時計愛好家なら絶対に利用すべき! グローバルな盗難対策ソリューション「ENQUIRUS」

もし、あなたが大事にしている時計やジュエリーが盗まれたら、あなたはどうすればいいだろうか? 新型コロナ禍後、世界的に時計、宝飾品の盗難は急増している。そこで注目したいのが、リシュモンが2023年3月からスタートさせた「ENQUIRUS(エンクイラス)」だ。この画期的なソリューションについて紹介する。

©Yasuhito Shibuya 2023
2023年春「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023」で出会った「ENQUIRUS」のスタッフのみなさん。
渋谷ヤスヒト:取材・文 Text by Yasuhito Shibuya
[2024年5月11日公開記事]


時計業界、世界の時計愛好家が注目するソリューション

 2024年春、ジュネーブのパレクスポで開催された時計フェア「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(以下W&WG)2024」。このフェアにはその前身「SIHH」の頃から、時計ブランドの豪華なブースと新作展示と同じくらい興味深い、見逃せない「THE LAB(研究室)」というブースがある。ここでは時計ブランド各社が取り組んでいる時計業界の新しい取り組みが展示されている。

 2019年にはこのコーナーはメインフロアの中央に位置し、ソフトバンクの接客ロボット「Pepper(ペッパー)」の接客も現地で話題になった。だが2023年以降は残念なことに、見逃しやすい2階フロアに移動になったので、注目度は下がってしまった。だが筆者がひとりで慌ただしく観て回ったこのブースで、なんとも気になるものがあった。それが、時計宝飾品のグローバル・デジタル・プラットフォーム「ENQUIRUS(エンクイラス)」だ。

 2023年秋、銀座で高級時計専門の中古時計店で起きた強盗事件をきっかけに、「時計愛好家ならこれは絶対知るべき、利用すべきものだ」と気が付いた。そこで改めて取材を再開。2023年12月、このプラットフォームを立ち上げたリシュモンの責任者、スタッフにオンラインで取材することができた。この前編ではまず「ENQUIRUS」とは何か?」をご紹介したい。


大ブームの影で急増する高級時計の関連犯罪

 2020年から2022年にかけて世界を襲った新型コロナウイルスは、高級時計ビジネスに予想外の追い風となって世界に史上空前の高級時計ブームをもたらした。感染拡大防止のため各国で海外旅行や国内旅行が厳しく制限された結果、富裕層を中心に、これまで時計に興味のなかった人々が旅行消費の代わりに高級時計を積極的に購入したこと。一部の高級時計が二次流通市場で高騰し、高級時計が投資対象として注目されたこと。こうした理由で、スイスの老舗&名門ブランドを中心に、世界中で高級時計が大人気に。その結果、スイス時計の対外輸出額は2021年、2022年、2023年と史上最高を更新している。

スイス時計協会(FH)のデータに基づいてグラフ化した2019年から2023年のスイス製腕時計の総輸出額の推移。2022年、2023年と史上最高を更新した。

 だが、この「かつてない好景気」の一方で、高級時計の盗難や強盗、詐欺などの犯罪が世界中で急増している。2023年春の時点でも、アメリカのロサンゼルスやフランスのパリ、そして英国のロンドンで高級時計の盗難が前年比で50%以上も増加したという。特にロンドンでは、高級時計を着けている人を路上で襲撃する事件や、セレブリティのSNSの書き込みをもとに待ち伏せて高級時計を奪う事件など、凶悪で計画的な事件が頻発。ロンドン警視庁が繁華街での高級時計の着用やSNSへの写真の投稿を控えるよう呼びかけているほどだ。

 日本でも高級時計に対する関心の高まりとともに、人気時計ブランドの製品が品薄に。その結果、高級時計の二次流通市場での価格もかつてないほど高騰し、こうした時計を専門に扱う銀座の中古時計店を「闇バイト」の若者たちが襲撃した強盗事件をはじめ、高級時計に関連する犯罪が激増。最近では「手持ちの高級時計を預けてくれれば、代わりにレンタルサービスを運用してその利益を折半します」という謳い文句で高級時計を持ち主から事実上詐取したカタチになっている「トケマッチ」事件は記憶に新しい。

 国際刑事警察機構(ICPO)や各国の警察機関によれば、こうして持ち主の手元から奪われた高級時計や高級宝飾品は国境を越えて転売され、国際的な犯罪シンジケートの大きな資金源になっているという。そのため、こうした犯罪に対応し、その解決や抑止の国際的なソリューションが求められていた。


登録した時計をネットから追跡できるグローバル・デジタル・プラットフォーム

 世界的に高まる高級時計の人気。その結果、激増する高級時計を巡る犯罪。今回紹介する高級時計と宝飾品のレジストレーション(登録)サービス「ENQUIRUS」は、その解決、抑止のためのソリューションとして、「カルティエ」「ヴァシュロン・コンスタンタン」「A.ランゲ&ゾーネ」「ジャガー・ルクルト」「ピアジェ」「IWC」「ヴァン クリーフ&アーペル」などの高級時計メゾンを傘下に持つリシュモン グループが開発・提供するこうした犯罪に対応するための画期的なソリューションであり、グローバル・デジタル・プラットフォームだ。なお、このネーミングは、英語で「調査」「問い合わせ」「照会」を意味する名詞「enquiry」(インクワイアリ)からの造語だと思われる。

 2023年3月にサービスを開始した「ENQUIRUS」。その英語のトップページには、「The largest free lost and stolen watch and jewelry database in the world.」(世界最大の無料時計・宝飾品紛失盗難データベース)。さらに「A global secure platform to protect and store your watches and jewelry.」(時計や宝飾品を保護・保管するためのグローバルで安全なプラットフォーム)と書かれている。ただ、この説明だけでは読者のみなさんには、このソリューションの意味や価値、どんなサービスを提供してくれるのか、理解するのは難しいだろう。

 簡単に言えばこれは、あなたの時計や宝飾品を登録しておく全世界的なデータベースである。登録しておくと、万が一、あなたの時計や宝飾品が盗まれたとき、「自分の時計が盗まれた」ことを全世界に告知できるし、このデータベースを検索して「あなたの時計や宝飾品が、どこかの国で流通していないか」を24時間オンラインでいつでもチェックできる。

 時計を購入したあなたや、警察、保険会社、時計・宝飾品ブランド、中古品市場は、このデータベースを使うことで、簡単に連携できる。そして、紛失や盗難で失われた時計や宝飾品の、回収の可能性を高めることができる。

 もしあなたが中古の時計や宝飾品の購入を検討しているなら、あなたは購入前にこのデータベースを使って、そのアイテムが盗難品でないことを確認することができる。

「ENQUIRUS」が開発されるまでは、時計やジュエリーが盗難に遭っても、そのことを申告したり、それが中古市場に出回っているかどうかを検索・チェックしたりするための明確な方法、独自の信頼できるソリューションはなかった。

 また、中古時計店で中古時計を購入するとき、このデータベースを活用することで、その時計が盗品でないかどうか、安心して購入できるものかどうかも確認できる。


利用は専用アプリや公式ウェブサイトからオンラインで

 このアカウントの作成と時計や宝飾品の登録は、スマートフォンの「ENQUIRUS」アプリケーションや、パソコンでアクセスする「ENQUIRUS」の公式ウェブサイトから行うことができる。

(左)アップルのApp Storeにある「ENQUIRUS」専用アプリ。
(右)「ENQUIRUS」の公式ウェブサイトのトップページ(英語)。

 現時点では英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語に対応しているが、残念ながらまだ日本語には対応していない。だが、対応言語であれば、このソリューションを日本からも利用することは可能だ。

 まず行わなければならないのは、公式ウェブサイトもしくはスマートフォンに専用アプリをインストールして、名前やメールアドレス、スマートフォンの電話番号などを入力して①自分のアカウントを作ること。次に自分のアカウントページから、②所有している時計や宝飾品を登録する。現在、130カ国以上の人がアカウントを作って自分の時計を登録することが可能になっている。


多くの時計ブランドの製品が登録できる!

 そして、「ENQUIRUS」というソリューションの最大の特徴であり魅力でもあるのが、登録できる時計や宝飾品が、リシュモン グループ傘下のブランドに限定されていないことだ。公式ウェブサイトの「ブランドカタログ」に掲載されている時計ブランドの製品なら登録できる。言い換えれば、このプラットフォームは、リシュモン グループ以外の時計ブランドにも開放されていて、警察への届け出と時計のシリアルナンバーさえあれば、盗難の際に利用することができる。2024年5月11日時点で、221もの時計ブランドが掲載されている。その中には日本のセイコーやシチズン、オリエントはもちろん、「Naoya Hida & Co」のような独立系のマイクロメゾンや、ガーミンのようなスマートウォッチブランドやファッションブランドもある。

「ENQUIRUS」公式ウェブサイトのブランドカタログより。
https://enquirus.com/en/brand-catalog


時計の登録はスマートフォンのアプリなら簡単

 では具体的に、自分の時計や宝飾品をどのように登録すればいいのか? iPhone用アプリを使用した場合の過程の一部をご紹介しよう。ただ近い将来、日本語での利用も可能になると思われるが、現時点では日本語での利用はできないので、英語ページでの説明だ。

(左)ログイン完了画面。
(中)登録アイテム選択画面。
(右)登録ブランド選択画面。

 まず「ENQUIRUS」のアプリを立ち上げて、自分のアカウントを作成し、ログインしよう。なお、セキュリティ対策として「ENQUIRUS」では2段階認証が採用されているので、ログインをリクエストすると、ワンタイムコード入力画面になり、登録したアドレスにメールでコードが送られてくるので、そちらを入力しよう。

 すると、上の画像のいちばん左のトップ画面になる。

 なおこの画面の上には、時刻や電波の状態などの表示があるが、その部分はカットして掲載している。

 次に画面の中央にある「Add a piece」というバナーをタッチすると、中央の登録アイテムの選択画面になる。ここでアイテムを選ぶと、次は登録アイテムのブランドを選ぶ画面になる。そこで、登録したいブランドを選ぶと、下の左のモデル名選択画面が現れる。

(左)指定ブランドのモデル名選択画面。
(右)製品シリアルナンバー入力画面。

 ここでモデル名とモデル品番を選んでから、下の「Next」のバナーをタッチすると、上右のシリアルナンバーの入力画面となって、こちらにシリアルナンバーを入力することで、登録は完了する。

 なお「カルティエ」のようなリシュモン グループ傘下のブランドの現行モデルの場合には、モデル品番の入力と共にモデルの写真も表示される。だが、登録したいモデルの発売時期やブランドによっては、写真が表示されず、自ら写真を撮影してアップロードすることになる。このことを考えると、ウェブサイトから登録するよりも、アプリをインストールしてスマートフォンから登録するのがお勧めだ。すぐにスマートフォンで時計の写真を撮影してアップロードできるからだ。

 次回の後編では、「なぜリシュモンは、このソリューション・プラットフォームを立ち上げたのか」「今後の展開予定」について、この「ENQUIRUS」プロジェクトの責任者を務めるリシュモン本社のチーフ・トランスフォーメーション・オフィサーのフランク・ヴィヴィエ氏とそのスタッフへのオンライン&メールインタビューをお届けする。

 次回の本コラムを読んでいただければ、このソリューションの本当の価値が理解していただけると思う。


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