2002年にマニュファクチュール化を果たしたロジェ・デュブイ。同社がその象徴として掲げ続けるのが、視覚的効果の強いキャリッジを前面に打ち出したフライングトゥールビヨンだ。今年は、そんなトゥールビヨンの可能性を広げる4つの新作を発表。いずれも強い革新性を持つ半面、そのディテールからは古典が見え隠れする。
センターフライングトゥールビヨンを備えた超大作。2022年の通称「ラウンドテーブル」に似た表示を持つが、設計は一新された。文字盤側に余白を設けることでトゥールビヨンが強調されたほか、ムーブメント自体も薄くなった。手巻き(Cal.RD115)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径45mm、厚さ14.41mm)。10気圧防水。世界限定28本。3509万円(税込み)。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]
伝説の時計師ロジェ・デュブイの教えの下に
2023年に超大作の「モノボルテックス スプリットセコンド クロノグラフ」を発表したロジェ・デュブイ。スプリットセコンドクロノグラフに縦回転の自動巻き、デジタル式の積算計などを盛り込んだ本作は、内製化を進めてきた同社の、いわば技術的な集大成だった。
そんなロジェ・デュブイが、24年のテーマに選んだのは、なんとトゥールビヨン。しかも4モデルを発表したのだから恐れ入る。ロジェ・デュブイのプロダクト・ストラテジー・ディレクター、グレゴリー・ブルタンは、トゥールビヨンをテーマに選んだ理由として「創造的で、一貫性があることを顧客に理解してもらいたかったため」と語る。
彼が言う一貫性は、03年発表のトゥールビヨンキャリバーRD03から見て取れる。大きなキャリッジ、ユニークな配置、そしてロジェ・デュブイのシグネチャーとなったフライングトゥールビヨン。あえてフライングトゥールビヨンに取り組み続ける理由を、ブルタンは名誉のため、と説明する。確かにキャリッジを支える上部の受けがないフライングトゥールビヨンは、視覚的なインパクトをもたらす半面、機構としての安定性に欠ける。それを知ったうえで挑むのが、時計メーカーとしての矜恃というわけだ。
24年のトーキングピースは、文字盤の中心にフライングトゥールビヨンを備えた「オルビス イン マキナ」である。輪列のコンパクトなトゥールビヨンは、レイアウトの自由度が高く、創造性を発揮するにはうってつけだ。ブルタンは、22年に時分針がセントラルトゥールビヨンの外周を回る「ナイツ オブ ザ ラウンドテーブル モノトゥールビヨン」を完成させ、それが進化形のオルビス イン マキナに結実した。ブルタンは強調する。
「薄くするため、ラウンドテーブルの設計は一から見直したよ」
セントラルトゥールビヨンの難しさは、時針と巻き真が同じ階層に置かれたことだった。対してブルタンは、巻き上げと時刻合わせの機構をムーブメントの裏蓋側に移植し、香箱とキャリッジの間にコンパクトな遊星歯車(!)を組み込むことで、スペースを確保した。歯形も標準的なNIHSではない特別なもの。「抵抗を減らすために一から開発した」とブルタンは語る。もっとも、省スペースが薄さだけに向かわなかったのはロジェ・デュブイらしい。ロジェ・デュブイの教えに倣って、地板や受けは厚く抜かれ、時計の立体感は過剰なまでに強調された。
ケースだけでなく、ブレスレットもグレード5チタンに改めたモデル。直径42mm、厚さ12.62mmというサイズを感じさせない、極めて軽快な装着感を持つ。ムーブメントは今までと同じに見えるが、地板や受けに使われる真鍮の素材を改めることで面取りが深くなり、表面の質も改善された。非常に魅力的なモデルだ。手巻き(Cal.RD512)。19石。パワーリザーブ約72時間。Tiケース。100m防水。世界限定28本。2117万5000円(税込み)。
注目すべきもうひとつのモデルが、全面チタン外装の「エクスカリバー チタンモノトゥールビヨン」だ。素材とブレスレットが違うだけに思えるが、ムーブメントの面取りが深くなり、やはり時計のメリハリがより強調された。
ちなみに現在、ロジェ・デュブイのトゥールビヨンは、キャリッジにチタン合金や、コバルトクロム合金などを採用する。軽くて磁気帯びしにくいこの素材も、革新性を強調するロジェ・デュブイならではのもの。良質かつユニークな面が目立つロジェ・デュブイだが、そこに留まらない実用性を加える、というのが、同社の掲げる、ハイパーオロロジー™の本質なのだ。
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