ジュネーブ・ウォッチ・デイズは“W&WGにはない魅力”がたっぷり! 熱い時計愛好家は見逃せない!?

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2024.09.16

今回は、たった1日だが幸運にも初めて取材のチャンスをいただいた、真夏のジュネーブでの時計イベント「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ2024」の初レポート。やはり「百聞は一見に如かず」。予想外に充実したイベントであった。

©Yasuhito Shibuya 2024
2024年8月29日~9月2日まで5日間開催された「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ2024」の「パビリオン」(左の三角屋根の白いテント)と「グラスボックス」(右の四角いカンファレンススペース)。前者では出展ブランドの時計の展示やパーティーが開催され、後者では連日、パネルディスカッションが行われた。
渋谷ヤスヒト:写真・取材・文 Photographs & Text by Yasuhito Shibuya
[2024年9月15日掲載記事]

行きたくても行けなかった時計イベント

 ここ数年、8月の終わりにスイス・ジュネーブで開かれている「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ」(GWD)は、時計ジャーナリストでも時計評論家でも、肩書はなんでも良いのだけれど、気がつくと時計業界のウォッチャーとしてかなり古株になっていた筆者にとって、この数年気になっていた「行きたいけど行けない」イベントのひとつだった。

 だが、これまでは取材を諦めていた。その理由のひとつは懐具合。何しろ、8月末というのはヴァカンスシーズンで、交通費も滞在費も、どうしてもウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(W&WG)以上に高額になる。そしてもうひとつの理由が、参加ブランドの内容と数だ。ブルガリやブライトリング、スウォッチ グループの高級ブランドなど、著名なビッグブランドも一部、出展社に名を連ねてはいるものの、出展社はマイクロメゾンと呼ばれる小規模のブランドが中心。GWDは、毎年春にジュネーブで開催されるW&WGのようなビッグブランド揃いの、がっちりメディア対応がある時計フェアではない。だから例年取材を検討はしていたが、ひとり会社の経営者として「費用対効果」を考えると無理だと判断してきたのだ。

 ただ今回、今後このコラムなどで紹介する予定の「ブライトリング140周年記念イベント」の取材に関連して、この時期にジュネーブを訪れ、実質1日だけだが、取材する機会を得たので、GWDがどんなフェアなのかを筆者の目を通してご紹介したい。


リゾートでの“時計愛好家のためのC to Bイベント”

 今回のGWDは8月29日から9月2日の全5日間での開催。出展ブランドはイベントの2大ドネーション(寄付者)であるブルガリとブライトリングをはじめ、メインパートナーのフレデリック・コンスタント、ジラール・ペルゴ、そしてH.モーザー、さらにアソシエイテッド(関連)ブランド10ブランド、レギュラーメンバーの19ブランド、ジュニアメンバーの15ブランド、合計49ブランドで構成される。この中にはW&WGに出展しているブランドもある。またジュネーブ市およびジュネーブ州、FHH(高級時計財団)やGPHG(ジュネーブ・ウォッチ・グランプリ)などの時計関連団体、さらにヨーロッパの時計関連メディアなど14 の団体がオフィシャルパートナーを務めている。

© Yasuhito Shibuya 2024
8月29日16時30分より開催された「時計産業におけるサステナビリティ」に関するシンポジウム「How is the watchmaking industry facing ethics and sustainability challenges?」の登壇者たち。中央左がブルガリ グループCEOのジャン-クリストフ・ババン氏、その右隣がブライトリングCEOのジョージ・カーン氏。そして左からふたり目がソーウィンド グループ(ジラール・ペルゴ&ユリス・ナルダン)CEOのパトリック・プルニエ氏で、右からふたり目がグルーベル・フォルセイCEOのミシェル・ニデッグ氏。右端が、このシンポジウムのモデレーターであるウェイ・コー氏。

 公式ウェブサイトに掲載された時計ブランドだけでも49ブランド、9月3日の最終公式発表によれば52ブランド、650のメディア関係者と250のリテーラー関係者を含む約1500人が参加したという。

 筆者がジュネーブに到着したのは8月29日の夕方。『クロノス日本版』の鈴木幸也副編集長と共にまず足を運んだのは、レマン湖畔の大噴水を正面に臨む「グラスボックス」という名前のカンファレンススペース。そして時計展示のメイン会場である、大型テントの「パビリオン」であった。

 先に訪れたグラスボックスのステージでは、ブルガリ グループCEOのジャン-クリストフ・ババン氏、ブライトリングCEOのジョージ・カーン氏、ジラール・ペルゴとユリス・ナルダンのCEOを務めるパトリック・プルニエ氏らによる「時計産業におけるサステナビリティ」に関する、なかなかに熱いシンポジウム「How is the watchmaking industry facing ethics and sustainability challenges?」が行われていた。

 続いて訪れたパビリオンでは、出展ブランドの代表モデルがショーケースに展示され、各ブランドの概要をつかむことができる設えだ。その奥には、ジュネーブの象徴であるレマン湖の大噴水(Jet d'Eau=ジェッドー)を真正面に臨みながらシャンパンなどのドリンクが楽しめるスペースが設けられていた。そこに立ち、シャンパングラスを手にして、筆者はGWDがどんなものかが直感的に理解できた。これはW&WGよりもずっと顧客重視で、時計ブランドと顧客の距離がとても近い、リラックスした雰囲気で催される高級時計のサロンイベントなのだ。

© Yasuhito Shibuya 2024
GWDの中心となる「パビリオン」のレマン湖側にはガーデンスペースが設けられ、眼前に大噴水を臨みながら、夏のジュネーブを満喫できる。そこでは各種ドリンクを楽しみながら、出展ブランドの時計関係者やジャーナリスト、顧客が寛いだ雰囲気の中で交流していた。

 パビリオン会場に集っているのは、時計ブランドやマイクロメゾンの関係者とその顧客たち。その中には、ディレクターのジャン・アルノー氏が率いるルイ・ヴィトンのウォッチ部門において、魅力的な時計を次々と開発しているウォッチメイキングアトリエの「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」のブレインであるミッシェル・ナバス氏とエンリコ・パルバシーニ氏もいた。ナバス氏にはこれまで何度もインタビューしているが、パルバシーニ氏は筆者にとって初対面であった。

© Yasuhito Shibuya 2024
左が、ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングアトリエ「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」のミッシェル・ナバス氏、右がエンリコ・パルバシーニ氏。中央が筆者。ふたりとも、筆者が今、最も尊敬している、取材したい時計技術者だ。


とにかく「距離が近い」

 その翌翌日の8月31日は、このパビリオンとグラスボックスと、道をはさんで向かい側にある、参加ブランドの多くが客室を展示&商談ブースにしたフェアモント グランド ホテル ジュネーブを訪れた。ここではホテルの1階から6階まで、客室を使ってさまざまなブランドが、ソファに訪問者を迎え入れ、新作を手に説明してくれる。事前のアポイントも可能だが、いきなり訪れても快く迎えてくれるブランドも多かった。

© Yasuhito Shibuya 2024
夏のリゾートで新作時計との出会いを楽しむ。そんな雰囲気がお分かりいただけるだろうか? これはフェアモント グランド ホテル ジュネーブの「フォルティス」の展示会場。

 このリラックスした雰囲気、「時計ブランドの人」との距離の近さは、出展ブランドの時計をすでに購入している顧客や、これからの購入を考えている時計愛好家にとって大きな魅力だろう。

 今回、W&WGにも出展しているブランドの顔見知りの人たちに会うたびに「W&WGと比べてGWDはどう?」と何度も聞かれた。そのたびに「リラックスできて、しかも自由でいいですね」と答えていた。

 今回で5回目=5年目となるGWD。昨年2023年のプログラムやオフィシャルフォトを見た限りでは、正直なところ「参加ブランドも少ないし、今後も存続できるかは微妙なのでは」と思っていた。だが今年、たった1日だが現地取材をしたことで、筆者の考えは大きく変わった。

 リラックスできる夏のヴァカンスシーズンに、気になる時計ブランドの新作が観られる、さらに関係者と直接交流できるC to Bのこのイベントの意義と価値は、時計愛好家にとっては大きい。しかも、出展のハードルはW&WGよりずっと低いから、新規の出展ブランドも増えている。だから、コアな時計愛好家にとっても、また普通の時計好きにとっても魅力的な新ブランドに出会える場になりつつある。

 時計ウォッチャーとしては、できれば来年もぜひ取材したい。ただ最大の問題は取材費用。ヴァカンスシーズンによる高額な交通滞在費と、それをさらに押し上げる1スイスフランが170円を超えるという異常な円安・スイスフラン高だ。果たして、来年も取材するチャンスが得られるのだろうか? 得られるなら最低3日間くらい、しっかりアポイントを取って取材したい。今はそう考えている。


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