ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで広がる「夢の入り口」。並木浩一が選ぶ【2024年発表の時計ベスト5】

2024.04.23

日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、2024年に発表された時計から、特筆すべき5本を選んでもらうこの企画。今回は、大学教授であり、時計ジャーナリストとしても活躍する並木浩一が選出。生き方のステージを押し上げるような、いい時間といい人生をともにできるような、そんなモデルが選ばれた。なお、5本の時計に順位はない。


パネライ「サブマーシブル トゥールビヨン GMT ルナ・ロッサ エクスペリエンス エディション」

45mmサブマーシブル初のトゥールビヨン、メイン素材はカーボテック。購入者はアメリカズカップ期間中にバルセロナに招待され、舞台裏見学も含めてルナ・ロッサ プラダ ピレリ チームへのアクセスが許される特別待遇に。

パネライ サブマーシブル トゥールビヨン GMT ルナ・ロッサ エクスペリエンス エディション

パネライ「サブマーシブル トゥールビヨン GMT ルナ・ロッサ エクスペリエンス エディション」Ref.PAM01405
手巻き(Cal.P2015/T)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。カーボテックケース(直径45mm、厚さ17.25mm)。300m防水。世界限定20本。2024年7月発売予定。(問)オフィチーネ パネライTel.0120-18-7110


シャネル「J12 クチュール ワークショップ オートマタ キャリバー6」

シャネルの世界観をオートマタで描く時計は、新キャリバーの画期的成果だ。ダイアル上にはパリ・カンボン通りのアトリエ室内を思わせる舞台。8時位置のボタンをひと押しすると、ハサミを持った“マドモアゼル”シャネルが動き出す。

シャネル「J12 クチュール ワークショップ オートマタ キャリバー6」
自動巻き(Cal.6)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。高耐性ブラックセラミックケース(直径38mm)。50m防水。世界限定100本。3707万円(税込み参考価格)。(問)シャネル(カスタマーケア) Tel.0120-525-519


パテック フィリップ「ワールドタイム」Ref.5330

日本を夜出発した直行便が当日の朝にハワイに着陸するあの違和感を、秀逸な腕時計が帳消しにする。人為的な国際日付変更線を完全克服した、選択したタイムゾーンの現地時刻と日付を完全同期するワールドタイマーが定番化。

パテック フィリップ 2024年新作 ワールドタイム

パテック フィリップ「ワールドタイム」Ref.5330
自動巻き(Cal.240 HU C)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWGケース(直径40mm、厚さ11.57mm)。3気圧防水。1155万円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンターTel.03-3255-8109


IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」

西暦3999年までは日付表示を変更する必要はない」は名フレーズ。“400年車”を組み込み、閏年の例外規定に対応。閏年ではなくなる2100年、2200年、2300年をスキップして平年表示し、2400年は正しく閏年表示を行う。

IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」Ref.IW505701
自動巻き(Cal.52640)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約7日間。Ptケース(直径44.4mm、厚さ15mm)。5気圧防水。要価格問い合わせ。(問)IWC Tel.0120-05-1868


ウブロ「ビッグ・バン ウニコ ピンクサファイア」

「ママにピンクのキャデラックをプレゼントするよ」の約束を守った故エルヴィス・プレスリーが、この時計を見たらどう反応するか。サファイヤクリスタルの色彩を自在に操るウブロのなかでも、とびきりの魅惑的なカラーだ。

ウブロ「ビッグ・バン ウニコ ピンクサファイア」
自動巻き(Cal.1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。サファイアクリスタルケース(直径42mm、厚さ14.5mm)。5気圧防水。世界限定100本。1657万7000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055


総評

 今年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブが一般公開日を延長したことの意味が大きいのは、決して1本の時計も売ることはない空間に人々を招き入れ、夢の入り口を広げたことにある。体験はそこから始まるのだ。時代に求められる腕時計は、おそらくは実際的な存在理由ではなく、それがあることによる価値の意味の方が優っている。腕時計が生き方のステージを上にあげてしまう、ということなのだ。

 いままでになかった機能や色、表現はすべて、それ自体以上に新しさによる感覚の“ワンダーズ”の方が重要なのである。購入自体が特別な経験である高級腕時計の世界で、さらに特別なエクスペリエンスをどのように付加できるのか。いま腕時計ブランドに求められているのはただ技術だけではなく、想像力の閾値の高さであり、領域の広さであるようにおもえる。だからこそ腕時計の世界は、毎年わたしたちを飽きさせることなく更新され、無限に続くようにみえるのである。

 憧れの腕時計は、言うまでもなく高級消費財。つまりは“もの”ではあるが、それを購入することは“モノ消費”ではなく“コト消費”の性格が強い。なにを買うかだけでなく、どの店で買うのか、いつ納品されるのか。それらはすべて一連のセレモニーに等しく、満足感に影響する。いい時計店、いいスタッフ、その時計を理解できる周囲の人々。それらはすべて、モノから発した体験に違いない。我々はいい時計と一緒にいい時間、いい人生を手に入れているのである。



選者のプロフィール

並木浩一

並木浩一

時計ジャーナリスト、桐蔭横浜大学教授。専門分野はメディア論、表象文化論、日本語教育、行政書士法、旅行業法。1990年代より、高級時計の取材を国内外を問わず続ける。著書に『ロレックスが買えない』(CCCメディアハウス)、『腕時計一生もの』(光文社新書)等。


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