたモデルの購入を検討している読者は、ぜひ本作を選択肢に加えてほしい。きっと、オメガのハイウォッチメイキングに触れられるはずだ。
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