リシュモンが2023年3月からスタートさせた、時計や宝飾品の盗難や詐欺などの犯罪に対処するためのグローバル・デジタル・プラットフォーム「ENQUIRUS」(エンクイラス)。この後編では、その開発の理由と誕生の経緯、その目的と未来をオンラインインタビューで、同プロジェクトの責任者であるリシュモン本社のチーフ・トランスフォーメーション・オフィサーのフランク・ヴィヴィエ氏に聞いた。
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[2024年5月20日公開記事]
実態調査から盗難対策プラットフォームの必要性を痛感
「世界中が新型コロナ禍に見舞われた2020年の後半から、世界中で時計やジュエリーの盗難などの犯罪が激増し、国際的に大きな問題になりました。そして社内で、この状況にどのように対応するべきかが問題になりました。この答えを出すためにはまず『盗難に遭った時計やジュエリーがその後どうなっているのか』、現状を把握する必要があります。そこで実態調査を約1年間かけて行ったのです」
「ENQUIRUS」(エンクイラス)の責任者であり、リシュモンの組織改革の責任者、チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー(デジタルトランスフォーメーション担当役員)であるフランク・ヴィヴィエ氏と彼のチームは調査を始めてすぐに「時計宝飾メゾンとして、この問題をこのままにしておくわけには行かない。何らかの対応、対処法を考えなければだめだ」と思ったという。
「リサーチにご協力、ご回答をいただいた多くのお客さまから『時計やジュエリーを紛失したり盗まれたりしたとき、何か見つける方法はないのでしょうか?』と逆に質問されました。新品・中古市場の成長が加速する中、高級時計の世界では盗難や詐欺に関する課題が増大しています。そして、手元から失われてしまった大切な時計やジュエリーを発見して取り戻すことに役立つサービスを、多くのお客さまが求めていたことが分かったのです」(フランク・ヴィヴィエ氏)
そこでヴィヴィエ氏とそのチームはこの要望に全力で応えることにした。そして約2年間をかけて「ENQUIRUS」(エンクイラス)を設計&開発。約1年前の2023年3月30日からその運用を開始した。
前回でも述べたが、「ENQUIRUS」の目的は、世界中で頻発している盗難や横領など、時計・宝飾品に関する犯罪の撲滅だ。一次市場、二次(中古)市場で正規に販売され、所有されている時計や宝飾品を、全世界をカバーするデジタル・データベースに登録してもらうことで、そのアイテムに関する犯罪が起きたとき、そのアイテムを、その犯罪を追跡し、解決したり、その犯罪が連鎖して拡大したりすることを防ぐソリューションである。
「私たちはお客さまの声に耳を傾け、時計や宝飾品を保護するための顧客サービスの一環として『ENQUIRUS』を開発しました。『ENQUIRUS』を導入する以前は、盗難された時計の申告や捜索のための明確なプロセスや独自の信頼できるソリューションはありませんでした。私たちはお客さまの時計や宝飾品を保護するためのカスタマーサービスとして『ENQUIRUS』を開発しました。これまで、所有する時計やジュエリーを登録するサービスはありましたが、盗難に遭ったときに、そのことを申告したり検索したりするための明確なプロセスも、また信頼できるソリューションも存在しませんでした」(ヴィヴィエ氏)
中立的で信頼できる業界標準の犯罪撲滅ソリューション
では、従来の登録サービスと「ENQUIRUS」は何が違うのだろうか?
「まずお伝えしたいのは、『ENQUIRUS』が世界の多くの時計宝飾ブランドから支持され、さまざまな協力を得、しかも中立的な唯一無二のサービス・プラットフォーム、犯罪防止のためのソリューションだということです。しかもパートナーは時計宝飾ブランドばかりではなく、各国の警察など犯罪を取り締まる法執行機関や保険会社、中古市場の関係者まで幅広い。だから信頼できる。私たちはお客さま、そして時計宝飾業界全体のために『ENQUIRUS』を設計しました。このシステムが時計宝飾業界の業界標準になることを目指しています」(ヴィヴィエ氏)
前回でも述べたように、このソリューションを支持&参加する時計宝飾ブランドはその規模を問わず220を超え、利用できる国も130カ国を超えた。そして、どちらも増え続けている。ごく近い将来、ほぼすべての時計宝飾ブランド、世界中の多くの国とその法執行機関が、このプラットフォームに参加することになるだろう。日本ではまだほとんど知られていないが、このプラットフォームが業界標準になる日も近いだろう。
24時間、世界のどこでも簡単に利用可能。しかも無料!
では、ヴィヴィエ氏とそのチームスタッフは『ENQUIRUS』の設計&開発に当たって、どんな点に注力したのだろうか?
「まず留意したのが、グローバルなプラットフォーム、つまり世界のどこからでも利用可能な、世界共通のソリューションにすること。さらに時計ブランドをはじめ、中古時計も含む小売店などの時計業界、さらに世界各国の警察のような法執行機関まで加わったエコシステムにすることです。その理由は、この種の犯罪が国境を越えたグローバルなものになっているからです。今や、盗まれた時計やジュエリーは簡単に国境を越えて、別の国に運ばれてしまいます。ビジネス旅行者、観光客、商店街のお客さまに最高の利益をもたらすため、国内外の旅行・小売協会、旅行代理店、イベント・ホスピタリティ組織との協力も歓迎します。この状況ではグローバルなエコシステムでなければ役に立ちませんから」(ヴィヴィエ氏)
そして、時計や宝飾品を購入したオーナーにとって、絶対に見逃せないもうひとつのポイント。それはアイテムの登録や検索が無料で、しかも宝飾品までカバーしていることだ。
「これまでのこの種のデータベースでは登録できるのは時計だけ。しかも時計1本ごとに登録料が、また盗難などの際にも検索料がかかるものでした。でも『ENQUIRUS』は無料です。しかも24時間年中無休。たとえ世界のどこにいても、ネットにアクセスできれば、スマートフォンのアプリケーションや公式ウェブサイトから、迅速かつ簡単な手続きで、紛失・盗難品の登録、報告、検索をリアルタイムで行うことができます」(ヴィヴィエ氏)
加えて『ENQUIRUS』のスタッフにはもうひとつ、絶対に譲れない、妥協できないことがあった。それが「誰でも簡単に使えるものにする」ことだった。
「なぜなら、いくら優れたシステムでも、必要とするすべての人に使ってもらえなければ、本当の役には立ちませんから」(ヴィヴィエ氏)
上のアプリ画面、また前回の記事でもご紹介したが、スマートフォンの「ENQUIRUS」アプリを実際に使ってみると、その狙いは見事に達成されている。中学生・高校生レベルの英語力でも、さほど迷うことなく簡単に時計や宝飾品を登録できるようになっているのだ。
「『ENQUIRUS』を使えば、インターネットにつながる環境であれば、時計やジュエリーが盗まれたとき、いつでもどこでも、その所在を追跡することができます。また、お客さまが購入を考えている中古市場にある時計やジュエリーが不正な取引で流通し、購入後のトラブルの可能性があるものかどうかも、しっかり確認できます。その結果、盗まれた時計やジュエリーが二次流通市場で転売されることは、非常に困難になるはずです。このように『盗難と転売』という犯罪のサイクルを効果的に断ち切ることで、盗まれた時計やジュエリーが正当な所有者に返還される可能性が高まります」(ヴィヴィエ氏)
警察との協力&連携も!
時計や宝飾品に限らず、高価なものを紛失したり盗まれたりした経験のある方なら、警察など法的な執行機関への盗難届けが、損害保険金の請求には必要なことをご存じだろう。しかし残念ながら、盗難届けは、そのアイテムを元通りに取り戻すことにはほぼ無力である。
盗難届けを出したからといって、警察が積極的に捜査を開始してくれることは期待できない。どの国のどんな都市でも、時計や宝飾品の紛失や盗難は毎日、日常的に数多く起きている。捜査を担当する警察側の立場から見ても、明確な証拠があるなど、届け出の時点で容疑者がかなり絞られている状況でない限り、捜査することは事実上不可能に近い。
だが「ENQUIRUS」にアクセスすれば、正規の二次流通業者や各国の警察などの法執行機関は、そのアイテムがどこでどのように紛失や盗難の状態になったのか、さらに正当な持ち主が誰かも確認できる。さらに正規の流通市場を24時間、いつでも監視することができる。
「こうした犯罪が増加している今、時計やジュエリーの中古品を購入する際は、信頼できる小売店から購入することがこれまで以上に重要になっています。中古品の購入をお考えなら、『ENQUIRUS』を活用し、在庫の真正性を確認するための徹底したプロセスを備えている『WATCHFINDER&Co.』のような信頼できる小売業者を選べば、安心して購入することができます。また、他の小売業者から購入を検討している場合も、時計やジュエリーの状況を確認するために『ENQUIRUS』にアカウントを作って、購入予定のアイテムをデータベースで検索してみることをお勧めします。そうすれば、盗まれた品物を手にすることなく、安心してお買い求めいただけます」(ヴィヴィエ氏)
発見された場合は警察から連絡が!
では、「ENQUIRUS」に登録したあなたの時計や宝飾品が盗難に遭って転売され、世界のどこかで発見された場合は、どこから、どんなかたちであなたに連絡が来るのだろうか?
「その場合は、『ENQUIRUS』からではなく、発見された国の警察からあなたに『発見』の連絡が入ることになります。ただ、時計やジュエリーがあなたの元に戻されるかどうかは、発見された国や発見された状況など、個々のケースで変わります」(ヴィヴィエ氏)
現時点で「ENQUIRUS」は、フランス・パリの地方行政局、スイス・ジュネーブおよびヌーシャテル警察サービス、英国ロンドン警視庁、ベルギー警察、モナコ警察と協力関係にある。こうした協力関係は今後、世界中の警察との間で確立されていくだろう。
ところでもし、中古市場で自分がすでに購入した時計や宝飾品が、「ENQUIRUS」で検索したところ「盗まれたもの」であることが判った場合は、どうすればよいのだろうか?
「盗まれたものだと判った場合は、購入した店にそのアイテムを返却して返金してもらうこと。また同時に警察にも連絡することをおすすめします」(ヴィヴィエ氏)
あなたの大切な時計や宝飾品もぜひ登録を!
インタビューの最後に、ヴィヴィエ氏とそのチームに、時計や宝飾品を購入する日本の消費者へのメッセージをお願いした。
「皆さんの時計やジュエリーが盗まれたり転売されたりするのは、そのように不正に流通したものでも高い価値が認められて、犯罪者が高い利益を得てしまうから。そして「ENQUIRUS」は、不正に流通するものの価値を最終的に下げて、犯罪者が利益を得ることを困難にします。ですから、ぜひ日本の皆さんも、お持ちの時計やジュエリーを「ENQUIRUS」に登録してください。それが私たちから日本の皆さんへのお願いです」
「ENQUIRUS」は誰でも使える、犯罪者を除けば誰にとってもメリットしかない素晴らしいサービスだ。現時点では日本語には未対応だが、近い将来、日本語にも対応するだろう。英語が使える方は、以下の二次元バーコードから「ENQUIRUS」公式サイトやアプリにアクセスできるので、まずは英語でアカウントを作って、あなたの大切な時計や宝飾品を登録してみてはいかがだろうか?
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