時は1953年、海洋探査が人類の夢と挑戦の舞台だった時代。ダイバーズウォッチの先駆けとして誕生したブランパンのフィフティ ファゾムスは、ただ時間を刻む道具ではなく、探検家たちの信頼を得て深海の象徴となり、伝説となった。それから71年、冒険の精神を受け継ぐ者たちに、技巧を凝らした42mmの新作が届けられた。
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
大野高広:取材・文
Edited & Text by Takahiro Ohno (Office Peropaw)
[クロノス日本版 2024年7月号]
歴史的なオマージュとCal.1315継続の妙技
元祖モダンダイバーズの機能美とスピリットを現代によみがえらせた人気コレクションの新サイズ。直径42.3mm×厚さ14.2mmのケースは、贅を尽くした18Kレッドゴールドか、含有酸素量を減らして純度を高め、破壊靭性を向上させたグレード23チタン。文字盤カラーはブラックとブルーが用意される。右からブラック文字盤+18KRGケースと1953年モデルにインスパイアされたラバーストラップ“トロピック”:459万8000円(税込み)。ブルー文字盤+チタンケース&ブレスレット:287万1000円(税込み)。ブルー文字盤+チタンケースとセイルキャンバスストラップ:247万5000円(税込み)。いずれも自動巻き(Cal.1315)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。300m防水。
2007年に復活して以来、フィフティ ファゾムス オートマティックが直径45mmにこだわったのは、視認性と機能性、そしてモダンな美しさの究極的バランスを求めた結果にほかならない。ダイバーズの本質を忠実に守りつつ、上質な仕上げを施し、ラグジュアリー感をまとう稀少なツールウォッチとして、これまで世に認知されてきた。ところが昨年、70周年を記念して発売された(そして即完売した)限定のSSモデルは、42mm径だった初代モデルと同じケースサイズを採用した。
それ以来となる42mm(正確には42.3mm)の新作は、やはり「オリジナルに近いサイズを目指した」とブランパンは明かす。もちろんラインナップの選択肢を広げる意図もあるが、オリジナルから着想を得たローターの意匠を見ても、輝かしい歴史に対する最大限の敬意が感じられる。
実は「42mmサイズ」には歴史的なオマージュ以外にもうひとつ重要な意味がある。それはトリプルバレルの安定した約5日間パワーリザーブを誇る自社キャリバー1315の継続採用だ。聞けば、この高精度キャリバーを42mm径に収めるのは「大いなる技術的な挑戦でした」という。課題となったのは、45mmモデルと同じCal.1315を42mmケースへシームレスに収めること、文字盤の完璧なデザイン性を維持すること、そして時計全体のバランスや視認性を損なわないという3点。ブランパンの技術陣はケースと文字盤の両コンポーネントを細心の注意を払いながら再設計し、見事その最適化に成功した。どうやら「Cal.1315を搭載できる最小径は42mm」らしく、新作はそのぎりぎりを狙ったサイズ。シースルーバックを通して伝わってくる“凝縮感”は、そんな妙技の賜物でもある。
こうして45mmモデルの端正なプロポーションはそのままに、日常使いでも取り回しのいい42mm径となった新作だが、細部をチェックしていくと、いくつもの熟成ぶりに気付く。文字盤に関してはサンバースト仕上げが全面に広がったのが特徴的で、ケース厚は約1mm薄くなって引き締まった印象。ケース素材は18Kレッドゴールドとチタンが用意され、意外にもシリーズ初となるラバーストラップの追加で、(チタンブレス以外に)セイルキャンバス、NATOの3種類のストラップが組み合わせ可能になった。注目したいのは、チタン素材が45mmモデルはグレード2の純チタン、対して42mmモデルは医療用にも使用されるグレード23を採用したこと。後者は加工がより難しいにもかかわらず、独自技術で前者同様に繊細なサテン仕上げを施す。グレーの色味が強い前者とのニュアンスの違いは、ぜひ店頭で見比べていただきたい。
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