190年を超える歴史の中で数多の傑作を生み出してきたロンジン。1980年代以降同社は、その豊富なアーカイブピースの復刻にも尽力してきた。ロンジンが復刻時計のパイオニアかつリーダーであることに対し、異論を挟む者はおそらくいないだろう。では、その秘訣は何であろうか。今回は「ロンジン レジェンドダイバー」と「コンクエスト」の最新作を例に、同社の復刻モデルに受け継がれる伝統に触れていきたい。
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野島翼:文 Text by Tsubasa Nojima
加瀬友重:編集 Edited by Tomoshige Kase
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]
ヘリテージは細部に宿る
1832年創業の老舗ブランドであり、復刻の名手としても知られるロンジン。同社はその長い歴史の中で、数々のエポックメイキングな時計を世に送り出してきた。それらがもたらしたものは時計の進化だけではない。優れた信頼性と機能性は、航空交通やスポーツ計時をはじめとする数多の分野に革新をもたらし、人類の発展を促した。そして、かように輝かしい歴史を持ち、また過去への敬意を忘れない姿勢こそ、現在の同社を築き上げてきた要因のひとつなのだ。
そんな同社の復刻モデルの中でも特にロングセラーとなっているのが、2007年から続く「ロンジン レジェンドダイバー」と、1997年に登場した「コンクエスト ヘリテージ」だ。このふたつの共通点は、最初に復刻された後もモデルチェンジやバリエーションの拡充を続け、アップデートを重ねていることにある。復刻という手法に対し、過去の再現ではなく、新たな価値を創出するきっかけとして機能させている点は興味深い。
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直径39mmのコンパクトなケースとノンデイト仕様のダイアルを備えた、ロンジン レジェンドダイバーの最新作。2時位置のリュウズでインナーベゼルの操作が可能。ISO6425規格に準ずる正真正銘のダイバーズだ。自動巻き(Cal.L888.6)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39mm、厚さ12.70mm)。30om防水。51万400円(税込み)。
中でもそのことを強く感じさせるのが、昨年登場したロンジン レジェンドダイバーの最新作と、今年の新作である「コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ」だ。
ロンジン レジェンドダイバーは、1959年に登場したダイバーズウォッチRef. 7042に範を取ったデザインを特徴とする。潜水時間を計測するための機能は回転式のインナーベゼルによって具備され、細身のラグや艶やかなラッカーダイアルと相まって、ダイバーズウォッチらしからぬ上品な佇まいを見せる。
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一方で、実用性の高さは折り紙付きだ。アラビア数字とバーを組み合わせたインデックス。異なる形状を持つ3本の針には、グリーンもしくはブルーの蓄光塗料が塗布され、ダイアルとのコントラストを生むとともに、暗所での視認性を高めている。優れた防水性も見逃せない。本作はダイバーズウォッチへの要求事項を定めた国際規格、ISO6425を満たしており、その実力が裏付けられている。
シンプルで上品なデザインと高い実用性を兼ね備えた本作は、ビジネスシーンからアウトドアまでを難なくカバーしてくれる、まさに理想のオールラウンダー。その活躍の幅をさらに広げてくれるのが、回転式のインナーベゼルだ。リュウズ操作のみで潜水時間だけではなく、会議や移動、アクティビティの時間を手軽に計測することが可能だ。多忙な現代人にとっては、効率的な時間管理をサポートしてくれる頼もしい機構となる。
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コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブは、数あるコンクエストのうち、59年に登場したモデルをモチーフとしたものだ。立体的なインデックスや12時位置のデイト表示はその特徴を踏襲したものであるが、中でも特筆すべきは、中央に配された円形のパワーリザーブインジケーターだろう。
指針を描いたディスクと目盛りを配したリングによって構成されたシンメトリーなデザインのインジケーターは、半世紀以上前のデザインであるとは思えないほどモダンな印象だ。この機構を再現するためにムーブメントに手を加えていることからも、復刻に懸ける同社の熱量がどれほどのものかがうかがい知れる。
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ふたつの回転ディスクを用いるユニークなパワーリザーブインジケーターを搭載した2024年の新作。シャンパンダイアルとブラックのアリゲーターストラップを組み合わせることで、上品な印象に仕上がっている。自動巻き(Cal.L896)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38mm、厚さ12.30mm)。5気圧防水。59万5100円(税込み)。
時計のロングパワーリザーブ化が進み、着用者はデスクワークが主体となる現代。この状況は、特に自動巻きに対するパワーリザーブインジケーターのメリットがより増すのではないか。いくらパワーリザーブが長くても、十分に巻き上げられていなければその真価を発揮できない。それどころか巻き上げ量を見誤り、意図せぬタイミングで停止してしまうことにもなりかねない。本作のパワーリザーブは約72時間。巻き上げ量が可視化されていればこそ、そのポテンシャルを十分に引き出すことができるというものだ。
過去に学び、その伝統を未来へと継承する。これこそが、ロンジンの復刻モデルが担う役割である。時代に即してデザインとスペックをアップデートしつつも根幹はブレない。その細部には、190余年の歴史が息づいているのだ。
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https://www.webchronos.net/features/74603/