「MRG-B2100B」を、“60万円台の3針高級スポーツウォッチ”と“最高級G-SHOCK”というふたつの視点から着用レビューする

FEATUREインプレッション
2024.07.29

2024年7月中旬時点で、公式サイトではソールドアウトとなっている「MRG-B2100B」。これまでの「MR-G」シリーズが総じて高評価だったことに加え、近年では極めて人気の高い「2100」シリーズ初のMR-Gとなれば、納得の売れ行きだろう。限定販売ではないものの、入手困難となっているこの人気モデルを、2週間程度実際に使ったインプレッションをお届けする。

MRG-B2100B

堀内俊:文・写真
Text & Photographs by Shun Horiuchi
[2024年7月29日公開記事]


MR-Gの3針時計、その二面性とは?

 「2100」シリーズ初のMR-Gである、「MRG-B2100B」をインプレッションする。

 まず「最高級G-SHOCKとしてどうか?」、という側面からインプレッションすることは当然だが、もうひとつの視点として「60万円台の3針高級スポーツウォッチ」という見方もできる。筆者はどちらかというと、スイス製を中心とした、後者の方が明るい。というか、必然的に3針高級スポーツウォッチとしてこの時計を見てしまう。もちろんG-SHOCKを知らないわけではないが、過去も含めて所有したG-SHOCKはわずか2本しかなく、G-SHOCKマニアから見ればまさに赤ちゃんレベルである。なお、1本は改造してしまっているが2100であり、これはおもにオフに使用している現役のレギュラーメンバーだ。まずは「60万円台という価格帯の高級3針スポーツウォッチ」という側面から見ていこう。

MRG-B2100B

カシオ G-SHOCK「MRG-B2100B」
「2100」シリーズは、2019年に初出のデジタル・アナログコンビネーションモデルである。MR-Gではそのデジタル表示部を省いて3針アナログ時計とし、日本伝統「木組」の機能美から着想を得た格子状立体文字盤を採用した。タフソーラー。フル充電時約18カ月(パワーセーブ時)。Ti×コバリオン(ベゼルトップ)×64チタンケース(縦49.5×横44.4mm、厚さ13.6mm)。20気圧防水。64万9000円(税込み)。


60万円台の価格帯の高級スポーツウォッチとして、価格に見合うと思う部分と、そうでないと思う部分

 端的に言って、外装面において高級感があって価格相応だと感じたのは、以下の点だ。

・チタン合金DAT55Gという難削材を用いたにもかかわらず、ブレスレットが意図した形状に仕上げてあること。すなわち特許庁により立体商標登録(2023年6月26日、DW-5000Cに代表される角型フォルムの意匠が登録)された形状から着想を得た2100を、再現しきっている。

・ベゼルには純チタンの約4倍の強度を持つコバルトクロム合金「コバリオン」を採用。ビッカース硬さはHV1で530と、140程度のSUS316Lの約3.8倍である。使用に際して傷つきやすいベゼルに採用する材料として、理にかなっている。また、山形カシオで生産されるMR-Gのベゼルに、東北大学金属材料研究所で生まれた合金を用いたことも、親和性が高い。

・ピンポイントだが、ベゼルの側面およびケース側面のヘアライン仕上げ、そしてブレスレットのバックル部分のヘアライン仕上げが精緻である。

・木組みにインスパイアされたという文字盤のテクスチャー。好みに左右されると思うが、光を透過するという必要条件を満たしつつ、大味にならない細かさで和テイストを出し、製品を特徴付けている。

MRG-B2100B

ベゼルとケースの造形。ベゼルサイドに施されたヘアラインは緻密であり、価格なりの高級感を感じ取ることができる

 たったこれだけ、と思われるかもしれない。ここで比較対象を正直に出してしまうと、八角形ベゼルのデイト付き3針時計として見れば、万人がオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」を想起するであろう、まさにそれである。現状では、両者の価格帯は一桁異なる。しかし私は、60万円程度の価格で中古のロイヤル オークが手に入った時代(10年ほど前だろうか)を経験し、かつ愛用してきた。そのため、どうしても本作とロイヤル オークを比較する視点で見てしまうのだ。これまでロイヤル オークを賞賛してきた私に、この時計を任されたのは、そういう観点でのインプレッションを期待されていると勝手に解釈して筆を進める。

MRG-B2100B

横からのショット。リュウズをねじ込んだ際にMR-G刻印が正確にケースに水平になるのは、明らかに意図されている。高級時計でこれがずれていると興ざめであるが、MRG-B2100Bにその心配は皆無だ。

 また、MRG-B2100Bはこれまでの2100シリーズの特徴のひとつでもある「デジタル表示部」が文字盤から取り除かれている。この表示が残っていれば、これほどまでにロイヤル オークと比較してしまうという心情にはならなかったのでは、とも思われる。


“八角形ベゼルのデイト付き3針高級時計”として見ると……?

 それでは“八角形ベゼルのデイト付き3針の高級時計”という観点で、MRG-B2100Bの各ポイントを見ていこう。

・ブレスレットの面。艶々のDLC加工のため、面で受ける光の反射から、エッジに向けての形状が「ダレて」いるように見えてしまう。「この面」こそが立体商標登録もされたG-SHOCKそのものなので変えてはいけないのだ、という意見ももっともであるが、私の考えるベストな面は“歪みのない、フラットな面”だ。DLC仕上げは光沢を与えられるので、面に歪みがなければその分光の反射によってフラットであることを主張できるのではと考えた。

・ケースの上下のフーデッドラグ的な形状についてもダルに見えてしまうのだが、まさにこの形状こそはG-SHOCKにおいて重要な点であろう。よって本製品のようにDLC仕上げの艶有りとするならば、この形状でG-SHOCKであることを主張しつつ、フラットな面をブレスに与えることで高級感を出す、というメリハリを取ることも考えられるのではないか。 

・ブレスの調整がピンであるため、やや安っぽい。ここはネジにできなかったか。ただしチタンネジは高コストであることも理由として考えられ、ステンレススティールとすれば自然電位がチタンに比べて低く、経年でネジの腐食が想定される。単純にビスは緩むリスクがありピンのほうが抜けにくく、タフなツールウォッチにふさわしいということも理解できるが。

・ベゼルの表面とサイドの仕上げについて。ロイヤル オークは上面がヘアラインでサイドが鏡面、対して本機MRG-B2100Bは表面がフラットでサイドがヘアライン。もう一工夫できる余地があったのではないか。

MRG-B2100B

コバリオンで製造されたベゼル。なお、このベゼルやケース、ブレスレット含め、DLC加工によるブラックカラーで統一されていることも本作の特徴である。

 ここで少し一般論を記す。我々がこの媒体で扱っている腕時計という魅力的なモノは、ほかの世にあまたある、さまざまな構造物や製品と比較して、相対的に微小といえる面積の金属表面に、機能性、美観・装飾性などを与えるべく、あらゆる仕上げが施されてきた。ムーブメントやケースにおける仕上げとして、鏡面、サテン(筋目)、ペルラージュ、ジュネーブストライプ、サンドブラスト、ブラックポリッシュ、あらゆるメッキなどがある。筋目仕上げにしても縦一直線のロイヤル オークのベゼルに対して、例えば本製品にはサーキュラー仕上げを与えるだけで、雰囲気はガラッと変わるだろう。それがカッコいいか、高級感があるか、製造手間は価格と見合うかなどの検討要素は置き去りにしているが、この時計の顔である、製品開発の中でベゼルの表面に関してどのような検討プロセスがあったのかは個人的に興味がある。

MRG-B2100B

高い透明度を実現し傷がつきにくい、反射防止コーティングを施したサファイアクリスタル風防を採用する。

 ケースおよびブレスレット以外では、以下のような点が気になった。

・針のデザインが、これまでのアナログ表示を持つG-SHOCKと統一性がなく、特に視認性という観点ではMR-Gではない通常の2100シリーズのほうが視認性に優れると感じられること。

・またその針が短いこと。ただしこれもG-SHOCKのアイデンティティとすれば気にするポイントではないが、“高級な3針時計”、として見た場合はその文法から逸れる。

・過去のアナログ表示のG-SHOCKは、さまざまな意匠の針があり、現状ではデザインアイデンティティが確立されているとは言い難い。デザインの好き嫌いはさておいて、本作をもって、今後の方向性を提示できた可能性がある。

・秒針が細すぎること。またカウンターウェイトがシルバーのポリッシュ面で、秒針そのものが赤いペイントというのはあまり類を見ない。すべて赤塗装でもう少し太く、長いほうがバランスが良かったのではないか。あるいは通常の2100同様、2針とするということも考えられただろう。

・インデックスが大きいこと。通常の2100シリーズの樹脂製のインデックスよりも、だいぶ太く大きい。よく磨かれてキラキラ光るが、もう少し大人しくても良かったのではないか。また、センターには白い蓄光塗料が塗布されており、この白が浮き上がって見えるため、どうしてもロイヤル オークのインデックスを想起してしまう。

・針とインデックスは蓄光塗料が塗布されており、暗所における視認性を確保していることに加え、右上のボタンを押すと白色のライトが7時半の位置から照らす。複雑な形状の文字盤を浮き上がらせて楽しむギミックかもしれないが、暗所での時間の視認という目的に対して、手段が二重である。

MRG-B2100B

伝統的な建築技法である“木組”がひとつのモチーフとなった文字盤。ソーラーウォッチの多くに見られるポリカーボネートではなく、文字盤に格子状に穴を作って、その穴から光をソーラーセルに通すことで発電・蓄電させている。

 改めて断っておくと、「G-SHOCKの三次元的な、あらゆる面や角度などを含むカタチをチタンで追及すること」すなわちG-SHOCKのアイデンティティを最高級のMR-Gでも実現していくことは当然のフィロソフィーだと理解はしているつもりである。一方で、それを不文律とするのではなく、多少のアレンジを与えることも是とされるならば、という前提でこれまでの話をしており、原理主義的あるべき論では語っていない。とはいえ、おもに本質的な“G-SHOCKらしい意匠”に関してではなく、あくまでディテールに近い内容だと認識している。


MR-GのG-SHOCKとして原理主義的に捉えたMRG-B2100Bとは?

「G-SHOCKの三次元的な、あらゆる面や角度などを含むカタチをチタンで追及すること”はG-SHOCKのアイデンティティであり、当然のフィロソフィー」と先述した。ここではG-SHOCKとして王道をいっているのか、という観点で記載してみる。するとこれまで書いてきた内容は一変する。

・まずは全体の雰囲気やデザインについて。一目見て誰もがG-SHOCKだと思うデザインであり、重厚で力強く、黒一色の仕上げはまさにG-SHOCKの王道である。

・次にケース。フルチタンでG-SHOCKの、全ての形状を再現すること自体がすでに偉業である。

・数多くのパーツ構成によって、複雑な形状を実現したことも特筆に値する。プッシュボタン左右のパーツの細かい面はフラットではないが、ここも原理主義的にあえてダルにしていると捉えている。

MRG-B2100B

文字盤やインデックス、針のパキパキの稜線がよくわかるショット。対してケースの細かいパーツの表面はフラットではない。

・細かいが、ブレスレットの左右の円形の窪み。この窪みは、MR-Gではない製品の樹脂では、単なるモールドの一段凹んだ穴でしかない。しかし、この窪みをチタンで再現すると、わざわざ穴を開けて内面を磨き、そこに別パーツの円柱のチタンを頭を磨いて埋め込む、ということになる。これをやってしまうこだわりに対して頭がさがる。

・インデックスは太く、文字盤中心に向けてスラントした形状であり、オリジナルの2100シリーズのアイデンティティを守っている。

・バックルの剛性や、ブレスレット開閉のためのプッシュボタンの適切な押し心地など、これまでのMR-Gの経験が生かされており、ブレス全体の重厚感や剛性感を保ちながらも、快適な装着感を得られている。

 このように観点を変えると、指摘した各ディテールは“G-SHOCKがG-SHOCKたりうるもの”として必要なことと認識され、美徳になる。


MR-G最新作の使用感

 それではようやくインプレッションに移る。

 まず手に持つと、その見た目に比べて明らかに軽いと感じるであろう。ブレスレットもケースもチタン製であることを実感する。フルコマで実測した質量は、見た目に反してわずか120.6gであった。ケースはG-SHOCKらしいサイズであるものの軽いため、剛性感のあるブレスを調節して装着すると、なかなか軽快な装着感を楽しめる。バックルに一番近いコマはいわゆる半コマであり、これの着脱とバックル部分のバネ棒の位置で調整すれば、万人が満足する長さとバックルの位置を得ることができるだろう。

 バックルに関しては、MR-G標準ともいえるロック機構が備わっている。この機構は親指の爪で操作することを標準的に想定していると思われるが、ネイルをした、あるいは爪の弱い女性には使いやすいとは言えないだろう。昨今では大きな時計をしている女性も多く、また筆者のような細腕を対象として考えると、ケースからの第1コマの可動部分は狭く、このコマがもう少し下まで動くと、さらに快適な装着感が得られると思う。現状15cm未満の手首周りでは、ラグ部分がやや浮く。この装着感は、まるでロイヤル オーク“ジャンボ”である。

 視認性についてはもちろん悪くはないものの、ツールウォッチとしてはもっと高めても良いと思う。文字盤の凝った意匠はこの時計の特徴であるのだが、例えば針が3時や9時位置を指している時など、左右に平行な文字盤の意匠に重なって、直感的に見にくいと感じる時がある。こういった見にくさは、針のデザインで防げる可能性があると感じた。

 また秒針の運針について。10秒ごとに分針もステップ運針するが、その10秒のインデックス上だけやや進んだ位置を指す。それ以外は完全に秒インデックスに一致して運針するため、一度これに気づいてしまうと少々気になってしまった。

MRG-B2100B

ヘアラインと刻印などが施された8角形のケースバック。汗による張り付きなどなく、快適な装着感をもたらす。

 ケースバックには精緻な彫りとヘアラインが施されており、汗をかいても張り付くことなく非常に快適である。なお、頑丈に見える4本のプラスネジでケースバックはガッチリと固定されており、200m防水を確保している。

MRG-B2100B

もちろんラフなスタイルにこそよく似合うMRG-B2100B。コーディネートなどを気にせずガンガン使える安心感がある。

 コバリアン製のベゼルの「G-SHOCK」「PROTECTION」の彫り文字は見事であり、さらにDLC加工されているため、傷に対しては通常のステンレススティール製の時計などよりも圧倒的に強く、使っていてストレスフリーである。

 すなわち使っていてストレスフリーのツールウォッチ、それこそがG-SHOCKなのだとすれば、MRG-B2100BはG-SHOCKの使命を完全に果たしていることになる。あとはこの時計をどう捉えてどう使うか。すでに使っているオーナーの皆さまこそが、最もよく知っているはずだ。


Contact info: カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925


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