昨今、多くのブランドが注力するダイアル。各社は時計の顔とも言えるこのパーツをより魅力的に仕上げるため、心血を注いできた。中でも日本独自の美意識を体現した豊かな表現力で注目を集めるのが、グランドセイコーだ。今回は、同ブランドの3つのモデルを取り上げ、その魅力をひもとく。
Text by Tsubasa Nojima
[2024年8月27日公開記事]
グランドセイコーの表現力豊かなダイアルの魅力に迫る。
製造技術の進歩によって、多様な表現が可能となったダイアル。各社はその小さなキャンバスにブランドの世界観を反映すべく、さまざまな技法を編み出し実践してきた。その中でも特に注目を集めるブランドが、グランドセイコーだ。1960年の登場以来、グランドセイコーは一貫して視認性や判読性など、優れた実用性をダイアルに盛り込んできたが、近年ではそれらに加えて、自然などにインスピレーションを受けた日本独自の美意識に基づく表現手法を取り入れている。
グランドセイコーのダイアルは、金型の製造、型打ち、生地の仕上げ、着色、表面仕上げと、大きく5つの工程によって製造されている。モチーフを抽象化して彫り込むことで金型を製造し、1回から複数回のプレスによって、その模様をダイアルへ転写。放射状、筋目、ホーニングなどの仕上げを使い分けて光の反射をコントロールし、メッキや塗装によって色味を与え、クリアラッカーを塗り重ねて平滑に研ぎあげるまでが工程の概要だ。もちろん、型打ちが不要なダイアルの場合は、このうち前ふたつの工程が省かれるが、モチーフとする対象をダイアル上に表現すべく、繊細なコントロールが求められる点は変わらない。
ここではグランドセイコーの中から、魅力的なダイアルを持つ3つのモデルをピックアップ。各モデルの特徴についてお伝えしていこう。
グランドセイコー「エボリューション9 コレクション」Ref.SLGH005
2021年に発表され、その年のGPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)のメンズウォッチ部門賞を受賞した、グランドセイコーの代表作。型打ちによって表現された複雑な模様のダイアルは、グランドセイコーメカニカルモデルの製造拠点である岩手県のグランドセイコースタジオ 雫石の近くに広がる白樺林をモチーフとしたものだ。時計愛好家からは“白樺”と呼ばれ、親しまれている。
ダイアルの模様を作り上げているのは、人が機械を操作して削り込んだ金型。プレスを1日1回、7日間繰り返して行うことで金型の模様を徐々に転写し、立体感のあるダイアルに仕上げている。さらにその上にヘアライン仕上げを施すことで陰影を強調し、銀メッキやラップ処理を加えることで、白く輝く独特の色味を実現。躍動感と奥行きを感じさせるダイアルは、まさにどこまでも広がる白樺林を想起させる。
本作の魅力は、ダイアルだけではない。2020年に誕生したグランドセイコーの新型機械式ムーブメントCal.9SA5を搭載しており、毎秒10振動のハイビートと約80時間のパワーリザーブを両立させる高効率なデュアルインパルス脱進機やツインバレル、安定した精度をもたらすグランドセイコーフリースプラングなどを採用している。輪列の構造を見直すことで、従来のCal.9S系に比べて薄型化を果たしていることも特徴のひとつだ。
ケースのデザインは、従来の「セイコースタイル」を発展させた独自のデザイン文法、「エボリューション9スタイル」をベースとする。日本的な美意識や自然感に基づく審美性、メリハリを利かせた針とインデックスによる高い視認性、安定感のある装着性を兼ね備えている。
“白樺”の愛称で親しまれるグランドセイコーの代表作。型打ちによるアシンメトリーな模様によって、白樺の林立する様子を表現している。自動巻き(Cal.9SA5)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。121万円(税込み)。
グランドセイコー「エレガンスコレクション」Ref.SBGM221
クラシカルなデザインが特徴的なGMT機能搭載モデル。2010年に登場した「SBGM021」から、GSロゴが12時位置に変更されてはいるものの、誕生当初から続く本作のクラシックなテイストは、グランドセイコーの中でもロングセラーとなっている。
ダイアルは、ラッカー仕上げによる温かみのあるクリーム色。塗膜を厚くしたうえで研ぎあげることによって、見た目の深みと高い耐候性を与えている。
第2時間帯は、矢印型のブルースティール針とエレガントなフォントの24時間表記によって読み取ることが可能。グランドセイコーらしい多面カットが施されたインデックスと針がシャープな輝きをもたらし、優れた視認性を発揮する。
丸みを帯びたケースラインも本作の特徴のひとつ。大きく盛り上がったボックス型サファイアクリスタルが、さながらヴィンテージウォッチのプラスチック製風防のような輝きを湛えている。一方で仄かにモダンなテイストをプラスしているのが、ラグだ。ザラツ研磨が施されたエッジがシャープな印象を与えている。
搭載するムーブメントは、機械式自動巻きのCal.9S66。半導体の製造などで用いられる加工技術「MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)」をガンギ車とアンクルなどに採用することで、約3日間のパワーリザーブと安定性を確保している。時針を単独で調整できるGMT機能は、海外渡航時に時計を止めることなく時差修正を行うことが可能な使い勝手の良さを備えている。
シースルー仕様のケースバックは6本のネジによってミドルケースに固定され、内部に収められたムーブメントの動きと仕上げを鑑賞することが可能だ。
ドレッシーなデザインが魅力の「エレガンスコレクション」のロングセラーモデル。ラッカー仕上げによる艶のあるアイボリーダイアルに、ボックス型サファイアクリスタルが柔らかな光を落とす。自動巻き(Cal.9S66)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39.5mm、厚さ13.7mm)。日常生活用防水。63万8000円(税込み)。
グランドセイコー「スポーツコレクション キャリバー9R 20周年記念限定モデル」Ref.SBGC275
グランドセイコー専用のスプリングドライブムーブメント、Cal.9Rの誕生20周年を記念した数量限定モデル。グランドセイコーのシンボルである獅子に着想を得たデザインが与えられている。
鮮烈な印象を残す赤いダイアルは、獅子のたてがみをイメージした型打ち模様が施されている。見る角度によって自在に変化する色味は、特許を取得した新開発の技法、光学多層コーティングによるもの。PVDによって何層も重ねた塗膜が、夏の朝、太陽に照らされて徐々に赤く染まる穂高連峰の様子を表現している。グランドセイコースプリングドライブモデルが製造される信州の雄大な景色を閉じ込めた、記念モデルに相応しいダイアルだ。
面を主体に構成されたケースは、ステンレススティールに比べて軽量かつ耐傷性に優れ、さらにチタンでありながら白く輝く審美性を備えたブライトチタンを採用。特徴的なラグの形状は、獅子の前足をモチーフとしており、重心を下げ装着感を高める効果をもたらす。
ムーブメントは、Cal.9R86をベースとして特別調整されたCal.9R96を搭載。平均月差±10秒という高精度を実現し、ケースバックから覗くローターにはその証として、18Kイエローゴールド製の獅子の紋章が取り付けられている。クロノグラフ、GMT、デイト表示、パワーリザーブインジケーターを備えた多機能性も魅力だ。機能に伴ってダイアルの表示も多くなっているが、縦に並んだ積算計や24時間表記のベゼル、シャープな針とインデックスなど、視認性と判読性を高めるための工夫が盛り込まれている。
グランドセイコー専用のスプリングドライブムーブメントCal.9R誕生20周年を記念した数量限定モデル。薄紅色から東雲色へと変化する朝焼けの様子を光学多層膜によって表現している。自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R96)。50石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径44.5mm、厚さ16.8mm)。20気圧防水。世界限定700本(うち国内500本)。183万7000円(税込み)。
参考サイト:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/
https://www.webchronos.net/features/34257/
https://www.webchronos.net/features/112240/
https://www.webchronos.net/features/110623/