1996年に日本向け限定バージョンとして誕生したコンパクトな自動巻きクロノグラフが「356.フリーガー」の原点。やがて1998年にレギュラー化し、世界的にも高い評価を得た「356.フリーガー」は2023年に25周年を迎え、より古典的でエレガントな「356.フリーガー クラシック」が発表された。日本に愛され世界へと羽ばたいたパイロット・クロノグラフの傑作「356.フリーガー」。その高い機能性と魅力を、歴史的な歩みとともに検証する。
コンパクトな直径38.5mmのケースを持つクラシカルな魅力あふれるクロノグラフ。インデックスと針の両方に蓄光塗料が塗布され、夜間の視認性も確保する。パイロットウォッチらしく、減圧耐性もある。自動巻き(Cal.SW500)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ15.5mm)。10気圧防水。48万4000円(税込み)。
名畑政治:文 Text by Masaharu Nabata
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]
パイロット・クロノグラフの傑作「356.フリーガー」
ドイツ語で「パイロット」を意味する「FLIEGER(フリーガー)」。ドイツのブランド「ジン」にとって、コレクションの多くがパイロットウォッチ、すなわちフリーガーのための計器である。そこには創業者であり元ドイツ国防軍パイロットであったヘルムート・ジン(1916〜2018)の理念が継承されている。
その豊富なパイロットウォッチのコレクションの中でも、とりわけ日本との関係性が深いのが「356.フリーガー」と命名されたコレクションだ。その初期モデルは日本市場のために1996年、300本限定の手巻き式特別バージョンとして誕生した。それは「256.パイロット・クロノグラフ」をベースに、よりエレガントでコンパクトなモデルとすべく回転ベゼルを廃し、マットブラックのダイアルに「FLIEGER」の文字を印し、サンドブラスト仕上げのステンレススティール製ケースと耐衝撃性に優れたアクリル風防を装備していた。
これが日本市場で大成功を収めたことから、ジンは正式にコレクションに加えることを決定。98年12月、自動巻きクロノグラフムーブメントをサンドブラスト仕上げのステンレススティール製ケースに収め、アクリル風防を採用したレギュラーコレクション、356.フリーガーを発表。これは世界でも高い評価を獲得した。
356.フリーガーは文字通りパイロットクロノグラフとして古典的でありながら、現代にも通用するスペックを備える。3時位置の窓で曜日と日付を表示し、6時位置に12時間積算計、9時位置にスモールセコンド、12時位置に30分積算計を搭載するなど、パイロットクロノグラフ必須の表示を装備。耐磁性はドイツ工業規格のDIN8309、防水性はDIN8310を満たし最高のパフォーマンスを発揮する。
30分積算計とスモールセコンドのインダイアルを水平に配置し、グレーのグラデーションダイアルを採用した古典的なクロノグラフ。ストラップ素材には、ヘッセン州の猪の革が用いられる。自動巻き(Cal.SW510)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ15.6mm)。10気圧防水。60万5000円(税込み)。
この356.フリーガーコレクション誕生25年となる2023年に発表されたのが、より古典的でエレガントなツーインダイアルの「356.フリーガー クラシック」である。ダイアルはアンスラサイト(グレー)からブラックへのグラデーション仕様と、ホワイトのベースにブラックのインダイアルを装備する仕様の2種類。ケースはシリーズ共通のサンドブラスト仕上げのステンレススティール製で、直径38.5mmというコンパクトなものだ。さらにダイアル6時位置には〝古典的なパイロットウォッチ〞の意味を込めドイツ語で「FLIEGER KLASSIK」と記されている。
近年、行き過ぎた腕時計の大径化の反動からか、小径化とシンプル化が時計界の大きな潮流となっている。そんなトレンドとは関係なく、1996年の日本限定モデル、そして98年のレギュラー化という歴史を刻んできたジンの356.フリーガー。そこにはジンというウォッチメーカーの真に使いやすい高機能なタイムピースを生み出そうという強固な意思が確かに表れていると思うのである。
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