時計好きにはクルマ好きが多い、というようにコレクターにはほかのジャンルのコレクションもしている多趣味な人物が多い。今回ご紹介するM.S.さんも、パネライを中心とする時計のコレクターでクルマやカメラ、ギターもコレクションする、まさに多趣味な方だ。そのため話は尽きず、インタビューは深夜近くまで及んだのだが、まだまだ聞き足りなかった。今度はクルマやギターの話も、もっと掘り下げて聞いてみたいと、そう思うのだ。
普段使いのポルシェ911ターボSを筆頭に、マクラーレン2台、フェラーリ2台、ランボルギーニ2台など15台を乗り分ける大のクルマ好き。マクラーレンの1台はダッシュボードにロン・デニスにサインをしてもらったそう。ほかにもカメラやギターなど多彩な趣味を持つ。3匹のトイプードルを飼う愛犬家でもある。
福田豊:取材・文 Text by Yutaka Fukuda
[クロノス日本版 2020年3月号掲載記事]
「皆良い時計を紹介してくれるので、パネライ以外も増えているんです」
パネライのコレクターだと紹介されたM.S.さん。事前に送っていただいたリストには稀少なモデルが数多く含まれた約30本のパネライの品番とモデル名がズラリと記されていた。そこでそれを熟読し、予習していたのだが、取材当日、指定された都内某所の会員制ホテルに伺うと、それを上回る数のパネライと、他ブランドの時計も多数用意されていた。しかもパネライはリストとはずいぶん顔ぶれが違っている。「全部は持って来られないので、選んできました。探したのに見つからなかったものもずいぶんあるんですよ」。つまりリストは、コレクションのごく一部。ここに並べられているのも、ごく一部。Mさんは相当のパネリスティ=パネライ愛好家のようだ。
ともあれ、どんなモデルがあるかを確認。パネライはどれも似ていて、しかもラグジュアリーな暗めの照明も手伝い、特定するのが難しい。ようやく終わると「同じのなかったですか?」と笑いながらMさん。似ているので同じモデルを買ってしまうことが「よくある」のだという。
「パネライがサザビーズのオークションに招待してくれて、カーボンのモデルが出品されていたんですよ。それを入札しようとしたら『Mさん、お持ちですよ』って。以前に買っていたんですね。でもせっかくだから1回ぐらい手を挙げようと、挙げたらそれで決まってしまって。で、持っているから、今も箱に入ったまま。そんな話がたくさんあります(笑)」
コレクターに「ダブり」はつきものだけれども、Mさんはそんなハプニングも楽しんでいる。それにだんだん分かってくるのだが、同じものが複数あるのがどうやら好きでもあるようなのだ。
例えば、Mさんが時計を集め始めたのは20歳代になった1980年代の初めから。当時はロレックスが大人気で、Mさんもロレックスに熱中した。それで「エクスプローラーやデイトナを、使う用と、置いとく用で、2本買った」のだという。また最近も「アルマーニのベスパの限定モデルを2台」とか「グッチの日本に2台しかない自転車を2台とも」とか。なぜ2台なのかと尋ねると、奥様が勧めたのだそう。「納品に来たスタッフが『もう1台あるんです』と言ったら『じゃあ買えば』って言うので」と。横で優しく微笑む奥様。そんな素敵な奥様だからなのだろう。Mさんは時計のほかにもカメラ、ギター、クルマとコレクションが幅広い。
カメラはライカのM10とQを多数。エルメスエディションはもちろん、ドイツ本社のファクトリーで発表されたドイツ国内限定発売のモデルを取り寄せたりもしているそう。ギターはアコースティックとエレクトリックで50本ぐらい。お気に入りはストラトキャスターのエリック・クラプトンモデル。フェンダー、ギブソン、マーティンなど、今も増え続けているという。
クルマは、現在はポルシェ、マクラーレン、フェラーリ、ランボルギーニなど、スポーツカーを中心に15台。ほかにも以前に乗っていたクルマを何台も「残している」そう。そして、そんなクルマ好きが、パネライとの出合いにつながったのだという。
「ずっとフェラーリに乗っていたんで、フェラーリのモデル(フェラーリ・エンジニアド・バイ・オフィチーネ パネライ)を買ったんです。それでストラップを交換しようと店に行ったら、パネライを勧められたのが始まり。最初は大きいと思ったんですけど、そこが気に入って。それから限定モデルがいっぱいあるので、いろいろと買っていったんです」
今回お持ちいただいた中にも貴重な限定モデルがいくつもあった。まず「いちばんのお気に入り」というのが完全オイルフリーの50年間保証、世界限定50本のLABID™ことPAM00700。3Dプリンターによる中空構造のチタンケースが革新的な世界限定100本のPAM00767も超貴重だ。2010年に銀座ブティックで10本限定で売られた、裏蓋に「銀座」の文字が刻印されたPAM00405は、なんと2本もある。
そして筆者が気になったのが、昨年のジュネーブで発表されたサブマーシブルの世界限定15本のスペシャルバージョンPAM00983。フリーダイビングチャンピオンのギョーム・ネリーとダイビングやホエールウォッチングを楽しめる「スペクタクルな体験」付きの、まさにスペシャルなモデルだ。もちろん、Mさんも奥様とご一緒にスペクタクルな体験に参加し、楽しまれたそうだ。
「昨年の9月ぐらいで、ツアーは1週間ぐらいだったかな。イルカやクジラと泳いだり。めちゃめちゃ楽しかったですよ」
同じ体験付きのサブマーシブルでイタリア海軍特殊部隊COMSUBINの訓練に参加できる世界限定33本のスペシャルバージョンもあったのだが、そちらのツアーは本当に辛かったようで、「それにしないでよかったですね」と言うと、「オリーブグリーンが趣味ではなかったから」とのこと。それで同モデルのブラックの体験なし世界限定1000本のPAM00979の方を購入しているのだから首尾一貫している。
では、そんな貴重な限定モデルをどうやって入手しているのかというと、「ほとんど日本で買ったもの」だという。
「だいたいは、お勧めですね。ショップの店長やブランドの社長が、珍しいモデルが入荷すると連絡をくれて、それで勧められて買うというのが多い。またブランドの招待で海外に行くことも多く、そこで貴重なモデルに出合うこともある。それと店長や社長が他ブランドに移籍することって、よくありますよね。するとそのブランドの時計も勧められて、どんどんと広がっていって。皆良い時計を紹介してくれるので、ルイ・ヴィトンやウブロ、オメガなど、パネライ以外も増えているんです」
ところで、時計、カメラ、ギター、クルマとなると、当然、ヴィンテージの誘惑もあるだろう。パネライの軍用オリジナルなどは気にならないのだろうか。
「クラシックカーやクラシックカメラ、ヴィンテージのギターやヴィンテージの時計は、よく勧められますけど、お守りができない。今のクルマでもバッテリーを上げちゃったりしますからね。だから、クルマは若い頃に買ったホンダのNSX。ギターは生まれ年の1961年のストラトキャスター。時計も1961年のエクスプローラー。そこまでにしています」
聞けば、初めて自費で買ったクルマがNSXで、これまでに6台を購入。現在も4台を所有しているそう。今は凄いプレミアが付いていて、年代的にも立派なヴィンテージだ。だから、そんなNSXを維持管理しているMさんであれば、ヴィンテージのカメラや時計でも、ちゃんと「お守り」できるだろう。そして、ヴィンテージの誘惑に負けそうになったとき、きっと奥様が「じゃあ買えば」と横で優しく微笑み、後押ししてくれるだろう。
だから今度お会いするときには、ヴィンテージパネライのコレクターになっているかもしれない。その時には、また楽しいお話を聞かせて下さい。
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