3種のムーブメント、4種のコレクション展開で多様な需要に対応しているグランドセイコー。中でも「エボリューション9 コレクション」は、新たなデザイン文法を採用したコレクションだ。本記事では、このエボリューション9 コレクションについて解説するとともに、代表的な5モデルを紹介する。
Text by Kento Nii
[2024年5月28日公開記事]
グランドセイコー「エボリューション9 コレクション」とは?
「エボリューション9 コレクション」は、「ヘリテージコレクション」、「エレガンスコレクション」、「スポーツコレクション」と並んで、グランドセイコーが展開しているウォッチコレクションだ。
その特徴は、2020年に同ブランドによって確立されたデザインコード“エボリューション9 スタイルの採用にある。このスタイルは、グランドセイコーのデザイン文法である「セイコースタイル」を発展させている。セイコースタイルの哲学であった「時計としての使いやすさ、美しさ」を、さらに追求し、進化させたものとなっている。
その中核にあるのが、日本らしい美意識の表現だ。日本人の生活様式や文化でたびたび見られる、障子や縁側といったものは、日光の強い光を和らげ、陰との柔らかな共存を生み出す。グランドセイコーでは、こういった「光と陰の共存」を日本の美意識と捉え、光と陰の間に生まれる「中間の美」をエボリューション 9 スタイルの哲学に据えている。
エボリューション9 スタイルを形作る3つのデザイン方針
「時計としての使いやすさ、美しさ」と前述した。エボリューション9 スタイルでは、デザイン方針の核に時計としての「審美性」「視認性」「装着性」を挙げ、セイコースタイルからこの3つの方針の進化を標榜している。
審美性の進化は、主に外装の造形や、その仕上げから見ることができる。平面と平滑な曲面を立体的に連ねた、張りのある造形を基本とし、歪んだ曲面は排除。ヘアラインと鏡面仕上げを共存させることで、光と陰の中間にある「ほの明るさと、ほの暗さ」を体現しているのだ。これは、日本人らしい美意識や自然観を落とし込んでいたセイコースタイルの根源を、より鮮明化するものである。
一方、視認性の進化は、グランドセイコーを象徴する重厚な針とインデックスを、さらにメリハリを高めた形状に変更し、それぞれの判読性を向上させることで実現された。もちろんこれは従来のセイコースタイルでも重視されていた要素であり、1960年誕生の「初代グランドセイコー」より継承され続けてきたものである。エボリューション9 スタイルでは、多面カットを施した力強い針や、溝の入った立体的なインデックスを採用することで、その独創性と視認性がより研ぎ澄まされている。
そして、装着性の進化は、新設計の外装に備わった。重心を落としたケース設計に、幅広で適切な厚みを備えたブレスレットを合わせることで、横方向のぐらつきが少なく、安定した装着感が実現されている。実際に着用しなければ分かりにくい変化ではあるが、使用感に直結する大きな進化といえるだろう。
コレクションに共通する9つのデザイン特徴
エボリューション9 スタイルは、以上の3つのコンセプトをもとにした、9つのデザイン特徴を備えている。新たに採用されたものもあれば、セイコースタイルから進化したもの、そのまま継承された要素もある。
新たに加わった要素として顕著であるのが、前述の通り、装着性の向上に向けて設計された、重みや大きさを感じさせないケースとブレスレットだ。ケースはガラスの取り付け位置を低くすることで重心が下部に置かれ、手首に吸い付くような重量感を備えている。また、ブレスレットについてもケース径の2分の1以上の幅広とし、厚みを与えることで、しっかりと手首にホールドさせることを志向された。
セイコースタイルからの進化は、針・インデックスといった表示部や、ケース・ブレスレットの仕上げから見ることができる。幅広の針は、時針と分針を明確に違う形状とすることで、判読性を追求。多面のインデックスについても、中心に”割り”を入れ、また、12時時のみ2倍以上の太さにすることで、視認性を高めている。また、表面仕上げについては、ヘアラインを主体とすることで、鏡面の歪みない輝きを引き立て、立体感が演出された。
一方、フラットなダイアルや大きく弧を描くケースサイドのラインなどは、セイコースタイルからそのまま継承されたものである。歪みのない仕上げが光る稜線は、ひと目でグランドセイコーと認識できるフォルムを構築している。
グランドセイコー「エボリュショーン9 コレクション」から、5モデルを紹介!
エボリューション9 コレクションでは、現在、9Sメカニカルと9Rスプリングドライブの2種のムーブメントを搭載したモデルが展開されている。次世代ムーブメントを搭載したモデルも数多く登場しており、いずれも進化したデザイン文法にふさわしい機能性を備えている。
ラインナップはさまざまで、クロノグラフ、ダイバーズウォッチに加え、2024年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブでは、新型手巻き式のムーブメントを搭載したドレッシーなモデルも発表された。今回、その多彩なラインナップの中から、モデルを5本ピックアップした。
「エボリューション9 コレクション」Ref.SLGH005
自動巻き(Cal.9SA5)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。121万円(税込み)。
SLGH005は、白樺をモチーフとしたダイアルを特徴とする、言わずと知れた人気モデルだ。大胆に施された型打ちはダイアルはっきりとした陰影を備えており、エボリューション9 スタイルの「光と影の中間の美」をより楽しめるものとなっている。このモチーフは、9Sメカニカルの製造拠点「グランドセイコースタジオ 雫石」にほど近い、白樺の群生林から着想を得たものである。
ムーブメントは自動巻きのCal.9SA5を搭載する。毎秒10振動のハイビートと、約80時間の実用的なパワーリザーブを両立しており、デュアルインパルス脱進機やツインバレル、「グランドセイコーフリースプラング」方式のテンプなどといった、同ブランドの技術力が結集した新世代ムーブメントだ。高性能ながら、薄型化に成功しているため、ケース厚が11.7mmに抑えられている点も注目したい。
「GPHG」などといった栄えある受賞歴を誇るだけでなく、メジャーリーガーの大谷翔平選手がグランドセイコーから直接贈られるなど、話題の絶えないモデルだ。
「エボリューション9 コレクション テンタグラフ」Ref.SLGC001
自動巻き(Cal.9SC5)。60石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径43.2mm、厚さ15.3mm)。10気圧防水。188万1000円(税込み)。
SLGC001は、グランドセイコーの9Sメカニカルムーブメント初のクロノグラフとして登場した。エボリューション9 スタイルがスポーティにアップデートされており、外装へブライトチタンを採用することで軽く、装着感を高めたことに加え、直感的な使いやすさ、見やすさが追求されているという。
また、ミッドナイトブルーのダイアルには岩手山パターンと呼ばれる放射状のディテールが施された。
搭載するCal.9SC5は、毎秒10振動と約3日間のパワーリザーブを有する自動巻きクロノグラフムーブメントだ。TEN beat(10振動)、Three days(3日間)、Automatic、ChronoGRAPHを意味する、“TENTAGRAPH”(テンタグラフ)の名が与えられている。
「エボリューション9 コレクション」Ref.SLGA015
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RA5)。38石。パワーリザーブ約120時間。ブライトチタンケース(直径43.8mm、厚さ13.8mm)。200m防水。159万5000円(税込み)。
ISO 645で定められた、ダイバーズウォッチとしての基準をクリアしたスポーティな1本がSLGA015だ。判読性、操作性、堅牢性に重点が置かれており、信頼に足る1本に仕上がっている。さらに、視認性が高められたブラックダイアルにも注目で、海流を思わせるパターンによって、ダイナミックなうねりが表現された。もっとも、ブライトチタン製のケースとブレスレットによって、見た目より軽やかに着用できる1本と言える。
ムーブメントにはスプリングドライブCal.9RA5を搭載する。優れた精度と、約5日間のロングパワーリザーブを特徴とすることに加えて、オフセットマジックレバーの搭載によって主ゼンマイの巻き上げ効率が高められているだけでなく、従来のCal.9R6系から0.8mmの薄型化にも成功している。
「エボリューション9 コレクション」Ref.SBGE283
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R66)。30石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径41mm、厚さ13.9mm)。10気圧防水。112万2000円(税込み)。
SBGE283は、モダンで力強い造形を特徴とする、GMTモデルだ。ブラックダイアルにメタルベゼルを備えた意匠は普遍的な魅力にあふれており、さまざまなシーンで活躍してくれるだろう。また、シンプルであるがゆえに、素早く正確な判読を可能とする。
ケースはブライトチタン製で、軽やかながら堅牢。普段使いに適したモデルに仕上がっている。
ムーブメントは2006年、スプリングドライブとして初めてGMTが搭載された、Cal.9R66を有する。約18年にわたって使用されている、信頼性に定評のあるムーブメントであり、日差±1秒相当の高精度に加え、約72時間のパワーリザーブを有している。
「エボリューション9 コレクション」Ref.SLGW003
手巻き(Cal.9SA4)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。ブリリアントハードチタンケース(直径38.6mm、厚さ9.95mm)。日常生活用防水。145万2000円(税込み)。2024年8月9日(金)発売予定。
ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2024で発表された、エボリューション9 コレクションで初となる手巻きメカニカルモデルがSLGW003だ。エボリューション9 スタイルにのっとったドレスウォッチであり、薄く上品でありながらも、「時計としての使いやすさ、美しさ」が追求されている。
ダイアルのモチーフは白樺だ。繊細な型打ちによって、岩手県に位置する平庭高原の白樺林をほうふつとさせるような、凹凸が不規則に連なる樹皮が表現された。
ケースには、通常のチタンよりも白い色味を有する「ブリリアントハードチタン」が使用されており、上質な輝きと高い堅牢性が備わった。その厚みは9.95mmにまで抑えられており、エボリューション9スタイルの、重心を下部に置く設計はそのまま引き継がれている。
搭載するムーブメントはCal.9SA4だ。ブランドとして約50年ぶりに開発した10振動の手巻き式ムーブメントであり、約80時間のパワーリザーブを有している。さらに、新設計のコハゼとコハゼバネの採用によって、良好な巻き心地も追求されている。
参考サイト:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/
https://www.webchronos.net/features/112492/
https://www.webchronos.net/features/114722/
https://www.webchronos.net/features/105539/