KOBAYASHI(六本木)/この世ならぬ美味のクリエイター

2024.09.24

あの「桃の木」の小林武志氏が、自身の名を冠した中国料理店を開業。そう聞いて、驚きと期待に心躍らない食通がいるだろうか。意欲に満ちた「KOBAYASHI」を紹介する。

手羽先/紹興酒

手羽先/紹興酒
飴掛けして一晩寝かせた手羽先に、フカヒレと鮑の細切りを詰めて揚げた逸品。黒豆を発酵させた中華調味料である豆豉(とうち)を入れて炒めた香り豊かなモリーユ茸やNOTO高農園から取り寄せる野菜とともにいただく。カウンター「ULTRA K」で供されるおまかせコースからの一皿。料理を一層引き立てる極上のワインペアリングもぜひ。
外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2024年9月号掲載記事]


守破離の精神で新たな道を拓く

小林武志

小林武志(Takeshi Kobayashi)
1967年、愛知県生まれ。大阪・辻調理師専門学校を卒業後、同校で8年間講師として勤務。その後、吉祥寺「竹爐山房」などの名店で研鑽を積み、2005年に「御田町 桃の木」を開業。20年に「赤坂 桃の木」として移転。24年6月より「KOBAYASHI」のシェフに就任。

 2005年に開業し、名を馳せた「御田町 桃の木」。「赤坂 桃の木」として東京ガーデンテラス紀尾井町に移転した際にはその進化に驚かされたが、今年6月に誕生した「KOBAYASHI」は、想像を遥かに超える。

「ULTRA K」と名付けられた一直線に並ぶカウンターでは、おまかせコースが一斉にスタート。最高峰の食材に圧倒され、型にとらわれない料理の数々に息をのむ。そして、カウンター前の大理石のライブキッチンに小林武志氏が登場し、鍋を振って仕上げを行うシーンは目が釘付けに。「簡単そうに見えるでしょ、でもそうでもないんですよ」などと場を和ませるトークや分かりやすい解説とともに、鮮やかに料理が完成する。そのわずかな時間の中で鍋から漂う香りが刻々と変化するのを感じることができるのも、劇場型のカウンター席だからこそ。記憶に刻まれる食体験となるだろう。

 コース中盤で、中国茶のソルベ、さらに広東料理における最上級の湯(タン)である「頂湯(ディンタン)」で口の中を整えたところで供されるのが「手羽先/紹興酒」。幅50cmのカウンターに映えるよう選んだという「J.L Coquet(ジャン・ルイ・コケ)」のプレートに盛られた料理が置かれると、優美な香水瓶で20年熟成の紹興酒を吹きかける。料理における香りの重要性を伝えてくれる演出で、グッと心をつかまれる。艶やかな手羽先を頬張れば、中に詰められた心地よい食感のフカヒレと鮑の旨味が口いっぱいに広がっていく。

 カウンター席が新たな試み満載なのに対し、個室では、愛され続けるシグネチャーの数々を主軸に提供する。「KOBAYASHI」には、全く異なるふたつの顔があるわけだが、料理によって人の心を満たしたいという情熱であり、独立から約20年歩んできた料理人としての為せる業だ。

“桃李成蹊”とは、小林氏が長年信念としている言葉。桃や李はなにも言わずとも、その芳しい香りに魅せられ、人は自然とそこへ集まり、気付けばその下には道ができる、という意味。それは、まさに小林氏がこれまで作り続けてきた料理に魅せられた多くの食べ手の姿に重なる。新たな舞台でも、その道が延びていくことは間違いない。

KOBAYASHI

KOBAYASHI

ウォールナットのカウンターをベースに、落ち着いた色調で統一された空間。翡翠色のカトラリー置きは、小林氏の弟妹が実家の石材店で手掛けたものを使用している。他に5つの個室を完備。

東京都港区六本木3-3-29 六本木アーバンレックス B1
Tek.050-1809-4801
日曜定休(不定休あり) 17:00~23:00
カウンター3万8500円~、個室3万6300円~(サービス料10%別)


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