古くはマリンクロノメーターの製造で名を馳せ、現在は独創的なコレクションの展開で地位を確立している時計ブランド、ユリス・ナルダン。同社はどのような展開を描いているのだろうか? 2024年2月にマネージングディレクターに就任した、マティウ・アヴェルランにインタビューを行った。
[2024年6月12日公開記事]
「フリーク」「マリーン」「ダイバー」「ブラスト」各コレクションの拡充に期待
WatchTime:ユリス・ナルダンのコレクションは「フリーク」「マリーン」「ダイバー」「ブラスト」の4つのラインによって構成されています。2024年春には、新しい「フリーク S ノマド」が発表されました。これらのコレクションをどのように発展させていきたいですか?
マティウ・アヴェルラン:現在、いくつかのテーマを考えています。まず、可能な限り時計を小さくすることです。意味のある拡充をしたいと思っています。フリークにはサイズに限界があり、直径が36mmや37mmでは見栄えがしなくなりますし、技術的にも限界があります。同じムーブメントを搭載したまま、可能な限りケースを小さくしたいと思います。これは戦略的プロダクトですので、それができなければ、小さく薄いものを開発するつもりです。
この試みは、私たちの第2の戦略につながります。もっと女性の顧客を増やしたいのです。それには、時計のサイズだけでなく、細い手首に完璧にフィットするという人間工学的側面も必要です。そしてストラップなどのディテールも関わってきます。ユリス・ナルダンの「ダイバー44」のようなモデルは、女性にも似合うと思いますが、女性向けのストラップのご用意がありません。私はこのような状況を変えたいと思っています。
WatchTime:「フリーク」の展開については、どのような計画をお持ちですか?
マティウ・アヴェルラン:フリークは私たちにとって最も重要なラインです。現在このラインは「フリーク ONE」「フリーク S」「フリーク X」で構成されています。こちらから質問なのですが、フリークに続いて重要な次のラインは何だと思いますか?
自動巻き(Cal.UN-240)。15石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti×18KRGケース(直径44mm、厚さ12mm)。30m防水。1122万円(税込み)。
WatchTime:「マリーン」でしょうか?
マティウ・アヴェルラン:その通りです。ですから、マリーンが次の優先事項です。加えて、ユリス・ナルダンはもう破壊的なだけのブランドではないというメッセージを伝えていきたいと考えています。私たちはごく初期から、コンプリケーションを製作してきました。1846年の創業から最初の30年間は、リピーター機構やスプリットセコンド・クロノグラフを備えた懐中時計などを製造していましたし、私たちのミュージアムには、片面に10種類の表示機能を備えたものや、永久カレンダーを搭載した初期の時計などが展示されています。それから数十年間のユリス・ナルダンは、マリンクロノメーターでその名を馳せました。
ユリス・ナルダンは1970年代のクォーツ革命以降、ロルフ・シュナイダーが当時従業員がふたりしかいなかった会社を引き継ぎ、今日の姿まで築き上げてきました。そして独立時計師のルードヴィッヒ・エクスリンとのパートナーシップにより、「ガリレオ・ガリレイ アストロラーベ」や「コペルニクス プラネタリウム」「ヨハネス・ケプラー テルリウム」から成る天文三部作や、リュウズで調整可能な永久カレンダーなどを完成させました。そしてついに、革新的素材を時計作りに取り入れるブランドとなったのです。シリコン製エスケープメントを、時計業界で最初に採用したのはユリス・ナルダンです。私は今後、この傑出した歴史をより強く強調していきたいと思います。これはマリーンにとって重要な背景作りともなりました。
自動巻き(Cal.UN-119)。45石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42mm)。50m防水。世界限定300本。215万6000円(税込み)。
WatchTime:ほかのふたつのライン、「ダイバー」と「ブラスト」についてはどう考えていますか?
マティウ・アヴェルラン:ブラストは単にデザインが売りという訳ではありません。将来的には、主に複雑時計のプラットフォームとしての役割を果たしていくでしょう。ブラストをフリークに取り込むつもりはありませんし、マリーンは現代的なデザインを備えた、よりクラシックなラインとなるでしょう。
ダイバーは、私たちのスポーツウォッチです。純粋なダイバーズウォッチからスポーツウォッチの方向へと発展させたいと考えています。ダイバーズウォッチは、軽くて快適で、信頼性が高く、視認性に優れていなければなりません。そしてラバーストラップはこの時計にぴったりで、水とのつながりも与えてくれます。
自動巻き(Cal.UN-172)。25石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRG✕Tiケース(直径45mm)。50m防水。1062万6000円(税込み)。
WatchTime:ご自身でも時計を集めているのですか?
マティウ・アヴェルラン:はい、15歳の時から集め始めました。でも私だけではありません。セールスチームのメンバーにはコレクターが多いです。私はいつも好きな時計を、他のブランドからも購入しています。
自動巻き(Cal.UN-118)。50石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。95%リサイクルされたSSケース(直径44mm)。300m防水。209万円(税込み)。
WatchTime:お持ちの時計をいくつか教えていただけますか?
マティウ・アヴェルラン:10年くらい前に、パテック フィリップのRef.5960を購入しました。ステンレススティール製の美しいクロノグラフ搭載年次カレンダーです。これはずっと私が憧れていた時計で、香港にいたときに入手する機会があったのです。その他にも、オーデマ ピゲやロレックスなど他のブランドのものも持っていて、中には1000スイスフランから2000スイスフランのエントリーレベルのものもあり、この価格帯にはクリエイティブなものもたくさんあります。
WatchTime:ユリス・ナルダンの時計も集めていますか?
マティウ・アヴェルラン:7年前にユリス・ナルダンに入社したとき、ブランド内のどの時計でも着用していいと言われましたが、その時には気に入ったものがありませんでした。でも、今はまったく違います。支持できる時計を開発するのがとてもうれしいのです。自分で最初に買ったユリス・ナルダンの時計は、ブルー文字盤のチタン製の「ダイバー44」でした。この時計はダイバーズウォッチですが、私が何よりも気に入っているのは、あらゆるアクティビティ、あらゆるスポーツに対応する本物のスポーツウォッチだからです。私は水泳、ジョギング、テニス、ジムで着用しています。2本目は「フリーク X」のローズゴールドモデルでした。普段使いの時計です。
ユリス・ナルダンは時計好きの集まりです。セールスチームのメンバーのほとんどが時計を集めていますから、お客様との会話も商業的でなく、より本格的なものになります。顧客の皆さんと理解し合えるのです。この点を拡充したいと思っています。ユリス・ナルダンはエンドユーザーにとってもっと身近な存在になるべきです。これは、私が数ヵ月前から集中的に取り組んでいることです。
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