ニキシー管で時分を表示する、SF感あふれるデザインのウルベルク「スペースタイム ブレード」

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2024.05.30

スイスの独立系時計ブランド、ウルベルクが2024年に発表した「スペースタイム ブレード」は、高さ1.7m、総重量20kgの、ブロンズとガラスでできた作品だ。複雑なサテライト表示やバガボンドアワー、遊星ギアなどは用いられず、時分等の表示はニキシー管で行われる。世界限定33本の本作について紹介しよう。

スペースタイム ブレード

ウルベルク「スペースタイム ブレード」
ニキシー管での時間表示。ブロンズ+ガラスケース(高さ170cm、重さ20Kg)。世界限定33本。参考価格5万5000スイスフラン。
Originally published on Montres De Luxe
[2024年5月30日公開記事]


8本のニキシー管で表示する、ウルベルクの「スペースタイム ブレード」

 ウルベルクという時計ブランドと、その創業者であるマーティン・フレイ、フェリックス・バウムガルトナーのふたりは、創業当時からオリジナリティを強く追求することで知られてきた。

 2024年に発表された「スペースタイム ブレード」は、高さ1.7m、総重量20kgの、金属とガラスでできた異例の作品だ。これまで発表してきた時計と同じように、この作品の完成に熱量を注いだふたりと、同じくらい個性的で熱心な職人が製作に携わっている。

 スペースタイム ブレードとは、どんな時計なのか? 端的に言えば、最古の時計である日時計の棒(グノモン)から想起されたような、縦型の置き時計である。さらに、地球の自転と公転をkmで表す、ウルベルクらしい時計オブジェだ。

スペースタイム ブレード

高さ1.7mの「スペースタイム ブレード」。縦に積みがった8個のニキシー管で、時、分、秒、地球の自転距離などを表示する。

 この時計は地面にしっかりと固定され、オベリスクのようにそびえ立つ。時、分、秒などを表示する。

「私たちが探し求めるのものは、時間と空間の関係を時計に反映することです」と、マスター・ウォッチメーカーであり、ウルベルクの共同創業者であるフェリックス・バウムガルトナーは語る。

「1800年代にはすでに、ギュスターヴ・サンドがこの関係性を、時間を示す代わりにkm単位で表示する振り子時計を製作することによって可視化しました。この独創的な計器は、驚異的なスピードで銀河系を疾走する“地球号”の乗客に過ぎない私たちの状況を思い起こさせてくれたのです」

 フェリックスは続ける。「このコンセプトは、私たちは100コレクションで取り上げ、スペースタイム ブレードに反映しようとしているものです。私たちの旅を可視化し、私たちが毎年太陽を一周する9億4000万kmの道のりを、時間、分、秒に置き換えるのです」。

スペースタイム ブレード

スペースタイム ブレードのスケッチ。ウルベルクのブランドロゴはニキシー管の一番上に配されている。

 スペースタイム ブレードの土台になっているのは、巨大なウルベルクのリュウズだ。この土台は、ブロンズの鋳造方法の一種であるロストワックス製法のスペシャリスト、ラデク・ルクフカによって鍛造されている。

 彼は文字通りの職人であり、繊細な宝飾品や高級な装飾品を作るために使われていた、失われかけている伝統的な製法を守り継ぐ人物である。彼がロウ
で原型を作り、そこから取った型が鋳型となり、溶解したブロンズが流し込まれる。

 出来上がったブロンズの土台は、磨かれ、バフに掛けられ、艶出しが施される。ウルベルクの美学を活かすための、膨大な作業である。

 この土台に据え付けられたガラスドームが表示機構を保護する。ドームの底から丸みを帯びたトップまで、ガラスの厚さは厳密に均等だ。このドームの中に、垂直に並べられた8個の手作りのニキシー管がある。

スペースタイム ブレード

ニキシー管に電気が流れると、温かなオレンジ色で数字が表示される。

 ガラスドームは耐火テスト済みである。形成後、洗浄・精製が行われ、不純物は一切含まれない。この美しいガラスドームは、チェコ共和国のノヴィー・ボル近郊にある工房で作られた吹きガラスである。このユニークなノウハウはユネスコの無形文化遺産に登録されており、工房のある一帯は「クリスタルバレー」と呼ばれるガラス産業の盛んな地域だ。

 ニキシー管のディスプレイもまた、有名なチェコの職人によって作られたものだ。ニキシー管は、数字や文字などの形状をした多数の陰極と、ひとつのメッシュ状の陽極から構成されている。厚さ0.1mmの鋼鉄製の各ユニットが、0から9までの10の数字を表示する。なお、ここで表示される数字のフォントはウルベルクの文字盤に採用されているものと同じだ。

 非常に繊細な構造のため、全体の組み立てはピンセットを使って、1パーツずつ行われる。各ユニットは88個のパーツで構成されている。

 電流を流すと、温かみのあるオレンジ色で数字が表示される。時、分、秒だけでなく、10分の1秒と100分の1秒もニキシー管で表示され、刻々と過ぎていく時間を視覚的に表現している。表示の切り替えは、1秒間に500回にも及ぶのである。

スペースタイム ブレード

ブロンズの土台、ガラスドーム、ニキシー管など各パーツは、それぞれ卓越した職人たちと共作したものだ。

 本作のブロンズ製リモコンは、映画『スターウォーズ』のライトセーバーを彷彿とさせるデザインだ。時間計測から距離計測まで8つの表示モードがあり、リモコンによってモードを変更できる。

  • ポジション1:時、分、秒の表示
  • ポジション2:時、分、秒、1/10秒、1/100秒の表示
  • ポジション3:日、月、年の表示
  • ポジション4:赤道における、地球の1日の自転距離をkmで表示
  • ポジション5:地球の1日の公転距離をkm単位で表示
  • ポジション6:地球の1年の公転距離をkmで表示
  • ポジション7:ランダム表示
  • ポジション8:スリープモード

「望遠鏡や顕微鏡、時計などの科学的な機器は、伝統的にブロンズで作られていました」とマーティン・フライは話す。「スペースタイム ブレードはそのような機器からインスピレーションを得ていますが、大衆文化の影響を考慮しつつ、SFの世界にあるデザインコードも取り入れています。スペースタイム ブレードは時計であると同時に、アートとデザインのオブジェであり、現代の彫刻でもあるのです」。




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