ブランパンから、ついに42mmケースの「フィフティ ファゾムス オートマティック」、レギュラーモデルが発売された。より取り回しやすいサイズ感に改められた本作は、単なるサイズバリエーションと片付けるにはもったいない魅力にあふれている。素材、仕上げ、ムーブメントの3つの点から掘り下げてみたい。
Photographs by Masanori Yoshie
野島翼:取材・文
Text by Tsubasa Nojima
[2024年7月29日公開記事]
2024年11月9日更新
ブランパンの新しい「フィフティ ファゾムス オートマティック」
ダイビングが、まだ一部のプロフェッショナルの行う職務として認知されていた1950年代。フランス海軍からの要請によって生まれたダイバーズウォッチが、ブランパンの「フィフティ ファゾムス」だ。開発を担ったのは、当時同社の最高経営責任者であったジャン=ジャック・フィスター。彼は、その頃珍しいアマチュアダイバーであり、自らのダイビングの経験から、ダイバーズウォッチにとって必要な要素が何であるかを見抜いていたのだ。結果、フィフティ ファゾムスは、高い防水性もさることながら、潜水時間を計測可能なロック機構を備えた回転ベゼル、耐磁性、視認性、堅牢性など、潜水時の安全性に主眼を置いた設計を与えられ、モダンダイバーズウォッチの祖として、現在に至るまで多くのダイバーズウォッチの規範とされてきた。
耐食性や抗アレルギー性に優れるチタン。合金とすることでその性質は若干弱まるが、本作が採用するグレード23チタンでは、チタンの純度を高めることで、その影響を最小限に留めつつ、強度と審美性を高めている。自動巻き(Cal.1315)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。Tiケース(直径42.3mm、厚さ14.3mm)。300m防水。(左から)セイルキャンバスストラップ:272万8000円(税込み)。チタンブレスレット:287万1000円(税込み)。また、NATOストラップ:247万5000円(税込み)とラバーストラップ:272万8000円(税込み)もラインナップされている。
その後、フィフティ ファゾムスは97年にトリロジーコレクションとして復活。誕生50周年を迎えた2003年には、オリジナルにより忠実なアニバーサリーモデルが発表された後、07年に新規開発された専用ムーブメントCal.1315を搭載したレギュラーモデルが登場する。こうして進化を遂げたフィフティ ファゾムスは、直径45mmの堅牢なケースやサファイアクリスタルで覆われた艶やかで、傷が付きにくいベゼル、新型ムーブメントなどを備えた、ラグジュアリーなダイバーズウォッチの代名詞として長く親しまれていく。
レギュラーモデルのフィフティ ファゾムスは、07年の登場以降モデルチェンジが加えられることはなかったが、いくつかのバリエーションが生み出されてきた。その中でも特に、23年に誕生70周年を記念して発表された、1953年のオリジナルモデルに近い42.3mmケースをまとった「フィフティ ファゾムス 70周年記念モデル Act 1」は記憶に新しい。待望の小径化を果たしたことも相まって注目を集めたものの、世界70本という限定数の前に現物を見ることもかなわず肩を落としたユーザーも少なくなかっただろう。ブランパンもその状況を見越していたのか、24年3月には同サイズのレギュラーモデルを発表し、愛好家たちを歓喜させた。
サイズバリエーションの追加自体は、腕時計として考えればさして珍しいことではない。しかし本作に向けられた眼差しは、それ以上の意味を持ったものであった。それはなぜか? 素材、仕上げ、ムーブメントの3つの点から掘り下げてみたい。
上品な色合いが魅力の18Kレッドゴールドケースモデル。艶やかなベゼルやサンバースト仕上げのダイアルと相まって、華やかなシーンにもピッタリなダイバーズウォッチに仕上がっている。自動巻き(Cal.1315)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。18KRGケース(直径42.3mm、厚さ14.3mm)。300m防水。ラバーストラップ、セイルキャンバスストラップともに509万3000円(税込み)。そのほか、NATOストラップ:459万8000円(税込み)もラインナップ。
注目すべきポイント①現代的な素材と伝統的な素材が両立する高級感と高性能
新作である42.3mmケース(以下は42mmケースと記載)モデルの「フィフティ ファゾムス オートマティック」には、チタンまたは18Kレッドゴールドの2種類のケースが用意されている。ひとつは、軽量かつ高い耐食性などの優れた性質を備えつつも、加工の難しさから比較的近年になって時計ケースへの採用が始まったチタン。もうひとつは、太古より富の象徴として装飾品に多く用いられてきたゴールドだ。対照的なふたつの素材は、新しいフィフティ ファゾムスに異なる魅力を与えた。
本作に採用されているチタンは、グレード23と呼ばれているものだ。時計ケースに用いられるチタンにはこのほか、グレード2やグレード5が存在する。グレード2チタンは、いわゆる純チタンである。耐食性や抗アレルギー性などのチタンの特徴を遺憾なく発揮する一方、ステンレススティールなどに比べて軟らかく傷付きやすいうえに、高級感のある仕上げを与えることが難しいというデメリットを抱えている。このデメリットを補うべく、アルミニウムやバナジウムを加えた合金が、グレード5チタンだ。グレード23チタンはグレード5チタンの純度を高め、破壊靭性を強化したものであり、現状の時計ケースに用いられているチタンの中でも最高峰の素材と言って差し支えないだろう。
時計ケースにとって理想的な素材であるチタンだが、その採用は1970年代になってのことである。素材自体に粘りがあるため削りにくいことと、切削時に発火または爆発の恐れがあることから、高度な技術と大掛かりな製造設備が必要であったためである。
同社では、スイス・バーゼル近郊の町であるドレモンに位置するケース製作工房、ブランパン アビヤージュでチタン製ケースを内製している。チタンの板を型打ちし、焼き入れを加えて再度鍛造を行う熱間鍛造によって、本作のグレード23チタン製ケースが完成するのだ。その詳細な工程は企業秘密。温度や気圧、冷却時間を細かに調整することで、高品質なケースを製作している。
よりラグジュアリーなテイストが好みのユーザーにとって、18Kレッドゴールドケースを採用したモデルは魅力的な選択肢となることだろう。温かみのある色合いは、ブラックまたはブルーのダイアルと組み合わせられることによって、得も言われぬ色気を醸し出す。ゴールド素材特有のずっしりとした重みが、手首に確かな存在感を残してくれるはずだ。
また、金属として安定しているゴールドは、腐食にも強い。海水に浸されることが想定されるダイバーズウォッチにとって、傷が付くことを恐れないのであれば、贅沢ながらも適した素材のひとつと言えるだろう。
注目すべきポイント②“高級ダイバーズウォッチ”を実現する仕上がり
プロフェッショナル向けのツールとして誕生したダイバーズウォッチだが、1960年代に入ると、マリンスポーツの流行とともに一般にも普及していった。現代ではその持ち前の実用性の高さによって、ビジネスからカジュアルシーンまで幅広い用途で活躍している。その中でもフィフティ ファゾムスは、“高級ダイバーズウォッチ”を牽引してきた傑作のひとつである。
フィフティ ファゾムスの特徴のひとつでもあるボンベ状のサファイアクリスタル製リングがインサートされたベゼルは、53年のオリジナルのベゼルにセットされていたプレキシガラスを再現した意匠だ。透明感あるサファイアクリスタルが、ベゼルの目盛りを保護するという実用面だけではなく審美性を高めることにも寄与している。このベゼルだけでも、硬いサファイアクリスタルの成形から色付け、レーザーによる目盛りの彫り込み、そしてミニッツマーカーと寸分の狂いなく組み立てるための精度が求められる。
直径45mmケースモデルでは、ダイアルの中央部と外周部で仕上げを分けていたが、本作では全面にサンバースト仕上げを施している。一般的なスポーツウォッチでは光の反射を抑えやすいマットな仕上げが与えられることが多いが、あえてドレスウォッチのような繊細な仕上げが加えられていることも、フィフティ ファゾムスのキャラクターを決定づける要素のひとつである。とはいえ、実用性は忘れられてはいない。蓄光塗料を充填し、ダイヤモンドカットされた立体的なインデックスと針が、高い視認性と判読性を発揮する。
仕上げの良さは、ケースやブレスレットにも見て取れる。職人の手によって研磨材やブラシの粗さを徐々に細かくしながら磨きこみ、シャープなケースラインに光沢を宿していく。研磨後は作業者とは別の職人によって検査が行われ、その作業が完璧であることが担保される。
注目すべきポイント③機能を損ねず、小径ケースに収まったムーブメント
そして何よりも注目すべきは、ケースの小径化とCal.1315の搭載を両立させたことだろう。Cal.1315は、2007年にフィフティ ファゾムス専用に開発された自動巻きムーブメントだ。高い耐磁性を誇るシリコン製ヒゲゼンマイと、理論上の耐衝撃性に優れるフリースプラングテンプを採用し、3つの香箱によって安定した動力を供給し続ける約5日間のロングパワーリザーブを備える。さらにダイバーズウォッチ用とうたうだけあり、優れた堅牢性と高精度を備えたムーブメントである。しかし、その直径は30.6mmに及び、防水性を保ったままケースを小型化することは容易ではなかった。
派生コレクション「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」の直径38mmケースモデルや21年に数量限定で販売された直径40.3mmケースの「フィフティ ファゾムス ノー ラディエーション」が、Cal.1315ではなくドレスウォッチの「ヴィルレ」にも搭載される薄型小径のムーブメントCal.1150系を採用した背景には、ムーブメントとケースのサイズの兼ね合いがあったことだろう。そのことを考えれば、本作が従来の直径45mmケースモデルと同じ300m防水を達成しつつ、Cal.1315を搭載したことは、フィフティ ファゾムスのファンにとって悲願であったに違いない。
優れているのは、スペックだけではない。複数に分割された肉厚の受けには手作業によって面取りされ、その仕上げをシースルーバックから堪能することができる。とはいえ、ムーブメント自体には派手な装飾が施されているわけではない。どちらかといえば控えめではあるが、美しい装飾と面取りが施されており、1953年の初代デザインを踏襲した18Kレッドゴールド製のローターに関しては、NAC(プラチナ合金)コーティングが施され、縁とロゴ以外はグレーに処理されている。初見のインパクトに頼ることなく、上質に仕上げられたその姿は、ダイバーズウォッチの元祖たるストイックさを感じさせるものである。
深掘りして分かる、42mm径のフィフティ ファゾムスの価値
約3mmの小径化を果たして登場した新しいフィフティ ファゾムス。そのサイズは、より幅広いシーンで使いやすく、優れた装着感をもたらすものとして、従来のファンはもちろん、新たな愛好家をとりこにするに違いない。
しかしそこには、単なるサイズ違いを超えた進化と意義が垣間見える。歴史ある時計ブランドらしい、古典と革新を象徴するふたつのケース素材や、威風堂々としたラグジュアリーなダイバーズウォッチとしての仕上げ、そしてフィフティ ファゾムス専用ムーブメントであるCal.1315の搭載。もちろん、サイズが変わってもデザインバランスは崩れていない。これらの共存を成功させたことで、フィフティ ファゾムスはまたひとつ、新たな可能性の扉を開いたのだ。
「フィフティ ファゾムス オートマティック」が買えるのはここだ!
本記事で紹介した、ブランパンの新しい42mm径の「フィフティ ファゾムス オートマティック」を国内で見たければ、ブティックに行ってみよう。本作以外にも、同ブランドのコレクションの数々を、ゆったりとした空間で楽しむことができるだろう。
ブティックは、東京または大阪に位置している。
東京のブティック
ブランパン ブティック 銀座
場所:〒104-0061
東京都中央区銀座7-9-18 ニコラス・G・ハイエックセンター4階
電話番号:03-6254-7233
ブランパン ブティック 伊勢丹新宿店
場所:〒160-0022
東京都新宿区新宿3-14-1 株式会社三越伊勢丹 伊勢丹新宿本館5階 ウォッチ
電話番号:03-6380-1818
ブランパン ブティック 日本橋三越本店
場所:〒103-0022
東京都中央区室町1-4-1 日本橋三越本店 本館6階 ウォッチギャラリー
電話番号:03-6281-9953
大阪のブティック
ブランパン ブティック 大阪心斎橋
場所:〒542-0081
大阪府大阪市中央区南船場3-11-18 郵政福祉 心斎橋ビル1階
電話番号:06-6281-1735
ブランパン ブティック 阪急うめだ本店
場所:〒530-8350
大阪府大阪市北区角田町8-7 阪急うめだ本店 本館6階 ウォッチギャラリー
電話番号:06-6313-0749
Contact info:ブランパン ブティック 銀座 Tel.03-6254-7233
ブランドへの問い合わせおよびブティックの予約はこちらから
https://www.webchronos.net/features/116839/
https://www.webchronos.net/features/73108/
https://www.webchronos.net/features/113553/