東北唯一のパテック フィリップ・コーナーを6月8日リニューアルオープンしたHF-AGE仙台店。このオープンに先駆けて開催された、パテック フィリップのスペシャルトークショーの模様をお送りする。登壇者は今やYoutubeで人気のロック福田こと福田豊と、クロノス日本版編集長の広田雅将だ。テーマは「パテック フィリップが持つ4つの魅力」だ。
Photographs by Mika Hashimoto, Patek Philippe
細田雄人(クロノス日本版):文
Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
[2024年7月15日公開記事]
東北唯一のパテック フィリップ・コーナーがリニューアル
6月8日にパテック フィリップ・コーナーをリニューアルオープンしたHF-AGE仙台店。東北唯一というパテック フィリップのコーナーを占有面積90㎡という充実のスペースで展開するだけあり、同店のリニューアルは時計業界中から注目を集めることとなった。
そんな“一大イベント”とだけあり、リニューアルオープン前日の6月7日にはオープニングセレモニーを開催。さらに同日夜には「パテック フィリップの魅力とは何か?」と題打ったスペシャルトークショーが行われた。
今回は見どころ満載のイベントから後半戦、腕時計魂で大ブレイクした“ロック福田”ことライター/編集者の福田豊と、クロノス日本版編集長の広田雅将によるトークショーの模様をダイジェストでお送りしよう。
パテック フィリップが持つ、4つの魅力とは?
福田と広田によるトークショーは、スライドショーを用いてパテック フィリップが持つ4つの魅力から、ブランドを解き明かそうというものだ。まず、最初の魅力として挙げたのが「ファミリービジネス」という視点だ。
1.「ファミリービジネス」という魅力
広田雅将(以下、広田):パテック フィリップの魅力はもちろん色々とあるんですが、その中でも大きく4つの要素が挙げられると思います。まず、ひとつ目が「ファミリービジネスである」点です。
もともと、パテック フィリップはアントワーヌ・ノルベール・ド・パテックとフランソワ・チャペックが1839年に興したブランドですけど、1932年にスターン家が経営権を取得します。それ以来、一貫してスターン家が経営をしているんです。ラグジュアリーの世界って、今、ファミリービジネスは少なくなりましたよね?
福田豊(以下、福田):そうですね。時計でいうと創業家が未だに残っているブランドは1社くらいしかなくて。ファッション業界で見ても、ファミリービジネスってそんなに残ってないですよね。
広田:何がファミリービジネスっていいのかというと、ブランドはよく“メゾン”という言葉を使います。メゾンはフランス語で“家”という意味の言葉です。つまり、同族で経営をずっと続けているブランドだけが本来はメゾンと言えるわけです。このメゾンという言葉の響きは、ラグジュアリービジネスにとって格別です。
そして、家族経営を続けているから株主の影響を受けづらい。そのため、時計作りの軸がブレないんです。福田さん、パテック フィリップを見ていて、ここがファミリービジネスだなと感じるところはありますか?
福田:1932年にスターン兄弟がオーナーになって、真っ先に行ったことのひとつが自社ムーブメントの開発を再開することだったんですよ。
もうひとつ感心したのが、並品の生産を打ち切って、今後高品質のモデルしか作らないと宣言し、今に至ること。この「今に至る」というのがすごいんです。外の血が入っていないから、初代の人が言ったことが一子相伝で続くと。
広田:そうですよね。
福田:パテック フィリップというブランドを考える時にいつも思い浮かべるのが、「自分のところの製品は生涯直す」と謳っていることなんです。僕らみたいに常に時計業界で仕事している人間だとみんな知っていることなんですけど、実はパテック フィリップ以外にも「永久修理」に対応しているブランドって実は結構あるんです。
広田:ふむふむ。
福田:だけど、みんなそれをあえて言わないじゃないですか。じゃあなんで他ブランドは明言しないのに、パテック フィリップは謳うんだろうって、ずっと考えていたんです。ふと思い至ったのは、ファミリービジネスだから言えるんだと。
どこかのグループに属してるマニュファクチュールが「うちは生涯修理対応しますよ」と言ったら、そのグループに所属する他のブランドに迷惑がかかってしまうわけです。「なんでこのブランドは修理対応するのに、こっちは対応できないんだ」って。
あともうひとつ思ったのは、「生涯直します」って言うことは遠い未来の約束なわけです。でも、今の時計メーカーはCEOが割と代わるし、その中には時計の専門家ではない人も混ざったりします。そういう体制だと、“未来の約束”なんてできないんですよ。だから「生涯修理します」って宣言できることは、我々が思っている以上にすごいことなんです。
2.「使えるコンプリケーション」という魅力
ファミリービジネスと並んで、広田がパテック フィリップの魅力として推すのが、「使えるコンプリケーション」を多く送り出している点だという。その理由を福田と語る。
広田:パテック フィリップって世界最高峰の時計メーカーで、値段は確かに高くて、作りもいい高級時計。でも、個人的に時計オタクからすると、パテック フィリップの時計はめちゃくちゃ使えるんです。
福田:実用性がすごく重視されていますよね。
広田:ですよね。「カラトラバ・パイロット・トラベルタイム 5524」なんかはすごく良い例です。ケースサイドのボタンを押すと時針が単独で動くんです。で、ローカルタイムとホームタイムにはそれぞれ小窓が付いていて、それで午前と午後が分かるようになっているんです。これがすごく使いやすい。
自動巻き(Cal.26-330 S C FUS)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ最大45時間。18KRG(直径42.0mm、厚さ10.78mm)。3気圧防水。912万円(税込み)。
また、年次カレンダーという2月末以外はカレンダーの調整が必要のない機構もパテック フィリップが開発しています。(日付調整が必要とされない)永久カレンダーほど複雑じゃなくて、製造コストも下げられている。だけど使い勝手としてはほとんど変わらないし、むしろ便利なんです。
福田:永久カレンダーは止まっちゃうと面倒臭いんですよね。
広田:その点、年次カレンダーはよりシンプルで使いやすいです。パテック フィリップっていうと、この年次カレンダーの存在は大きいです。
あともうひとつ、使えるコンプリケーションということで「アラーム・トラベルタイム 5520」を紹介したいです。これは先ほどのカラトラバ・パイロット・トラベルタイム 5524同様の機能が付いていて、さらにアラーム機能まで付いているんです。
自動巻き(Cal.AL 30-660 S C FUS)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ最大52時間。18KRG×18KWGケース(直径42.2mm、厚さ11.6mm)。3気圧防水。4104万円(税込み)。
確かに世の中にアラームで音を流して時間を知らせる時計っていっぱいあります。でも、この時計は12時位置の小窓に映るデジタル表示でアラームの時刻が15分単位/24時間スケールで設定できるうえに、音がすごく綺麗なんですよ。
パテック フィリップの最高峰にミニット・リピーターがありますけど、あれと音の鳴らし方という点では、ほとんど機構的には変わらないんですよ。
福田:パテック フィリップの音へのこだわりっていうのはすごいですよね。静かで音が大きいというと、パテック フィリップのリピーターくらいでしょうか。
広田:これは本当に使いやすいし、壊れにくいです。そのうえ、音はリピーターと変わらない。
福田:これ、音がいいのはやっぱりケースの作りも関係あるんですかね。まるで楽器を作っているみたい。
広田:そうですよね。パテック フィリップの場合、ケースの作りが非常に重要です。中で音を反響させるから音がすごく良くて、時計オタクがパテック フィリップの鳴り物は最高だというのも、これが理由です。
ほかにもルイ・コティエ式ワールドタイマーの使い勝手の良さや、世界に先駆けてシリコンヒゲゼンマイを導入したことなど、パテック フィリップが“使える時計”であることを裏付けるエピソードが多く披露された。
3.「非凡な仕上がりを持つ外装」という魅力
3つ目のポイントが「非凡な出来の外装」だ。特に広田・福田の両者が好例として挙げたのが「カラトラバ・トラベルタイム 5224」である。
自動巻き(Cal.31-260 PS FUS 24H)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ最小48時間。18KRGケース(直径42mm、厚さ9.85mm)。3気圧防水。912万円(税込み)。
福田:これはインデックスだけで44個ものパーツが使用されているんですよね。
広田:そうなんです。それも44個のパーツを固定するために、文字盤に一個一個穴を開けて、貼り付けているんです。別にこれ、普通にインクでプリントすればいいじゃないですか。だけど、それだと視認性が良くないから植字してしまおうと。これ、本当にすごいですよね。
福田:どこまで細かく見ていっても、やっつけ仕事が全然ないんですよ。
広田:それと、誰にでも分かる、いい外装の見分け方を話してもいいですか? パテック フィリップのビデオをご覧いただければ分かると思います。パテック フィリップのビデオって、モデルが紹介された後、最後にフェードアウトしていって、ベゼルとかがピカッと光って終わるじゃないですか。
あのパテック フィリップのビデオって、ここは見て欲しいってポイントがちゃんと押さえられていて、例えばカラトラバ・トラベルタイム 5224だと、ケースの磨きがいい時計ですよね。
福田:ふむふむ。
広田:なのでベゼルにハイライトが入ったところには、スパッとシャドウとの境界線ができるんです。ここの切れ目って、ベゼルの面が歪んでたら、“むにゃむにゃむにゃ”になっちゃうじゃないですか。これ、当たり前のようだけど、スパッと切れ目ができるということは、いい外装なんです。
福田:そういうことか。そうだね、確かにそう。
また、外装に関するパートでは福田独自の見解も語られた。
福田:僕がいつも口癖のように言っているんですけど、良い時計には良い針が付いているという。それは僕、ファッションの原稿も書いていたんですけど、昔ね、「福田くん、良い服というのは良いボタンが付いているものなんだよ」と言われて、時計も一緒だなとその時から思っているんですね。
で、パテック フィリップの時計を見ると、まず文字盤と針のクリアランスが詰まっている。加えて針が本当に立体的で綺麗なんですよ。針っていうのはどうしても、重たく作れないもの。だから本来はそんなに立体的にはできないはずなんですけど、パテック フィリップは立体的なんです。針って必ず目に入ってくるパーツじゃないですか。だからそこの出来が優れているのは素晴らしいことです。
広田:そうですね。針でいうと、側面のところのバリも全くないです。オタクは時計を横から見るんですけど、「バリがない!」って感じで喜ぶ(笑)。
4.「圧巻のレアモノ」が放つ魅力
そして最後のポイントが「圧巻のレアモノ」。パテック フィリップの中でも上位のハイエンドラインになると、時計の作り込みが際立つという。そのポイントをふたりが語った。
広田:もちろん、パテック フィリップはベーシックなモデルも素晴らしいんですが、手間のかかったものになればさらにすごいです。
福田:本気になった時のは、もう、どうしましょうとでも言う(笑)。
広田:例えば「スプリット秒針クロノグラフ 5370P」。これは自社製クロノグラフ・ムーブメントの上に、スプリットセコンド機能を載せたモデルです。これね、すごいですよ。スプリットクロノグラフの最高峰です。
手巻き(Cal.CHR 29-535 PS)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ最大65時間(クロノグラフ非作動時)。Ptケース(直径41mm、厚さ13.56mm)。3気圧防水。4711万円(税込み)。
福田:針が戻った時のビシッとした感じなんかはまさに。
広田:そうなんですよね。だから、パテック フィリップの時計って触ると感触が素晴らしいんです。見た目がいいっていうのもありますけど、このクラスになると、それぞれの感触が飛び抜けて優れています。
そしてもうひとつが、「スプリット秒針クロノグラフ、永久カレンダー 5204」です。こちらもスプリット秒針クロノグラフが付いていて、さらに永久カレンダーが合わせられています。
手巻き(Cal.CHR 29-535 PS Q)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ最大65時間。18KWGケース(直径40mm、厚さ14.3mm)。3気圧防水。5177万円(税込み)。
福田:永久カレンダーはパテック フィリップの経営がスターン家になる前からのお家芸なわけです。それをスターン家が受け継いで、スプリット秒針クロノグラフと併載させたわけですよね。この組み合わせってもう30年くらい、連綿と続いてきた伝統なわけですよ。
広田:そうなんですよね。だからパテック フィリップの中で最上級のものと言えばミニット・リピーターが真っ先に挙げられますけれども、複雑機構時計としてはこれもひとつの頂点なんです。こんな複雑な時計、よく作りますよね。こういう時計を作れてしまう点もパテック フィリップの別の魅力ですね。感触がすごくいい。
また、広田はこれらスプリットセコンドモデルの設計に、パテック フィリップらしさを感じるという。
広田:余談をひとつ。時計の設計というのは、色々とお約束があるんですね。そのひとつが心臓部であるテンプを邪魔しないというものです。
しかし、スプリットセコンドってふたつのクロノグラフ針を動かすので、当然、針の動きを制御するコラムホイールがふたつ必要です。つまり、どうしてもムーブメントにスペースが足りなくなるんです。だからテンプ周りのスペースも埋めたい(=使いたい)、というメーカーは多い。
でも、パテック フィリップは絶対にここを埋めないんですよ。これ、偉いなと思っていて。だから、パテック フィリップらしさってなんなんだろうって考えると、「新しいこと、面白いことをやるけど、基礎は絶対に崩さない」ことだろうなと思います。
パテック フィリップは加点法でも減点法でも選ばれる時計
約40分にわたって行われた、パテック フィリップ・トークショー。時計業界屈指のラグジュアリーウォッチの魅力を語る同トークショーでは、最後に広田による下記の言葉で締められた。
広田:最後にひとつだけ言うと、時計に限らず趣味全般において、好きなものを選ぶ基準ってふたつあると思うんですね。基本的に僕らみたいなオタクは、趣味の対象となるプロダクトが、仮に全然ダメダメなものだったとしても、1個でも良いところがあったら「わー!」ってテンションが上がるわけですよ。つまり加点法で好きなものを選ぶんですね。
だけど、もちろん時計みたいな、日頃使用するプロダクトは消去法でダメなところを見ていって、その失点が少ないものを選ぶ方も多いと思います。つまり、加点法で選ばれる時計と、減点法で選ばれる時計っていうのが存在するんです。
じゃあパテック フィリップはどうなのかというと、加点法でも消去法で、どちらの視点で選んでいっても選択肢として残るんですよ。抜けがないわけですよね。なかなかそういう時計ブランドって少ないんです。
加点法という、時計を熟知した愛好家による一芸に秀でたプロダクトの選び方はもちろんのこと、減点法のような厳しくも実直な時計選びであってもしっかりと選ばれるパテック フィリップ。その稀有性をトークショーで知り、そして目の前にある数多くの実機でそれを実感することができた。
そんなパテック フィリップが「東北の玄関口」とも称される仙台に90㎡もの売り場を設けたことは、東北地方の時計愛好家にとって非常に重要なトピックスだ。これまで東北在住ながらお目当ての時計を見に、関東近郊まで足を運んだ方も多いはず。
HF-AGE仙台店のパテック フィリップ・コーナーは同ブランドとして日本で有数の売り場のため、是非、東北に居を構えている方はもちろん、日本中の時計愛好家に足を運んでもらいたい。
住所:宮城県仙台市青葉区国分町2-14-18
営業時間:11:00~19:00(水曜日定休)
問い合わせ:022-711-7271
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