日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、2024年に発表された新作時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は、ブランド腕時計の正規販売店紹介サイトGressiveで編集長を務める名畑政治が、「先入観を排除し、素直な心で私の琴線に触れるモデルをピックアップ」。なお、5本の時計はすべて同列、順位なしだ。
アンジェラス「インスツルメント ドゥ ヴィ テッセ 60セカンド クロノ」
手巻き(Cal.A5000)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径39.0mm、厚さ9.27mm)。30m防水。世界限定各25本。予価1万7100スイスフラン。(問)アーノルド&サン相談室 Tel.0570-03-1764
まるで先祖返りしたかのようなアンジェラスのクラシカルなクロノグラフ。
ブランドが復活した際は、かなりアバンギャルドな作風で仰天したが、結局、このクラシカルで上質なスタイルに復帰したことが時計ファンとして単純にうれしい。
チャペック「プロムナード グット・ドー」
自動巻き(Cal.SXH5)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径38mm、厚さ10.6mm)。120m防水。世界限定100本。予価265万円(税込み)。(問)ノーブル スタイリング Tel.03-6277-1604。
4時半の位置から水紋が広がるかのような独創的な文字盤を採用したモデル。
なんともいえない微妙な立体感と目眩(めまい)を起こしそうな尖鋭的な造形が、チャペックのモダンなムーブメントにピタリとマッチしているように思う。
パルミジャーニ・フルリエ「トリック プチ セコンド」
手巻き(Cal.780)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ptケース(直径40.6mm、厚さ8.8mm)。820万6000円(税込み)。(問)パルミジャーニ・フルリエ pfd.japan@parmigiani.com
ブランドのイニシャルである「PF」のシンボルしかないミニマムな造形美を、微妙なグリーンの少しザラッとした文字盤の仕上げで、さらに魅力的にしている。
そしてヌバック仕上げのアリゲーター・ストラップや手巻きムーブメントの造形も素晴らしく、これはもう芸術品だ。
パテック フィリップ「コンプリケーション」Ref.5396
自動巻き(Cal.26-330 S QA LU 24H)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWGケース(直径38.5mm、厚さ11.2mm)。3気圧防水。958万円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109
極めてシンプルなルックだが、これで利便性に富む年次カレンダー搭載だから素晴らしい。
しかもグラデーションつきのブルーソレイユ・ダイアルには紳士モデルながらバゲットカットのダイヤがセットされ、ラグジュアリー感も満点。こんな品の良いジュエリー・ウォッチなら着けてみたいね。
ロレックス「パーペチュアル 1908」
自動巻き(Cal.7140)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約66時間。Ptケース(直径39.0mm、厚さ9.50mm)。50m防水。437万300円(税込み)。
昨年発表されて話題をさらったモデルに新ダイアルが登場。
それがアイスブルーのギヨシェ仕上げなのだから、実に洒落ているし、このカラーリングによってクラシカルさと現代的なテイストが見事に融合したように思う。
総評
今年もまた新作時計発表のシーズンが巡ってきたわけだが、実際は多くのメーカーが春だけでなく、年間を通して最適な時期に新作を発表するようになってきた。なので以前のようにバーゼルとジュネーブを取材して、ほぼ全メーカーを網羅するのが難しくなりつつある。とはいえ、それでもまだ、かなりのメーカーが春の「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」でめぼしい新作を発表することも事実。
そんな膨大な新作の中から、たった5つだけ選べというのは酷な話だが、先入観を排除し、素直な心で私の琴線に触れるモデルをピックアップしたら、このラインナップになった。
それを客観的に分析すると、傾向としては、アンジェラスやパテック フィリップなどのように、やはりクラシック好き、シンプル好きという指向性が顕著である。だが、単にクラシックなだけでなく、そこにモダンな意匠を取り込んだモデル、たとえばチャペックの「プロムナード」のようなモデルも非常に気になる。
というわけで、今回のセレクトからは惜しくも外さざるを得なかったが、以前から注目し続けているクロノスイスやエベラール、ペキニエなどの新作も非常に興味深いので、是非、チェックしてみていただきたい。例によってすべて同列、順位なし。
選者のプロフィール
名畑政治
ブランド腕時計の正規販売店紹介サイトGressive編集長にして、日本における時計ジャーナリストの第一人者。1994年よりスイスの大規模時計展示会を取材し続け、得た見識は業界随一だ。クロノス日本版では特集記事の執筆のほか、巻末の「Chronos Top10 Ranking」で選考委員を務める。近年は犬派から猫派に転向。共著に「カルティエ時計物語」。
https://www.webchronos.net/features/113370/
https://www.webchronos.net/features/114238/
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