新作と共に来日したフランク ミュラーCEOのニコラ・ルダースに、同社のウォッチメイキングについて聞いた。
鈴木幸也(本誌):取材・文 Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年9月号掲載記事]
複雑時計の素晴らしい歴史を新作で証明していく必要があるのです
フランク ミュラーCEO。1970年、スイス・ローザンヌ生まれ。ウェストロンドン大学でホテルのマネジメントを専攻。ロンドンのフォーシーズンズホテルにおいてフロントオフィスマネージャーとしてラグジュアリー業界でのキャリアを開始。その後、スイスの高級ホテルを経て、2007年、フランクミュラー グループに入社。21年より現職。創業者のフランク・ミュラー、共同経営者のヴァルタン・シルマケスとともに経営戦略を担う。
「私が入社してからの17年間は、デザインにおいても複雑機構の開発においても、ブランドとしてのDNAをしっかりと維持したかたちで行ってきました。フランク ミュラーのDNAはどこにあるのかというと、やはりコンプリケーションとそのデザインにあります。近年はカラーリングにも注力しており、彩り豊かなうえに、ダイヤモンドのきらめきも忘れてはなりません」
複雑時計だけでなく、ベーシックなモデルの製造体制も整えているが?
「その通りです。現在、私たちは時計を愛する幅広いお客さまに向けたコレクションを展開していますが、その中でひとつひとつの時計が特別感のある時計作りをしています。時計のコレクターのみなさまには、ギガ トゥールビヨン、サンダーボルトトゥールビヨン(高速トゥールビヨン)、グランド セントラル トゥールビヨン、そして今年の新作のマスター ジャンパーをぜひ手に取ってご覧いただきたいと思います。説明するまでもないのですが、どのモデルもフィロソフィー、デザイン、カラーにおいて非常に魅力的です。フランク ミュラーのすべてのモデルは、他社とは一線を画し、常にエキサイティングな作品となっているのです」
フランク・ミュラー本人が絶賛したという今年の新作で世界初のコンプリケーションのひとつ。12時位置にアワー、中心にミニッツ、6時位置にデイトの3つのジャンピング表示機構を備える。4年もの歳月をかけて開発した、5枚のディスクによるジャンピングシステムを存在感抜群のグランド カーベックスケースに収める。手巻き。18KPG×SSケース(縦55.7×横38mm)。日常生活防水。予価1485万円(税込み)。発売時期未定。
2024年発表の新作は、色と素材がテーマだが?
「WPHHで発表された新作では、今までにないようなカラーリングと素材、複雑機構を備えたモデルが発表されました。ダイヤモンドを備えたモデルにも注目してください。なぜなら、共同創業者のヴァルタン・シルマケスが、そもそもダイヤモンドのセッターだったからです」
今後は、どのコレクションに注力していくのか?
「確かにコンプリケーションは我々の一番の〝売り〞です。24年の新作で実証しているように、私たちは時計の限界をさらに上へと押し上げています。同時に、どんな複雑時計といえども、審美性を決して忘れてはいません。複雑時計は今やデザインと一体化しています。フランク ミュラーにとって、トゥールビヨンはなくてはならないものですが、いくら巨大であろうと、いくら高速であろうと、その美しさには常に注力しています。フランク ミュラーの過去は、まさにコンプリケーションで刻まれた過去でもあります。ですから、その歴史がいかに素晴らしいコンプリケーションで刻まれているのかということを、毎年、新作を発表することで証明していく必要があるのです」