2004年の登場から多彩なバリエーションを展開してきた「オリエント マコ」。その20周年記念モデルは、波模様を型打ちしたブルー文字盤のほか、随所に特別なディテールが与えられている。筆者は以前から、雨の日のバイク移動にも気兼ねなく使えるダイバーズ系のスポーツウォッチを、10万円以内の価格で探していた。本作の税込み価格は5万7200円! 実際に着用して、じっくり実力をチェックしたい。
Text & Photographs by Iwao Yoshida
[2024年4月26日公開記事]
王道のダイバーズ顔がトラッド好きに刺さる
オリエントといえば、自社製ムーブメントを独創的なデザインの外装に搭載したモデルが得意とのイメージをお持ちの人もいるかもしれないが、一方でコンサバティブなデザインも多数ラインナップしており、スポーツコレクションに属する「オリエント マコ」の歴代モデルも、ダイバーズウォッチの王道的なデザインを採用してきた。
シリーズの誕生は2004年。1964年にリリースされたブランド初のダイバーズウォッチ「オリンピアカレンダー ダイバー」から続く、オリエントのダイバーデザインの特徴を守りながら、着実にアップデートを重ね、日本はもとより、海外でも熱狂的ファンを獲得してきた。2004年の初代モデルは曜日修正用のためのボタンが2時位置に存在したが、15年の第2世代以降はリュウズでの曜日修正に変更され、以降、ますますベーシックなダイバーズルックとなっている。今やダイバーズウォッチをビジネスに使うことは珍しくないが、トラッドな装いが好きな人にはオリエント マコのデザインはハマるはずだ。
なお“マコ”という女性名のような名称を不思議に感じる人もいると思う。もともとこれは愛称。裏蓋のイルカのアイコンをサメと間違えた海外のユーザーが、マオリ語でサメを意味する“MAKO”と呼びはじめ、それが一部地域のファンに浸透していったらしい。なかなか可愛らしい響きの名前であり、ファンにとってはここも愛着を高めるポイントになっているのだろう。
鮮やかなブルーをブラックで引き締める
海外でも人気の高い「オリエント マコ」の誕生20周年記念モデル。波模様が型打ちされたブルー文字盤に加え、ブルーとブラックに色分けされた逆回転防止ベゼルにより、特別感を高めている。自動巻き(Cal.F6922)。22石。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径41.8mm、厚さ12.8mm)。20気圧防水。国内限定500本。5万7200円(税込み)。
今回レビューするのは、20周年記念を祝う500本限定モデルだ。初代モデルから続くアラビア数字を配した文字盤は鮮やかなブルーで塗装され、波をモチーフとした型打ち模様がくっきり施されている。プレス向けリリースには「12時から6時にかけて日本を取り囲む美しい海をイメージしたブルーグラデーション塗装を施し」とあったが、型打ち模様が邪魔をするのか、筆者にはそのグラデーション効果がよく分からなかった。とはいえ、微妙な濃淡をたたえた奥行きあるブルーではあることは確か。角度によっては波模様がヘリンボーン柄のようにも見え、なかなか小粋な文字盤である。
4時位置部分に、文字盤外周の目盛りに紛れ込ませるかのごとくAnniversary Editionの文字を筆記体で配した“控えめ加減”もいい。時分針や、2頭のライオンがオリエントの「O」を囲むお馴染みのロゴにはゴールドカラーを用い、さりげなく華やかさを高めているのも好感だ。
逆回転防止ベゼルのアルミプレートは、三角マークから20分までを文字盤にそろえてブルー、それ以降をブラックで塗り分けたツートーン仕様。レッドとブルーで塗り分けた“ペプシ”ベゼルほど派手すぎず、なかなかクールな配色だと思う。ベゼルにブラックが入ることでブルー文字盤もキリッとしまって見える。ちなみに筆者はブラックの服が多く、1年のうち 300日はデニム……それもブラックデニムを7割、ブルーデニムを3割の頻度ではいている。そんな人間にとっては、このモデルのカラーリングは絶好と言えそうだ。
小径好きも許容できる絶妙プロポーション
オリエント マコを借りている間、真面目な筆者はほぼ毎日着用した。私はアジア人の典型とも言える細腕(手首周囲16.5㎝)で、普段も小径の手巻き時計を好んで着けているため、径41.5㎜は大きすぎるんじゃないかと危惧したが、意外と腕乗りはいい。期間中、珍しく2度もスーツ着用がマストな取材があったが、多少シャツの袖口と干渉したものの、大きさを持て余すことはなかった。ケースに比してラグが短く切り詰められているからだろう。ベゼルでトリミングされているから、視覚的にも大きな時計を着けている感じが薄い。
ラグからストンとストレートに伸びる幅22mmのブレスレットもフィット感良好。ダブルロックの付いた3つ折れバックルも、各パーツが薄く仕立てられたせいか、嫌な厚みを感じない。ちなみにこのブレスレット、3連ブレスに見えるが、筋彫りで3つのコマに見せているだけで、ワンピースでできた凸型コマを連ねている。価格相応の仕様だが、ブレスのチャラ付きを防ぐという意味ではこれはこれで正解かもしれない。
6カ所に窪みを設けたマコ伝統の逆回転防止式ベゼルは、軽く回りつつ、細かなラチェットの響きがしっかり感じられる。回すのが癖になる好フィーリングといえよう。ベゼルの刻みも程よく丸められているから、冬場に操作したときも指の腹が痛くならず、シャツの袖口の傷みも防いでくれそうだ。
ねじ込み式リュウズは、ロックを解除した状態でゼンマイを回すことができ、そこから1段引きで日付と曜日の調整、さらにもう1段引いて時刻を調整するスタイル。リュウズガードがあるため操作がしづらいかなとも思ったが、リュウズは適度な大きさで、刻みも大きいため、スムーズにセッティングできた。
搭載する自社製ムーブメントCal.F6922は、毎時2万1600振動のロービート型で、バワーリザーブは約40時間。オリエントの多くのモデルに搭載される信頼性の高い機械で、ネットをのぞいたところ、メーカー公表の日差+25秒〜−15秒よりも、実機の方がはるかに高精度を叩き出すと書いている人が多かった。歩度測定器にかけていないので正確なところは分からないが、1度、手元のスマホの時計アプリでチェックしたところ、お借りした時計も日差+10秒いかない程度の高精度をキープしていた。
タフな機械式ダイバーズウォッチを装う
筆者はバイクを少ない趣味のうちのひとつとしている。毎日の事務所までの通勤にも、所有する3台のおんぼろバイクをとっかえひっかえしながら使っている。ひどい雨の日はさすがに電車通勤だが、多少の雨ならカッパを着てバイクに乗る。あいにく持っている時計は華奢なアンティーク、もしくは日常生活用防水レベルのものばかりなので、バイクに乗る際はたいてい携帯用の時計ケースに入れてカバンの底にしまっておき、事務所についてから腕に着けるという面倒なルーティンがある。G-SHOCKなどを着ければ面倒はないが、時計好きとしてはやっぱり機械式にこだわりたいのだ。
なので、以前からバイクに乗る時にも躊躇なく使える、タフな機械式ダイバーズが1本あればと思っていた。それも、できればセカンドウォッチ的な価格帯で。名門ブランドの高価なダイバーズを、雨をものともせずガンガン使い倒せたらカッコいいと思うが、自分にはそんな度胸も甲斐性もない。
その点5万円台で買えるこのオリエント マコはありがたい。ISO 6425のダイバーズ規格に準拠したモデルではなく、いわゆる陸ダイバーズだが、スクリューバックとねじ込み式リュウズで20気圧の日常生活強化防水を叶えているから、雨天でも安心して使える(もっとも、土砂降りの中でバイクを走行すれば時計にかかる水圧は相当なものだろうし、バイク自体の振動もかなりのものだから、そこは自己責任でお願いします……)。
じつはお休みの日にぽっかり時間が空いたので、近場のワインディグまでコイツを腕にバイクで出かけてみた。オリエント マコのヴィンテージダイバーズ風のルックスは、クラシックなライダーズジャケットとも、年季の入った我がバイクとも、予想通りにマッチしてくれて、気持ちが良い。ブルーの文字盤も春の日差しに映え、時刻確認のたびに爽快な気分に浸れた。お借りしている大切な時計なので、雨がパラついてきたらジャケットのポケットにしまうつもりだったが、もし自分の時計だったら、雨の中でも平気でそのまま腕に着けて走っていたと思う。
目の肥えた時計好きほどコイツの真価はわかる
リーズナブルな価格から、オリエント マコはともすると本格機械式時計のエントリーモデルとしてみなされがちだが、どっこい、目の肥えた時計好きほど、このオーセンティックなダイバーズスタイルウォッチは刺さるんじゃないだろうか。そもそも自社製ムーブメント搭載の20気圧防水時計、しかもこの隙のない外装クォリティとなれば、スイスブランドなら絶対10万円はくだらない。そこが分かる人には、とても健気で良心的なモデルと映るはずだ。たとえば街中で高級なダイバーズを着けてる知り合いとバッタリあったとしても、臆することはない。むしろ、日本のオリエントがこんないい時計作っていたことを知ってたかい? なんて自分の選択眼を自慢してやりたい。セカンドウォッチのつもりで買ったのに、気付くといつもコイツばかり着けている、なんてことになりそうなモデルである。
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