パルミジャーニ・フルリエ「トリック」で再定義する新時代のエレガンス

FEATURE本誌記事
2024.08.06

創立25周年の2021年に発表された「トンダ PF」は、次世代のブランドの方向性を示唆した。これを督したのが当時CEOに就任したグイド・テレーニ氏。その大きな成功を経て、二の矢となる新生「トリック」を発表した。そこで現代のドレスウォッチにふさわしい魅力として取り入れたのが中間色、つまりニュアンスカラーだ。ブランドの神髄に現代の息吹をもたらす、その審美性に迫る。

トリック プティ・セコンド

トリック プティ・セコンド
ドレスウォッチの定石に従う2針+スモールセコンドは、文字盤とスモールセコンドの整ったバランスが美しさを印象づける。18KRGケースにはサンドゴールド、プラチナケースにはグレーセラドンの文字盤色を合わせ、さらにヌバック仕上げのアリゲーターストラップは文字盤カラーと対になるように、前者にはグレーセラドン、後者にはサンドゴールドが用いられた。色調も吟味した。いずれも控えめでありながら、上質かつエレガントな存在感を湛えるブランドらしさを映し出すニュアンスカラーである。手巻き(Cal.PF780)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。直径40.6mm。厚さ8.8mm。3気圧防水。(左)18KRGケース。709万5000円(税込み)。(右)Ptケース。820万6000円(税込み)。
大原敏政(aosora):写真 Photographs by Toshimasa Ohara (aosora)
柴田充:文 Text by Mitsuru Shibata
安部毅:編集 Edited by Takeshi Abe
[クロノス日本版 2024年9月号掲載記事]


中間色に見いだされた絶対的審美性

 一体型ブレスレットを装備し、スポーティーシックをより現代的に昇華した「トンダ PF」に続く、新たな展開とは何か。それがドレススタイルだったとはいえ、源泉をブランド誕生の記念碑である「トリック」に求めたのは、CEOグイド・テレーニ氏のブランドへの深いリスペクトであると同時に、大いなる挑戦といえるだろう。何よりも現代のドレスウォッチの本質を極めることは、当時のリメイクではなく、今を生きる男性のエレガンスの再定義でもあったのだ。

トリック プティ・セコンド

グレイン仕上げは酒石英、粉砕した海塩、銀を脱塩水に混ぜたペーストの3点を文字盤に塗布し、丹念な手作業で磨き出す。光を柔らかく分散する細かな陰影は、吹き付けや機械仕上げでは生成できない。

 ドーリア式柱とトーラス幾何学による円環に着想を得たローレットのベゼルは、荘厳さが際立つオリジナルに比べると、軽快かつドレッシーな気品が伝わってくる。文字盤は、平面の縁に面取りを施し、ステップを付けたうえに滑らかなカーブで仕上げる。そこにアプライドのインデックスを備え、ミニマルでありつつ視認性を損なわない。

 ムーブメントはコート・ド・フルリエ装飾で飾られた煌びやかな18KRGのブリッジで覆う。ふたつの香箱と脱進調速機のみをあらわにし、優美さのなかにも力強さと精度を主張するのだ。

トリック プティ・セコンド

アイコンのローレットベゼルをよりスマートに仕上げる一方、文字盤の外縁は初代トリックの連環ベゼルを想起させる。現代的な40mm径を採用している点も見逃せない。

 しかしこれだけでは新生トリックの魅力を語るには十分ではない。与えたのはカラーというエレガンス。それもニュアンスカラーと呼ばれる中間色だ。ブランドにおけるカラーの位置付けと重要性についてテレーニ氏はこう語る。

「着任後、カラーをより強く打ち出してきました。それはイメージを醸し、多様性や個性を演出する大切な要素だからです。そのため私たちが選ぶのは優しく静寂なカラーであり、自然界に存在するような美しさにも通じます」

 インスピレーションを得たのは、ル・コルビュジエのカラーパレットからだ。「建築家として考案した独自のカラーパレットは、住まいの色合いなので心地よく、飽きません。1931年に作られたものですが、タイムレスで今でもとても新鮮です」。

 今回採用したグレーセラドンは、フランス・ボルドーの庭園住宅を思わせ、サンドゴールドはインドのサラバイ邸のような土着的な風格が漂う。コルビュジエの父は時計文字盤のエナメル職人でしたし、当然の帰結かもしれませんね、と告げるとテレーニ氏も微笑む。

トリック プティ・セコンド

3枚のブリッジは美観も計算された幾何学パターン。表面にはコート・ド・フルリエと呼ばれる、菱形の連なる独自の装飾を施す。地板と受けは18KRG製。

「実は最初のデッサンはとてもクラシックに見えてしまったんです。文字盤も当初ギヨシェを想定したのですが、少し繁雑な印象になってしまう。そこでミシェル(・パルミジャーニ)にも相談したところ、手仕上げのグレインがいいんじゃないかというアドバイスをもらいました。その言葉でコレクションのキャラクターが決定しましたね」

 もちろんそこにはイタリア人であるテレーニ氏ならではの洗練されたテイストや、伝統的な技法へのオマージュがあることはいうまでもない。

 ドレスウォッチでもフォーマル過ぎず、クラフツマンシップが宿る普遍性にモダンな息吹を感じさせる。その試みは見事に成就したのである。

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パルミジャーニ・フルリエ 伊勢丹新宿店
〒160-0022 東京都新宿区新宿3-14-1
伊勢丹新宿店 本館5階 ウォッチ
電話番号/03-6637-7000
営業時間/10:00~20:00 定休日/無休



Contact info: パルミジャーニ・フルリエ pfd.japan@parmigiani.com


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