【インタビュー】H.モーザーCEO「エドゥアルド・メイラン」

スモールメゾンの中で独自の立ち位置を獲得したH.モーザー。同社が採用するフュメダイアルや〝挑発的〞なスタイルは、多くの模倣者を生んでいる。同社CEOであるエドゥアルド・メイランは、こういった状況をどう思っているのか？

大切なのは挑発することではなく境界線を広げること

「私たちは時計業界のパイオニアだと思う。デザイン、テクノロジー、ビジネスでも冒険を続けて、新しい試みを盛り込んできた。Eコマースでもそうだと思う。ジェネシスコンセプトがひとつの例だね。常にアントレプレナーシップを持っていて、新しいもの、違うものを作りたいと思っている。一部の人からは挑発に見えるかもしれないが、そうではない。結果として、時計業界でバズるようなエフェクトを生んだのだろう。大切なのは境界線を広げることだね、挑発ではない」。彼はいくつかのブランドを例に挙げて、こうも追加した。

「私たちは動かなきゃいけないし、新しいセグメントを探さなきゃいけない。それが独立ブランドである理由だ。すべてのブランドはユーザーを驚かさなければいけないと思っている。挑発ではないよ。もちろん、定まったことをやるブランドもある。一方で、驚かすブランドもある。それが新陳代謝を呼ぶエコシステムだろう。クレイジーな試みで境界線を広げる点でいうと、リシャール・ミルなどが登場した2001年頃から変わったと思う。もっとも新しいテリトリーを探すことは大事だが、大きなブランドにとっては大変な作業だ。対して、私たちは規模が小さいからまだやりやすい」

　では今後、H.モーザーはどうするのか？

「ポストコロナは、サイレントに向かうだろう。アヴァンギャルドという点で、私たちは他社に先駆けていると思うよ」

　そして彼は、その立ち位置をさらに強化しようとしている。

「私たちは、クォリティを上げ、新しいクラフツマンシップをさらに盛り込んでいきたい。ラッカー、エナメル、そしてベンタブラック文字盤のように、もっと新しく難しいことに挑みたい」

　彼が強調するのは、質と量の両立である。

「私たちはビジネスを成長させたいが、同時に質も上げていきたい。質を高めるためには工業化を進めていきたいと思っている」。彼の狙いは具体的だ。

「現在、いくつかを変えている。そのひとつがサプライヤーの統合だね。文字盤やブレスレットの製造も、インハウスにしていきたいと思っている。また、ムーブメントに施す手作業の面取りも増やしてきた。ムーブメントもケースも文字盤も、もっと価値を上げていきたいと思っている。重要なのは質だ」