自動巻き機構、何が正解なのかをワインディングシステムから研究【リバーサー編】

FEATURE本誌記事
2024.09.16

自動巻き腕時計が誕生して100年を迎えた2022年の11月号で、クロノス日本版編集部は、自動巻き機構と真剣に向き合った。そのページをwebChronosへと転載していく。今回は、ワインディングシステムのうち、現在最も広く採用されている“リバーサー”から自動巻き機構を研究していく。

自動巻き機構、何が正解なのかをワインディングシステムから研究【スイッチングロッカー編】

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【自動巻き機構考察シリーズ】後世に名を残す自動巻きの名機たち

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三田村優、奥田高史、奥山栄一、吉江正倫:写真
Photographs by Yu Mitamura, Takafumi Okuda, Eiichi Okuyama, Masanori Yoshie
広田雅将(本誌)、鈴木幸也(本誌)、細田雄人(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan), Yukiya Suzuki (Chronos-Japan), Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
Edited & Text by Chronos Japan Edition (Yukiya Suzuki, Yuto Hosoda)
Special thanks to Breitling Japan, Chrono Doctor
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]


「リバーサー式」から自動巻き機構を考察する

Cal.01

 それぞれメリット/デメリットを持つ自動巻き機構の中で、汎用ムーブメントから高級機まで、最も広く採用されているのが、香箱へ動力を伝達する伝え車への回転を一方向に整流する切り替え車を用いるリバーサー式だ。果たして、何が最適解なのか? ここでは、汎用ムーブメントと自社開発ムーブメントのいずれも採用し、そのすべてをクロノメーター化するほどムーブメントに注力するブライトリングを例に検証する。


ブライトリングの自社開発クロノグラフムーブメントCal.01

 ブライトリングが2009年に満を持して発表したのが、同社初の自社開発となる自動巻きクロノグラフムーブメント、Cal.01である。直径30mm、厚さ7.2mmと、既存のCal.13とほぼ同サイズだが、パワーリザーブは約70時間に延長され、リセットハンマーの自動位置決めシステムやメンテナンスしやすいモジュール構造、さらに巻き上げ機構もリバーサーを用いた両方向巻き上げ式に変更されるなど、単なる代替機ではなく、より高性能な自社製基幹キャリバーとして開発されたことは想像に難くない。

Cal.01

ブライトリング Cal.01
2009年に発表されたブライトリング初の自社開発自動巻きクロノグラフムーブメント、Cal.01。ブライトリングを代表する基幹キャリバーのひとつであるが、その開発時から、現代の自動巻きクロノグラフに必要な要素に加え、メンテナンスのしやすさまでも考え抜かれて開発された出自を持つ。自動巻き機構には最もスタンダードなリバーサー式を採用する。


改良され続けたリバーサー

 だが、新開発ムーブメントにはよくあることだが、このCal.01にも当初、巻き上げの重さに“個体差”があったという。スタジオ・ブライトリング銀座においてアフターサービスディレクターを務める林繁氏はそれを「切り替え車の影響による重さの個体差」と表現する。実は、現在のCal.01が採用するリバーサー(切り替え車)は、09年の発表時から3世代目にあたるという。林氏は次のように説明する。

「2009年にCal.01が発表されて以降、リバーサーに関しては、およそ5年ごとに改良され、現在使用している19年に更新された3世代目のリバーサーでほぼ“個体差”はなくなりました」

ブライトリング「ナビタイマー B01 クロノグラフ 46」

ブライトリング「ナビタイマー B01 クロノグラフ 46」
2022年、誕生から70年を経てリニューアルされた新生ナビタイマー。国際オーナーパイロット協会(AOPA)のウイングロゴが復活し、かつては複数のスケールがプリントされていた文字盤はシンプルにまとめられ、アイコニックなディテールを受け継ぎながらも、「モダンレトロ」を打ち出して、細部が刷新された。自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径46mm、厚さ13.9mm)。3気圧防水。114万4000円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707

 Cal.13が採用する片方向巻き上げは、大きな振動質量で高いトルクを生み出すことができる重力巻き上げであるのに対して、Cal.01が採用するリバーサーは、軽い振動質量の回転数で巻き上げを稼ぐ加速度巻き上げである。これはリバーサー一般に関して言えることだが、スイッチングロッカーやラチェットなど、他の方式に比べて磨耗しやすく、加えて、設計の如何によっては巻き上がりにくいこともあるという。

 また、主ゼンマイを手で巻き上げようとするとリバーサーが高速で回転するため、やはりリバーサーに負荷がかかる。したがって、時計メーカー各社は、リバーサーの耐久性を高めるために、表面に硬化処理を施すなどの対策をしている。例えば、ロレックスのリバーサーは表面にアルマイト処理を施して摩擦への対処を行っている。あの独特なレッドカラーはそのアルマイト処理の証しだ。

リバーサー式の巻き上げ方式

リバーサー式の巻き上げ方式
Cal.01では2枚のリバーサーを上下に重ねている。下図では、下のリバーサーのみが描かれているが、この上にもう1枚リバーサーがあり、上のリバーサーがローターカナと、下のリバーサーが中間車❷と噛み合っている。ローターが左回転(赤❶)すると、上のリバーサーは右回転(赤❷)し、伝え車へ動力を伝達する。他方、中間車❷は右回転(赤❷')し、下のリバーサーを左回転(赤❸' )させるが、こちらはクリックがドライバー上を滑るため空転する。ローターが右回転(青❶)すると、上のリバーサーは左回転(青❷' )するが、こちらはクリックがドライバー上を滑るため空転。他方、中間車❷は左回転(青❷)し、下のリバーサーを右回転(青❸)させる。こちらはクリックがドライバーの歯を引っ掛けて同時に回転するため、伝え車へ動力を伝達する。

 林氏も、Cal.01のリバーサーについて、次のように語る。

「リバーサーは、スイス本社からパッケージに入って供給されます。メンテナンスの際にはHP1300のような重めのオイルを注油しますが、リバーサー自体は消耗品なので、状態によってはパーツごと交換となります」

 このように、Cal.01のリバーサーは、巻き上げ機構の要として、想像以上に大きな負荷がかかるパーツである。それ故に、Cal.01の誕生以来、絶えず改良され、進化を遂げてきたことが、林氏の説明からうかがい知ることができる。そして、19年に切り替わった第3世代のリバーサーをもって、いよいよ成熟の域に達したと言えるようだ。

Cal.01からローターを取り外した状態

Cal.01からローターを取り外した状態。右上に2枚重ねのリバーサーを見ることができる。リバーサーの左上に見える小さな歯車が、上の図版の中間車❷にあたる。ローターを取り付けると、ローターカナは、この中間車❷と、上のリバーサーの歯と常に噛み合う状態になる。
Cal.01のリバーサーを受けごと外した様子

リバーサーを受けごと外した様子。左の画像に見えているリバーサーと中間車❷を、裏側から見た状態である。2枚重ねのリバーサーのうち、下のリバーサーが中間車❷と噛み合っている様子を確認できる。残りの2枚の中間車は、リバーサーが一方向に整流した回転を香箱へと伝達する伝え車と中間車である。


さまざまなファクターから成り立つ自動巻き機構

 こうしたパーツや機構の改良・進化は、言うまでもなくムーブメントの設計思想とも深く関係している。先述したように、パワーリザーブ約48時間のCal.13に対して、Cal.01のパワーリザーブは約70時間に延長されている。こうしたロングパワーリザーブ化も、巻き上げ機構を含むムーブメントの設計思想とは無縁ではいられない。

 例えば、回転錘にペリフェラルローターを採用するカール F. ブヘラは、ムーブメントのロングパワーリザーブ化が自動巻き機構の設計に与えた影響について次のように述べた。

組み立て中のCal.B20

スタジオ・ブライトリング銀座で組み立て中のCal.B20。ローターを外した状態のため、2枚のリバーサーのうち、1枚が少しだけ見えている。ピンセットで指している歯車がリバーサー(切り替え車)である。

「パワーリザーブが長ければ長いほど、自動巻き機構は香箱をより速く巻き上げて最大値に達する必要があります。基本的に、駆動時間とシステムの摩耗は常にトレードオフの関係にあります。巻き上げ速度が速すぎると、香箱は急速に巻き上げて100%に達しますが、巻き上げ機構はかなり早く摩耗してしまいます。その半面、巻き上げ速度が遅すぎると、一定時間内に香箱を十分に巻き上げられず、全巻きにすることができません」

 つまり、一口に自動巻き機構といっても、決して単独で成立しうるものではなく、さまざまなファクターから成り立っているのだ。だからこそ、その開発は決して容易ではないことが理解できよう。


ケニッシとの共同開発によるCal.B20

Cal.B20

ブライトリング Cal.B20
チューダーが自社のムーブメント製造のために設立したのがケニッシである。現在、ケニッシは、チューダーだけでなく、ブライトリングをはじめ、シャネル、ノルケイン、フォルティス、タグ・ホイヤーなどへもムーブメントを供給している。このCal.B20はブライトリングとチューダーとの共同開発によるもので、フリースプラングを搭載した3針+日付表示付き。

 もうひとつ注目すべきが、今、時計業界の熱い視線を浴びているケニッシとの共同開発によるCal.B20である。下の画像を見れば一目瞭然だが、B20もCal.01同様、巻き上げ機構にリバーサーを採用している。だが、異なる点は、Cal.01のリバーサーが切り替え車を上下に重ねているのに対して、B20は伝え車を挟んで2枚のリバーサーを左右に並べている点だ。察しの良い時計好きはすぐに気づくと思うが、このリバーサーの配置は、ロレックスのリバーサーとよく似ている。B20が、チューダーが設立したケニッシとブライトリングの共同開発であることを考えれば、それも納得だろう。ただし、ロレックスのリバーサーに比して、B20のリバーサーがコンパクトにまとめられている点に、薄型化や付加機能に対応できる汎用性への配慮が見て取れる。

Cal.B20

2枚のリバーサーと伝え車、中間車を保持する受けを外して裏返した状態。Cal.01では2枚のリバーサーを上下に重ねていたが、Cal.B20では伝え車を挟んで左右に配置している。
Cal.B20

2枚のリバーサーの内部にはドライバーとクリックが内蔵される。上の写真ではリバーサーが右回転するとクリックがドライバーの歯を引っ掛けて同時に回転し、主ゼンマイを巻き上げる。逆回転の場合は、クリックはドライバーの歯の上を滑るため、リバーサーは空転する。

リバーサー information

採用ブランドと主なムーブメント
ロレックス Cal.3200系、Cal.4130、オーデマ ピゲ Cal.4300/4400系、ETA 2892A2ほか多数。

メリット
歯車で構成されるため、量産に向く。設計次第では小型化が可能。

デメリット
摩耗しやすい。油切れが起こると巻き上げ効率が悪くなりやすい。

[総評]
1940年代に完成したリバーサーは60年代以降、自動巻きの標準的な機構となった。歯車で構成されるこの自動巻きは、生産性に優れ、不動作角が小さいというメリットがあった。半面、設計が良くないと巻き上がりにくく、かつ、摩耗しやすい。また、一般的にデスクワーク時の巻き上げは重力巻き上げ自動巻きに及ばないとされる。ありふれたリバーサーだからこそ、メーカーの実力は如実に表れる。


カール F. ブヘラとチャペックに聞く、自動巻き機構の設計思想
リバーサー編

 現在、時計業界のスタンダードとも言えるのが、歯車を使った両方向巻き上げのリバーサー式だ。ここでは、ペリフェラルとマイクロローターという変わり種に、あえてリバーサーを合わせた2社を取り上げたい。

Cal.CFB A2000

カール F. ブヘラ Cal.CFB A2000
傑作、Cal.CFB A1000系の後継機がCal.CFB A2000である。振動数の向上で携帯精度が向上している。なおセラミックス製のベアリングで支えられたペリフェラルローターや、ジルコニウム製のベアリングを持つリバーサーは従来に同じだ。

 おそらく世界で初めて、使えるペリフェラルローターを完成させたのがカール F. ブヘラだ。同社が2014年に発表したCal.CFB A1000は、加えてリバーサー式自動巻きを備えていた。もっとも、説明を聞けば納得だ。同社のペリフェラルローターは、3つの保持部にセラミックス製ベアリングを採用。また自動巻き機構の摩擦を減らすため、リバーサーにもジルコニウム(つまりセラミックス)を使っている。同社は加速度自動巻きであるリバーサーの利点を伸ばすため、可能な限りローターと自動巻き機構をスムーズに動かそうとしたわけだ。同社の自社製ムーブメントが、高い評価を受けるのも納得である。

Cal.SXH5

チャペックのCal.SXH5。

 一方、自動巻き機構を片方向巻き上げから両方向巻き上げに変えたのがチャペックである。「アンタークティック」が搭載したCal.SXH5は、今後自動巻き機構をリバーサー式に変更するという。同社はこう説明する。「新しい自動巻きシステムを開発する場合、2倍から3.5倍の巻き上げ係数を達成する必要があります。しかし、良好な自動巻き能力係数を達成することには、非常な困難を伴います。これが自動巻きシステムの開発を続ける理由です」。結果として同社が採用したのは、セラミックス製のベアリングを内蔵したMPS製のリバーサーだった。確かにこれならば、片方向巻き上げよりも優れている可能性は高い。

 かつてはセンターローターにしか向かないとされたリバーサー。しかしここで挙げたふたつは、今後起こりうる変化を示している。

Cal.SXH5

今後、Cal.SXH5は自動巻き機構を刷新する。上の画像はその予定図だ。なお巻き上げ機構そのものを変えた自動巻きは、パテック フィリップCal.350、F.P.ジュルヌの1300系、そして本作ぐらいしかない。高効率のリバーサーは、高い巻き上げ効率をもたらすだろう。


【リバーサークロニクル】
ロレックスが追い続ける頑強さの歴史

 時計史に燦然と輝くロレックスの全回転ローター自動巻き「パーペチュアル」。その中でも1950年に発表されたCal.1030以降、採用され続けるリバーサー式の両方向自動巻きには、ロレックスの信念が込められている。

Cal.1030

[1950]Cal.1030誕生(1000系)
ロレックス初のリバーサー採用機。切り替え車が小さいなど、まだ、設計に洗練さは見られない。Cal.NA系の反省から、ローターはそれ自体を重くするのではなく、中心部を肉抜きして外側に比重を置くように設計された。

 1920年代後半、オイスターケースの気密性を長期間にわたって維持したいロレックスはリュウズの操作回数を減らすため、自動巻きムーブメントの開発に着手。31年に全回転ローターを持つNA系キャリバーを発表した。これはローターの比重を高めることで、巻き上げ効率が悪いとされていた片方向巻きながら、当時唯一と言っていい、よく巻き上がるムーブメントだった。

 しかし、比重の高くない真鍮を使ってローターを重くするためには、ローターそのものを厚くする必要がある。ところが分厚いローターは巻き上げ機構を摩耗させやすいうえ、空転時のショックも大きくなるデメリットがあった。結果、ロレックスは片方向巻きの熟成と並行して、両方向巻きを開発する必要があった。

Cal.1030

Cal.1030
1950年発表のCal.1030。ローターの中央をくり抜き、外側に比重がいくような設計を採っていることが分かる。なお、この頃はローターの裏側にまでペルラージュが施された。写真の時計は初代エクスプローラー(Ref.6610)。

初代エクスプローラー(Ref.6610)

 1950年、ロレックスは初の両方向巻き上げムーブメント、Cal.1030(1000系)を発表する。採用されたのは2枚の切り替え車と伝え車を用いたシンプルなリバーサーだ。Cal.1030は高い巻き上げ効率を誇ったが、半面、リバーサーはローターの回転時も手巻き時も高速で切り替え車が稼働するため、摩耗しやすいという弱点があった。

Cal.1570

[1965]Cal.1570誕生(1500系)
Cal.1030の後継機にして、リバーサー式自動巻きの傑作。リバーサーの摩耗問題を解決するため、切り替え車を軽量なアルミニウム製としたうえで、アルマイト処理を施した。また、切り替え車自体が大径化されている。

 これを克服したのが、65年に発表された後継機に当たるCal.1570(1500系)である。同キャリバーでは切り替え車を大径化したうえで軽量なアルミニウム製とし、自動巻き機構の慣性を下げることで巻き上げ効率の向上と摩耗を抑えることに成功したのだ。加えてアルマイト処理を施し、切り替え車の表面硬度を高めたことで、耐摩耗性はさらにアップした。1500系キャリバーの時点でロレックスの自動巻きは完成を見たと言ってよいだろう。

Cal.1030(左)とCal.1570(右)のリバーサー

Cal.1030(左)とCal.1570(右)のリバーサー。伝え車自体がかなり大径化されていることが一目瞭然だ。ドライバーに連結する伝え車のサイズがほとんど変わらないことを考えると、Cal.1030が摩耗しやすいと言われたのがよく分かる。また、Cal.1030のドライバーが外せないのに対し、Cal.1570ではカナと一体化したドライバーの着脱が可能になるなど、整備性も向上した。

 とはいえ、その後も同社は頑強さとメンテナンス性を軸に自動巻きの熟成を進めた。77年登場のCal.3035(3000系)が、ローターからの自動巻き機構の着脱が容易になったのはその最たる例だ。リバーサーとローター真の固定がクリップ式である点は従来に同じだが、1500系でこのクリップにアクセスするためには、2本のネジでローターに留められた受けを外す必要があった。

Cal.1570

Cal.1570
信頼性が格段に向上したCal.1570。同機から採用されたアルマイト加工のリバーサーが目を引く。なお、上の写真の個体はヒゲゼンマイが後年のものに変更されている。写真の時計はエクスプローラー(Ref.1016)。

エクスプローラー(Ref.1016

 しかし、3000系ではローターの裏側から直接クリップをピンセットで外せるように改良されている。この世代から基幹キャリバーがハイビート化されていたことが、さらなるメンテナンス性の底上げへとつながったことは想像に難くない。

Cal.3135

[1988]Cal.3135誕生(3100系)
1988年の登場後、17年以上にわたってロレックスの基幹キャリバーだったCal.3100系。ドライバーなしでローターを外すことができるなど、整備性が大幅に向上している。いわゆる“メガネ型”のデクラッチを採用したのも3100系からだ。

 88年デビューのCal.3135(3100系)は、歴代ムーブメントで最も簡便なローターの着脱が魅力だ。受けに設けられた穴からピンをスライドさせるだけでローターを単独で外せるのである。今回、取材協力をしてくれた時計修理工房クロノドクターの久保左京氏は、少なくとも自動巻き機構においては3100系が最も整備性に優れると断言する。

Cal.3130

Cal.3130
ロングセラーとなったCal.3000系。ローターの肉抜き部から見える横長の穴からピンをスライドさせることでローターを着脱できる。リバーサーの隣に見えるのがデクラッチだ。写真の時計はサブマリーナー(Ref.114060)。

サブマリーナー(Ref.114060)

 最後に2015年から採用され続ける3200系キャリバーを見てみよう。3200系ではアルミニウム製のリバーサーに肉抜きをすることで、自動巻き機構の慣性を下げることに成功。加えてローターをボールベアリング保持とすることで回転摩擦による抵抗も抑え、さらなる巻き上げ効率のアップを実現している。

 70年以上一貫して、「摩耗させずに巻き上げ効率を上げる」という命題に挑み続けるロレックスの自動巻き機構。ひょっとして、同社の時計作りに対する信念が一番強く表れている部分がこのリバーサーなのかもしれない。

Cal.3200系

[2015]Cal.3255誕生(3200系)
2015年より現行機への採用が進むCal.3200系。リバーサーが肉抜きによって軽量化され、ローターもセラミックボールベアリングで保持されるなど、全体的に熟成が進んだ印象だ。強固な設計の半面、整備性は3100系に譲る。

Cal.3285

Cal.3285
現行機への搭載が進むCal.3200系。3100系から90% 以上の部品が刷新された。代表的な変更点がLIGAによって製造されたニッケル・リン製の脱進機回り。写真の時計はGMTマスター Ⅱ(Ref.126710BLRO)。

GMTマスター Ⅱ(Ref.126710BLRO)


【時計オタク向け】「垂直クラッチ+自動巻き」によって普及し、進化した現代クロノグラフ

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ロレックスが嫉妬!? 現代自動巻きクロノグラフの祖、フレデリック・ピゲ Cal.1185研究

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クロノグラフを進化させた「ブレーキレバー」「コラムホイール」「アワーカウンター」「ワイヤ放電加工機」

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