【インタビュー】ブルガリ グループCEO「ジャン-クリストフ・ババン」

2024.09.15

2024年4月、ウォッチズ&ワンダーズと同時期にジュネーブ市内のホテルで開催された新作展示会で、ブルガリは、世界最薄記録を塗り替える「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」を発表し、再び薄型時計の頂点に立った。

鈴木幸也(本誌):取材・文
Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年9月号掲載記事]


新作のハイライトはマニュファクチュールとしての成熟の証し

ジャン-クリストフ・ババン

ジャン-クリストフ・ババン
ブルガリ グループCEO。1959年、フランス生まれ。ビジネススクールでMBAを取得後、P&G、コンサルティング会社などを経て、タグ・ホイヤーCEOに就任。卓越した手腕で、業界4位にまで成長させた。2013年、現職に就任。内外装の質感向上と「薄型化」というメッセージの打ち出しにより、ブルガリを再び成長軌道に乗せた。20年からは、時計の見本市である「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ」を主催。

 22年に発表した前作の「オクト フィニッシモ ウルトラ」の記録がわずか数カ月後に破られた後、ブルガリのウォッチデザインを統括するファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニは、本誌のインタビューにおいて「世界最薄記録は目指さない」と語っていた。故に、ブルガリが今年の新作で再び世界最薄記録を達成したことにいささか驚いたが、「やはり」という思いも強くした。ジュネーブの新作展示会で同グループCEOのジャン-クリストフ・ババンは、今年の新作のハイライトに「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」を挙げつつ、こう語った。

「新たに世界最薄記録を打ち立てるにあたって、我々は単に薄い時計を目指したわけではありません。他社より少ない120の部品で、さらに薄く、シンプルで、精度の高い世界最薄の時計を目指しました」

 結果、22年発表の「オクト フィニッシモ ウルトラ」が1.8mmのケース厚だったのに対し、24年発表の「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」は1.7mmと、0.1mmの薄型化を成し遂げた。もちろん、これはそれまで他社が持っていた最薄記録1.75mmを0.05mm更新し、見事、世界最薄記録を達成したのだが、ブルガリが世界最薄記録だけを狙ったのではないことは、新作のラインナップを見れば理解できる。

ブルガリ「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」

ブルガリ「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」
「ケース厚1.7mmのこの新作時計は世界最薄であると同時に、スイス公式クロノメーターC.O.S.C.認定を取得した最も薄い腕時計でもあるのです」とババンが語るように、ブルガリにとっての9つ目の世界記録達成に加え、高精度をもかなえたブルガリの時計作りの今を象徴するモデル。手巻き(Cal.BVL180)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。Tiケース(直径40mm、厚さ1.7mm)。世界限定20本。要価格問い合わせ。2024年9月発売予定。

「薄型化と同時に高精度化も実現しました。世界最薄記録を達成したモデルはC.O.S.C.を取得しているのがその証しです。加えて今年は、より純粋に美観を追求したプラチナモデルも出しました。こちらは22年モデルと同じケース厚1.8mmですが、チタンモデルにはない明るい輝きを放っており、こちらも好きですね」(ババン)

 チタンが加工の難しい素材であることは知られているが、実はプラチナも素材自体に粘りがあるため、切削するのが難しい素材だ。そのプラチナを用いて、厚さ1.8mmを達成した技術力にも恐れ入るが、ここではむしろ審美性を追求してあえて1.7mm厚を目指していない点に、やみくもに記録だけを追求しないとする姿勢が見て取れる。

 かつて薄型時計そのものがコンプリケーションだと明言したブルガリ。その最高峰をかなえつつも、決して記録だけにとらわれず、精度も美観も兼ね備える。今年の新作のハイライトは、マニュファクチュールとしてのブルガリの成熟の証しそのものだ。



Contact info: ブルガリ ジャパン Tel.0120-030-142


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