ジャーナリストをはじめ、時計業界の著名人たちに2024年に発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回はNH WATCH創業者の飛田直哉が選出する。時計業界きっての目利きと言われる飛田は、クラシカルなデザインを持つ時計を中心に挙げた。
1位:カルティエ「カルティエ プリヴェ トーチュ モノプッシャークロノグラフ」
フランソワ-ポール・ジュルヌ設計のムーブメントを搭載した先代モデルが発表された際と同様の驚きをもって見た新作。極めてクラシックなデザインのムーブメント(特に板ばね!)と、細部まで詰められたバランスのよいデザインの組み合わせはまさにカルティエ。
手巻き(Cal.1928MC)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。18KYGケース(縦43.7×横34.8mm、厚さ10.2mm)。日常生活防水。世界限定200本。778万8000円(税込み)。2024年10月発売予定。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00
2位:パテック フィリップ「ゴールデン・エリプス Ref.5738/1」
一見昔ながらのデザインのメタルブレスレットウォッチに見えるが、実際は最先端の製造技法と手作業の組み合わせによって新たに生み出されたサイズ調整可能なデザイン、というパテック フィリップならではのやり方によって生み出された力作。圧巻。
自動巻き(Cal.240)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRGケース(縦39.5×横34.5mm)。3気圧防水。906万円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109
3位:グランドセイコー「エボリューション9 コレクション 手巻メカニカルハイビート36000 80 Hours モデル SLGW003」
新世代基幹ムーブメントたるCal.9SA5の派生型。昨年のクロノグラフに続いて、どのようなモデルが出るのか楽しみにしていたが、こう来たかと思わせる新作。リュウズを巻いた際の感触を重視しているというムーブメントと、GSらしい鉄板のデザインの組み合わせは見た瞬間に「売れそう」と思わせる。更なる派生モデルも楽しみ。
手巻き(Cal.9SA4)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。ブリリアントハードチタンケース(直径38.6mm、厚さ9.95mm)。3気圧防水。145万2000円(税込み)。2024年8月9日(金)発売予定。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
4位:フレデリック・コンスタント「クラシック デイト マニュファクチュール」
同社の時計にはデザイン的に好きなものがいくつかあるのだが、ややサイズが大きすぎると感じていたので、ケース直径が40㎜になったことは好ましい。個人的にはもう少し小さくてもいいような気もするが、大きなマーケット向けの時計と考えるとこのくらいが適切か。バランスのよいデザイン。
自動巻き(Cal.FC-706)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.7mm)。5気圧防水。予価55万円(税込み)。(問)フレデリック・コンスタント相談室 Tel.0570-03-1988
5位:エルメス「エルメス カット」
私見ではエルメスの時計のデザインは、ツボにはまるものと、え、何で?と思うものに極端に分かれる。この「エルメス カット」はまさにエルメスらしさを備えつつもクラシック・デザイン好きにも支持されるちょうどいいバランスを持っているように感じた。ムーブメントや、インターチェンジャブルのブレスレットに至るまでスキなしで、ラバー・ストラップのモデルは1,000,000円を切るとなると、成功しない要素はないように思える。
自動巻き(Cal.H1912)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径36mm)。10気圧防水。102万4100円(税込み)。(問)エルメスジャポン Tel.03-3569-3300
総評
2024年のウォッチズ&ワンダーズは地味だったという声もあるようだが、派手な超大作こそ少ないものの、イベントの運営(実際に現地に行けなかったため、あくまでもWebで見た情報や、参加した方から聞いた情報を元にして)、プロダクトのクオリティーや、デザイン、マーケティング等々、着実に進歩している印象を受けた。
“ラグスポ”のトレンドがやや落ち着きをみせ、広い意味でのドレスウォッチの新作が多く見られたのも市場のニーズの変化を着実に汲み取っている証しのように思える。選にはもれたものの、ヴァシュロン・コンスタンタンの「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」のような、一般的ではないものの時計製造の限界に挑戦する超弩級の大作や、シャネル「J12 クチュール ワークショップ オートマタ キャリバー6」のような従来イメージされていたラグジュアリー・ウォッチのテイストに一ひねりを加えたようなモデルの登場も興味深かった。
昨年の後半から高級時計市場全体の景気は、やや減速傾向にあると言われているが、W&W2024を見る限り、ビジネスの方向性が大きく変わることはなさそうであるとの感想を持った。
飛田直哉のプロフィール
NHウォッチ創業者。1990年代から複数の外資系商社でセールスやマーケティングを担当し、F.P.ジュルヌやラルフ ローレン ウォッチ アンド ジュエリーの日本代表を務めた後、2018年に独立。自身の名を冠したNaoya Hida & Co.が、世界各国の時計愛好家から購入希望が殺到するほどの成功を収める。
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