カルティエ、ピアジェ、シャネルも、2024年のジュエリーウォッチは華やか！　本間恵子が選ぶ新作ベスト5

ジャーナリストをはじめ、時計業界の著名人たちに2024年に発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は時計・ジュエリージャーナリストの本間恵子が選出。香水の香りが楽しめるヴァシュロン・コンスタンタン「エジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイム」や、あっと驚く仕掛けが施されたヴァン クリーフ&アーペル「アパリシオン デ ベ オートマタ」など、普通の時計とは一線を画す作品が多く挙げられた。

ヴァシュロン・コンスタンタン「エジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイム」

時計とオートクチュール、そして香水という3大ラグジュアリー分野が融合。刺繍したストラップに香水が入ったナノカプセルを仕込んでいるので、着用すると甘い芳香がたちのぼる。肌に直接つけない、というのは香水の新しい楽しみ方なので、商品化を期待する。

ピアジェ「オーラ」

昨年、ブルーサファイアのモデルが登場したが、今年はルビーとピンクサファイア、ダイヤモンドのバゲットカットを使用。赤からピンク、透明へとなめらかにいたる徹底したカラーグラデーションの追求に脱帽した。次はぜひ非加熱ルビーにチャレンジしてほしい。

シャネル「バスト ロングネックレス クチュール」

パヴェで飾ったトルソーの中に文字盤が隠されていて、時間がどうのこうのいう以前にとにかくカワイイ（こういうのはもうクォーツでいいんです）。ガブリエル・シャネルという、メゾンにとって最高最大の遺産に立脚した、確固としてぶれないメゾンの思いを感じた。

カルティエ「リフレクション ドゥ カルティエ」

時計の文字盤と向き合う面が鏡のように磨かれており、文字盤がそこに映り込むとまるでデュアルタイムのように見えるというアイデアに感服。一部のダイヤモンドはキュレット（底部の尖った部分）を上にしてセットされており、指で触れたときの感触もまた楽しい。

ヴァン クリーフ&アーペル「アパリシオン デ ベ オートマタ」

毎年何かが開いて何かが出てくるのだが、今回はラッカーで彩色したベリーの茂みがカリヨンの音とともにふわりと開き、青い鳥が現れて愛らしく羽ばたく。ピーター・カール・ファベルジェのインペリアルイースターエッグを思わせる美しさは、まさにワンダー。

総評

　スニーカーを履いてくればよかった、と後悔したほどウォッチズ＆ワンダーズ ジュネーブの会場は広かったが、ジュエリーウォッチはそう多くはなかった。レディースウォッチ自体が少なかったように思う。ラグスポが売れ続けている間は、無理して足を突っ込まなくてもいいかも、という判断かもしれない。

　近年は多くのメーカーが時計の高級化をはかっているが、時計専業以外の異業種参入メゾンは、時計を時計として表現しないことに注力し、ひねりを加えた表現の幅広さ、面白さで別次元の独自性をアピールしている。その名の通り、ウォッチにワンダー（驚異、驚嘆、不思議）なスパイスをふりかけて、人の心をワクワクさせるのだ。このワクワク感というか、人の感情をかき立てるという意味での「エモーショナル」というキーワードは、レディース、メンズの区別なく会場に漂っていたように思う。

　腕時計ではないヴァン クリーフ&アーペルのオートマトンをベスト5に入れたのは、デザインに密かなメッセージを感じたからだ。青い鳥はいうまでもない幸福のシンボル。実や種は、イコノロジーにおいては、希望を与えてくれる隠れた可能性を象徴するという。さまざまな暗い影が世界を覆っている今、これは平和を賛美する声なき声だと思ったのだが、ちょっと深読みしすぎかな。

本間恵子のプロフィール

時計・ジュエリー専門ジャーナリスト。元ジュエリーデザイナーながら、紆余曲折を経て物書き業に転身。キズミと宝石用の高倍率ルーペを常に持ち歩く。『フィガロジャポン』や朝日新聞などで連載を持つ。