「不可能を可能に」というコンセプトを掲げ、斬新なジュエリーと複雑機構を搭載したウォッチを生み出すジェイコブ(JACOB & CO.)。リニューアルした銀座ブティックのグランドオープンには、創業者のジェイコブ・アラボ氏と北野武氏が登場した。新ブティックの全貌とともに、ジェイコブ氏の腕時計作りへの情熱を特別インタビューを通して伝える。
阿形美子:文 Text by Yoshiko Agata
2024年7月22日公開記事
ジェイコブ銀座ブティックが6月29日(土)に移転後グランドオープン
1986年にジュエリーブランドとしてスタートしたジェイコブは、2002年に「ファイブタイムゾーン」で時計業界にも本格進出。以来、複雑機構を搭載したり、ジェムストーンをふんだんにあしらったりと、機構も見た目も革新的なモデルで各界のセレブリティと時計愛好家を魅了してきた。
日本では2022年に国内初のブティックを銀座8丁目にオープンさせた。そしてついに、2024年6月29日に満を持して6丁目へ移転しグランドオープンを果たした。売り場面積は従来の約2倍の約200平方メートルに拡大。店内にはVIPルームも用意されている。多くの顧客が広い店内で、リラックスしながら心行くまで腕時計を選べるようになった。
オーナーのジェイコブ・アラボ氏が直々に北野武氏を案内
テープカットセレモニーには、創業者であり会長のジェイコブ・アラボ氏と映画監督・俳優・コメディアンの北野武氏が登場。北野氏はジェイコブの腕時計を複数所有するファンでもある。2023年のカンヌ国際映画祭でも「エピックSF24トゥールビヨンバゲット ブルーダイヤル」を着用して登場していた。
テープカット後は、ジェイコブ氏が直々に北野氏に店内をガイド。北野氏は、30以上の色調の天然サファイアを外装全体にセッティングした「ビリオネアIII レインボー」の輝きに注目していた。
さらに、ジェイコブ氏が文字盤上でルーレットを楽しめる「カジノ トゥールビヨン」を実演して見せた。すると北野氏は「きれいですごいだけじゃなく、遊んでるんだね。時計メーカーの中でも独特だよね。今度は俺が、今度はこういう遊びはどうだ? って提案しても良いかな」と伝えた。
ジェイコブ氏の回答はもちろん「イエス!」。今後、両者の面白いコラボレーションモデルの誕生に期待したい。
貴重なジェイコブの腕時計が銀座店に一同集結!
グランドオープン日であるこの日には、2024年の新作が早々とお披露目されたほか、店内にはジェイコブを代表するスーパーコンプリケーション「アストロノミア」や、自動車会社ブガッティとのパートナーシップによる「ブガッティ シロン」、映画『ゴッドファーザー』のメロディのオルゴールを搭載した「オペラ ゴッドファーザー」などがバリエーション豊富に取りそろえられた。もちろん、ジュエリーのラインナップも充実している。
2014年に登場したアストロノミアは、4本のアームの先にインダイアル、トゥールビヨンキャリッジ、オービタルセコンド、イエローサファイア製ムーンを備え、さらに、24時間で1回転するチタン製の地球儀まで配した、機械式時計の新たな表現方法に挑戦したモデルだった。10年を経て、その機構とデザインは進化を続けている。
移転後の銀座ブティックのインテリア
白を基調とした内装デザインは、ジェイコブ氏自身によるもの。100本はあろうかという真紅のバラのディスプレイも見事だった。天井には、ニューヨークの本店と同様に独自の幾何学的なラインでデザインされたLEDケーブルが張り巡らされており、壁面に設置されたLEDモニターでユニークな機構が動く様子を鑑賞することもできる。
ジェイコブ銀座ブティックへのアクセス
新たなジェイコブ銀座は、銀座駅から徒歩約5分と好アクセスなロケーション。もはや“時計通り”と呼べそうなほど高級時計ブランドが集中する並木通りの1本裏手に位置する。
店舗詳細
住所/東京都中央区銀座6-7-9 丸喜ビル1F
問い合わせ/03-6281-4777
ホームページ/https://jacobandco.jp/
営業時間/11:00-20:00
ジェイコブ・アラボ氏特別インタビュー
来日したジェイコブ・アラボ氏に特別インタビューをする機会に恵まれた。斬新かつ独創的なクリエーションの原点に迫った。
旧ソ連で生まれたジェイコブ氏は、13歳で家族とともにアメリカへ移住。ジュエリーの組み立て師としてキャリアをスタートさせ、1986年にジェイコブをジュエリーブランドとして創業した。
「自分が受けたインスピレーションを覚えておいて、常に次のアイデアを思い付くようにしています。発想の元となるのは、芸術や建築など。私には、日常のものを時計の中に凝縮するアイデアがたくさんあります。機械式時計でこれまで作られたことのない動きや、人が見てとても面白いと感じることをいつも考えているので、朝、起き抜けにいきなり新しいアイデアがパッと浮かぶこともあります」
ジェイコブのユニークな複雑機構のアイデアは、すべてジェイコブ氏から生まれるという。
「すべてのアイデアは私から生まれます。まずスケッチをして、完璧にするためにパソコンで直します。16歳の時から手書きでデザインはスケッチしていますよ。その後、アイデアをスイスの時計技師に伝え、そこでその機構が成立するかを試行錯誤しながら研究開発します。アイデアを思いついてから実際に腕時計になるまでは大体2〜3年ほどかかりますね」
ジェイコブ氏の腕時計への情熱の原点は、13歳の時に父から贈られた腕時計にあった。
「13歳の時に父がプレゼントしてくれたのは、文字盤に金メッキの世界地図が描かれた、2タイムゾーン表示の腕時計でした。この腕時計によって、私は腕時計作りが大好きになりました。後に、そのデザインを元に『ザ・ワールド イズ ユアーズ デュアルタイムゾーン』という腕時計を作りました。
私が13歳から持ち続けているのはこの、2タイムゾーン表示の腕時計くらいです。でも、私の小さな記憶を元に生まれた腕時計が、皆さんに届いているのがとてもうれしい。本当に、自分の中でもすごく大きな到達点を感じられます」
今後のモデルの構想を聞かせてもらえるだろうか。
「私たちは、どこかの国に新ブティックがオープンすると毎回スペシャルエディションを作っていて、すでに日本のための新しいデザインもありますよ。その後のモデルのことは他のウォッチメーカーに聞かれたくないので、まだ言えないことが多いですね。いつも驚かせようと思っているので、楽しみにしてください」
最後に、日本の時計愛好家に向けて勧めたいモデルを尋ねたところ「作るものすべて」だという。その回答に揺るぎない自信がうかがえた。
「皆さん、それぞれに好みが違うので、1モデルを大量には生産せずに、質の高いものを作り、それを好きな方に買ってもらうというかたちでやっています。また、日本の時計愛好家は2通りのタイプがあると感じています。保守的な人と、主張の強い腕時計を欲しがる人です。その2つは完全に違うタイプだと思っています。ですが私たちは、それぞれの人に合った腕時計を提案することができるのです」
現在ジェイコブ銀座ブティックの店頭に並ぶモデル
ジェイコブの年間生産本数は決して多くはない。そのため、滅多にお目にかかることのできないレアピースも多いのだ。今、銀座ブティックを訪れれば、実際に見ることのできる2モデルを紹介しよう。
ザ ワールド イズ ユアーズ デュアルタイムゾーン
自動巻き(Cal.JCAA11)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KRGケース(直径43mm、厚さ14mm)。30m防水。世界限定999本。1003万2000円(税込み)。
まずはザ ワールド イズ ユアーズ デュアルタイムゾーン。このモデルは、ジェイコブ・アラボ氏のインタビューでも言及されている、13歳の誕生日に父親から贈られた腕時計をモチーフにしたものだ。世界地図をかたどった文字盤の中央には、縦にふたつの時刻表示が並び、スモールセコンドの働きをする羅針盤が中央にひとつだけ配されている。驚くべきはひとつのリュウズでふたつの時刻表示を操作できる点だ。
エピックX スケルトン
手巻き(Cal.JCAM45)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。Tiケース(直径44mm、厚さ13.05mm)。100m防水。シリアルナンバー入り。387万2000円(税込み)。
もう1本の「エピックX スケルトン」は、Xをかたちどったケース形状が特徴的な腕時計だ。ムーブメントはスケルトン仕様。文字盤から見えるアイコニックな2本のブリッジも肉抜きされている。そのため、香箱や輪列といった内部構造の動作をじっくり鑑賞することができる。時刻表示は時針と分針を備えている。
なお、この写真の腕時計はチタン製のケースを備えた、ブラックをテーマにしたモデルだ。バリエーションは豊富であり、ホワイトやイエローをカラーのテーマにした腕時計や、ケース素材にローズゴールドを用いた素材違いもラインナップには加えられている。
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