ロレックス「GMTマスターⅡ」からパテック フィリップまで! 2024年の新作パイロットウォッチ5選

2024.04.19

厳密な時間管理が必要なジャンルの専用機として発展してきたのがパイロットウォッチだ。タイムゾーンを超えた飛行が一般的となった現代において、パイロットウォッチは複数の時間帯を視認可能とする機能が求められている。この要望に応えつつ、より高度な時間管理を実現するモデルとしてパテック フィリップ「アラーム・トラベルタイム」の新作が今般発表された。その他、パイロットウォッチの歴史と深く関わるカルティエ「サントス ドゥ カルティエ デュアルタイム」やロレックス「オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ」の新作も発表された。そこで、各機能に着目しつつ、パイロットウォッチの歴史を振り返る。

サントス ドゥ カルティエ デュアルタイム

佐藤しんいち:文
Text by Shin-ichi Sato
[2024年4月19日公開記事]


確実な時間管理を可能とするパテック フィリップ「アラーム・トラベルタイム」新作

 パテック フィリップは現代的なドレスウォッチのオリジンのひとつであり同社のフラッグシップである「カラトラバ」や、超弩級のコンプリケーション、ラグジュアリースポーツの代名詞のひとつ「ノーチラス」など多彩なラインナップを擁する。そんなパテック フィリップも長らくパイロットウォッチをラインナップしており、外観の完成度の高さだけでなく、コンプリケーションを得意とする同社らしい機構を有している。

パテック フィリップ 2024年新作 アラーム・トラベルタイム

パテック フィリップ「アラーム・トラベルタイム 5520」
自動巻き(Cal.AL 30-660 S C FUS)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。18KRGケース(直径42.2mm、厚さ11.6mm)。3気圧防水。4104万円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンターTel.03-3255-8109

 今般発表されたのは、2019年初出の「アラーム・トラベルタイム」の新作だ。18Kローズゴールド製ケースに、グレーソレイユとアンスラサイトの2トーンダイアルを備える。先の尖ったシリンジ針と大ぶりで太いローマンインデックス、レールウェイミニッツトラックなどのパイロットウォッチらしい意匠が外観的特徴である。

 では機構に注目してみよう。スケルトンのシリンジ針はホーム時間帯、蓄光が施された短針はローカル時間帯を示し、それぞれのデイナイト表示が“HOME”、“LOCAL”にて示される。12時位置のデジタル表示はアラーム時刻で、その直下のインジケーターはアラーム時刻のデイナイト表示だ。なお、6時位置のポインターデイトはローカル時間帯と同期している。

パテック フィリップ 2024年新作 アラーム・トラベルタイム

 以上から、古典的なアナログ表示をベースとしながら、タイムゾーン間の往来の多いユーザーであっても、各機能を組み合わせることで確実な時間管理が可能なモデルとなっている。複雑な機構を有するように見えても、それを必要とするユーザーにとって有益な機能となっている点は、パテック フィリップの魅力である。


ロレックス「オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ」新色の追加

 ロレックス「オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ(以下GMTマスターⅡ)」にブラックのワントーンを採用した新作が発表された。現在のGMTマスターⅡは18年にモデルチェンジを受けたモデルで、Cal.3285を搭載している。本作は、このモデルチェンジ時に姿を消したRef. 116710LNを彷彿とされるカラーリングを採用したモデルだ。

オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ

 近いデザインを持つダイバーズウォッチ「オイスター パーペチュアル サブマリーナ―」(Ref. 124060)はブラックのワントーンが基軸となるカラーであるので、GMTマスターⅡにてブラックワントーンのモデルがしばらく不在だったのは不思議にも思える。しかしこれは、その成り立ちを考えればそれ以外のカラーリングが“基本カラー”であることが理解できるはずだ。そこで少し歴史を追いかけよう。

 1950年代に民間空路が整備され、タイムゾーンを跨ぐ長距離便あるいは国際便が増えたことで、出発地の時刻と到着地の時刻、航空機の運用時に必要なGMT(グリニッジ標準時=Greenwich Mean Time)のそれぞれを確認する需要が生まれた。このような民間パイロットの要望に応えるべく開発されたのが、時分秒針に加えてGMT針を搭載し、両回転式24時間表示ベゼルを組み合わせる方式だ。

オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ

ロレックス「オイスターパーペチュアル GMTマスターⅡ」Ref. 126710GRNR
自動巻き(Cal.3285)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.9mm)。100m防水。154万円(税込み)。(問)日本ロレックス Tel.0120-929-570

 これがGMTマスターⅡの前身に当たる「GMTマスター」の出自である。そして、この24時間表示ベゼルでは昼夜がひと目で判別できるように、レッドとネイビーといったコントラストの高いカラーリングが組み合わされた。(加えて、本作をパイロットウォッチ特集に取り上げたのは、この系譜を根拠としている)。 そのため、ブラックのワントーンモデルは派生モデルであると考えることができる。

オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ

ロレックス「オイスターパーペチュアル GMTマスターⅡ」Ref. 126710GRNR
自動巻き(Cal.3285)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.9mm)。100m防水。156万9700円(税込み)。(問)日本ロレックス Tel.0120-929-570

 さて、ウォッチズ&ワンダーズ2024で追加されたのは、3列タイプで中コマがポリッシュ仕上げのオイスターブレスレットモデルと、ラグジュアリーな雰囲気もあるジュビリーブレスレットモデルである。完成度の高さはロレックスであれば心配無さそうだ。あとは店頭で手に取る機会さえ恵まれれば、と願う次第である。


GMT機能の長年の課題を解決したか?! チューダー「ブラックベイ 58 GMT」

 チューダーはクラシカルなテイストの強い「ブラックベイ 58」にGMT機能を搭載した「ブラックベイ 58 GMT」を発表した。

チューダー 2024年新作 ブラックベイ

(右)チューダー「ブラックベイ 58 GMT」Ref.M7939G1A0NRU-0001
自動巻き(Cal.MT5450-U)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径39mm、厚さ12.8mm)。200m防水。64万3500円(税込み)。
(左)チューダー「ブラックベイ 58 GMT」Ref.M7939G1A0NRU-0002
自動巻き(Cal.MT5450-U)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径39mm、厚さ12.8mm)。200m防水。61万3800円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570

 本作のプレスリリースに記された機能に関するトピックスは、搭載するCal.MT5450-Uが従来ムーブメントにGMTモジュールを載せるのではなく、新規開発することで最適設計を図ったことと、それを搭載する本作がマスター クロノメーター認定を受けていることの2点であった。

 マスター クロノメーター認定を受けることは非常に難易度が高く、十分に注目に値することであるのだが、それ以上のことは記載がなかった。しかし実際には、本作は驚きの機能を隠し持っていたのである。詳しくは下記の記事を参照いただきたい。

チューダーの2024年新作「ブラックベイ 58 GMT」。本当にすごいのは中身です!

https://www.webchronos.net/features/113471/

 要約すると以下である。リュウズ2段引きで時分針とGMT針を調整し、1段引きで時針単独調整と日付調整を行う。これは昨今のGMT機能付きモデルと同様。従来は、時刻が戻る方向にタイムゾーンを横切った際に必要な日付の逆戻しを可能とするため、日付は針の動きに同期したゆっくりとした切り替わりを行うのが常識だった。これに対してCal.MT5450-Uは瞬時日送り機能を実現したのである。

 ケース径は39mmで厚さは12.8mmと、200m防水かつ凝ったGMT機能を搭載していることから考えるとコンパクトに仕立てられている。今後、GMT機能搭載モデルのベンチマークとなるモデルと言える完成度だ。


世界初の男性向け量産型腕時計かつ初のパイロットウォッチの系譜「サントス」最新作

 オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡが、1950年代の民間航空機パイロットに向けて作られたパイロットウォッチを起源とすることは先に示した。時期から考えて民間航空機パイロット向けモデルとしては初期のものであると言える。では、パイロット向けウォッチの始祖となるモデルは何か?

カルティエ サントス ドゥ カルティエ デュアルタイム

カルティエ「サントス ドゥ カルティエ デュアルタイム」
自動巻き。SSケース(縦47.5×横40.2mm、厚さ10.01mm)。10気圧防水。139万9200円(税込み)。2024年9月発売予定。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00

 それはカルティエ「サントス」である。サントスは、11年に発売が開始された世界初の男性向け量産型腕時計という歴史を持つモデルだ。そしてサントスは、創業家一族のルイ・カルティエが、友人であり飛行機の実用化に大きく貢献したアルベルト・サントス-デュモンに向けて“飛行中に時刻を確認しやすい時計”として考案したものをベースとしている。故にサントスは、世界初の男性向け量産型腕時計かつ初のパイロットウォッチなのである。

 発表された「サントス ドゥ カルティエ デュアルタイム」は、このような背景を踏まえたモデルと言えるだろう。チャコールグレーでサンレイ仕上げのダイアルには、6時位置に第2時間帯表示が加えられている。ルイ・カルティエの時代には実現しなかったタイムゾーンを超えた飛行を想定した機能である。

 本作は高い外装品質も相まってモダンな印象を備えつつ、スクエアケースとそこから伸びるラグを持つシルエットと、放射状に並ぶローマンインデックスが、サントスのオリジナルモデルあるいはプロトタイプに通じている。

 このような完成度の高いデザインが世界初の腕時計として考案された時点で生み出されていたことは、ルイ・カルティエの先見性の高さを証明していると言えるだろう。


偉大な宇宙飛行を共にしたパイロットウォッチの系譜 ブライトリング「コスモノート」最新作

 ここまでは、大気圏を飛行する航空機向けのモデルであった。では、大気圏を超えて宇宙空間に飛び出てみよう。その際に必須なのが、先日発表されたブライトリング「ナビタイマー B12 クロノグラフ 41 コスモノート リミテッドエディション」だ。

ブライトリング 2024年新作 コスモノート

ブライトリング「ナビタイマー B12 クロノグラフ 41 コスモノート リミテッドエディション」Ref. RB12302A1L1P1
自動巻き(Cal.B12)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KRGケース(直径41mm、厚さ13.6mm)。3気圧防水。世界限定250本。295万9000円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707

 コスモノートのオリジナルモデルは、58年から始まったアメリカ初の有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」の中で、62年のマーキュリー・アトラス7号による飛行で宇宙飛行士となったスコット・カーペンターの要請で作られた腕時計だ。彼はもともとブライトリングのファンであり、ナビタイマーの計算機能に感銘を受けていたと伝えられている。

 コスモノートは「ナビタイマー」をベースとしつつ、宇宙空間でも昼夜の区別がつくように24時間表示のダイアルを備え、宇宙服の分厚い手袋を着用したままでも操作しやすいようにボリュームのある回転ベゼルが搭載されていた点が特徴であった。

ブライトリング 2024年新作 コスモノート

 新たに発表されたのは、ブライトリングの140周年の節目に復刻された限定モデル「ナビタイマー B12 クロノグラフ 41 コスモノート リミテッドエディション」である。オリジナルモデルの特徴を受け継ぎつつ、ケースは華やかな18Kレッドゴールドで、それに映えるディープグリーンのダイアルが組み合わされている。

 また、インダイアルや回転ベゼルによる航空計算尺をブラックとすることで引き締まった印象に仕立てられている。非常に緻密なスケールがダイアルに配置されながら、印字が明瞭で視認性を確保している点は、ブライトリングの140年の歴史と経験、および近年の同社の高いダイアル製造技術を反映したものであろう。

ブライトリング 2024年新作 コスモノート

 これまでの宇宙飛行は国策としての宇宙開発の一環であった。しかし時代は変わり、民間の宇宙飛行が可能となりつつある。その際には、本作を相棒とするのはロマンにあふれる選択である。


大空に思いを馳せる人気パイロットウォッチ10選。魅力や歴史も解説

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