ヴァシュロン・コンスタンタン 最高峰のラグジュアリーをもたらす“誂え”の二重奏

2024.08.08

ヴァシュロン・コンスタンタンの粋を結集した「レ・キャビノティエ」コレクション。その中でも異彩を放つのが、ダッシュボードクロックの「レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨン」だ。ロールス・ロイスとのコラボレーションによって生まれた、最高峰のラグジュアリーをひもとく。

レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨン

レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨン
ヴァシュロン・コンスタンタンとしてはふたつ目のダッシュボードクロックにして、「アメジスト・ドロップテイル」のために製作されたユニークピース。時分はレトログラード表示で、同車のメーター類を意識したのか、ヴァシュロン・コンスタンタンのレトログラードとしては珍しくアラビックインデックスが用いられた。時分針はなんとチタン製。アンクルの爪石もダイヤモンドと、スペシャルな1本にふさわしい仕様だ。回転式のホルダーによって、ダッシュボードに装着中でも、ケースバックを鑑賞可能。手巻き(Cal.1990)。45石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約58時間。SSケース(直径43.8mm、厚さ19.90mm)。ユニークピース。


特注のロールス・ロイスに収められた「レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨン」

 究極のラグジュアリーとは何かを突き詰めて考えた時、ひとつの答えとして“誂え”という言葉に行き着くのではないか? 一般的に依頼主のためだけに作られる、ビスポークの品は、既存品・量産品とは対極の存在。自分だけのものを職人に依頼し、作ってもらう行為は対象がスーツであろうが腕時計のストラップであろうが、それ自体が贅沢だ。ましてやそんな誂えを、超一流の腕を持った職人が手掛けるというのならば、なおのことである。その意味で、ヴァシュロン・コンスタンタンが手掛けた「レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨン」は、時計業界として掛け値なしに最高峰の贅沢品と言える存在だ。

アメジスト・ドロップテイル

ロールス・ロイスのコーチビルド部門によって生まれたアメジスト・ドロップテイル。世界的な宝石コレクターが息子のために発注し、その息子の誕生石がアメジスト(2月)だったため、アメジストをテーマにしたカラー&デザインが与えられた。

 レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨンはなぜ、最高峰の贅沢品なのか。それを理解するため、まずは同作が収まるロールス・ロイス「アメジスト・ドロップテイル」について知っておかなければならない。アメジスト・ドロップテイルは世界的な宝石コレクターが、その子息のために注文したロールス・ロイス・コーチビルド、つまり顧客のためだけに誂えられた専用車である。既存車両をベースに仕様を変更するのではなく、顧客の要望に沿ってボディから内装までをイチから作る。

 しかし、そんなひとりのオーナーのためだけにボディをイチから作るアメジスト・ドロップテイルの開発は、文字通り、完全な新型車を作るのと同義。そのため、実際に公道を走らせるとなると、販売国での法規制への対応などで莫大なコストがかかってくる。

アメジスト・ドロップテイル

発注者の息子が時計コレクターということもあり、時計を連想させる意匠も数多く取り入れられた。スピリット・オブ・エクスタシー(エンブレム)の根元に施された、穴石を意識したと思われるカボションはその際たるものだ。

 前置きが長くなったが、依頼主は文字通り世界で1台だけの車を作るべく、アメジスト・ドロップテイルのオーダーと同時にヴァシュロン・コンスタンタンへダッシュボードクロックのユニークピースを注文した。今回の共演で特筆すべきは、ヴァシュロン・コンスタンタンのレ・キャビノティエにしても、ロールス・ロイスのコーチビルドにしても、お金を積めば依頼できるサービスではないという点だ。レ・キャビノティエによるアメジスト・ドロップテイル専用ダッシュボードクロックの開発は、依頼主が両社の上顧客だからこそ実現したものである。

 ヴァシュロン・コンスタンタンとロールス・ロイスの両者が手掛けた作品を見比べれば、幾多ものコミュニケーションの上で、それぞれの要素を盛り込んだことが伝わってくる。顕著なのはムーブメントの地板と受けを彩るモーブカラーだろう。これはアメジスト・ドロップテイルのテーマカラーとしてボディや内装に使用されるカラーを表現したものだ。

レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨン

レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨンは、「リファレンス57260」に関わった時計職人たちによって開発された。搭載するのは2016年発表の2軸トゥールビヨンを備えたCal.1990。コントロールラックに収めるべく、ケースサイズが16年発表の腕時計よりも1.2mm小さくなっている。

 ヴァシュロン・コンスタンタンがダッシュボードクロックを製作するにあたっては、老舗らしい細やかな配慮が見て取れる。着用時はさまざまな姿勢が取られる腕時計に対して、常に一定の向きで固定されるダッシュボードクロックの特性を考慮して、ムーブメントには2軸トゥールビヨンのCal.1900を採用。加えて1900では、時分がレトログラードで表される。

 この機構を生かすため、90度反時計回りに回転させ、レトログラードをメーターのように表示した。なお、同作のような超複雑時計に自動車の振動は御法度のはずだが、そこも時分針を軽量なチタン製に改めたり、時計を収める回転ホルダーに耐衝撃機構を組み込んだりすることで対応している。最高峰の自動車に調和するために誂えられた最高峰の時計。文字通り、最高峰同士の共演によって生まれた、究極の贅沢品だ。

レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨン

同作の製作に際しては、ロールス・ロイスのコーチビルドデザインチームと密接なコミュニケーションのうえ、車と調和するように形状や色彩が決められていった。

広田ハカセの「ココがスゴイ!」

 一点ものの「レ・キャビノティエ」を作り続けるヴァシュロン・コンスタンタン。その長い営みは、結果として顧客に対する同社の解像度をさらに高めた。その最も成功した例のひとつが本作ではないか。ウォッチではなくクロックで、しかもクルマに据え付けるとなれば、求められる条件は、今までのものとは大きく異なる。

 しかしヴァシュロン・コンスタンタンは、審美性を損なわずにユニークなダッシュボードクロックを完成させた。ムーブメントの色をアメジスト・ドロップテイルにそろえただけでなく、レトログラードの採用で、目線を大きく動かすことなく時間が確認できる。もちろん、傑出した仕上げは今までに同じだ。正直、そのパッケージの良さには脱帽である。



Contact info: ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755


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