時計愛好家の生活 J.K.さん「F.P.ジュルヌの時計はシャツの袖にすっと収まる薄さが絶妙です」

FEATURE本誌記事
2024.06.21

2017年の年明けのこと。散歩中にその後の生き方を大きく変える出来事が起こった。決して誇張ではない。そのドラマティックな出来事とは、彼にとって初めての「時計との出合い」だ。時計とは無縁の生活を送ってきたJ. K.さんは、40代になって突如として時計趣味に開眼したのだから、なんとも興味深い。まだ数こそ少ないものの、F.P.ジュルヌをはじめとする珠玉の逸品を手に入れ、愛好家生活をエンジョイしている。

J.K.さん
日本を含むアジア・オセアニア地域でビジネスを展開する40代の投資家。アラフォーにして時計に開眼。独学で時計の知識を吸収する。とりわけ、現在活躍する時計師の優れた仕事ぶりに感銘を受け、F.P.ジュルヌの愛好家に。投資の観点からすると、稀少な名品には所有する喜びという“リターン”が必ずあるという。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
菅原茂:取材・文 Text by Shigeru Sugawara
[クロノス日本版 2020年3月号掲載記事]


「そもそも物集めに夢中になるような趣味はありませんが、身に着けるものだけは凝りたい」

トゥールビヨン・スヴラン

J.K.さんにとって、F.P.ジュルヌの最初の1本となったのが「トゥールビヨン・スヴラン」である。ダイアルに特別なエングレービングを施したブティック限定のこの非常に稀少なモデルをビジネスシーンでも着けるという。「薄くて着けやすく、トゥールビヨンが暗めのバーでも実にきれいに見えるので、いつまでも見飽きませんね」という。

 都内某所でお目にかかったJ.K.さんは、挨拶に続いて「私がこのような特集に登場してもよいのでしょうか」と、いささかためらうような言葉を発した。時計愛好家歴は実質3年ほど。40歳の頃まで特に時計には興味を抱くこともなく、何も着けずに過ごしてきたという。加えて、本特集に登場する時計愛好家たちを見て、時計に対する並外れた情熱や素晴らしいコレクションに圧倒されるというから、彼のそうした気持ちも分からなくはない。

 実際に時計との出合いは3年前。正月で閑散とした都心の街を散歩していたときにふと目に留まったのが“時計”だった。

「時計を見て、純粋に美しいと思ったのです。そもそも物集めに夢中になるような趣味はなく、クルマだって持っていませんが、時計は違っていた。まさにハマったという感じでしたね」と当時を振り返る。

 人生で初めて時計が欲しいという衝動に駆られたのに、どんな時計が良いのかまったく見当がつかなかった。そこで、何カ月も雑誌を詳細に読んで調べるなどして情報収集に没頭した。むやみに衝動買いすることは避け、きちんと知識を蓄えてから品選びへと進んだところは、彼が生業とする投資ビジネスに通じるのではなかろうか。

 こうしてまず2017年の春に手に入れたのは、ブレゲの「ヘリテージ トゥールビヨン」。優美なトノー型ケースに凝ったギヨシェ彫りのダイアルを組み合わせた逸品である。初心者の入門機がハイエンドのトゥールビヨンとは驚かされるが、もともと好きなクラシックなテイストやトゥールビヨンの動きの美しさに魅入られてしまったことが購入の決め手になったという。

ヘリテージ トゥールビヨン

時計に興味を覚えて初めて手に入れたのは、ブレゲの「ヘリテージ トゥールビヨン」。優美なトノー型ケースが印象的なこの時計を出張中のシンガポールで2017年に購入した。当初はA.ランゲ&ゾーネの「ランゲ1」も候補に考えたが、クラシックな味わい豊かなブレゲのトゥールビヨンに軍配が上がったという。初心者らしからぬ選択だ。

 話を聞いて面白かったのが続く2本目の時計。好みだというクラシカルなタイプの時計かと思いきや、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」であった。土・日やカジュアルな装いに着ける用途で選んだそうだが、これは39mmケースにCal.3120を搭載する15300ST。「ロイヤル オーク」の中でも愛好家の間で人気の絶えないモデルだが、すでに廃番になってから久しい。偶然に時計店で見かけて気に入ったことをきっかけに、、定番中の定番とされるブルーダイアルのモデルを購入。

 最高峰のクラシカルなトゥールビヨンとラグジュアリースポーツウォッチの名作、普通ならこれら2本を手に入れてご満悦といったところだろうが、Jさんにとってそれは愛好家への仲間入りにすぎなかった。

 次に目を向けたのは、ビジネスに使いやすいシンプルな高級時計である。

「パテック フィリップのカラトラバなども検討しましたが、この時も出合いというのでしょうか、F.P.ジュルヌの東京ブティックで偶然目にした限定1本のトゥールビヨンを見て、それが欲しくなりました」

クロノメーター・スヴラン、クロノメーター・レゾナンス

時計を蒐集の対象ではなく、あくまでも身に着けて使うものと考えるJさん。出番が多いのはやはりF.P.ジュルヌ。ビジネス用の“目立たない時計”として愛用するのが「クロノメーター・スヴラン」(右)のプラチナ製38mmモデル。また、オリジナルデザインを採用する2019年限定バージョンの「クロノメーター・レゾナンス」(左)は、Jさんの特注により、ダイアルをブラック マザー・オブ・パールでパーソナライズした貴重な1点ものだ。

 最初の時計がトゥールビヨンだったせいか、歴史的な天才時計師アブラアン-ルイ・ブレゲと現代きっての天才時計師フランソワ-ポール・ジュルヌとの関連を知ってのことなのか、なによりトゥールビヨンに魅かれたようだ。こうしてJさんのコレクションに加わる3本目は、世界に展開するF.P.ジュルヌのブティックで各1点が販売された限定仕様の「トゥールビヨン・スヴラン」になった。ビジネス用のシンプルな実用時計を手に入れるという当初の目的が後回しになってしまったが、後日「クロノメーター・スヴラン」のプラチナ製モデルも忘れずに購入した。

「ビジネスでは時計を目立たせたくないのです。だから、着けているのが前面に出てくるような時計は嫌ですね。その点、ジュルヌの時計は人に気付かれにくい。今まで『それ、ジュルヌですよね』と言われたことはないです。ビジネスではスーツやジャケットを着ていますが、ジュルヌの時計はシャツの袖にすっと収まる薄さが絶妙ですし、外したときにケースバックから見えるローズゴールド製の贅沢なムーブメントも実に見事。まったく見飽きないですね」

 すっかりF.P.ジュルヌの虜になったJさんは、現代に活躍する最も優秀な時計師が創る稀少な時計を毎日身に着けるようになった。それも時計との出合いからわずか1年ほどのこと。もはや初心者から一気に“コノソア”へと駆け上がった感がある。

ロイヤル オーク

Jさんにとっての2本目は、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」。腕になじみやすい39mmケースに自社キャリバー3120を搭載した15300ST。特にラグジュアリースポーツウォッチを意識したというわけではなく、これ見よがしでない「ロイヤル オーク」のシンプルで完成されたスタイルに魅かれたという。

 そしてF.P.ジュルヌの3本目は、19年だけの限定発売という「クロノメーター・レゾナンス」。しかもそれは、メインのダイアルがブラック マザー・オブ・パールで作られた世界で1本のユニークピースだ。

「ジュルヌさんご本人にお目にかかった際に、この時計のブラック マザー・オブ・パールダイアルをリクエストしてみたところ、しばらくして私の特注が実現しました。まさかとは思ったのですが、驚きましたね」

 ブラック マザー・オブ・パールダイアルといえば、十数年前に初期の「クロノメーター・レゾナンス」で少量の限定モデルがリリースされたことがあったが、今回のように個人の要望に応えて1点のみ製作したのは異例と言えよう。

 物欲はないほうだとはいうものの、身に着けるものはクラシックな服や靴などをイタリアや日本の職人にビスポークで作ってもらっているという、実は相当にこだわり派のJさん。F.P.ジュルヌで時計の特注を実現したわけだが、さて次はどんな夢を抱いているのだろうか。


時計愛好家の生活 Y.T.さん「サクソニアは究極の3針時計。いつかは欲しいと思っていました」

https://www.webchronos.net/features/115631/
同時代の天才時計師 F.P.ジュルヌの全貌「マニュファクチュール F.P.ジュルヌ」

https://www.webchronos.net/features/94464/
F.P.ジュルヌ−我が道を行く 天才時計師に見る孤高のウォッチメイキング

https://www.webchronos.net/features/91928/