時計に精通する愛好家はもとより、愛用者にはテニスをはじめとするスポーツ選手やセレブリティも多く、“究極の上がり時計”とまで称されるジェラルド・チャールズは、ジェラルド・ジェンタ自身のデザインと、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ製ムーブメントとを融合し、唯一無二の世界を展開。2024年の日本再上陸で注目を浴びる、今最も目が離せないブランドだ。
ジェラルド・ジェンタが遺したアイコニックなケースデザインを活かしながら、これと調和する革新的なスケルトンムーブメントを一から開発。2023年に18KRGモデルが登場した。自動巻き(Cal.GCA5482)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRGケース(縦41.7×横39mm、厚さ8.35mm)。10気圧防水。1452万9900円(税込み)。
菅原茂:文 Text by Shigeru Sugawara
竹石祐三:編集 Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]
「マエストロ 8.0 スケルトン」に見る、ジェラルド・チャールズの個性あふれる造形
誰が呼んだか“時計界のピカソ”。20世紀を代表する偉大な時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタを称揚するのにこれほどふさわしい言葉は見当たらないだろう。名だたる高級時計ブランドの要望に応えて創作したデザインの数々は言うに及ばず、自身の名を冠した時計ブランドのデザインにおいても奇想に次ぐ奇想を繰り出し、芸術性に満ちた型破りな表現は、このジェラルド・ジェンタ以外に成し得ないものだった。
唯一無二の世界を開拓したジェラルド・ジェンタがジェラルド・チャールズ時代に遺した、最後にして最高傑作とされる2004年のオリジナルデザインをベースにして、シンプルな超薄型モデルからクロノグラフやトゥールビヨンといった複雑時計を展開するのが現在の「マエストロ」コレクションである。
ジェラルド・チャールズはしかし、ジェンタの伝説的なデザインの、喩えて言うなら正統な遺産相続を専らとするわけではない。巨匠の比類ないデザインに敬意を払う一方で、現代のライフスタイルにマッチし、フォーマルな装いからスポーツシーンまで幅広く使える実用的なラグジュアリーウォッチを目指して新機軸を打ち出しているところも注目すべき重要なポイントだ。すなわち、快適な装着感を考慮した薄型ケース、100mの防水性能、ラバーストラップ、5Gの衝撃に耐え、約50時間のパワーリザーブが備わる自動巻きムーブメントなどだ。加えて、特別なフォルムをした薄型ケースに搭載する機械式ムーブメントを高品質と高性能に定評のある専業メーカー、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエと共同開発して独自色を強調している点も見逃せない。
そうしたジェラルド・チャールズの現行モデルの中で異彩を放つのが「マエストロ 8.0 スケルトン」。教会建築から想を得たジェンタのケースデザインを尊重しながら、未来へとつなぐ革新に取り組んだのは、ジェラルド・チャールズの現クリエイティブディレクターでデザイナーのオクタヴィオ・ガルシアである。手描きで何百ものスケッチを繰り返した彼は、ドラフトに数カ月、完成に近づけるのにさらに3カ月を費やし、最終的にテーマを天体図に定めて斬新なデザインを生み出した。それは、ケースの幾何学的造形を引き立てるだけでなく、天空の遠く近くで星が輝くような光景をイメージさせるスケルトンだ。
ヴォーシェは、オクタヴィオ・ガルシアの難しいデザインに応えるべくムーブメントを一から開発し、2年をかけて完成にこぎつけた。マイクロローターが透けて見える星型のラインをはじめ、全体的に細い直線が交錯する複雑かつ繊細なスケルトンムーブメントは、ローターから輪列、脱進調速機構に至る部品の可視化率がなんと90%を超え、表側と裏側からメカニズムの隅々まで見渡せる。また、ローズゴールドやステンレススティールのモデルに搭載するムーブメントは、NAC処理でプレートやブリッジにアンスラサイトのダークカラーを施し、各部のコントラストを強調して存在感を際立たせるなど、無機的な機械構造の美観にも大いに注意を払っている。
このスケルトンモデルのように、違いの分かる愛用者たちがジェラルド・チャールズに見いだした特別な魅力は、美的デザインのアートとテクニカルなアートとの絶妙な融合にほかならない。日本でブレイクする日も近いだろう。
〝マエストロ〟の創造性を継承し、進化させた最新作「マスターリンク」
1931年、イタリア系の家系でジュネーブに生まれたジェラルド・ジェンタは、ジュエリーデザイナーとして出発した後に時計の分野に進出し、1970年代以降は、高級時計ブランドの名作を数多くデザインする一方で、ジェラルド・ジェンタ銘の時計を創作する自身の会社を展開して名声を確立した。
ジェンタが会社を売却後、自身のふたつのファーストネームをブランド名に掲げて再出発したのは2000年。新会社のジェラルド・チャールズだ。同社で3年間トップを務めた後、親交の深かったイタリア時計業界の名家ジヴィアーニ家に03年、会社を売却し、11年に亡くなるまでチーフデザイナーとして社に残った。
現在のジェラルド・チャールズを率いるのは、2000年の会社設立に貢献したフランコ・ジヴィアーニの息子で、19年からCEOを務めるフェデリコ・ジヴィアーニ。新たな株主を迎え、中東やヨーロッパからアメリカ、日本への進出を果たす一方で、製造体制ではジュネーブのモンブラン通りに300㎡を超えるアトリエを新設するなど、ここ5年の躍進には目覚ましいものがある。
時計を見れば巨匠の顔が思い浮かぶような「マエストロ」コレクションの皮切りは、21年のベーシックな超薄型モデル「マエストロ 2.0 ウルトラシン」である。続く22年の「マエストロ GC スポーツ」では、スポーツ中に手の甲を傷めないようにケースの左側にリュウズを配し、チタンで軽量化を図った。また21年から各種のケース素材やダイアルカラーを展開する「マエストロ 3.0 クロノグラフ」も代表作のひとつ。オクタヴィオ・ガルシアの斬新なデザインに合わせてムーブメントを開発した「マエストロ 8.0 スケルトン」やジェンタが05年にデザインした「マエストロ・フライング トゥールビヨン」をベースに開発された23年の「マエストロ 9.0 トゥールビヨン」も創意が際立つ逸品だ。
2024年最新作は、ジェンタが最後にデザインしたブレスレット一体型時計からの着想。メゾン初のブレスレットは、ケース上部の直線と下部のスマイルラインに呼応する非対称のリンクが特徴。ケースバックから見える、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエが製作したジェラルド・チャールズ仕様の最新ムーブメントCal.GCA5401。マイクロローター自動巻きで2.67mmの超薄型ながら、5Gの衝撃に耐えるタフな作り。スポーティーかつエレガントな薄型ケースとの相性も抜群だ。自動巻き(Cal.GCA 5401)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(縦38×横38mm、厚さ7.99mm)。10気圧防水。428万2300円(税込み)。
そして24年の最新作は、これまでのコレクションからさらに進んだ「マスターリンク」である。メゾン初となるステンレススティールによる一体型ブレスレット時計は、ジェンタが最後にデザインしたブレスレットウォッチからの着想だが、ケース形状に沿った直線と曲線のリンクでブレスレットを構成する非対称デザインがまたしても独創的だ。
この「マスターリンク」でも、薄型、100m防水、5Gの耐衝撃性、自動巻き、約50時間のパワーリザーブなどはマエストロと共通で、プロダクトの一貫性が保たれている。ちなみに以上のモデルに搭載するヴォーシェ製の機械式ムーブメントは、自社仕様にアレンジ、もしくは新たに共同開発したもの。デザインのみならず、技術面での品質や性能にも一切の妥協を見せないのがジェラルド・チャールズだ。
独創のフォルムをベースにした6つの現行コレクション
ブランドの進化を意図してオクタヴィオ・ガルシアがケースのフォルムと調和するスケルトンを初めてデザインしたのは2022年。独創的なアーキテクチャーのテーマは天体図だ。これに基づく2.6mmの超薄型ムーブメントをヴォーシェが開発した。自動巻き(Cal.GCA 5482)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(縦41.7×横39mm、厚さ8.35mm)。10気圧防水。1105万1700円(税込み)。
非対称形状のリンクを特徴とするメゾン初の一体型ブレスレットモデルは、ブルーとこのシルバーダイアルの2種類。微妙にサイズダウンした歴代最薄のケース、上品なスーツから着想したストライプ模様、針やインデックスなども新しいデザイン。自動巻き(Cal.GCA 5401)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(縦38×横38mm、厚さ7.99mm)。10気圧防水。428万2300円(税込み)。
プロテニスプレイヤーの協力を得て、スポーツ中に手の甲を傷めないように配慮した左リュウズのモデルを2022年に発表。チタンを採用してSSより40%の軽量化と、5Gの耐衝撃性に加え最大40%の耐久性の向上、巻き上げの最適化も実現した。自動巻き(Cal.GCA 3002)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。Tiケース(縦41.7×横39mm、厚さ8.7mm)。10気圧防水。世界限定200本。319万7700円(税込み)。
「マエストロ」シリーズの方向性を決定づけた2021年発表の代表作。薄型ケース、100mの防水性、5Gの耐衝撃性と約50時間のパワーリザーブが備わる自動巻きムーブメント、クル・ド・パリ模様のラバーストラップなど、以降の標準仕様を確立した。自動巻き(Cal.GCA 3002)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(縦41.7×横39mm、厚さ8.7mm)。10気圧防水。291万7200円(税込み)。
ジェンタが2005年にデザインしたフライングトゥールビヨンに基づき、オクタヴィオ・ガルシアがデザイン、ヴォーシェがムーブメントを製作。デイリーユースの時計として考案され、ケースはSSで、ムーブメントに5Gの耐衝撃性が備わる。自動巻き(Cal.GCA3024/12)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(縦41.7×横39mm、厚さ9.0mm)。10気圧防水。世界限定50本。1690万4800円(税込み)。
ジェンタ自身による2004年のクロノグラフを再解釈して21年に発表。年々バリエーションを広げる人気作だ。ジェラルド・チャールズ仕様のヴォーシェ製ムーブメントは薄型ケースに合わせ6.07mmながら5Gの耐衝撃性が備わる。自動巻き(Cal.GCA 3022/12)。46石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRGケース(縦41.7×横39mm、厚さ11.5mm)。10気圧防水。742万3900円(税込み)。
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