新進気鋭のスイス時計ブランドであるノルケインが、フライバッククロノグラフを搭載した新たなマニュファクチュールキャリバーを開発した。その魅力を、同社副社長のトビアス・カッファー氏が熱く語語る。
Photographs by Yu Mitamura
野島翼:取材・文
Text by Tsubasa Nojima
[2024年9月15日公開記事]
新作クロノグラフウォッチが登場! 副社長のトビアス・カッファー氏がその魅力を語る!
スイス機械式時計文化の継承という使命を掲げ、快進撃を続けるノルケイン。2018年に創業し、その翌年にはスポーツウォッチの「アドベンチャー」、クラシカルな「フリーダム」そして“何者にも似ていない、自立と成功を表すシンボル”という意味を込めた「インディペンデンス」という3つのコレクションを発表。その後も2020年のケニッシとの提携や、2022年のジャン-クロード・ビバーの経営参画など、新興ブランドとしては異例のスピードで成長を遂げてきた。
現在、特に注目を集めているのは、2022年に誕生したインディペンデンスコレクションの「ワイルドワン」だろう。その特徴は、これまでのモデルとはまったく異なるケース構造にある。ムーブメントを格納したチタン製コンテナをラバー製ショックアブソーバーで保護し、さらにカーボン複合素材であるノルテック製のケージを取り付けた多層構造によって、スポーツシーンにも耐えうる耐衝撃性と軽量性、そして素材ごとに色味を変えた豊かなカラーバリエーションを実現したのだ。フラッグシップコレクションであるインディペンデンスは、これまでのモデルにもノルケインらしい革新性を有していたが、ワイルドワンの登場は、そのレベルを数段引き上げるものであった。
そんな同社が今秋、インディペンデンスコレクションに新作を加えた。しかも、リセットと再スタートを瞬時に行うフライバック機構を備えた自社製クロノグラフムーブメントを搭載したモデルだ。この最新のフライバッククロノグラフについて、創業者ベン・カッファー氏の実弟であり、同社副社長のトビアス・カッファー氏に直接話をうかがった。
なぜ「インディペンデンス」コレクションから発売されるのか?
先述の通り、ノルケインにはアドベンチャーや、フリーダムといったコレクションも存在する。では、なぜ今回の新作はインディペンデンスコレクションから発売されるのだろうか? その意図について、トビアス・カッファー氏は次のように語る。
「インディペンデンスコレクションは、イノベーティブスポーツウォッチです。これまでにも常に、革新的な機構や新しい試みを盛り込んできました。今回のマニュファクチュールムーブメントは、コラムホイールと水平クラッチを備えたフライバッククロノグラフであり、ノルケインとして最高のクォリティで作り上げることができたと確信しています。このイノベーションを形にするにあたってインディペンデンスコレクションを選んだのは、必然のことなのです」
思えばインディペンデンスコレクションは、ケニッシ社製ムーブメントを初搭載した「インディペンデンス 20」やワイルドワンなど、同社のイノベーションとともにあったコレクションだ。新規開発されたフライバッククロノグラフムーブメント搭載機となれば、インディペンデンスコレクションでデビューを飾るほかないだろう。
フライバック機構搭載ムーブメントのここが見どころ!
開発や生産にも高度な技術を要するフライバッククロノグラフ。しかし、このムーブメントの特徴は、単にフライバック機構を搭載しているだけにとどまらない。
「新たなマニュファクチュールキャリバーであるCal.NK24/1は、スイスの高級ムーブメントメーカーであるAMTとの共同開発によって誕生しました。ムーブメントの受けには、「CALIBRE 8K」の文字を刻印しています。8K、すなわち8000とは、エベレストをはじめ世界に14座存在する8000mを越える峰を意味しており、このムーブメントにはそれらの山々にインスパイアされた意匠を取り入れています。開発の際、操作感は特に重視したポイントです。心地よい押し心地を実現することができたと自信を持っています。お手に取っていただく機会があれば、ぜひ実際に触ってみていただきたいですね」
ブラックカラーのCal.NK24/1の受けには、ゴールドカラーの「CALIBRE 8K」と「FLYBACK」の文字が輝いている。最高峰に挑戦するというノルケインの意思を強く感じさせる要素だ。トビアス・カッファー氏が太鼓判を押すプッシャーの押し心地にも期待が膨らむ。
「ムーブメントのデザインにも、ノルケインらしさを取り入れています。ローターにはブランドのシンボルである山をモチーフとしたオープンワークをあしらい。ムーブメント自体にスケルトン加工を施しているため、歯車やレバーのメカニカルな動きを視覚的に楽しむことも可能です」
同社のマニュファクチュールキャリバー初のクロノグラフでありながら、フライバック機構のみならずスケルトン加工も施している。これまで多くの挑戦を続けてきたノルケインらしいアプローチだ。複雑なムーブメントを隅々まで鑑賞したいというユーザーのニーズに対し、高い次元で応えようとする姿勢が垣間見える。
「一般的にスケルトンムーブメントは、衝撃を受けることによる部品の歪みや破損へのリスクが高いとされています。しかし我々は、ワイルドワン スケルトンでも取り入れた、支持点のすべてを2本以上のアームで保持する構造を本作でも採用することによって、スポーツウォッチとして十分な耐衝撃性も担保しています。デザインをゼロから作り上げることができるのは、マニュファクチュールキャリバーの大きなメリットのひとつですね。AMTの協力によって、理想的なムーブメントに仕上げることができました」
ユニークなだけではなく実用性をしっかりと確保しているのは、ノルケインらしい配慮である。先述のローターのデザインも含め、マニュファクチュールキャリバーとしての設計の自由度を存分に生かしたムーブメントに仕上がっているようだ。ちなみに、AMTはセリタが出資するムーブメントメーカーだが、資本関係があるだけでまったくの別会社である。
パープルカラーのリミテッドモデルがかっこいい! チタン製ケースが映えるデザイン
ここまでムーブメントにスポットを当ててきたが、どのようなパッケージで製品化されるのかも気になるところ。インディペンデンスコレクション初のクロノグラフとして登場した新作について、トビアス・カッファー氏が見どころを語った。
「新作は、この新型ムーブメントの魅力を視覚的にも味わえるよう、スケルトンダイアルとシースルーバックを採用しています。30分積算計とスモールセコンドを縦に配したふたつ目のレイアウトで文字盤に余白が多いため、ダイアルからムーブメントの仕上げと動きを楽しむことができるのです。一般的に想像されるフライバッククロノグラフとは一味違うユニークなデザインは、インディペンデンスコレクションのコンセプトを忠実に体現したものと言えるでしょう」
12時位置に30分積算計、6時位置にスモールセコンドを配した縦ふたつ目のレイアウトは、リュウズガードに調和したデザインのプッシャーと相まってスタイリッシュな印象だ。スケルトンダイアルでありながら、蓄光塗料を塗布した針とインデックス、ミニッツマーカーを配したチャプターリングによって、視認性も確保されている。
さまざまなシーンで使いやすいデザインのステンレススティールケースモデル。ゴールドカラーの針とインデックスが視認性を高めている。ステンレススティールブレスレット仕様とラバーストラップ仕様がラインナップする。自動巻き(Cal.NK24/1)。パワーリザーブ約62時間。SSケース(直径42mm)。100m防水。ステンレススティールブレスレット仕様:112万2000円(税込み)。ラバーストラップ仕様:107万8000円(税込み)。
「バリエーションは、ステンレススティールケースモデルと、世界限定300本のDLC加工を施したチタンケースモデルの2種類を用意しています。特にノルケインとしての独自性を表現するために、チタンケースモデルには他社でもあまり見ないパープルダイアルを組み合わせています。販売店からは、このブラックとパープルの色合いに対する評判が非常に高く、実はもともと200本限定にするつもりだったのですが、300本限定に見直したほどでした。また、フライバッククロノグラフとして手に取りやすい、戦略的な価格設定ができたこともポイントです」
DLC加工を施したグレード5チタンケースに、パープルダイアルを組み合わせた数量限定モデル。ノルケインの独自性を表現する印象的なカラーリングが魅力だ。自動巻き(Cal.NK24/1)。パワーリザーブ約62時間。Ti+DLCケース(直径42mm)。100m防水。世界限定300本。123万2000円(税込み)。
ステンレススティールケースモデルの汎用性の高いデザインも魅力だが、ブラックとパープルを組み合わせた限定モデルは、さらにユニークさが際立っている。“何者にも似ていない、自立と成功を表すシンボル”というインディペンデンスコレクションのテーマそのものだ。日本での販売価格は仕様によって異なり、税込みで107万8000円から123万2000円。マニュファクチュールキャリバーを搭載したフライバッククロノグラフであることを考えると、非常に魅力的だ。なお、この価格設定にはノルケインジャパンの並々ならぬ努力が反映されていることも付け加えておく。
より高みを目指す! ノルケインの今後の展開
最後に、ノルケインが今後どのような展開を行っていくのかを教えていただいた。いくつものアイデアがあるようだが、ここで得られたのは、独自の精度認証基準の構想についてだ。
「今後もノルケインはさまざまなことにチャレンジしていきます。まだ構想の段階なので詳しくお話しできるのは来年となる予定ですが、そのひとつとして考えているのは独自の精度認証基準の立ち上げです。例えばC.O.S.C.公認クロノメーターにしても、認証を受けるには手間もコストも発生します。これらは必然的に時計の販売価格に反映されるものですが、それらを加味した上で公的な精度認定が実際のユーザーにどこまで求められているのかに関しては、ブランドとしてしっかりと見極める必要があると考えています。その解決手段として、独自に精度認証基準を設けることも検討しているのです」
インディペンデンスコレクションに関しても、さらなる展望が計画されているとのこと。今回のフライバッククロノグラフの開発も一大プロジェクトであったに違いないが、早くも次の構想があるのは、さすがチャレンジ意欲旺盛なノルケインと言ったところだろうか。
「インディペンデンスコレクションは、イノベーティブスポーツウォッチです。常に新しい要素を取り込み、ノルケインの革新性を象徴するコレクションとして展開していきます。まだ具体的なことをお伝えできる段階ではないのですが、早速次の計画を進めており、数年以内には新たな発表ができると思います。日本の時計愛好家の皆さんは知識が高く品質にも敏感で、日本はノルケインとしても非常に重要なマーケットだと捉えています。次の新作も、きっと日本の皆さんを驚かせることができるような素晴らしい製品になると確信しています」