ユニークピースのオークション、オンリーウォッチが開催第10回を迎える。パテック フィリップの腕時計が最高額で落札

FEATUREその他
2024.08.22

第10回オンリーウォッチが2024年5月10日、ジュネーブのパレクスポ(展示会場)で開催された。リュック・ペタヴィーノ氏主催のこの慈善オークションは、クリスティーズ社の競売人の采配の下で行われたのである。今回は、数々の波乱を経ての開催となったが、合わせて47本の時計が2832万スイスフラン(約48億4601万円、1スイスフラン=171.07円、2024年8月22日現在、以下同)。もの総額にて落札。その半分以上は、1570万スイスフラン(約26億8581万円)で落札されたパテック フィリップ1本によるものだった。

パテック フィリップ Ref.6301A-010
手巻き(Cal.GS 36-750 PS IRM)。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。ステンレススティールケース(直径44.8mm、厚さ12.03mm)。ユニークピース。
Originally published on Montres De Luxe
text by Jean-Philippe Tarot
Edited by Takashi Tsuchida
[2024年8月22日公開記事]


波乱の開催と50億円近い落札総額

 2023年10月末、モナコ筋ジストロフィー協会(AMM)は大きな決定を下した。2023年11月5日に予定されていたオンリーウォッチの開催を取り止め、2024年に延期することにしたのである。当時、AMMは各方面から圧力を受けていた。2005年以来のユニークピース(一点モノの特別モデル)オークションで集められた資金の使途や、その活動内容の報告を求められていたのだ。そのため、オークション開催を延期せざるを得なかったのだ。

「オンリーウォッチ」の売上額は、当時の累計で1億ユーロ(約162億1807万円、1ユーロ=162.25円、2024年8月22日現在、以下同)にも達していた。今年開催分を含めると1億2800万ユーロ(約207億5910万円)だ。AMMは財務監査を公表し、組織構造を再編。そうして2024年5月10日にクリスティーズの競売人の采配の下、ジュネーブのパレクスポ(展示会場)でオークションを再設定できたのである。当然のことながら、このオークションは各方面から期待され、結果的に、それほど悪いものとはならなかった。

リシャール・ミル「タリスマン オリジン」Ref.RM S14
自動巻き(Cal.CRMT5)。18KRGケース(縦77.25✕横46.77mm、厚さ13.10mm)。ユニークピース。

 オークション総額は直近2回を下回ったが、それでも2832万スイスフラン(約48億4601万円、1スイスフラン=171.07円、2024年8月22日現在、以下同)という非常に立派な額を記録。ただし、その半分以上にあたる1570万スイスフラン(約26億8562万7475円)はパテック フィリップ1本によるものである。なお、直近2回の2021年は3000万スイスフラン(約51億3270万円)、2019年は3800万スイスフラン(約65億142万円)という額だった。

 当初、出品が予定されていたユニークピースは63本だったが、5月10日のオークションにかけられたのは47本だった。参加したブランドは52ブランドだが、いくつかはコラボレーションによるためである。

レジェプ・レジェピ「クロノメーター アンティマグネティック」Ref.RRCA
手巻き。ステンレススティールケース(直径38mm、厚さ9.9mm)。ユニークピース。


パテック フィリップが牽引、他ブランドも好調

 ここで注目すべきは、いちばん最初に出品を取り下げたオーデマ ピゲのほか、チューダー、ショパール、フェルディナント・ベルトゥー、ドゥ・ベトゥーン、ビバーなどの著名ブランドが不参加となったことである。そして、いつものように最高落札価格を記録したのはパテック フィリップだった。そのモデルは、ユニークピースのステンレススチール製ケースを備えたRef.6301A-01である。グランド・プチソヌリ ミニッツリピーターを搭載し、手彫りギヨシェダイアルを備えたモデルだ。この腕時計は1570万スイスフラン(約26億8562万円)で落札され、オークション総額の55%以上を占めた。

 その他のブランドも非常に良い結果を残している。リシャール・ミルのペンダントウォッチ「タリスマン・オリジン」は238万スイスフラン(約4億714万円)で落札、そしてレジェプ・レジェピ「クロノメーター・アンティマグネティック」の210万スイスフラン(約3億5928万円)という高い落札額は、大きな驚きとなった。

F.P.ジュルヌ「クロノメトル ブルー フルティフ」Ref.CFB
手巻き(Cal.1522)。パワーリザーブ約56時間。タンタルケース(直径42mm、厚さ9.5mm)。ユニークピース。

 一方で、少々残念だったのは、F.P.ジュルヌの「クロノメトル ブルー フルティフ」が、200万スイスフラン(約3億4213万円)に留まったことである。しかし2021年に450万スイスフラン(約7億6977万円)で落札されたフランシス・フォード・コッポラとのコラボレーションモデルに比べると、今回のモデルはそれほど話題性の高いものではなく、この落札価格は妥当だとも言える。

 これら4ブランドだけで落札額の合計は2218万スイスフラン(約37億9415万円)となり、2024年のオンリーウォッチにおけるオークション総額の78%を占めている。

 その他のブランドも好調だ。ルイ・ヴィトン「タンブール アインシュタイン オートマタ」は70万スイスフラン(約1億1974万円)で落札。カリ・ヴティライネン「CSW オンリーウォッチ」は45万スイスフラン(約7698万円)だ。クレヨン「エニウェア オンリーウォッチ 2023」は44万スイスフラン(約7527万円)であり、ウブロ「タカシムラカミ トゥールビヨン」は42万スイスフラン(約7185万円)という落札額だ。そしてH.モーザーとMB&Fとのコラボレーション「ストリームライナー・パンダモニウム」は38万スイスフラン(約6500万円)であり、好成績を収めている。

クレヨン「エニウェア オンリーウォッチ 2023」Ref.C030-63
手巻き(Cal.C030)。55石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径39mm、厚さ9.5mm)。30m防水。ユニークピース。

 また期待が大きく外れたのはジェラルド・ジェンタ「オンリーウォッチ 2023」で、もともと低かった35万スイスフラン(約5988万円)という最低予想落札価格に対して、その価格をさらに下回る17万スイスフラン(約2908万円)で落札されている。同様に、タグ・ホイヤーの「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ フォー オンリーウォッチ」も最低予想落札価格15万スイスフラン(約2566万円)に対し、約11万スイスフラン(約1881万円)で落札された。

 日本の金継ぎ技法(壊れた陶磁器を金で修復する日本の伝統技法)を前面に押し出した小さな芸術作品とも言えるトリローブ「レコンシリエーション」も、コレクターや富裕層の目には入らなかったようだ。このモデルは期待された額に達せず、わずか1万7000スイスフラン(約290万円)で落札されている。これは全く理解に苦しむ、不当な結果と言わざるを得ない。


慈善と投資、ふたつの顔を持つオークション

 モナコのアルベール公の後援のもと、2005年以来、2年ごとに開催されているこの慈善オークションは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(進行性の筋力低下を特徴とする遺伝性疾患)の研究に対する財政支援を目的としている。新生児男子3000人に1人の割合で発症、オンリーウォッチの創設者であるリュック・ペタヴィーノ氏の息子も、この病気で亡くなった。

 出品モデルすべてがユニークピースというオークション形式は、「医学振興」への財政支援を行う側面だけでなく、回を重ねるなかで、ひとつの制度として確立しつつある。ブランドの人気や、投資対象としてのポテンシャルを測る「バロメーター」ともなっている。実際、時計師たちのクリエイティビティによって、落札価格が高騰するか否かが決まるのだ!



ルイ・ヴィトン、アインシュタインの顔を持つ新作オートマタをオンリーウォッチ2023に出品

https://www.webchronos.net/news/99847/
オンリーウォッチ2023に出品されるウブロ「MP-15 タカシムラカミ トゥールビヨン オンリーウォッチ」は、ウブロ初のセンタートゥールビヨン

https://www.webchronos.net/news/98656/
コッポラ監督のアイデアから生まれたF.P.ジュルヌ「FFC(フランシス・フォード・コッポラ)ブルー」

https://www.webchronos.net/news/99844/