2024年3月、オメガは「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」に、新作モデルを追加した。同コレクションでは初となる、ラッカー仕上げのグロッシーなホワイト文字盤を備えたモデルである。今回オメガから、このモデルの実機を借りる機会を得た。アイコニックなムーンウォッチのスタイルはそのままに、純白のラッカー文字盤やアプライドインデックスによってツール感を抑え、新たにラグジュアリーなテイストがもたらされた本作を、撮り下ろし画像とともに紹介する。
Photographs by Masahiro Okamura
鶴岡智恵子(クロノス日本版):文
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2024年4月29日公開記事]
意外と少ないホワイト文字盤に、新たなるスター選手がやってきた!
現在、各時計ブランドから、さまざまな文字盤が展開されている。とりわけ色については、まさに多彩だ。製法の進化によって、かつては難しかった色味も安定して発色させることができるようになった結果、グリーンやサーモンピンク、アイスブルー、あるいは中間色など、各社が打ち出す文字盤色のバリエーションは百花繚乱となった。
そんな中で、常々「意外とホワイト文字盤って少ないんだよな」と思っていた。ホワイト文字盤は昔から存在する。しかし、高級腕時計というくくりで見た時、ホワイトエナメルやホワイトマザー・オブ・パールを除くと、意外と選択肢が限られてくる(写真ではホワイトだ! と思いきや、実物はシルバー文字盤だった経験多し)。
ホワイトはパッと目につく色で、文字盤に使われることで手元から存在感を放ってくれるし、シルバーとはまた違った雰囲気があって爽やかだし、ついでにほかの色と喧嘩せずさまざまなファッションに合わせやすいので、個人的には装飾品である腕時計と相性が良いと思っている。しかし、どのブランドの、どのコレクションにも用意されている色というわけでもない。
オメガはコレクションも、そのコレクションの中のバリエーションも豊富に展開しているだけあり、「シーマスター ダイバー300M」や「シーマスター プラネットオーシャン」「コンステレーション」のセラミックス製文字盤、「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」のラッカー文字盤など、比較的幅広くホワイト文字盤を扱っている。しかし今年、最も有名なオメガウォッチのひとつである「スピードマスター ムーンウォッチ」にラッカー仕上げのホワイト文字盤が加わったのは、同コレクションにとって初めてのことだった。
手巻き(Cal.3861)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42mm、厚さ13.2mm)。50m防水。125万4000円(税込み)。
「スピードマスター レーシング」や「スピードマスター ホワイト サイド オブ ザ ムーン」にはラインナップされているが、最もアイコニックな“ムーンウォッチ”にとって、ホワイト文字盤は稀少な存在だったのだ(カノープスゴールドモデルはシルバー文字盤)。
ちなみに本作のリリース前に、映画「007」でおなじみのダニエル・クレイグが23年11月にニューヨークで開催された「プラネットオメガ」で、本作を着用していた。当時まだカタログ未掲載ということもあり、いったい何のスピードマスターなのかと話題になっていた。この頃は「腕時計って遠目から見ると小さいのに、よく気付いたな」と思っていたものだが、うん、やっぱりホワイトって目立つよね。
そんな新たなるホワイト文字盤として登場した、新作スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター。「ホワイト」といっても、色味はさまざま。本作はまさに“純白”で、そんな純白がもたらすラグジュアリーなテイストに注目してほしい。
ツヤめく純白文字盤が、ツール感を抑える
新作スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーターの最大の特徴は、ホワイトラッカー仕上げの文字盤だ。前述の通り、これまでの同コレクションには採用されてこなかったバリエーションだ。なお、本作のリリースにあたり、オメガは「アラスカプロジェクト」のプロトタイプから着想を得ていると述べた。アラスカプロジェクトは、急激な気温変化に耐えられる時計を開発するためにオメガが立ち上げたプロジェクトで、1969年にこのプロトタイプを作成。そして2008年にはこのモデルの復刻モデルを製造し、1970本限定で販売した。さらに、新作スピードマスターはクロノグラフ秒針とSpeedmasterのロゴにレッドが差し色として使われている。オメガはアラスカプロジェクトに赤い保護ケースが付属していたことと、1970年のアポロ13号のミッション以来、宇宙服には船長の階級を示す赤い線が描かれたことから、この配色を採用したという。
本作のホワイトはシルバーやアイボリーがかっているなどはなく、まさに「純白」。また、表面を研ぎあげるポリッシュラッカーとなっているため、光沢を持っていることも特徴だ。写真のように強い光を当てて、平滑な白地を見るのも楽しい。パッと見た時は、ホワイトセラミックス製文字盤のようだと感じた。一方で光沢がかなり主張するため、室内灯の下で光の当たり具合が変わって、ロゴや各スケールがツヤツヤと光を放ち、エナメル文字盤のような風合いをも思わせる。
光沢のある文字盤からは、高級感を覚えやすい。現行ムーンウォッチのブラック文字盤は下地が荒らされている。そのため「宇宙探査に携行された」という、スピードマスターの歴史を感じさせるツール感が味となっているのだが、ホワイト文字盤ではグロッシーになることで、このアイコンをラグジュアリーなスタイルへと変化させている。
アプライドインデックスもラグジュアリーなテイストに寄与する
新作スピードマスターのもうひとつの特徴として挙げられるのは、ブラックのアプライドインデックスだ。既存のブラック文字盤はインデックスがプリントされていることに対して、本作はアプライド式となっており、立体感を備えている。
このイデックスの立ち上がりが思いのほか大きく、ホワイト文字盤とコントラストをなしている。ホワイト文字盤にプリントインデックスだと、フラットな印象になりやすい。立体感を添えることで、分かりやすくラグジュアリーなテイストを与えている。
こういった立体感は、視認性や判読性の高さにもつながる。そもそもホワイトとブラックの組み合わせなので、強い光源下でインデックスが文字盤に埋没してしまうといったことは本作では考えづらいが、インダイアル部分にも段差が付けられているため、白地の部分も判読しやすく、また立体的である。なお、この段差は現行ムーンウォッチの仕様。2021年から続く現行モデルより、かつての同コレクションに見られたこの仕様が復活した。また、文字盤外周のミニッツスケールを境に段を設けた“ステップダイアル”も往年のスピードマスターの仕様で、現行世代で復活したが、ホワイトスピードマスターのアプライドインデックスは、このステップに沿うようにして配されているところに、オメガの丁寧な仕事ぶりが感じられる。
また、ブラック文字盤はインデックス全体に蓄光塗料を載せているが、本作ではホワイトとブラックのコントラストを邪魔しないためか、蓄光塗料の面積は減り、外周側のインデックス先端に塗布されている。
ケースやムーブメントはいつも通りのムーンウォッチ
文字盤以外は、既存のスピードマスター ムーンウォッチと変わらない。現行ムーンウォッチは2021年に登場しており、その際のアップデートが反映されている。
搭載されるムーブメントも同じく、21年からマスター クロノメーター認定を取得した、手巻きクロノグラフのCal.3861。なお、ブラック文字盤には風防がヘサライト(硬化プラスティック)とサファイアクリスタルの2種が展開されており、前者はソリッド式、後者はトランスパパレント式のケースバックとなっている。ホワイト文字盤はサファイアクリスタル製風防のみのラインナップで、ケースバックはトランスパパレント式だ。
1万5000ガウスの超耐磁性能や、2万1600振動/時とロービートながら優れた精度を誇るこの高性能ムーブメントによって本作は、ラグジュアリーとユーティリティーが両立されている。ちなみに、マスター クロノメーター認定モデルには文字盤に“MASTER CHRONOMETER”表記が配されるのだが、スピードマスター ムーンウォッチはこの限りではない。ムーンウォッチとしてのスタイルを守るためであろう。ムーブメントのブリッジには“MASTER CO-AXIAL”の印字が施されている。
とりあえず、実機を見るためにオメガへGO!
新しい「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」は、すでに販売がスタートしており、SNSなどを通して購入しているユーザーを見かける。
ブレスレットモデル、パンチングスタイルのレザーストラップ、ラバーストラップの3種がラインナップされており、定価はブレスレットモデルが125万4000円、そのほかが119万9000円(いずれも税込み)だ。ブラック文字盤より、若干高値となる。
とはいえ価格差は大きくはないし、スペックも変わらないので、選ぶとしたら「好みの文字盤」だろう。トラディショナルなブラック文字盤を選ぶもよし。ラグジュアリーテイストを備えるホワイト文字盤で、人と違った装いを楽しむもよし。どちらも傑作であることに変わりはないので、実機を見比べるために、オメガに足を運んでみてはいかがだろうか。
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