昨今、多くのブランドが手掛けるトゥールビヨンウォッチ。その複雑な機構と審美性は、多くの時計愛好家の心をつかんで離さない。今回は、数あるトゥールビヨンウォッチの中でも特にユニークな構造や機構を搭載したモデルを紹介する。各社の圧倒的な独創性と技術力には敬服するばかりだ。
Text by Tsubasa Nojima
[2024年6月5日公開記事]
今だからこそ注目したい、“ひと味違った”トゥールビヨン
ヒゲゼンマイにかかる姿勢差の影響を排除すべく、脱進機とテンプをキャリッジに収めて回転させる機構がトゥールビヨンだ。着用時に向きが変わり続ける腕時計では、その効力を発揮しにくいとも言われているが、ゆっくりとキャリッジが回転する様子や複雑な構造は、時計愛好家にとって憧れの的である。
その精密さゆえに高度な製造技術が要求されるトゥールビヨンだが、近年では工作機械の発達や趣味性の高い機械式時計の需要が高まったことも手伝い、多くのブランドからトゥールビヨンウォッチがリリースされるようになった。そんな今だからこそ注目したいのが、個性的な機構を備えた“ひと味違った”トゥールビヨンだ。各社の創意工夫にあふれた、技術と芸術の結晶に触れてみたい。
グランドセイコー「マスターピースコレクション Kodo コンスタンフォース・トゥールビヨン」
2022年にグランドセイコー初のトゥールビヨン搭載モデルとして発表された、「マスターピースコレクション Kodo コンスタンフォース・トゥールビヨン」の2作目。動力の供給を一定に保つためのコンスタントフォースキャリッジとトゥールビヨンキャリッジを同軸に配した世界初の機構、コンスタントフォース・トゥールビヨンを搭載している。その構造ゆえ、コンスタントフォースの定力バネがチャージ、解放されるリズムとトゥールビヨンキャリッジが毎秒8振動で滑らかに動くリズムが織り成す独特の“鼓動”を楽しむことができる。
内部構造を明らかにしたスケルトンムーブメントも、本作の特徴だ。磨き上げられたブリッジや主ゼンマイを収めた香箱、パワーリザーブインジケーター等のディティールを堪能することが可能である。
外装のデザインは、夜明け前の淡い薄明りをイメージしたものだ。全体を明るいトーンでまとめ、軸受けにはルビーではなくブルーサファイアが与えられている。ケース素材はプラチナとブリリアントハードチタンのコンビネーション。
これまでのグランドセイコーのイメージを覆すコンプリケーションウォッチでありながら、高い精度や堅牢性、10気圧防水を備えており、高品質な実用時計としての軸には、いささかもブレが見られない。
自動巻き(Cal.9ST1)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。プラチナ950、ブリリアントハードチタンケース(直径43.8mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。世界限定20本。4950万円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
ブルガリ「オクト フィニッシモ トゥールビヨン クロノグラフ」
トゥールビヨンとクロノグラフを併載したモデル。6時位置にトゥールビヨン、3時位置に30分積算計、9時位置にスモールセコンドを配したシンメトリーなレイアウトを持ち、ムーブメントには幾何学的なオープンワークが施されている。「オクト フィニッシモ」の例に漏れず薄型ケースを採用しており、本作の厚さはわずか7.4mmである。スイングピニオン式のクラッチやコンパクトなリセット機構を用いたクロノグラフ、ペリフェラルローター式の自動巻きを採用することで、複数の複雑機構を収めるスペースを捻出しつつ、堅牢性を高めている。
省スペース化を果たすべく、独特の操作系を有している点も特徴だ。ケース3時側にリュウズとふたつのプッシュボタンを備えているが、クロノグラフで使用するのは2時位置のプッシュボタンのみ。本作はワンプッシュクロノグラフなのだ。4時位置のプッシュボタンは、リュウズのファンクションセレクターであり、押下することで時刻調整と主ゼンマイの巻上げの機能を切り替えることができる。これによってリュウズを引き出す必要がなくなり、スペースを創出することに成功している。
自動巻き(Cal.BVL388)。52石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約52時間。Ptケース(直径43mm、厚さ7.4mm)。30m防水。要価格問い合わせ。(問)ブルガリ ジャパン Tel.0120-030-142
ジャガー・ルクルト「デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル」
3つの軸上で回転するヘリオトゥールビヨンを搭載したモデル。一般的なトゥールビヨンはダイアルと水平方向にしか回転しないが、本作では多軸で回転させることにより、姿勢差が精度に及ぼす影響をさらに軽減させている。9時位置には大きな開口部が設けられ、シリンダー型のヒゲゼンマイを収めた立体的に回転するチタン製キャリッジを鑑賞することが可能だ。
本作には、パーペチュアルカレンダーも搭載されており、6時位置に月と西暦、12時位置に曜日とムーンフェイズ、3時位置の小窓にグランドデイトが配されている。
これらの複雑機構を安定して稼働させる仕組みが、デュオメトル機構だ。時刻表示と複雑機構のふたつに対し、それぞれ独立した輪列と香箱を与えることで、複雑機構の作動状況に関わらず、時刻表示の精度を一定に保つことができる。1時位置と5時位置にはパワーリザーブインジケーターが配され、それぞれの主ゼンマイの残量を確認することが可能。
手巻き(Cal.388)。89石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。18KPGケース(直径44mm、厚さ14.7mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833
オメガ「デ・ヴィル センタートゥールビヨン」
中央に配されたトゥールビヨンが、ひと際目を引く「デ・ヴィル センタートゥールビヨン」。センタートゥールビヨンは輪列のレイアウトを専用に設計する必要があり、設計開発から組立調整に至るまで高い技術が要求される。オメガは1994年、社名の由来ともなったオメガキャリバーの誕生100周年を記念してセンタートゥールビヨンを開発した。
本作に搭載されたCal.2640には、そんなユニークな構造を継承しながらも、現代的なアップデートが加えられている。それが、高い耐磁性と優れた精度、約72時間のパワーリザーブだ。METASによるマスター クロノメーター認定を取得しており、1万5000ガウスの磁場に耐え抜き、日差は0から5秒という高い精度で稼働する。ケースバックからは、18Kセドナゴールド製の受けやパワーリザーブインジケーターを確認することが可能。
ケースは、18Kセドナゴールドと18Kカノープスゴールドを組み合わせたバイカラー。ブラックのダイアルには段差が設けられ、迫力あるトゥールビヨンを楽しむことができる。
手巻き(Cal.2640)。パワーリザーブ約72時間。18Kカノープス™️ゴールド×18Kセドナゴールドケース(直径43mm、厚さ12.7mm)。30m防水。3064万6000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000087
ジェイコブ「アストロノミア レギュレーター」
時と分を表すふたつのインダイアルとトゥールビヨンが浮遊しているような、ミステリアスなデザインを持つレギュレーターウォッチ。秒表示は、60までの数字が配された大型のディスクと6時位置の固定式の針が担う。ケース素材には18Kローズゴールド、時分秒のそれぞれのダイアルには、ブルーのサファイアが採用されている。
本作の特徴は、その立体感だけではない。ダイアル中央を軸として、3つのオブジェクトが時計回りに周回しつつ、秒表示用のディスクが反時計回りに回転するという圧巻の機構を備えているのだ。各々の回転速度は1周1分。厚さ18mmのミドルケースの側面には大胆なオープンワークが与えられ、様々な角度からその動きを鑑賞することができる。
この独創的な機構を実現するためには、大量の動力を安定的に供給する必要がある。同社は独自のコンスタントフォース機構を開発し、その課題をクリアした。約48時間のパワーリザーブや30m防水を備え、実用性も確保されている。
手巻き(Cal.JCAM56)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRGケース(直径43mm、厚さ18mm)。30m防水。世界限定250本。要価格問い合わせ。(問)ジェイコブ 銀座 Tel.03-6281-4777
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