2024年に各社が発表した新作ムーブメントから、特筆すべき5つのムーブメントをピックアップ。今年も各社の思想が色濃く反映された、個性的な機械が我々に驚きを与えてくれた。
Text by Tsubasa Nojima
[2024年4月20日公開記事]
今年の新型ムーブメントは、手巻き式に注目!
グランドセイコーが満を持して発表した新型手巻きムーブメントをはじめ、極限の薄さを追い求めるブルガリとピアジェ等、2024年も驚くべき新型ムーブメントが多数発表された。今回は、その中から5つのムーブメントを厳選し紹介する。ムーブメントを通して垣間見える各社の思想にも注目だ。
グランドセイコー「Cal.9SA4」
手巻き(Cal.9SA4)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。ブリリアントハードチタンケース(直径38.6mm、厚さ9.95mm)。3気圧防水。145万2000円(税込み)。2024年8月9日(金)発売予定。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
グランドセイコーがウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2024で発表した、新型の機械式手巻きムーブメントがCal.9SA4だ。ベースとなったのは、20年に発表された自動巻きのCal.9SA5。毎秒10振動のハイビートや、動力の伝達効率を高めるデュアルインパルス脱進機、安定した精度を長期的に保つフリースプラングテンプ、約80時間のパワーリザーブを生み出すツインバレル等の特徴は、Cal.9SA4でもそのまま受け継いでいる。
手巻きムーブメントに仕立てるにあたって、感触への配慮を忘れなかった点は特筆に値する。コハゼとコハゼバネを新規に設計し、主ゼンマイを巻き上げた際の巻き味と音の心地よさを追求したのだ。
しかしながら、約80時間分の巻上げを負担に感じることもあるだろう。そんな意見を見越し、Cal.9SA4では、手巻きの輪列を見直すことで巻上げ回数を約15%も削減することに成功している。受けにはパワーリザーブインジケーターが配され、巻上げ残量を視覚的に把握することが可能だ。
グランドセイコーのメカニカルモデルが生産される、岩手県雫石町の自然に着想を得た仕上げが施されている点も見逃せない。受けには面取りと、雫石川の流れを表現したストライプ装飾が施され、コハゼの形状は、グランドセイコースタジオ雫石にも現れる鳥、セキレイをモチーフとしている。
ブルガリ「Cal.BVL180」
手巻き(Cal.BVL180)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。Tiケース(直径40mm、厚さ1.7mm)。世界限定20本。予価8428万2000円(税込み)。2024年9月発売予定。(問)ブルガリ ジャパン Tel.0120-030-142
薄型時計というジャンルで一際存在感を放つブランドが、ブルガリだ。同社はこれまで世界最薄の機械式時計として8つの記録を樹立してきた。しかし、22年に時計界に衝撃を与えた出来事が起きた。22年に発表され、当時の世界最薄を打ち立てた「オクト フィニッシモ ウルトラ」の厚さ1.8mmという記録が、その年のうちにリシャールミルによって塗り替えられたのだ。
そしてそれから2年が経った今年、ブルガリは「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」によって、世界最薄の記録を奪還した。そのケース厚は1.7mm。前作に比べて0.1mm薄く、リシャールミルの記録からは0.05mm薄い。この数字からは、同社が世界最薄を追求し続ける執念とも言える姿勢が感じられる。
オクト フィニッシモ ウルトラ COSCが搭載しているムーブメントが、Cal.BVL180だ。輪列を水平に配することで厚みを減らし、ムーブメントが直接組付けられるケースバックとメインプレートには、硬度と耐久性に優れたタングステンカーバイトを採用している。それだけではなく、C.O.S.C.公認クロノメーターを取得し、優れた精度を持つことが証明されているのである。ただ数字を追いかけるだけではなく、時計としての実用性を忘れない姿勢は、敬服の念に堪えない。
ピアジェ「アルティプラノ」
手巻き。パワーリザーブ約40時間。コバルト合金×ブルーPVDケース(直径41.5mm、厚さ2mm)。2気圧防水。要価格問い合わせ。(問)ピアジェ コンタクトセンター Tel.0120-73-1874
薄型時計を得意とするブランドとして、ピアジェの存在を忘れてはならない。創業150年を迎えた同社は今年、「アルティプラノ アルティメートコンセプト トゥールビヨン」によって、厚さわずか2mmのケースにトゥールビヨンを搭載するという偉業を成し遂げた。
パーツの配置は、従来の「アルティプラノ アルティメートコンセプト」が搭載していたムーブメントと大きく変わらない。12時位置にあった時刻表示用のインダイアルをやや1時側にオフセットすることで捻出したスペースに、セラミックス製ボールベアリングで保持されたフライングトゥールビヨンを配している。言葉にすれば簡単だが、その実現にあたっては、70種類以上のトゥールビヨンキャリッジ、15種類以上のアンクル、30種類以上のケースフレームの改良を繰り返している。
調速機そのものが回転するトゥールビヨンは、固定式の調速機に比べ、エネルギーの消費量が多くなってしまう。同社はこの課題に対し、厚みをやや増したカスタムメイドの主ゼンマイを採用し、ピボットの代わりにボールベアリングを組み込むことで、約40時間のパワーリザーブを達成した。
パルミジャーニ・フルリエ「Cal.780」
手巻き(Cal.780)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRGあるいはPt950ケース(直径40.6mm、厚さ8.8mm)。18KRGモデル:709万5000円(税込み)。Pt950モデル:820万6000円(税込み)。(問)パルミジャーニ・フルリエ pfd.japan@parmigiani.com
今年復活を遂げたパルミジャーニ・フルリエの「トリック」コレクション。そのうちのひとつ、「トリック プティ・セコンド」の搭載するムーブメントが、Cal.780だ
現代では貴重な、新規設計のスモールセコンド式手巻きムーブメントであり、その素材には18Kローズゴールドが用いられている。トリック プティ・セコンドはシースルーバック仕様だが、輪列の全貌を見ることはできない。幾何学的に分割された3枚の受けによって、そのほとんどが覆われているからだ。唯一確認できるのは、両持ちのテンプ受けによって支えられたテンプと、ふたつ並んだ香箱である。
受けにはコート・ド・フルリエや面取りが施されており、受けの隙間から覗く地板のサンドブラストとのコントラストが、高い審美性を生み出している。
クラシカルなデザインのムーブメントだが、毎秒8振動の振動数と、約60時間のパワーリザーブを備え、現代的なスペックに仕上げられている。厚さは3.15mmと薄く、これによってトリック プティ・セコンドのケース厚は8.8mmに抑えられている。
カルティエ「Cal.1928MC」
手巻き(Cal.1928MC)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。Ptまたは18KYGケース(縦43.7×横34.8mm、厚さ10.2mm)。日常生活防水。世界限定200本。Ptケース:897万6000円、18KYGケース:778万8000円(ともに税込み)。2024年10月発売予定。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00
「カルティエ プリヴェ」として登場した、「プリヴェ トーチュ モノプッシャークロノグラフ」が搭載する新型の手巻きクロノグラフムーブメント。横ふたつに並んだインダイアルは、3時位置が30分積算計、9時位置がスモールセコンドとして機能する。
特筆すべきは、モノプッシャークロノグラフであることだろう。一般的なクロノグラフのように独立したふたつのプッシュボタンは存在せず、リュウズと同軸に配されたひとつのプッシュボタンが、スタート、ストップ、リセットの全ての操作を司る。
自動巻きローターが存在しないため、クロノグラフ特有のコラムホイールやキャリングアームなどの動きや、ストライプ装飾が与えられた受け等、見どころにあふれたムーブメントを隅々まで堪能することができる。ムーブメント自体が、トーチュのトノー型ケースに合わせたデザインであることも好ましく、シースルーバックからは、ケースの隅まで目一杯に詰まった様子を見ることができる。
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